海外製フリーゲーム『Pocket Mirror』の日本語版デモの登場に思う、国境を越えるフリーゲーム

断熱性の低い部屋で指先をかじかませながら記事を書いていると、ステッパーズ・ストップの『雪道』のBGMを思い出す今日このごろ。皆さんいかがお過ごしだろうか。筆者は仕事や記事の締め切りに追われて軽快かつダイナミックな全方位土下座をキメたりしているわけだが、そんなことはさて置いて、つい先日海外のツクール製ホラーADV『Pocket Mirror』(のデモ版)の日本語verが登場した

image00
主人公の女の子がかわいい(重要)

制作者曰く、この『Pocket Mirror』はかの有名なフリーゲーム『Ib』や『魔女の家』に『マッドファーザー』、そして『コープスパーティー』から強い影響を受けているとのこと。海外のツクール製ゲームが日本語訳されるのはかなり珍しい事例だが、それ以上に日本のフリーゲームからインスパイアされた海外の作品という点が目を惹く。そんなわけで俄然興味が沸いた筆者は調査に乗り出した次第である。

今日は『Pocket Mirror』の紹介にとどまらず、「日本から海外に訳されたフリーゲーム」、あるいは「海外発のフリーゲーム」というテーマで記事を展開していくつもりだ。よろしければ、少しばかりお付き合いいただきたい。

海外発のホラーADV『Pocket Mirror』

さて、まずは「そもそも『Pocket Mirror』ってどんな作品なの?」という質問にお答えしなくてはならない。先述の通り、『Pocket Mirror』は海外のチームが制作しているフリーゲームだ。城なのか館なのか、ともあれ見知らぬ場所で目を覚ました少女。彼女を待ち構えるのは多くのパズル要素と、随所に散りばめられた意味深でミステリアスなテキストだ。システム的に特殊なものを搭載しているということもなく、デモ版をプレイした限りでは純粋に『Ib』『魔女の家』の系譜に連なるホラー系ADV、といった印象を受ける

image04
謎解き要素(=パズル要素)はきちんと搭載されている

時系列的な話をすると、2014年の1月にRPGMaker.netで作品ページが公開され、その後2月に英語版のデモが公開された(既に10,000回以上DLされている)。余談だが、Tumblrを遡ると、2013年2月時点でプロジェクトが進行中であることが分かる。開発は長期に及んでいるが、現時点での進捗率は約50%程だという。2015年の冬には正式に完全版をリリースしたいとのことなので、首を長くして待つといいかもしれない。

image05
気合いの入りようがうかがえるタイトル画面

そして、2015年の1月18日に日本語版のデモがふりーむ!にて公開されることとなる。現在はデモ版ということもあり、プレイした際の快適性や謎解き、翻訳等はまだまだ磨く余地があるように思う(と、いうのが正直な感想だ)。完成版がいつ、どのような形で公開され、どれほど先に行くのか・洗練されるのかはお楽しみ、と言ったところ。

ちなみに開発の様子を覗ける公式Twitterはこちら。進捗率の報告ほか、Ustreamの告知やイラストの一部公開、アナウンス等を行っている。気が向いたらフォローしてみると面白いかもしれない。

海外からやってきた、日本発フリーゲームの子孫

さて、ここまでさっくりと『Pocket Mirror』の概要を説明してきたが、先述の通りこの作品は日本のフリーゲームから多大な影響を受けていることが見て取れる。作者自身がTumblrの記事等で書いている通り、『Ib』『魔女の家』『マッドファーザー』、そして商業化の後に英語でもリリースされた『コープスパーティー』etcの名残とでも言うべきか、その雰囲気はある程度引き継がれているように感じた。言われてみればマップのある探索型・謎解き要素を含むホラー系のADVであることは共通事項として挙げられるし、前3つは主人公が少女であることも同じ。シチュエーションや登場するガジェット、その他諸々の要素も含めて、先述のタイトルにインスパイアされていると思しき部分が散見される。制作者が「Much like Ib and The Witch’s House it will feature many puzzles and a mysterious storyline!(『Ib』や『魔女の家』によく似た、多くのパズルとミステリアスなストーリーが特徴です!)」とタイトルを挙げるのも分かるというものである。

image03
鏡を使ったギミックはもはや様式美

こうした要素や共通点、作者自身のコメントからして『日本のフリーゲームから大きな影響を受けた作品』であることは確実だろう。ともあれ百聞は一プレイに如かず、この辺りは一度プレイしていただければ伝わるものがあるはずだ。

本作は現状の日本のプレイヤーからすると謎が多い海外ツクール界隈の作品ながら、日本のフリーゲームの歴史の一部分をしっかりと受け継いでいることは間違いない。

日本⇔海外、翻訳で広がるフリーゲーム

しかし、彼ら/彼女らは日本語で『Ib』や『魔女の家』をプレイしているわけではない。大抵の場合は英訳だ。そこで検索をかけてみると出るわ出るわ、上述した『Ib』『魔女の家』は言うに及ばず。以前取り上げた『LiEat』や『Alice Mare』をはじめ、『灰色庭園』や『停滞少女』に『霧雨が降る森』、果てはかの『パレット』や『Hero and Daughter』まで英語になっている。こうして見てみると、有志による翻訳で海外進出を果たすフリーゲームは少なくない

image02
英訳版『停滞少女』。敵の名前に隠されたメッセージやダークな物語とかっちりとした戦闘システムが特徴的

もちろん、逆に海外から国内にやってきた作品もある。もぐらゲームスでも取り上げた『PRICE』や『第七号車』もそうだが、それ以上にMortis Ghost氏による『OFF』を挙げたほうが分かりやすいだろう。初出は2007年。その後2011年にフランス語から英語へ、そして2014年には英語から日本語へ翻訳されて人気を博し、そのままフリゲ2014で1位をもぎ取っていった怪作だ。

image01
怪作『OFF』。こういう台詞回しと独特のアートが特徴。なんでも『Killer7』にインスパイアされたとか

このような日本語訳によって発生した最大の変化は、シンプルにストーリーやテキストに比重を置いたゲームがより多くのプレイヤーに遊ばれる機会を得たことだろう。英訳された日本のフリーゲームでも同じことが言える。さらには日本ではなく、海外でこそ高く評価されるケースが出現しつつあることも変化のひとつだ。プレイヤー数の大小やビジュアル面での受容されやすい/されにくいの違いを考慮し、発表するステージを変える・増やす選択肢が生まれたことは歓迎されるべきなのかもしれない。

しかし、こうした有志翻訳で気がかりな点がひとつある。それは、必ずしも権利者の許諾を取った上で翻訳しているものだけではない、ということだ。もちろん、このような有志翻訳に対する制作者側の考え方はそれぞれ異なるし、有志側のスタンスも千差万別。そこに国や文化圏による違いも加わって、一筋縄ではいかないところではある。これに関しては、各国の制作者や有志の翻訳者が快く翻訳される/翻訳する日が来ることを望むばかりだ。

おわりに

さて、ここまでで今回の記事はおしまい。『Pocket Mirror』や『OFF』に限らず、もぐらゲームスでは、今後も海外のフリーゲームや英訳・日訳されたフリーゲームについての情報を追っていくつもりだ。慣れない英語に悪戦苦闘している風景が垣間見えるかもしれないが、それはそれということで……温かく見守っていただければ幸いだ。

翻訳によって広がるフリーゲームと、翻訳された日本発のフリーゲームに影響を受けた海外のフリーゲーム。今後は海外と日本の作家の間でのコラボレーション(『Chime』はそう言えるかも?)が実現したり、あるいは海外の制作者を国内に招いて……とまでいくと夢の見すぎだろうか? 様々な問題や障壁はあるものの、国境を越えるフリーゲーム、というのは夢の広がる話だ。今後の動向も目が離せない。

[基本情報]
タイトル
 Pocket Mirror
制作者 Pocket Mirror Team
クリア時間 15分未満
動作環境 Windows XP,VISTA,7,8
ダウンロード
英語デモ版:http://rpgmaker.net/games/5946/
日本語デモ版:http://www.freem.ne.jp/win/game/8373
備考 現在公開されているのはデモ版のみ。完成が待たれます。


  • 20140328135231

    水原由紀(@mizuharayuki

    読みは「みずはらゆき」。ゲーム業界のはしっこに勤めつつ、色々書いてます。思い入れの強いゲームは初代『.hack//』や『風ノ旅ビト』、『Dear Esther』『ゆめにっき』『Ruina 廃都の物語』などなど。2015年マイベストははむすたさんの『ざくざくアクターズ』。美学と工学の交差するゲームを求め、今日も片道切符。Narrative関係勉強中。