少年の葛藤と願望、そして成長をアーケードゲームを通して描く異色のADV『198X』

時は198X年。寂れた郊外で暮らすティーンエイジャーの「キッド」は、家族の悩み事などから憂鬱な日々を送っていた。

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今の生活からすぐにでも抜け出したい。そんな思いを募らせながら夜道を歩いていた彼は、地元にある一軒のゲームセンターを発見する。中に入ると、そこには色取りどりのゲームが動く筐体が並んでいた。

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試しにコインを入れたその先に待っていたのは、見たこともない宇宙空間で戦闘機を操縦し、異星人の軍勢と戦う光景。このアーケードゲームとの出会いを機に、彼の日々はゲームとシンクロした不思議なものへと変わる。

そして彼もまた、様々な葛藤を経験しながら成長していく。

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『198X』は、スウェーデンはストックホルムに拠点を置くインディーゲームスタジオ「Hi-Bit Studios」制作によるアドベンチャーゲーム。クラウドファンディングサイト「Kickstarter」にて2018年に立案されたプロジェクトを機に誕生したゲームで、2019年6月20日にPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」のほか、海外限定でPlayStation 4でリリースされた。

今後、Xbox One、Nintendo Switchでの配信も予定されている。

様々なゲームを通し、ストーリーを追うアドベンチャーゲーム

アドベンチャーゲームと記したが、いわゆる会話を読み進め、選択肢を選んだりしながら遊ぶタイプのものではない。ムービーデモと共に描かれるストーリーを追いながら、合間に挟まれる様々なゲームを遊ぶ、一本道構成のオムニバス式ゲームとなっている。またの表現で「ゲーム in ゲーム」。某課長の挑戦に挑むゲームを遊んだ経験のある人なら、大体どんな作りか想像が付くかもしれない。

ただ、根っ子はアドベンチャーゲームということで、いずれのゲームもストーリー上の演出という位置づけ。単体で遊べるボリュームも無ければ、エンディングも用意されていない、割り切った作りになっている。

そんな本編で遊ぶことになるゲームは全部で五種類。
以下、簡単にその概略と特徴を紹介する。

BEATING HEART

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ベルトスクロール方式のアクションゲーム。手前、中央、奥の軸の概念が設けられた横スクロールのステージを進み、襲い来るアウトロー達をパンチ、キックなどの格闘攻撃で撃退していくという内容。最後に登場するボスを倒せば、”一応は”ステージクリアという設定。(どういう意味で”一応”なのかは、実際にプレイしてみてのお楽しみ。)

OUT OF THE VOID

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横スクロールのシューティングゲーム。自機を操縦し、前方と後方より迫る異星人の軍勢をショット攻撃で撃墜しながら、ステージ最後に待ち受けるボスの撃破を目指す。ダメージ制が採用されていて、三回被弾するとミス。また、ショットボタン長押しでエネルギーチャージ。画面上部の専用ゲージが満タンになった時に離すと「チャージショット」を放てる。なお、この関係で、ショットボタン長押しによる自動連射機能はない。連射したい場合は、某名人のように魂を叩きこむ気持ちでボタンを連打しよう。

THE RUNAWAY

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疑似3Dで表現されたコースを疾走するレースゲーム。通行車を追い越し、避けたりしながら、画面上部に表示された制限時間以内の「チェックポイント」到達を繰り返し、その先にあるゴールを目指す。時間切れになるとゲームオーバー。

SHADOW PLAY

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狐面を被った忍者が主人公の横スクロールアクションゲーム。忍者は自動で前方に進むため、プレイヤーは行く手に立ちはばかる敵を斬撃で倒したり、トラップをジャンプ、スライディングなどのアクションで潜り抜けながらステージを進んでいく。指定位置まで到達すればクリアになり、次のステージが始まる。敵に接触、攻撃が被弾するとダメージ。体力ゲージが空になったり、特定のトラップに一回でも接触したりすればゲームオーバーになる。ステージによっては、スクロール方向が変わることもある。

また、このゲームに限り、音楽を『イースI』、『イースII』、『アクトレイザー』、そして世界樹の迷宮シリーズなどで知られる作曲家・古代祐三氏が担当している。

KILL SCREEN

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ワイヤーフレームで描かれた、疑似3Dのダンジョンを探索するロールプレイングゲーム。一人称視点で展開し、ダンジョン内に潜む三体のドラゴン討伐を目指す。
戦闘はコマンド方式だが、攻撃三種+回復一種の四つを用意。さらに攻撃と敵には相性があり、適切な選択肢を取れば大ダメージを与えられるようになっている。攻撃時に表示される照準が敵の中央を捉えたタイミングを狙ってボタンを押すとダメージ量が増えるという、アクションゲーム的なシステムも搭載。80年代の3DダンジョンRPGを意識してか、プレイヤーの行動がログとして記録される機能が備わっているのも見所だ。

これらのゲームがストーリーに応じて挿入。実際にキャラクターを動かすなりして、攻略することになる。先の通り、どのゲームも演出なので、ある程度進めると強制終了し、ストーリーの続きが始まる。

以降は繰り返しだ。
いかにもアドベンチャーゲームらしい、ストーリー主導の仕組みになっている。

各ゲームの高い完成度と、少年の心の揺れ動きを描いた珠玉の演出

そんな本作の魅力と言えば、五つのゲームである。率直に言って、ストーリー上の演出に位置づけられているのが勿体ないと思ってしまうほど、どれも単品として成立し得る完成度を誇る。

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特に秀逸なのがシューティングゲーム『OUT OF THE VOID』、横スクロールアクションゲームの『SHADOW PLAY』だ。前者は敵の出現パターン、地形の起伏と言った基本的な部分もさることながら、ストーリー性を込めた背景の演出が素晴らしく、自らが戦闘機のパイロットになって異星人と戦っているように錯覚してしまう面白さがある。

ダメージ制が採用されている関係で、難易度もシューティングゲーム初心者に優しく、それでいて無闇な力押しは効きにくいというバランスが絶妙で、適度な手応えがある。「チャージショット」が演出する戦術面も、どことなく同システムの元ネタに当たる作品を意識させるものがあり、遊んだことのある世代ならニヤニヤしてしまうこと確実。

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後者も本作に収録された五つのゲームの中では多めのボリューム、構成面で凝ったステージが醸し出すやり応えの高さが秀逸。特に終盤のボス戦は、いい意味でも悪い意味でも強く印象に残る。何より、音楽を担当されているのが古代祐三氏。古代氏と忍者と言えば『ザ・スーパー忍(※メガドライブ:1989年)』だが、それを狙って起用したのかと勘繰ってしまう面白さがある。全体的に楽曲は雰囲気寄りだが、妙な掛け声が度々流れたりなど、耳に残る部分がチラホラ。80年代の架空のゲームを意識して、音源周りにも工夫を凝らすこだわりも炸裂していて、氏のファンなら「さすが」と唸ってしまうこと間違いなしだ。

残る三つも出来はいい。そして、何よりもこれらのゲームがストーリーにおける、主人公キッドの心情に合わせて挿入され、プレイ中、その揺れ動きを表現する演出が展開されるのがすごい。

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レースゲーム『THE RUNAWAY』は最たる一例だ。始まって間もない頃はジャンルよろしく、通行車を避けながらチェックポイントを目指す展開が繰り広げられる。地味にシビアな制限時間、ドリフトの感覚などに始めは大いに悩まされることだろう。実の所、本作の中では先のアクションゲームに次いでトライ&エラーが要求されるゲームである。

だが、それを乗り越えた先に強烈な展開が待っているのだ。これに関しては、実際にご覧いただきたいとしか言い様がない。言葉で上手く表現できないのだ。

あえて絞り出すならば……”エモい”。

ここに至るまでのストーリーをあのように描いたのは、これを体験させるためかと、心底思い知らされるものになっているのだ。先に触れたシューティングゲーム『OUT OF THE VOID』も、背景に込められたストーリー性に似たような”エモさ”がある。さながら、ゲームと共に少年の心が満たされていくような表現の数々には、未だかつてない高揚感を覚えるだろう。

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また、全てがドット絵で描かれたムービーデモの圧倒的な美しさも注目。背景からキャラクターの細かな動作に至るまで、作り込み具合がとんでもないことになっている。もはや芸術と言っても過言ではないほどだ。

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各ゲームのドット絵も80年代のアーケードゲームらしい、16ビット風の美しい仕上がり。ブラウン管の走査線は表示されないなど、細かい部分は今風という名の”ご都合”が出てしまっているが、この手のグラフィックが好きでたまらないプレイヤーであれば、辛抱溜まらん満腹感が得られること間違いなしだ。

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もちろん、スクリーンショットは普通に撮れる。
後々じっくり眺めたいなら、バンバン撮影しちゃいましょう。

1980年代の”エモさ”を余すところなく味わおう

全体のボリュームとしては2~3時間程度。各ゲームの進捗によっては上下するが、基本的にそれ以上越えることはない、アドベンチャーゲームらしい適切な物量に収まっている。難易度も優しめ。ただ、先のレース、横スクロールアクションの二つは少し手ごわく、前者には苦手な人ほど沢山のトライ&エラーを重ねてしまうかもしれない。特に制限時間は、もう少し緩くしても良かったのでは……と思うばかりだ。しかし、おかげで途中の演出が際立っていたりもするので、一長一短だが。

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また、本作は日本語に対応していない。さらにストーリーはフルボイスのナレーションで語られるのだが、字幕がない。そこそこのヒアリング能力がないとサッパリなのだ。幸いにして、場面ごとにどんな事態が起きているのかは察せるが、隅々まで堪能したい気持ちがあるなら、この仕様はストレスになるかもしれない。

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▲日本語ローカライズの難易度は高そうだ…。(字幕の追加、音声吹き替えなどが必須)

さらに実質ネタバレだが、重要な情報なのでお伝えしておく。

本作のストーリーは未完である。

一応、続きは予定されているらしいが、ちゃんと完結した状態でストーリーを楽しみたいのなら、そちらが出るまでは待った方がいいかもしれない。

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とは言え、未完でも体験する価値があると大声で言いたくなるほど、五作のゲームとストーリーを絡ませる演出は圧巻であり、言葉に言い表しがたい気持ちにさせてくれる。全てにおいてエモすぎる本作。この雰囲気は唯一無二のものがあるので、興味があればぜひ、プレイしてみていただきたい。ゲームに出会い、少しずつ変化していく少年の心情を成すがままに受け止めよう。

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80年代を過ごした世代なら、もしかしたら涙腺が刺激されちゃうかも。

[基本情報]
タイトル:『198X』
制作者: Hi-Bit Studios
クリア時間: 1時間半~2時間
対応OS: PC(Windows)、PlayStation 4(※海外のみ)
価格: ¥1010
備考: 暴力、非合法な喫煙表現あり

購入はこちらから
※PC(Windows)版

※PlayStation 4版(海外のみ)
https://store.playstation.com/en-us/product/UP5150-CUSA16749_00-HIBITSTUDIOS0001

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