童話調アドベンチャー『クローネとはぐるまのしま』たいせつな ”いし”を さがす ものがたり。

アドベンチャー,フリーゲーム

スマートフォンを懐中時計の替わりにするようになってからというもの、すっかり装着する習慣が無くなってしまった腕時計。時計の歴史を紐解いていくと、水晶に電気を流すことで生まれる振動を利用したクォーツ式が現在の主流で、そのクォーツ式が普及する前にはゼンマイを手で巻いて動力としていた物が主だったという。時計の中の歯車が幾多も絡み合って時を刻む姿は精巧な工芸品としての美しさを携えており、時を忘れて見惚れてしまいそうになる。

この度紹介する『クローネとはぐるまのしま』は、そんな時計や歯車をモチーフとした、kiji氏の制作によるアドベンチャーゲーム。2020年4月15日にノベルゲームコレクション、翌16日にふりーむでそれぞれ公開された。

「じょうずに いきが できない よるは」

宝石をはめることで動く時計を身体の中に持つ、歯車仕掛けの人形たちが住む島。泣き虫な少女クローネは自身の時計を修理してもらうため、島の時計屋のシャトンのもとを訪れます。しかし、クローネの時計からは時計を動かすための肝心な宝石が無くなってしまっていました。

島は幼き日のクローネがスケッチブックに描いた空想の「人形たちが暮らす島」だったものを、クローネの兄であり今は亡き発明家のテンプが実現させたもの。しかしエネルギーとなるオイルが不足しはじめているなど、島の暮らしには徐々に陰りが見えだしていました。

クローネとシャトンは島の住人たちを訪ねながら、クローネの無くしてしまった宝石と、テンプとの思い出である島が存続していくための道を探ることになります。

「いやあ われながら しごとの むしだね」

『クローネとはぐるまのしま』はポイント&クリック方式のアドベンチャーゲームとなっており、画面の様々な場所をクリックして調べていくことで進んでいく。気になった箇所はドンドンクリックしていこう。

本作の特徴は童話調の語り口。可愛らしくも細やかに描き込まれた線画と、全篇ひらがなによるテキストは幼少の頃に読んだ絵本のようであり、童心が湧き上がる。また話を進めるためのキーとなる箇所は基本的に宝石の色に彩られているため、行き詰るようなことは無く読み進められる。

島をよく探索すると、島の住民たちの思い出の品や、各地にひっそりと備え付けられている小さな扉を開ける為のを入手することできる。アイテムの取得状況は画面右下にある鞄のアイコンをクリックすることで開くメニューから確認することが可能だ。これらのアイテムはストーリー上必須な物というわけでは無いが、そこでかつて何があったのかの空想を膨らませてくれる。物語の箸休めとしてコレクションを進めていくと良いだろう。

「それが わたしの わたしだけの いし」

本作は序章となる第0章から第12章までの全13章仕立てで構成され、クローネとシャトンが島の住人たちを訪ねていく形で進行していく。そしてその交流の中で、島の住人たちに秘められた想いに触れていくことになる。

文字通りに身を砕くシスターのコハゼ、苛立ち続けるカメラ頭の職人ルミノバ、動けなくなった路面電車のレトログラード、オイル涸れに絶望する掘削機械のフュージ…みな一様に何かを諦め、クローネと同じように時計の宝石を無くした自らの時を止めてしまった人々そして彼らが再び歩み出せるようになるために、無くした”いし”を探し出すクローネとシャトンの姿は、切なくも優しい気持ちを呼び起させてくれることだろう。

「からだの とけいは すすんでも
 こころの とけいは おきざりな よるは」
この物語を紐解いてみてほしい。

[基本情報]
タイトル: クローネとはぐるまのしま
制作者: kiji
クリア時間:  3時間
対応OS: Windows , ブラウザ
価格: フリーウェア

↓ダウンロードはこちらから(ふりーむ)
https://www.freem.ne.jp/win/game/22575

↓ブラウザでのプレイはこちらから(ノベルゲームコレクション)https://novelgame.jp/games/show/3156

  • 真野 崇(@tacashi

    フリーゲームと共に四半世紀を生きるフリゲ馬鹿一代。
    フリーゲームのレビューブログ「自由遊戯黙示録」を経て、自身のフリゲ人生を集約した、フリーゲーム・同人ゲーム・インディーズゲームの年代記「自主制作ゲーム史論」を執筆。