宇宙船ローグライク『FTL』のゲームデザインは何故こんなにも美しいのか

Steam,インディーゲーム

今回紹介するタイトルは『FTL: Faster Than Light』(以下『FTL』)だ。

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『FTL』は、1機の宇宙船を操って敵宇宙船と戦いながら冒険するゲームだ。ジャンルでカテゴライズするならば「ローグライク+ストラテジー」になるだろう。既に数多くの賞を受賞している作品であり、かつユーザーの評価も非常に高い。もちろん筆者も(わざわざ記事を書きたくなるくらいには)強くオススメする一本だ。

「死んだら全部失う」「厳密な損得勘定が必要」「一発逆転の要素がない」「そもそも難易度が高め」など色々厳しめのバランスとなっており人を選ぶかもしれないが、非常に優れたゲームであることは間違いないので、そういったゲームを好む方にはオススメだ。また、何より非常に斬新なゲームなので、最近のゲームに飽き飽きしているような方なら「こんな記事なんて読まず今すぐポチってきなさい」と言ってしまいたいくらい、強くオススメしたい。

「敵宇宙船と戦うために、船内を管理する」という斬新なルール

プレイヤーは宇宙船の指揮官。反乱軍から逃げながら宇宙を旅して重要なデータを届けるのが目的だ。ゲームのタイトルにもなっている「FTLドライブ」で星から星へワープしながら進み、道中ので戦闘・買い物・人助けなどのイベントに遭遇しつつ、最終目的地である連邦の主力艦隊を目指すのだ。

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マップ画面。左側から反乱軍が迫ってきている。

発生する問題は主に戦闘で解決することになるのだが、このゲームの戦闘は、宇宙船同士が1対1で戦うのみだ。また、敵船との位置関係や距離といった概念もない。では、どういう要素があるのか。

このゲームには「宇宙船の船内」があるのだ。

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画面写真を見てもらえば分かると思うが、敵味方ともに宇宙船の船内が表示されており、そこに乗組員もいる。プレイヤーがすべきことは、宇宙船の各機能の操作と乗組員への指示出しだ。

宇宙船には電力の概念がある。武器に電力を割り振って一斉射撃したり、電力をエンジンに割り振って敵から逃げたりなど、限られた電力をどの機能に割り振るかを決めるのもプレイヤーだ。

宇宙船の各機能は基本的に自動制御ではあるが、機能が割り振られている部屋に乗務員を配置することでより効率的に稼働させることができる。攻撃を重視したいのなら火器管制システムに乗組員を配置しよう。また、敵の攻撃によって機能が破壊されてしまっても、乗組員を急行させて修理することもできる。

『FTL』は「宇宙船の外の敵と戦うために、宇宙船の船内を管理する」という斬新な構図のゲームだ。少なくとも筆者の知識の範囲では同列に語れるようなタイトルは思い浮かばない。それくらいに希少性があるゲームシステムであり、まずこの1点だけでもプレイする価値があるゲームだと筆者は思う。

世界観とルールが見事に合致した美しいゲームデザイン

さらにこのゲームならではのユニークな要素を解説していきたい。

船内は酸素で満たされているわけだが、敵の攻撃や隕石の飛来によって船体に「穴」が開き「酸素」が漏れ出してしまうことがある。するとその部屋は真空となり、修理に行くことができない。ではどうするか。「扉」を解放してとなりの部屋から空気を送り込めば良いのだ。その間に乗組員に指示を出して穴を塞げば解決だ。

敵のミサイルなどによって「火災」が発生することもある。乗組員を向かわせて消火活動をすることもできるが乗組員が負傷してしまう。ではどうするか。ここでも「扉」と「酸素」の要素が絡んでくる。そう、宇宙空間側に面する扉を開けてしまうのだ。部屋の酸素がなくなれば火は燃えることができず、たちまち消えてしまう。宇宙空間ならではの消火方法だ。

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左側にある宇宙空間に面した扉を開けてしまえば酸素を抜いてしまうことができる。

なお、これらの要素は敵の船内でもまったく同じだ。敵船に火災を起させることもできるし、火器管制システムを破壊して無力化することもできる。センサー室に乗組員を配置して敵の船内を覗き見し、敵船員がいる部屋を狙えば敵船員を殺してしまうことも可能。船員を全滅させれば、船を破壊せずとも勝利することができるのだ。

ゲームを進めて「テレポーター」を導入することができれば、乗組員を敵船にワープさせ、白兵戦を挑むことも可能だ。逆にプレイヤーの船に敵が乗り込んでくることもあるが、今まで説明した要素の応用で撃退できる。扉の制御システムに乗組員を配置して扉をロック、その上で宇宙空間側の扉を開けてやれば、相手は真空になった部屋で何もできないまま窒息死だ。

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赤い斜線の部屋が真空となっている部屋だ。敵は扉の破壊を試みているが…。

宇宙船の外側に関する要素も様々にある。攻撃を防ぐシールドや、機器を麻痺させるイオン砲、自律的に戦ってくれるドローンなど、宇宙ならではの兵器が色々と用意されている。

戦略をつかさどる要素が数多くあり、複雑なゲームかと思われるかもしれないが「酸素をなくせば火は消える」など、どの要素も非常に理にかなっているため、頭にスッと入ってくるはずだ。

上の節で「宇宙船の船内という要素が新しい」と説明したが、それだけに留まらず、「酸素」「扉」「火災」「侵入者」といった「宇宙船の船内」ならではのルールが搭載され、それらが単なる雰囲気作りだけでなく、きちんとジレンマや戦略性を与えているという、非常に美しいゲームデザインとなっている。この点に関して言えば間違いなく一級品だ。

プレイの過程が物語になる

戦闘以外のイベントはテキストと選択肢によって進行していく。

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困っている船を見つけたり、怪しい商品を売りつけられそうになったり、海賊に金を払えと脅されたりなど様々なイベントが発生し、その都度選択を迫られることになる。完全にテキストのみで語られるため地味ではあるが、ゲームブック的な感覚で楽しめる。

イベントはランダムに発生し、選択肢の結果もプレイするたびに変化するので、サブ的な要素ではあるが毎度新しい物語が生まれ、ロールプレイを楽しませてくれる。

しかしこのゲームのロールプレイに関して最も優れているのは、戦闘時の展開だ。

既に説明したとおり、船内に穴や火災が発生したり、侵入者が入って来たり、さらに宇宙環境によっては周囲が何も見えなくなったり、磁気嵐によって使える電力が半分になってしまったりなど、様々な問題が発生する。

その問題にやきもきする感覚や、また機転を利かせて解決する過程が、筆者の場合は『宇宙戦艦ヤマト』の沖田艦長や『機動戦士ガンダム』のブライトさんのような気分を強く感じた。例えば…

「艦長、敵に捕捉されました! しかし磁気嵐の中では戦闘用の電力が足りません!」「ならば酸素供給装置を切れいっ!」「そんな!? 1分と持たず窒息してしまいます!」「構わぬ! 1分で仕留めれば良い!」

「エイリアンが船内に侵入! 我々では太刀打ちできません!」「テレポート爆薬があるな、それを自船内にテレポートさせることはできるか?」「可能ではありますが、そんなことをしたら船内にも被害が…!」「その程度の損害! やれっ!」

「戦闘員2名はテレポーターでいつでも出れるようにスタンバっておけ!」

「火力が違いすぎます! もう持ちません!」「ええいFTLのチャージはまだかっ!」

「敵シールド消滅! 乗り込んだ戦闘員がやってくれたようです!」「よし! 今だ! 全砲門開け! 一斉射撃!」

…こほん。少々暴走してしまった。
このように、戦闘の最中、筆者の脳内ではこんな台詞が展開されていたりするのだ。特に私に妄想癖があるというわけではない。『FTL』がそういったドラマティックな状況を自然と生み出すゲームデザインになっている、ということを伝えたかったのだ。

上の脳内台詞が実際のゲームシステムではどうなっているか解説すると…
・酸素供給装置をOFFにして、その余剰電力を武器に回す、という戦略もアリ。
・本来は敵の船を攻撃するためのテレポート爆弾だが、自船にも使用可能。
・戦闘開始直後にテレポーターで素早く敵船に乗り込むために乗組員をあらかじめ移動させておく。
・勝てそうにない敵は、FTLドライブのチャージが貯まり次第離脱する手も。
・味方をテレポートさせてシールド制御装置を破壊させる、という戦略もある。
このような感じだ。

ドラマティックな展開が普通にゲームをプレイする過程で自然発生する。あらかじめ用意された台本通りの展開ではなく、様々な要素の複合によって発生するものだ。そのような状況が発生するように丁寧に調整されたゲームバランス、そして何より、世界観とルールが密接に関わっているからこそ、このようなロールプレイが可能となるのだ。

ゲームデザインの独創性と完成度の凄さは伝わっただろうか。今回は船内の要素を中心にお送りしたが、燃料残量と相談しながら進む移動パートや、お金の使い道に大いに悩むアップグレード要素、乗組員の種族によるスキルの違いなど、今回語れてない要素も多い。今回語った内容の確認も含め、ぜひとも実際にプレイして確かめていただきたい。

[基本情報]
タイトル FTL: Faster Than Light
制作者 Subset Games
クリア時間 腕次第(死ななければ1周90分。何周も楽しめるアンロックあり)
対応OSと価格 Win&Mac版:980円 / iPad版:1000円
備考 英語版のみ(PC版有志による日本語化パッチあり)

PC版の購入はSteamから
http://store.steampowered.com/app/212680/?l=japanese

ipad版はこちらから

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  • ニカイドウレンジ(@R_Nikaido

    Twitterでゲームのこと語ってたら人生が変わった人。Twitterやってただけで文章力と思考力が身について、Twitterやってただけでライターやゲーム制作の仕事を頂きました。個人でゲームも作ってます。詳しいプロフィールや活動内容はプロフィールサイト