究極の選択を迫られる短編ノベルゲーム『人ひとりを救うチカラ』 クリックひとつで救える命が”一つだけ”ある。残りの三人は……

気怠さが抜けきれぬ状態で目を覚ました休日のある日。主人公はテレビを点け、ニュースを流し見しながら、マグカップに注いだコーヒーを飲んだ。
すると間もなく、急な眠気に襲われ、意識を失ってしまった。

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目の前が闇に包まれる中、何者かの声が響いた。
いわく、”主人公は「人ひとりを救うチカラ」を手に入れた”と。

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何のことか全く分からないまま、意識を取り戻すと、その目前には柱に拘束された四人の人物が。自らを”コームインのような者”と名乗り、主人公に語り掛けるその声の主は、チカラを用いて”一人”救って欲しいことを求めた。
そして、選ばれなかった三人は……。

かくして、究極の選択を迫られることになった主人公こと”あなた”。
単刀直入に問う。

……誰を救ける(たすける)?

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そんな急展開から幕を開ける『人ひとりを救うチカラ』は、キャラクターデザイナーとして活動する安次郎ユージ氏制作による短編ノベルゲームだ。2019年4月30日にPC(Windows、Mac)用フリーゲームとして「ふりーむ!」、「ノベルゲームコレクション」にて公開。後者では、ブラウザ版も用意されている。また、スマートフォン用アプリ「ティラノプレイヤー」にも対応しており、iOS、Androidでもプレイできる。

四人の中から、一人だけ”救え”

本作でプレイヤーのすることは先のあらすじの通り、非常にシンプル。
四人の中から救けたい(たすけたい)人を選ぶ。
そして、三人を救けず(たすけず)に見捨てる。
たったそれだけである。

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一人を救えば、物語はエンディングへと進み、そのまま幕引きとなる。総プレイ時間にして僅か5~10分ほどで、短編ノベルゲームらしく、アッサリとした内容になっている。さらに短いからこそ、見捨てた三人を改めて救う機会への再挑戦は容易だ。そのような形で四人それぞれを救った可能性を追っていくことが、本作の最終的な目的となる。

なお、救う対象となる四人の詳細は以下の通りだ。

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◆子供
名前は「こもはら ゆうあ」。
小学2年生で2年A組に所属。好きな授業は国語と音楽。
四人の中で最年少の少女。名前の漢字表記は不明。
また、彼女のパパとママは、怒らせるととっても怖いらしい。

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◆成人男性
名前は「久我恭一(くが きょういち)」。刑事。
作中の世界で多発している行方不明事件を追ってここに辿り着いた。そして、犯人と接触したのだが、このような”遊び”に参加することになってしまった。犯人逮捕まであと一歩の所まで来ていると熱弁する。

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◆女子高生
名前は「志嶌美沙姫(しじま みさき)」。
本人曰く、ただの女子高生。何の取り柄もない、”空っぽ”の女子高生と言い、現在のこの状況で自分が救かる(たすかる)可能性はないと絶望する様子を見せる。
だが、もしも彼女を救けて(たすけて)あげれば……

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◆老人
名前は「駒須賀稔(こますが みのる)」。
四人の中で最年長の男性。ハル子という名の妻がいたが既に死別している。若い子たちを救け(たすけ)、自分をハル子に合わせて欲しい、私のことは放っておいて欲しいと訴える。

この中の誰を救うのかはプレイヤー次第だ。
若干のネタバレになるが、当たりもハズレもない。
特に最初の一周目は、直感の赴くがままに選ぶのがいいだろう。
子供を助けたければ子供にすればいい。
この一連の事件の謎に迫りたいのなら、成人男性を救えばいい。
なんでもしてくれるなら、女子高生を選べばよい。
老人を救いたい思いがあれば、自らの意思を第一に。

一部、妙な理由が混じったのは気にしないでいただきたい。

”救え”ばめでたし、めでたし……?

このような本作の魅力は、短めながらも刺激的なシナリオと設定である。
急に人を一人だけ救うチカラを与えられた。それを用い、四人の中から一人を救う。
そして、救ってめでたし、めでたし。三人は残念でした。

直球ながらもプレイヤーの良心を抉り、奇妙な後悔と余韻を残す、作品名通りの体験が得られる内容になっている。

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どの人物を救ったかで訪れるエンディングも印象深い。詳細は伏せるが、いずれもその人物を救けた(たすけた)ことの意味を思い知らされるものになっている。救ったのであれば、本人にとっては喜ばしい出来事がこれから訪れるのだろう、と期待を抱かせるかもしれない。実際、その期待を抱かせた通りの展開にはなる。
だが、そこから意外な方向へと事態が動く。

これ以上は実際にそれぞれを救って御覧いただきたい。
”救けた(たすけた)意味を思い知らされる”通りの展開を目にするはずだ。

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また、作中全体から漂う謎もプレイヤーの関心を誘う。
そもそも、”人ひとりを救うチカラ”とはなんなのか?
自らを”コームインのような者”と名乗る声の主の正体とは?

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これらに疑問を抱くのであれば、多くのプレイヤーは事件の確信に迫っていると豪語する成人男性の刑事を救うかもしれない。だが、少しだけネタバレに触れてしまうが……彼を救けた(たすけた)場合、逆に頭の中が混沌と化してしまうだろう。

さらにもう一つ、この構成からも明らかな通り、本作には複数のエンディングが用意されている。数にして四種類”以上”だ。普通に疑問符が浮かんだことだろう。どうして”以上”もあるのかと。実の所、本作における真の最終目的はこの”以上”の謎に迫ることである。つまり、四人を救うとは別の選択肢を探ることだ。そして、その選択肢へと辿り着いた時、本作の世界観とこの謎の”遊び”、”コームインのような者”にまつわる背景が見えてくる。

例によって、それもまた見てのお楽しみだが、より一層この世界に対する不気味さが増すだろう。同時に主人公への印象にも大きな変化が起きるはずである。これに関しては、件の四人を救けた(たすけた)時にも起こり得るのだが。

先の繰り返しになるが、各エンディングに辿り着く時間は5~10分、全てを見終えるだけでも最長で1時間程度と短い。だが、それぞれの可能性を探る度、プレイヤーはこの世界に対する末恐ろしいものに気付かされ、気持ち悪い余韻が残り続けることになる。そんな不気味さが本作のシナリオには秘められている。

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ぜひ、一人助けた後も他の三人を助ける可能性を探ってプレイしてみて欲しい。
まあ、誰を助けたとしても、嫌でも他の三人を救けたく(たすけたく)なるのだが。

短編ならではのアイディアと構成が光る野心作

本作のさらなる魅力としてもう一つ、音楽が一曲も流れない。環境音と効果音だけで一連の物語が展開されていくのである。それもあって、特にエンディングは雰囲気的に異様。特定の場面に限って鳴り響く効果音も、作中の舞台、状況のおかしさからくる不気味さを煽り立て、自然に没入してしまう緊張感に満ちている。この演出ゆえの強烈な印象を残すシーンもあるのだが、それについては四人の内の誰かを救けて(たすけて)ご覧いただきたい、とだけ綴っておこう。

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また、救う対象である四人もそれぞれに用意されたエンディングもあって、強烈な印象を残す。特に女子高生の志嶌美沙姫は、自己紹介時の台詞も含め、人によってはドキッとさせられるかもしれない。そんな彼女を助けた後に訪れるエンディングも……お察しください。

実はデフォルトでメッセージ送りがオート設定になっている(※ただ、実施されるのは数分後)、メッセージスキップ機能は用意されているものの、選択シーンになるとオプションそのものが封じられて意味を成さなくなるなど、ややシステム的な不備と思しき箇所もあるほか、シナリオ的にも拒否反応を抱かせる展開があったり、好みが分かれる箇所もあるが、短編特有の構成と限定された表現を活用した野心作に完成されている。少しでも、それぞれを救った後が気になるのなら、プレイしてみて欲しい一本だ。そして、その後に起こるエンディングに身を委ねていただきたい。色んな意味で唯一無二の体験が残るはずだ。

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最後に改めて、これから本作をプレイして”主人公”になる方々へ問う。

誰を救ける(たすける)?

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[基本情報]
タイトル:『人ひとりを救うチカラ』
制作者: 安次郎ユージ(HareValley)
クリア時間: 5~10分(※全ルート:1時間~1時間半)
対応OS: PC(Windows、Mac)、iOS、Android(※ティラノプレイヤー必須)
価格: 無料

ダウンロードはこちらから
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/20119

※ノベルゲームコレクション(ブラウザ版)
https://novelgame.jp/games/show/1824

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