2Dパズルアドベンチャー『desolate』に込められたニュージーランド出身クリエイターの想いとは?

インタビュー,インディーゲーム

今年3月に京都で開催されたBitSummitで非常に印象深かったアーティスティックな2Dパズルアドベンチャー『desolate』。

このゲームは、油絵で手書きしたよう絵と雰囲気が特徴的で、このゲームは他のゲームと違うということが直感的に分かった。『Monument Valley』のように絵の中でキャラを動かして遊んでいるような感覚だ。

ゲームのクリエイターがゲーム制作に向かう理由は人それぞれだ。最近では、「自分(たち)のアイデアで作りたいゲームを作る」という想いで、ゲームを作っている人が増えつつある。

「これまでにない表現をゲームでしたい」と話すのは日本在住のクリエイター、Eliot Collis氏だ。ニュージーランド出身で大好きな日本に住み始めて3年目の26歳。彼の処女作となる『Desolate』は現在Kickstarterで支援を募集中だ。募集期間は10月1日まで、目標金額は12,500NZドル(約110万円)。

Kickstarterキャンペーンページ
https://www.kickstarter.com/projects/elliotcollis/Desolate

このゲームをほぼ1人で制作していることに驚き、いつか話を聞きたいと思っていたところ、ついにインタビューをすることができたのでお送りしたい。

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BitSummitでの展示。既にプレイアブルのデモ版が展示されていた。

ゲームをインタラクティブな表現手法として捉える

――今回制作している『desolate』はどんなゲームですか?

Collis
『desolate』は2Dのパズルアドベンチャーゲームです。主人公は村に住んでいるのですが、影が村を襲います。逃げるために最初の章で家族を犠牲にしなければならなくなります。そして洞窟に逃げた主人公は奇妙な生物の助けを借りてパズルを解きながら、脱出することになります。洞窟を脱出すると…。全体は7章構成にする予定で、それぞれテーマがあります。

※7つのテーマは、「Desolation」(悲しみ), 「The desolate」(寂しさ), 「Deception」(欺き), 「Corruption」(堕落), 「Consumption」(消耗), 「Depression」(憂うつ), 「Realisation」(実現)
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洞窟の中で助けてくれる生物

―家族を犠牲にする…。そして各章のタイトル。どれも非常に深いテーマですね。

Collis
家族を犠牲にする場面は決して楽しい体験ではありません。『風ノ旅ビト』のクリエイターもプレイヤーの感情について言っていたのですが、ただの「楽しい」という感情だけではなくて、悲しみなど他の色々な感情を感じられる「エモーショナル・デザイン」をしたいと思っています。

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村を襲う影。不穏な雰囲気が漂う

―ゲームをただ面白い、楽しいものとして捉えないのはなかなか独特ですね。エモーショナルデザインとはどういうものなのでしょうか?

Collis
エモーショナルデザインは、プレイヤーがゲーム内の経験を通して何らかの感情を抱くようなゲームデザインです。先にゲームの仕組みありきで物語をあてはめるといったように別々に考えるのではなくて、ゲームの物語と仕組みが深く結びついています。

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物語が進むにつれパズルも変わっていく

Collis
今までなかったような見た目のゲームを作ってみたいんです。『desolate』には文字もあまり出てきません。プレイヤーがこのゲームを自由に解釈できるようにしたいんです。絵を見ると、その絵について思うことは人によって違いますよね。大学ではビジュアルアーツを勉強してきて、ゲームは表現手法としてとても可能性のあるものだと感じています。ゲームは、プレイヤーの操作によって進んでいく、とてもインタラクティブなものです。

―ビジュアルアーツを学んでいたので、非常に絵画のようなタッチのビジュアルになっているということもあるんですね。『desolate』をプレイしてみると、Elliotさんがゲームをまさに芸術の表現として考えていることが伝わってきます。そもそも、ゲームは、グラフィック、音楽、ストーリーなど色々な表現の要素を組み合わせてつくり上げるものですものね。

Collis
そう、そしてプレイヤーが受け身じゃなくてゲームに関わるところがあるから、面白いんです。5歳の頃からゲームを遊んでいました。最初はゼガのマスターシステムでしたね。その後メガドライブをやって、ソニックが大好きになって。マリオよりもソニック派なんですよ(笑)

ー今はスマブラでマリオとソニックが戦ってますけどね。

Collis
わお、そうなんですね。『desolate』でも音楽を担当してくれているBen Tolichが小さいころからの親友で、彼は色々なゲームを持っていたので、相当遊びました。

ーお気に入りのゲームはありますか?

Collis
『ICO』は心に響きましたね。

ー『ICO』も一切文字が出てこないゲームですよね。

Collis
そうですね、『ICO』には大きく影響を受けています。PCだと、『The Binding of Issac』とか。後は『Dragon Age』や『Fable』が好きですね。インディゲームに出会ってからは、そちらの方が面白いのでインディばっかりやってます。そして昔からローグライクゲームが好きだった。

ーローグライクゲームですか。まさにプレイヤーの行動によって状況が変化していく。まさにゲームのインタラクティブらしさを体現しているジャンルですね。

Collis
そうそう。最近だと、『Abe’s Odessay』なんかもなかなか面白かった。映画のデザイナーが関わっているのですが、彼の制作したアニメーションがとても独特で、参考にしています。

ーゲームの舞台となる場所や風景のグラフィックは故郷のニュージーランドだということですが、どういう設定なのでしょうか。

Collis
僕の原風景なんですよ。ニュージーランドには年1回、クリスマスの時に帰りますが、スノーボードをしたり、火山の麓をハイキングしたり。その風景が本当に綺麗なんです。ニュージーランドの雄大な風景は、ロード・オブ・ザ・リングの撮影にも使われてます。そんな、自分の心の中にある村を描きたかった。

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Collis氏の故郷ニュージーランドの風景

東京在住で英会話教師をしながらゲーム制作

ー現在は日本に住んでゲーム制作をしているんですよね?

Collis
はい。小さいころから日本の文化や食べ物が大好きで、大学を卒業してから日本に来てもう3年経ちます。ゲームを作るためにプログラミングを勉強しながら、東京の某スマホゲーム会社で英語版のテストプレイヤーをしたりしていました。今はパートタイムで英会話教師をしながらゲームを作っています。

ーやはり自分でゲームを作りたくなった?

Collis
最初はiOSでもっと小さなゲームを作るつもりだったんです。それでObjectiveCとか勉強してたんですが、Xbox liveやHundle Bundle(海外のインディゲームをダウンロード販売しているサイト)の存在を知って、インディゲームが面白いなと思ったんです。そこでPCゲームを作ることにしました。ローグライクゲームをチームで作ろうとして、都合が合わなくなり頓挫したこともありました…。

ー他のゲームを知って、自分もやってやろうっていうことだったのですね。このタイミングでKickstarterキャンペーンを行っていますが、今回はどういうことで募集に踏み切ったのでしょうか。

Collis
このゲームを早く完成させるためです。BitSummit以降、生活費を稼ぐために仕事を多くやらなければならなくて、その後の2ヶ月間は週1回しかゲームづくりに時間を割けなかったような状況でした。

ーそれでは全然進まなそうですね。

Collis
ゲームの構想はできているけど、完成しているのは2章まで。Kickstarterで支援を集めることができれば、2015年の7月までには完成させられます。ゲームをしっかりとリリースするためにKickstarterを使おうと思いました。

ー同時にリリース前の作品に投票できるSteam Greenlightにも登録してますね。コメントには各国語で応援のメッセージが寄せられています。

Collis
中には「この顔はゲイだ」なんていうひどいメッセージもありますよ(笑)最初はコメントを見ると凹みました。

Steam『desolate』
http://steamcommunity.com/sharedfiles/filedetails/?id=308616324

ーSteamでは、英語版だけでなく、日本語、フランス語、ロシア語、韓国語と色々な言語に対応予定となっています。

Collis
元々あまり文字が出てこないゲームですからね。日本語版のタイトルを悩んでいます。「『desolate』」ってかなりネガティブな言葉ですからね。

ータイトルがネガティブな感情を表す言葉ですが、なぜこの言葉をタイトルにしたのでしょうか。

Collis
ゲーム内の状況を表す言葉だったんです。確かにネガティブな感情がテーマにはなっていますが、決してプレイしていて不快になるわけではないですよ。

ーそうですね。BitSummitで体験版をプレイして、それは思いました。まさに絵と同じですね。やっていて嫌な気持ちになるゲームではない。ちなみに、エンディングはハッピーエンドになるんでしょうか。

Collis
突っ込んできましたね(笑)まだ作ってないけど、ゲーム内の状況に変化が起きるのは確実です。

ーなるほど、楽しみにしたいですね。そして、Kickstarterキャンペーンが無事にゴールできるといいですね。Collisさん、本日はありがとうございました。

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※なお、このインタビューは英語で行われたものを日本語に書き起こしたものになります。

  • すんくぼ(@tyranusii

    学生時代、MMORPG「リネージュ」で朝から晩まで飽くことなきレベル上げと戦争に没頭する毎日を送る。本業では廃人卒業後、国家公務員を経て、再びゲームの世界へ。「もぐらゲームス」を立ち上げました。ハマったゲームはライブアライブ、ファイアーエムブレム 聖戦の系譜、デモンズソウルなど。
    個人ブログもやってます:もぐらかペンギンか