そのご要望、1分以内に解決します。ハイスピード”ステージクリア型”短編ノベルゲーム『少年カンテラとハイツコール』

アドベンチャー,フリーゲーム

現世と死者の世界を繋ぐ「黄泉鉄道」の終点「鏡野(かがみの)」。死者の霊魂は列車に揺られ、この終着駅へと辿り着き、「黄泉の国」へと足を踏み入れることになっている。

そんなこの駅に建てられた「ハイツ鏡野」は、死んだ自覚のない者、現世への未練を断ち切れぬ者、そして魂を誘う職員「獄卒(ごくそつ)」から逃げ出した者たちが住まう貸物件である。そのような迷える魂は、放置しておけば現世に舞い戻り、悪事を働きかねない。そんな彼らを集め、時間を与える目的で、管理人はこの集合住宅を建てたという。

ある日、管理人は出かける用事があるため、甥で「黄泉鉄道」の見習い職員である少年「カンテラ」に1日限り、その仕事を任せることにした。
仕事の内容は住宅の管理のほか、「ハイツコール」と称された付帯サービスに応じること。「ハイツコール」が鳴ったら、管理人は速やかに住民の部屋に向かい、1分以内に要望を満たさねばならないという。なぜ1分以内かは住民が短気なためとか。

かくして、少年の慌ただしい1日が始まりを告げた。

『少年カンテラとハイツコール』は、2021年4月より「ノベルゲームコレクション」、「ふりーむ!」、「BOOTH」の3サイトにてWindows PC、ブラウザ向けフリーゲームとして公開中の短編ノベルゲーム。黄泉の世界に佇む集合住宅の管理人業務を主人公である少年、カンテラの視点から追体験していくというものだ。

1分以内に住民の要望にお応えする、”パシリ”なノベルゲーム

基本的な作りはノベルゲームということで、文章を読みながらストーリーを進めていく……ものではない。「ハイツコール」という名の住民からの依頼達成に挑戦する、ステージクリア型ノベルゲームとなっている。

どこのアクションゲームだ、シューティングゲームだなどと言われても、本当にそんな作りであるから仕方がない。プレイヤーは主に住民への聞き込みなどを通して情報収集をし、依頼達成に繋がる”答え”を発見するため舞台である「ハイツ鏡野」を駆け回っていく。答えに辿り着ければステージクリアになって、次のステージが解禁。逆に答えに辿り着けず、1分が経過してしまうとゲームオーバー。ステージの最初からやり直しになる。

前述のストーリー紹介でも触れたが、本作は制限時間制を採用。ステージの本番たる依頼の開始と同時にカウントダウンが始まり、以降、依頼の答えに辿り着くまでの間、移動中だろうが会話を繰り広げていようがお構いなしに刻まれ続ける。そのような刻一刻と迫る中で情報収集をし、手がかりを探っていくのが基本となるのだ。ゆえにゆっくりじっくり調べたり、会話したりする暇はなし!迅速な行動が結果を左右するとも言える作りになっている。

また、各ステージでは「ハイツ鏡野」全体を行き来し、住民たちの部屋を訪れることも求められてくる。移動自体は「ハイツ鏡野」の全体像を表した事実上のマップ画面で行きたい部屋を指定し、決定するだけ。ノベルゲームらしい、コマンド選択スタイルだ。同様に住民との会話や情報収集も用意されたコマンドを選択する形式になっている。

コマンドは部屋を訪れた時に画面左下の専用枠に表示され、選んで決定すると種類に応じた会話が返ってくる。少し珍しいのはアイテムの欄。住民たちはそれぞれ、異なるアイテムを所有していて、依頼によってはここから情報を得ることも求められてくる。さらにステージが進むと「詳しく聞く」なるコマンドも登場。文字通り、会話で挙がる話題やアイテムについての突っ込んだ情報を得るもので、これも重要な情報を得るために必要になることがある。このように選択可能なコマンドを選び、時にはより突っ込んで具体的な内容を聞いていくのが情報収集の基本。プラス、時間を踏まえて手早く選ぶことも求められてくる感じだ。

以上の行動を主軸に、プレイヤーは依頼を遂行していく。端的に言ってしまえば、使い走り(パシリ)である。それを制限時間内に達成させるという、独特なスリルと妙な世知辛さが漂うノベルゲームになっている。

ちなみにステージ総数は5つ。全部終えるとエンディングを迎える。
もちろん、全ステージ共通で制限時間が存在。
ゆえにノーミスで進めていければ、10分以内の攻略も可能。
まさに短編らしい、コンパクトなボリュームだ。

怒涛のスピード感……と見せかけて、見所はエンディング後!?

本作の魅力は1分の制限時間内に依頼とストーリーを進めていく、過密スケジュールな構成とスピード感にある……と思いきや、違う。確かにそこも魅力と言えば魅力ではある。だが、それ上に興味深い見所がある。それはエンディングの後だ。

前述にて、5つのステージ全部を終えるとエンディングを迎えると書いた。実際にその通り、5つ目のステージのパシリ……じゃなくて、依頼を達成できれば「めでたし、めでたし」な展開になる。だが、ゲームクリアとはならない。

どういうことかと言えば、事実上の6番目に相当するステージが解禁されるのだ。このエンディング後に現れるステージというのが本作屈指の見所。端的にその内容を紹介すると、「ハイツ鏡野」の全ての住民たちとの交流、部屋ごとへの移動を自由に実施し、楽しめるものになっている。いわゆる「フリーモード」、もしくは「自由探索」とも称せる内容である。ただ、ここに設けられたイベントと特別なミニゲームが結構凝った作りで、より作中の世界観や雰囲気を堪能できるものになっている。

ミニゲームに関しては、クイズにクロスワードパズル、瞬間記憶チャレンジなど、いずれも思考型が中心。ただ、その難易度は結構手ごわく、本編のパシリよりも苦戦しかねないバランスになっている。

特に「クイズ」は、「なぜこんな本格的!?」と、思わず戸惑ってしまうような問題のオンパレード。出題されるものは固定、回答も4つの中から選択する形式のため、何回か再挑戦すれば全問正解を達成できるが、その回数はかなりの数に及ぶこと確実。正直、初見を素のまま全問やり切るのは不可能に近いといってもいいほどなのである。問題の詳細は本編で確かめて欲しいので割愛するが、きっと誇張でないことが分かるはずである。中には1回目で突破を成し遂げる人もいるかもしれないが、恐らくそれができるのは筆者が推測するに”選ばれし者”ぐらいと思われる。何に選ばれし者かは、このミニゲームの題材から察して欲しいとだけ記しておこう。

もうひとつのイベントは、主に住民それぞれの人となり、黄泉の世界に来る生前の姿や出来事について迫ったものになっている。

本編は前述の通り、1分以内に依頼をこなさねばならないため、せっかちで怖いとのイメージが住民たちに対して植え付けられる。容姿に性格も強烈な個性付けが図られているため、だいぶ近寄りがたいものを感じるかもしれない。ある住民に対しては、振るまいからしてアンタッチャブルそのものなので、殊更そんな思いを抱くだろう。

だが、このステージでのイベントを通すことにより、それだけではない人間味のある一面を知れる。中には意外過ぎる生前の設定が明らかになる住民もいて、本編での印象が180度引っくり返るようなことも起きるのである。

特に筆者が印象的だった住民は「モトイ」だ。前述にて言及したアンタッチャブルそのものなキャラクターで、本編においてはそれに違わぬ言動でカンテラに依頼を押し付けてくる。妹がおり、彼女も住民のひとりとして登場するのだが、その接し方も若干、狂気を感じさせられるもの。本編だけであれば、十中八九怖い人(怖い兄)との印象が強固なものになるだろう。

ところが、このイベントを通すとそれが思いもよらぬ方向に変化する。どう変わるかは見てのお楽しみということで伏せるが、多分、住民たちの中で、最もこれからの幸せを強く願いたくなるキャラクターになるだろう。筆者個人としては、そのような印象を強く抱いた。彼に限らず、他にもイベントを通して印象が変わる住民はいるので、人によっては別のキャラクターが挙がるかもしれないが、それほどの逆転が仕込まれていることでもある。ぜひ、本編で各キャラクターたちにせっかち、近寄りがたい、怖いといった印象を持ったのなら、一連のイベントは見ていただきたい。思わぬ逆転をお約束する。

住民たちに関しては、色々な反応や台詞が設定されているのも見所。制限時間の関係で、全部を確かめきるのは難しいのだが、それが逆に再びステージをプレイしたくなるリプレイ性を高めているのが面白い。

しかも、その欲求に応じるかのようにクリア後要素で「鑑賞モード」なるものも用意。制限時間なしに、自由気ままにステージ内の依頼を進めつつ、住民たちの反応を楽しめる。エンディング後のイベントに比べると、その密度はややアッサリしているが、十分に確認しきれない部分もちゃんと作り込むこだわりはさすがの一言。住民たちの個性に惹かれる人を想定し、時間なしの専用モードをクリア後に用意するのもニクい気配りだ。

普通にエンディングまで進めるだけなら、短編らしくあっという間に終わるノベルゲームという印象は強固なものになるだろう。だが、その先のステージや細かい部分を確かめるほど、この独特な世界観の魅力が増していく。まさに噛めば噛むほど味わい深くなるものに、本作はゲームの構成からストーリーまでもが作り込まれているのだ。

なので、これからプレイする場合はぜひ、エンディングを迎えたらそれで終わりとせず、その後に解禁される様々な要素を堪能し尽くして欲しい。きっと、一区切り着けたくない短編ノベルゲームとの印象が支配的になるはずだ。

時に早く、時にゆっくりと味わい、世界に浸る

ここまでのスクリーンショットの通り、グラフィック全般もキャラクター、背景、メニュー周りなど独特のセンスが炸裂したものに完成されている。また、音楽も黄泉の世界という設定を踏まえた楽曲が選ばれているほか、タイトル画面を始め、ボーカル曲が採用されている部分もある。いずれも作風にマッチしたものになっているので要チェックだ。

難易度もステージ3以降、初回プレイでの突破がやや難しくなる調整が施されているが、ゲームオーバー時にヒントが表示されるため、やり直しは最小限で済む。また、ゲームオーバー後もイベントスタートの所から再開されるので、会話イベントを早送りする手間が生じることもなし。台詞の量も短めで、制限時間制に過度な悪影響を及ぼさないよう調整されているのが嬉しいところだ。こう言った細かい気配りも丁寧に成されていて、作り込みの深さを感じさせられる。

ただ、台詞などの履歴であるバックログやスキップ機能の配置箇所が右上で、マウスカーソルを持って行かないと表示されない仕様は一考の余地があったように思える。しかも、それらのボタンがここに置かれていると指すアイコンも非表示。タイムカウントと重なることを配慮しての措置かもしれないが、せめて小さいものでもいいから、何らかのサインは描いて欲しかったように思う。(もしくは、カンテラの顔グラフィックが表示される左下に置くのも良かったように思えた)

また、これは完全に好みの範疇になってしまうが、住民たちの設定には結構、エグいものも含まれている。直接的な描写こそないが、苦手な人にはゾッとする可能性があるので、あらかじめ念頭に入れておくことをお薦めする。

気になる部分と言えばそれぐらいしかなく、全体的には個性的な試みと味わいを秘めた短編ノベルゲームに完成されている。エンディングを迎えるだけならあっという間だが、そこから世界観に浸るとたっぷり楽しめる本作。キャラクターたちの容姿や世界観に少しでも惹かれたのならプレイいただきたい1本だ。

”パシリ”に徹するためにせわしない展開満載だが、それゆえに足を緩めてみると様々な発見がある。ぜひ、細部までこの世界を巡ってみよう。

[基本情報]
タイトル:『少年カンテラとハイツコール』
作者:丹綿樫
クリア時間:5~15分(※本編:ステージ1~5)
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料

※ダウンロード・プレイはこちら
https://novelgame.jp/games/show/4953

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