2014年のヴィンテージ・ゲーム——『ケロブラスター』(水原由紀)

■下スクロールの前に

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『ケロブラスター』のステージデザインは秀逸だ。今回のレビューはその一言に尽きる。

というわけで、早速ステージデザインについて分析を加えていきたい……のだが、ステージの全エリアについてそれを行うと、すさまじい分量になってしまう。そこで、今回は“頭”と“しっぽ”、つまり「ステージの冒頭」「ボス戦」にほぼ限定する形で分析を進めよう。ステージ制のアクションゲームで最も重要なのは未知のエリアに足を踏み入れる冒頭であり、次に重要なのは手に汗握るボス戦である、と筆者が考えているがゆえの判断だ。異論(いやそもそも全部重要なのだが)は色々あるかもしれないが、今日はそういうことにしていただきたい。

それでは、下にスクロールを。

 

■買った服はすぐ着たい――丁寧なステージの“頭”

まず、『ケロブラスター』をプレイしていると、各ステージが総じて「新しく入手した装備」を使用させるよう設計されていることに気づくと思う。

例えばステージ2「緑の多いところ」。ここでは高低差のある足場や弧を描きながら飛んでくる敵が登場するため、縦への攻撃範囲が非常に狭い「ショート」系のショットではプレーしづらい。そこでプレイヤーは、ステージ1のボスから手に入れた縦方向に強い「ファン」を自然と使うようになる。

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「ファン」の強化版「ワイド」。縦の攻撃範囲が少し広がり、より安心して使える

同じように見ていくと、ステージ3では下りの道が多いため「バブル」を多用するし、ステージ4では「ジェットパック」を使わなければそもそも先へ進めない。そしてステージ5では「ファイア」が有効な上り坂(や、氷タイプの敵)が多数登場……といった具合だ。

さらに、本作ではステージ冒頭で新装備がすぐ役立つようになっている。
以下、列挙してみよう。

 

・ステージ2「緑の多いところ」

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上下にちょっと広い「ファン」。射程距離は短いが縦の範囲が広い、典型的なワイドショット

ステージ1でも登場した、地面に埋まっているワニのような敵。この敵にはそのままの状態だと「ショート」系のショットが当たらない。しかし「ファン」や「ワイド」なら埋まっていても見事命中するため、ダメージを与えられる。
最初から「お、この武器いいじゃん」と思わせてくれるようなつくりだ。

 

・ステージ3「○×ホテル」

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跳ねたり下方向に落下したりする「バブル」。地上・水中・水上で軌道が大きく変化する

仕切られた小部屋を右下目指して進む構成。下り坂なので水平方向攻撃主体の「ストレト」「ワイド」は使いづらい場面が多い。
そこで「バブル」の出番。弾が一定時間維持される上、下に落下するので安全に攻撃できる。

 

・ステージ4「ホワイト研究所」

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二段ジャンプを可能にする「ジェットパック」。垂直上昇とナナメ上昇で飛距離が微妙に違うのがミソだ

見ての通り、「ジェットパック」がないと大穴を超えられないし高い段差は上れない。
ここだけは他のステージと異なり、「使わなくてはならない」設計。
(※ちなみに、この大穴に落ちた先にはジェットパックを装備した中ボスがいる上に、大穴から脱出するためにはジェットパックを使った移動が必須となっている。具体的な使い方をここで学習させる仕組みだ)
・ステージ5「ヘキチ高原」

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雪や氷によく効く「ファイア」。一部の敵弾をかき消せるのも見逃せない

坂道を雪玉が転がってくるが、既存の武器の攻撃範囲はどれも緩やかな上り坂に適していないため、迎撃が困難となる。
ここで使うのは先ほど入手した「ファイア」。上り坂に対しては地を這うように進むため、容易に破壊できるのだ。
このように、本作は「新しい装備を使いたい!」というプレイヤーの気持ちに答えてくれる。それも、丁寧・的確・迅速に。冒頭でプレイヤーに新武器の使い勝手の良さや強さを印象づけ、それをステージの終わりの方まで持続させる……という一連の流れを、あらゆる2Dアクションが備えているのは言うまでもない。しかし、『ケロブラスター』においてはそれが徹頭徹尾行われており、しかも超がつくほど丁寧なのだ。

 

■お前の力を見せてみろ――総まとめとしての“しっぽ”

次は「しっぽ」――つまるところボス戦だ。ここでも『ケロブラスター』は外さない。そのステージで学習したことを、きっちりとプレイヤーにやらせてくる。

例えばステージ3では水中移動や「バブル」系ショットの多用がそれに当たるし、ステージ4は「ジェットパック」の使用と「タイヤに踏まれたら即死」というルール、水平方向に長い射程を持つ攻撃の回避……といった具合だ。さながら学生時代の定期試験のごとく「本当にこのステージでやることやったか?」と問いかけてくる。

さて、ここでステージ2「緑の多いところ」を例にとってみよう。
このステージで鍵となるのはジャンプだ。上述した通り、初めて上方向=高い場所で足場から足場へ飛び移ったり、飛行する敵が出現したりする。高低差に対する意識やカエルくんを空中で制御する必要が出てくるため、当然ジャンプに焦点が当たるわけだ。

そこで、このステージのボスを見てみよう。

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道中で見た泥沼から飛び出してくるザコの親玉、イノシシを思わせるこいつは①泥沼から飛び出す②プレイヤーに突っ込んでくる③泥沼に飛び込んで消える、を繰り返す。そしてこのボス戦時は高い位置に足場がない。必然的に交差するような形で飛び越す必要が出てくるわけだ。

ステージ2では、そのことをプレイヤーになんとなく勘づかせるための準備が入念になされている。先述した段差や足場から足場への跳躍に始まり、足を取られる泥沼や飛び越す必要のあるブロックが配置され、さらにこちらへ向かって突っ込んでくるタイプの敵が多数出現する。最終的にプレイヤーは「とりあえずジャンプしとけばいいっしょ」くらいの気持ちになるはずだ(現に筆者はステージ2以降、なんとなくジャンプする回数が増えた)。

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他にも例を挙げればキリがない。初めて泥沼に遭遇する場所が画面遷移直後なのはエレガントとしか言いようがない(右にキーを入れっぱなしなのでまず間違いなくハマる)し、その段階では近くに敵がいないので、安全にプレイヤーは泥沼の性質を学習できる。そして泥沼にハマることを避けたいと思うはずだ。そのあとに続く、泥沼を飛び越えながら向かってくる敵と戦う場面は、そのままボス戦の「飛び越えながら戦う」ことへの関係性が指摘できる。

至れり尽くせりとはまさにこのこと。他のステージでも、何回かプレーすると「なぜここにこれがあるのか?」という疑問に対する回答がどんどん見えてくるほどだ。プレイヤーは着実に課題をクリアして成長し、やがては壁となるボスを乗り越えて先へ進んでゆく……ほぼ全てのステージがそのように作られている。そういった丁寧さは『ケロブラスター』のありとあらゆるところに潜伏し、プレイヤーを快適かつ適切に導くために機能しているのだ。

 

■ステップ・バイ・ステップ

誰でも遊べる、丁寧で、隅々まで配慮の行き届いた、ミニマムに洗練された2Dアクション。
本作『ケロブラスター』はそのような呼び方が相応しいと思う。

しかし、その小さくて精巧なつくりと引き換えなのか「完成度が高い! 仮想パッドなのに快適! 楽しい! でも、もうちょっと遊びたい……」そんな声があちらこちらから聞こえてくる。筆者も追加ステージがあるならためらわずAppStoreやPLAYISMに走るだろう。

しかしその一方で、むしろこのボリュームだからこそ楽しいのかな、とも思ってしまう。画面遷移ごとのオートセーブであるがゆえに短い時間でも遊ぶことができ、各装備の使い方はすぐ思い出せる程度に複雑でなく、超絶技巧は要求されない。良い意味で底がきちんと見える、「終わり」が設定された骨太さは、ゲームに不慣れなプレイヤーをも安心させてくれるに違いない。

そしで、もしも僕が子供だったら、初めて与えられるゲームが『ケロブラスター』だったのなら——そういう想像をしてみるのも悪くはない。その時、このゲームの丁寧な小ささ・きちんとプレイヤーを教育し学習させるその姿勢・つまりある種の優しさは、年齢一桁の入門者たちにとって、挫折することなくゲームの世界に足を踏み入れるための一歩になりうるのではないだろうか。いや、そういう風に考えるのはちょっとズルいだろうか?

ともあれ、僕は『ケロブラスター』がそんな作品であってほしいと思っている。ゲームに慣れ親しんだ(ちょうど僕らのような)ユーザーが楽しむ、表現の懐かしさや一周回っての新鮮さを備えたものであるとともに、次の世代に手渡される、とっておきの小さな贈り物のようにして。

[タイトル]
Kero Blaster

[ソフトウェアタイプ]
シェアウェア
windows 720円
iOS版 500円

[対応OS等]
Windows,iOS

日本語版、英語版

[ダウンロード]
PC版

Playism

iOS版

[制作者」
開発室Pixel

[プレイ時間]
2~3時間

VR体験施設の検索サイト「taiken.tv」
  • 20140328135231

    水原由紀(@mizuharayuki

    読みは「みずはらゆき」。ゲーム業界のはしっこに勤めつつ、色々書いてます。思い入れの強いゲームは初代『.hack//』や『風ノ旅ビト』、『Dear Esther』『ゆめにっき』『Ruina 廃都の物語』などなど。2015年マイベストははむすたさんの『ざくざくアクターズ』。美学と工学の交差するゲームを求め、今日も片道切符。Narrative関係勉強中。