1980年代が脳裏を過ぎる、ハイブリッドでカワイイ”デジャヴ”満載のアーケードアクション『Annalynn』

アクション,インディーゲーム

「よっせ、よっせ」

「!!」

「♪~」

「……?」

「シュタッ!」
「!!」

「!?」
「シャーッ!!」
「!!」

「シャーッ!!(待てーッ!)」
「ひぃーッ!!」

……ということで『Annalynn』のご紹介である。
(ずいぶん簡素な始まり方ですな、と言われても実際これなので仕方がない。)

ヘビ4兄弟の追撃を避け、地上を目指すんだ!

この1980年代臭あふれる見た目の本作『Annalynn』は、2021年1月にPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」にて発売されたWindows PC用横スクロールアクションゲームだ。発売後に何度か新コンテンツを追加する無料の大型アップデートも実施されており、本稿執筆時点では「VERSION 1.5.1」が配信中となっている。

内容はタイトルにもなっている主人公で、採掘少女の「Annalynn(アナリン)」を操作し、ヘビ4兄弟の追撃を避けながら地上を目指すというものである。本編はステージ(ラウンド)クリア形式で進行。

各ラウンドは、散らばった「コイン」と「ルビー」を全部回収するとクリアになって、次のラウンドへと移る。これを繰り返しつつ、最後のラウンドをクリアできればエンディングである。いわゆる一本道構成になっている。

アナリンが敵のヘビ4兄弟に接触してしまうとミス。残機が減り、全部尽きてしまえばゲームオーバーである。また、アナリンのアクションは移動とジャンプの2種類だけ。敵のヘビ4兄弟に対しての攻撃手段は持っていない。

唯一、攻撃手段として存在するのは前述の「ルビー」を取った時。「ルビー」を取ると一定時間の間、ヘビ4兄弟が青色に変化。アナリンから逃げるように動き始める。この時に直接、ヘビ4兄弟に接触すればアナリンがキックを決め、フィールド上から撃退してくれるのである(※一定時間経過後には再登場する)。
これ以外にヘビ4兄弟を攻撃する手段は存在しない。よって、本作においては……

追い付かれないようにひたすら逃げる!
接触しそうになったら、ジャンプして飛び越える!
もしくは、方向転換して逆方向へと走る!

以上、3つの行動を軸に立ち回ることがラウンド攻略のカギとなる。
1本道のステージクリア形式で進む本編に最小限のアクション、最小限の戦術。いずれも1980年代に存在したかのような見た目、雰囲気を醸し出しているなりの特徴で、あの当時のゲームらしい遊び応えを持った作りにまとめられている。

その頃のゲームらしく、途中経過を保存してくれるセーブ機能もなし。本編もセーブなしの通しプレイが基本になる。そして、残機をすべて失い、ゲームオーバーになった後、コンティニュー(リトライ)しなければ、最初のラウンドからのやり直しだ。

ただ、クリア後のラウンドが再プレイできる「PRACTICE MODE」なる別のモードが用意されているというイマドキな部分も。また、前述の通り大型無料アップデートによる新コンテンツ追加が定期的に実施されているのもそのひとつだ。

ちなみに「VERSION 1.3」では、新たに本編の全ラウンド(一部除く)をランダムな順番で延々と遊ぶ「RANDOM MODE」が追加。本稿執筆時点で最も新しい、2022年4月実施の「VERSION 1.5」では、当時のアーケードゲームに忠実なルールで遊ぶ「ARCADE MODE」と、アナリンの歩行速度を上げたり、無限ジャンプを可能にするといった改造プレイを可能にする「CHEATS」の2つが新規に追加されている。(※なお「PRACTICE MODE」、「RANDOM MODE」、「CHEATS」はいずれも本編クリア後の特典となる)


▲「VERSION 1.3」の紹介映像。

この内、「RANDOM MODE」では本編には存在しない特別なステージが遊べたり、ルールを細かく決められる専用オプションが設けられているといった見所がある。


▲「VERSION 1.5」の紹介映像。

「ARCADE MODE」はそのシビアさもさることながら、2人同時プレイが楽しめるのが最大の特徴だ。ただ、このモードを遊ぶにはちょっとした手順を踏む必要がある。詳細は話すと長くなるため、こちら(※リンク先英語)を参照し、手順に従っていただきたい。

他に本編も対象の共通オプションにはアナリンの色を変更できるパレット機能があり、一部、特定の条件を達成すると解禁される特別なパレットがあるといったやり込み要素の存在も今のゲームっぽさを感じさせるものになっている。

とは言え、本作の真髄はその見た目に違わぬ取っつきやすさと遊びやすさ。
プラス、主人公アナリンの可愛さである。

ここまでのスクリーンショット(厳密にはフレームのイラスト)の通りである。
本作、とてもかわいいアクションゲームなのである。

ちなみに説明が遅れたが、ヘビ4兄弟は赤が「ランディ」、青が「ハンディ」、紫が「キャンディ」、緑が「マイク」である。本作に登場するキャラクターはこの4匹とアナリンだけだ。その辺も見た目に違わぬ感じ……だろうか。

ハイブリッド仕様なデジャヴの数々……?

そんな本作はハイブリッドなデジャヴ(既視感)が大きな魅力になっている。
「なんじゃそれ」だが、実際、その手の要素がてんこ盛り。

例えば前述のアナリン唯一の攻撃手段。どこかで聞き覚えがないだろうか。恐らく、分かる人には分かったはずである。分からない場合はここをクリックして、可能であれば遊んでみよう。

コインを全部集めればステージクリア、というのも聞き覚えがあるだろう。さらにゲームが進むと、その種のデジャヴはどんどん増えていく。登れるツタの仕掛けの登場と、それを2つ掴むと1つ掴んだ時よりも素早く動けるという明確な変化。3ラウンド経過の度に挿入されるコントのようなデモシーン。変化していく背景。そして、最後の最後の”対決”。

「色々組み合わせすぎだろ!」とツッコミたくなる勢いでデジャヴが襲い掛かるのである。また、改めてゲーム全体を観察してみると、節々にもそれっぽいものが。地下でお宝探しというオープニング、ヘビの4兄弟が襲い掛かってくるという設定。そして、主人公アナリンの容姿。よくご覧いただきたい。カワイイですね……って、違う。その着ている服に見覚えはないか……?あと、このキャラクターデザインにもどこか見覚えがなかろうか。

……という具合に色々ハイブリッドなまとまり具合なのである。
いずれも1980年代に焦点を当てているため、直撃世代ならプレイしているとニヤニヤしっぱなしになる。逆に世代でない人には何がなんやらだが、詳しく調べてみることで、本作が色んな要素を引っ張ってきては、ちゃんと独自の遊び応えを持ったひとつのアクションゲームとして確立させている、ハイブリッドな仕上がりに気付かされるだろう。

実際、デジャヴ抜きにアクションゲームとしての出来も盤石だ。特に操作性が素晴らしい。見た目は1980年代風だが、キャラクターの挙動は非常に軽快で、アクションゲームの動かすだけでも楽しいという醍醐味を徹底追求している。

さらに前述の通り、アナリンのアクションと使うボタンの少なさもあり、取っつきやすさも並外れている。最小限の操作で遊べる特徴そのものも1980年代の古き良きアーケードゲーム、デジャヴの大元に忠実で、色褪せぬ良さが描かれている。

少ないアクションから生じるワンパターンさをカバーするため、ラウンドの構成も新たな仕掛けを登場させたり、ヘビ4兄弟の行動パターンを追加したりなど、変化を感じさせる工夫を凝らしているのも秀逸。3ラウンドごとに背景が変わるのも、ありきたりな演出ではあるものの、変化を感じさせる要素としていいアクセントになっている。

だが、最もよいアクセントになっているのは最終ラウンドである。
何があるのかは実際に見てのお楽しみである。ヘビ4兄弟の本気を見るだろう。

そして、クリアするだけなら根気さえあればどうとでもなる良心的なバランスも特筆に値する。前述の通り、残機を全部失ってゲームオーバーになってもコンティニュー(リトライ)は無限に可能(※本編「CAMPAIGN」のみ)。しかも、集めたコインの総数が維持された状態から再開されるので、再び最初から集め直すということがない。それもあって、根気さえあればいつかはクリア可能。コンティニューを繰り返すとエンディングが見れないといったペナルティもないので、この手のアクションゲームに慣れていない人も気軽に遊べる設計になっているのだ。

特にコインが維持される仕様は「そんな優しくていいんですか?」と戸惑うほど。逆に言えば、ハイスコアを意識すると一気に辛口になる。コンティニューするたび、それまで獲得したスコアが半分になるペナルティを受けるからだ。
ゆえに高いスコアを獲得したければ、ノーミスクリアが必須。「絶対にヘビ4兄弟に追いつかれてはいけない戦い」を強いられるのである。

コイン維持の仕様は、往年のアーケードゲームを意識した作品としては甘くし過ぎのきらいがあるかもしれない。ただ、それとは違う遊び方で激辛な作りにしているのは棲み分けとしては適切。何より、1回でもコンティニューすれば半減確定なので、段違いの緊張感がある。その緊張感はまさに80年代のアーケードゲームそのもの。そんなプレイスタイルに応じ、時代の異なるバランスを実現しているというのは調整的にも面白い。

こういう作り込みが図られているのも、本作のアクションゲームとしての出来の盤石さを物語る所以になっている。懐かしさと可愛さに目が向いてしまうが、大元のゲーム自体もよく出来ている。こだわりが感じられる仕上がりなのだ。

1980年代特有の容赦のなさあれど、アナリンはカワイイ。

とは言え、ヘビ4兄弟の出現パターンが嫌らしすぎるという気になる箇所もあるのだが。彼らは時折、地中に潜ってアナリンの近くに現れるのだが、それが寸での距離だったりすることが多く、意識して素早くジャンプしたり、方向転換しないと高確率で正面衝突してしまう。4匹現れた時に至っては、その瞬間も読みにくくなり、気付いた時にはぶつかっていた、なんてことも起こり得る。

一応、「ルビー」を取れるタイミングを計算して動き、対処する戦術が有効と言えば有効なのだが、パターンを掴むまでは非常にぶつかりやすい。
逆を言えば、1980年代らしい容赦のなさとも解釈できるが、せめて出現位置は少し間を開けるなど、猶予を取ってくれればとプレイしていると思ってしまうかもしれない。良心的な仕様が素晴らしいだけに、ここがちょっと惜しい。

それ以外では、アナリンのカラーパレットを変更できるオプションとその多さも、やり込み要素としては地味、かつ水増し感が否めない。
実際に本編はクリアだけなら30分以内で行けるので、それをカバーする意図があったのかもしれないが、正直、「RANDOM MODE」を始めとする追加モードと実績で事足りてしまっている。入れても20種類ぐらいに留めていいのでは、と思ってしまった次第だ。

そんなオプション周りの違和感はあるが、グラフィック自体の完成度は高い。特にキャラクターのドット絵は見た目とは裏腹によく動く。要注目はやはりというか、アナリンの一挙一動である。音楽も1980年代のアーケードゲームを意識した、古風な音源による耳に残る楽曲が満載なほか、効果音も小気味よいものが揃っており、動かす楽しさを引き立てている。

演出面でも一定ラウンドクリアのたびに挿入されるデモシーンは、先の繰り返しになるがコント全開な作りになっているので必見。ただ、微かにアナリンの情け容赦のなさが描かれているところは、少し賛否が分かれるかもしれない。

よくも悪くも1980年代のアーケードゲームを意識した作品らしい長所と短所はあるが、色んなデジャヴ満載でそれをひとつの横スクロールアクションとして違和感なくまとめ上げている作りは申し分なし。軽快な操作感と取っつきやすさ、少し水増し感はあれど豊富なやり込み要素も魅力満点だ。直撃世代ならニヤニヤしっぱなしに、そうでない世代ならアナリンの可愛さとアクションゲームとしての確かな遊び応えで楽しませてくれる本作。この見た目にビビッと来たならぜひ、お試しを。

大事なことなので、もう一回書いておこう。アナリンは可愛いぞ。

[基本情報]
タイトル:『Annalynn』
作者:Cruise Elroy
クリア時間:30~40分
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):¥520(Steam)

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