その者たちには存在意義がある―驚愕の作り込みと遊びやすさが度肝を抜くサスペンス探索ADV『Raisond’etre(レイゾンデイト)』

アドベンチャー,フリーゲーム

このタイトル画面からは想像が付かないかもしれないが……本作『Raisond’etre(レイゾンデイト)』は『RPGツクールMV』を用いて制作されたWindows PC、ブラウザ向けフリーゲームである。

ただし、今後プレイ予定の方を対象に先んじて注意事項をお伝えしておきたい。
本作は一般的なツクール製タイトルに比べ、要求されるPCスペックが高い。
スペックが足りないとゲームが正常に動作せず、遊ぶのもままならなくなる。

本作を制作した「C3Games」の案内によれば、推奨されるのは「ゲームアツマール」にあるベンチマークソフト『MVベンチ』にて700点以上のスコアを出したPC。特にダウンロード版は700点以下の場合、大変厳しいことになる。

もし、700点以上に達せずともある程度の性能のCPU、十分な容量のメモリが搭載されているPCなら、「ゲームアツマール」にて公開中のブラウザ版は難なくプレイ可能だ。かくいう筆者もそちらで本作を一通りプレイしている(※『MVベンチ』のスコアは550点)。仮に芳しくないスコアが出ても、ブラウザ版なら可能性は残されるので、参考にしていただければと思う。だが、ブラウザ版はセーブに膨大な容量(※50ブロック以上)を消費することになるので、そこだけは気を付けていただきたい。

注意事項はこの辺にし、本題たる本作の特徴、見所などの紹介に入っていこう。

右往左往の心配なし。良心的な配慮満載の探索アドベンチャー

改めて本作『Raisond’etre(レイゾンデイト)』は、2Dの見下ろし視点(俯瞰視点)で展開される探索型サスペンスアドベンチャーゲームである。プレイヤーは何故か山奥の教会にて目を覚ました少女「ロゼ」となり、5人の孤児たちと神父の「ルイス」、そしてロゼをよく知る女医師「ノワール」と共に1日を過ごしていく。

具体的には画面中央上部に出される指示に従い、その目的を遂行しながらストーリーを進めていく形となる。指示はストーリーに関連するイベントの終了後に必ず出され、常に次に何をすればいいのか分かる。なので、行き先が分からず右往左往することも起きにくく、スムーズに進めていける設計になっている。

しかも、現在の目的はメニュー画面左端の「What to do…」にていつでも確認可能。指示を達成した時にも「CLEAR」の表記が出るほか、メニュー画面ではこれまで達成した指示の履歴も確かめられる。さらにメニュー画面にある「Story」を選べば、現在展開中のストーリーの内容も表示。おまけにセーブファイルにも、記録時点でのストーリーのあらすじが記される。

このような細かい工夫も凝らされており、今、どんな状況か分からなくなることもない。仮に前回のプレイから時間が空いても大丈夫と、まさに良心的という表現すら生ぬるいほど配慮が行き届いた作りになっている。誇張抜きに近頃の家庭用ゲーム機向けのタイトルに匹敵、あるいはそれ以上と言ってもいいぐらいだ。

さらに本作は探索型アドベンチャーゲームということで、マップ内を移動しつつ、怪しい場所を調べてしていくのが基本となる。このいわゆる”しらみ潰し”は人によって賛否あるものだが、本作にはこの点にも配慮したシステムを搭載。その名も「集中」。

キーボードのCキーを押すと、ロゼの近くにある家具、置物などの詳細な情報が文字で表示されるようになるのだ。しかも、ストーリーの進行に関係するものは赤文字で表示。「これを調べて!」と、暗に訴えかけるかのように教えてくれるのである。なので、何かを調べる必要が生じた時は大抵、この「集中」を使えば即座に解決する。

時折、調べる対象が広い範囲に及んだりもするが、その場合にも「集中ポイント」なる画面の四隅が光るポイントを探し、そこで「集中」を使えば目的のものを早々と発見できる。光る時にも「フォーカス」という英語のボイスも流れるので、嫌でも「そこか!」と察してしまうこと請け合いだ。

ちなみにこの「フォーカス」のボイス、PlayStation 4、Xbox One、PC向けに発売中のアクションRPG『NieR:Automata(ニーア オートマタ)』の海外版にて主人公2Bを演じている声優さんが担当されていたりする。

他に教会内のマップもMキーを押せば全体像がいつでも確認可能。これに「集中」も併用すれば、移動中にもその先が何の部屋であるかの文字情報が表示されるので、より無駄な行動を減らすこともできる。

一連の特徴からも大よそ分かる通りだが、とにかく本作は遊びやすい。「何でこんなに親切なの……」と不安に思ってしまうぐらいにスムーズに探索をこなせて、ストーリーも追えてしまう優しすぎる探索型アドベンチャーゲームになっているのである。それなりに年季の入ったゲーム好きなら「今、探索型アドベンチャーゲームは優しさの時代へ」とのフレーズが脳裏に響き渡るほど。

だが、うまい話にはウラがあるとはよく言ったもので、本作は決して優しくない作品である。それが最大の魅力になっている。確かにゲームとしては優しいのは間違いない。だが、ストーリーは正反対も正反対。

凄惨の極みな作風なのである。

遊びやすさに裏あり。様々な”存在意義”を問いた戦慄のストーリー

前述の繰り返しになるが、本作のストーリーは少女「ロゼ」が山奥の教会の個室にて目覚めるところから幕を開ける。教会には5人の孤児たち、神父の「ルイス」、そして女医師の「ノワール」がおり、ロゼは周りの流れに身を任せるがまま教会内での新しい生活を送っていくことになる。

始まりこそ穏やかだが、ある日、教会内で凄惨な殺人事件が起きてからは空気が一変。孤児たちの意味深な言動、神父ルイスの怪しい動き、ロゼにやたら協力的なノワールの振る舞いなど、不穏な事柄が露わになっていく。さらに教会内の探索を進める過程で”おぞましきもの”が発見されたり、フードを被った謎の男が滞在していることも明らかに。

そして、またも殺人事件が起きて教会内の人間が減ると同時に、今度は孤児のひとりがロゼに急接近するようになったりと、混迷の一途を辿り始める。

彼らの行動は何を意味するのか、そもそもなぜ教会で生活しているのか、どうしてロゼはここで目を覚ましたのか。数々の謎が深まっていくにつれストーリーは突然の急展開を見せ、驚愕の真相が暴かれるのである。

例によって、詳細は見てのお楽しみだが、ゲーム側の優しさとはあまりにも対照的な設定の数々、想像を絶する真相に度肝を抜かれるだろう。特に殺人事件の真相は、吐き気を催す寸前の衝撃を受けるかもしれない。それほどおぞましい。優しさの”や”の字が1割程度しかない恐るべきものになっている。皆無じゃなく1割とは、と違和感を抱いたかもしれないが、実際、多少ながら残っている。だが、予想の斜め上を行くものなのはあらかじめ申しておこう。

またゲーム本編の優しい作りにも極めて大きく、闇深き”罠”がある。ストレスなく、スムーズに探索とストーリーを進めていける作りと細かな配慮と工夫の数々には、プレイヤーへのおもてなしに対する確固たるこだわりを感じさせられるだろう。

だが、なぜこんなにも親切なのか?そもそも、探索型のアドベンチャーゲームはマップを行き来しながら、次の道を自力で見つけていくことに遊びの醍醐味がある。そこを手厚くサポートし、右往左往することもなく進めていける本作の作りは、ゲームとしての醍醐味を否定するものになっていないか?ジャンル的にも矛盾していないか?改めて考えてみると、妙な所が浮かび上がるのである。

それこそが”罠”。実はストーリー上、大きな意味を込めた優しさになっているのだ。同時にこの優しさを味わった”代償”をプレイヤーは後々、受け取ることにもなる。これも具体的には言及しないが、まさしく”罠”としか言い様がない目に遭うことになる。同時にロゼの存在価値……タイトルに冠された「Raisond’etre」を思い知らされることになるのだ。

ロゼ以外にも、件の”罠”には存在価値を思い知らされる様々な要素があり、そのテーマ性の深さとゲーム部分にもきちんと反映された作りに唸らされるだろう。そして、この作品名がいかに適しているかも。特にゲーム部分への反映は素晴らしく、筆者個人としては「そのための優しさか!」と衝動的に手の平を叩いてしまったほどだ。同時にこれは紛れもなく”罠”だと心底思った次第である。

一通り遊べばきっと、一連の優しい作りに対する印象が一変する。殺人事件を始め、一連の描写と演出は割と残酷なところに注意いただきたいが(※そもそも本作、15歳以上対象タイトルである)、少しでも興味を抱いたのなら、多少の覚悟を持つこと前提の上で一連の出来事を追体験してみて欲しいところだ。色んな意味で記憶に焼き付いてしまうだろう。

ストーリーに焦点を当てたが、探索型アドベンチャーゲームとしての出来も優れている。中でもイベントバリエーションの多彩さは特筆に値する。
さらに本作、前述の「集中」以外にも探索に関係する独自システムが数点実装されている。だが、詳しく紹介することはできない。重大なネタバレに抵触するためである。なぜに重大なネタバレなのかは、解禁タイミングで概ね理解できると思う。同時に「そんな要素まであるの?」と驚かされること請け合いだ。

また、難易度も優しいと見せかけて割と手応え十分。これも案の定、ネタバレになるので詳しく言えないが、曲がりなりにも探索型アドベンチャーゲームを名乗るだけにあるという、”意地”を思い知らされるかもしれない。

要求スペックの高さが惜しくも、それにも納得の傑作にして力作

本編のボリュームもエンディングまで、およそ2~2時間半となかなかの規模。また、「記憶ノ欠片」と呼ばれる隠しアイテムを見つけ出す収集要素も備わっていて、そちらも兼ねるとそこそこの長さになる。

ただし、あくまでも”エンディングまで”の規模である。これが何を意味するのかは、本編を最後まで進めれば分かるとだけ記しておこう。ここにもストーリーや探索周りと同様、本作が強烈な印象を残す作品である”何か”がある。ひとまず一通り終えた後にも、前述の内容を読み返していただきたい。

「私……”エンディングまで”としか申しませんでしたよね……?

ここまでのスクリーンショットの通りだが、グラフィックも頭ひとつ抜けた完成度。特にマップ上のキャラクターのドット絵はとてもよく動くので、その一挙一動に注目いただきたい。音楽も全編オリジナルに加えて、「集中」時には曲調も変化する仕掛けも凝らされている。演出全般も手が込んでおり、とりわけタイトル画面は必見。しかも、ここにもちょっとした”罠”があったりする。
例によって詳細は伏せるが、きっと「そこまでやる!?」と驚くだろう。

本当にこれが『RPGツクールMV』製なのかと戸惑ってしまうほど、システムの作りからグラフィック、演出まで凝りに凝った作りの本作。探索アドベンチャーゲームとしても並外れた優しさがありつつ、それを逆手取った構成およびストーリー展開も踏まえた難易度設定が強烈な印象を残す。気になる箇所・難点も、強いて言うなら要求スペックの高さ、ストーリーの慈悲も救いもない作風な程度である。

それほどまでに傑作、力作と自信を持って言える。探索型アドベンチャーゲーム、ホラーゲーム好きはもちろん、それ以外のプレイヤーも少しでもいいので、ぜひ触れてみていただきたい1本である。

最後に余談だが、本作は海外版のローカライズ費用調達を目的としたクラウドファンディングが「CAMPFIRE」にて実施中。期間は2022年2月26日午後11時59分まで。

今後、発売予定のSteam版のキーコード、サウンドトラックといったリターンが得られる複数のプランが用意されている。
本作の海外進出を応援したい方はぜひ、チェックいただきたい。

[基本情報]
タイトル:『Raisond’etre(レイゾンデイト)』
作者:C3Games
クリア時間:2時間~2時間半……?
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料
備考:15歳以上対象(出血・暴力表現あり)

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/27356

※プレイはこちら(ゲームアツマール)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm21850

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