iPhoneアプリ『RPG クリエイター』で自作ゲームの新時代が到来するか?

スマホゲーム

これまでゲームを作るといえば、机の前でPCに向かいながら…というのが通常のスタイルだった。だが、これからはゲーム制作に、新たに『電車の中』、はては『トイレの中』といったいわゆる「スキマ時間」が加わることとなりそうだ。PCを持っていなくても、ゲームを作ることができる。

2014年6月にリリースされたばかりの『RPGクリエイター』は、iPhoneでゲームを自作することができる、『RPGツクール』ライクなアプリだ(※)

(※本作は『RPGツクール』開発元である株式会社KADOKAWA(エンターブレイン)が開発したアプリではないので、念のため明記しておきます。)

これまでPC向けの自作ゲームソフトは、『RPGツクール』や『WOLF RPG エディター』などが存在していた。だが、これまではiPhoneでここまでの操作を実現しているソフトはなかったため、今回紹介をしてみたい。

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『RPGツクール』と同様のシステム、ツクラーにも触りやすい

まずは『RPGクリエイター』の内容を紹介しよう。

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アプリを起動すると、このような画面が表示されるので、今回は試しにテストプロジェクトを立ちあげてみる。

何もない海に陸地を描いていくというマップ制作作業が始まるわけだが、この仕様自体は従来『RPGツクール』などでゲームを制作してきた方にとっても理解しやすい仕様となっている。

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なお、マップの素材に関しては下のパレットから選ぶことができる。画像では機能限定版なので若干少なめに見えるが、有料の機能解除版にすることで、多くの素材を使用する事が可能となる。

イベント編集画面もスマホの小さい画面によくまとめたな、というのが驚きのポイント。ちなみに、紹介している画像にところどころ黄色い矢印があると思うが、この矢印のある画面ではフリック操作によって次のページに切り替わるため、見落とさないようにしてほしい。ほぼRPGツクールの操作性を失わない形で、イベントの編集が可能。コピー&ペーストがもう少し簡単にできると良いのだが、それはどちらかと言えばスマホの仕様、すなわち iPhone に言うべき話で、若干望み過ぎというところかもしれない。

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キャラクターの顔グラフィック、歩行グラフィックなども編集可能となっており、このあたりも非常に嬉しい仕様。さすがに自作のイラストを使用することは現時点ではできないようだが、この辺のバージョンアップもいずれはあるのでは・・・?
追記:顔グラと歩行グラでの自作素材使用も、現行バージョンではアドオン購入で可能となるとのこと。すばらしい!

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モンスターのグラフィックだけではなく、能力値などのゲームバランスを調整していくこともできる。ここでは紹介を省略するが、この他にもバトルシーンでの風景やシステムBGMなどの設定も可能だ。

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また、ゲーム制作で最も重要とも言えるのがデバッグ、そしてテストプレイ。本作では、この辺りもぬかりなく実装されており、ゲームを制作したらすぐにテストプレイ…というゲーム制作の一連の流れが手のひらのみで実現できている。

本作のテストプレイモードは、下の画像のような形でパッドを作っており、iPhoneでテストプレイを行う限りはそれほど支障にはならなかった。さすがに「タップした所に移動する」などの仕様にするわけには行かなかったのかもしれないが、この形式でも十分プレイができ、むしろかなり良く出来ているといえるだろう。

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右に亜空間みたいなものがあるのは筆者の消し忘れによるものなので、無視して頂きたい。このような亜空間ができてしまうところまで含めてゲームのマップ制作の醍醐味ではないだろうか?(白目)

このように、機能としてはPCに勝るとも劣らないという程度までしっかりと実装されているのが『RPGクリエイター』。小さな画面によくぞこれだけの機能を収めた、というのが第一の感想である。

操作性という意味ではさすがにPCツールに軍配があがるが、本作の最大の特徴は「スマホでゲームを作れる」ということ。スマホ自作ゲームエディタ市場は「空白地帯」となっていたため、一定のニーズはあるアプリとなるのではないかと思われ、期待が持てる。

ケータイ、スマホでの創作行動の系譜

ところで、ゲーム制作もひとつの創作行動あるいは表現方法であり、その点では他の創作行為とゲーム制作の系譜を重ねてみるのも面白い。

例えば、小説との比較。すでにガラケー時代から自作小説のような創作行動は盛んに行われていた。『魔法のiらんど』『野いちご』などのケータイ小説が投稿できるサイトは2000年頃にはすでにあったし、ケータイ小説の金字塔ともいえる『あたし彼女』は2008年に完結し、2009年には書籍化されている。

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下記のサイトでは、当時を振り返った濃密な書評が展開されており、『あたし彼女』を巡るケータイ小説の系譜を詳しく知りたい方は一読をおすすめしたい。

ケータイ小説が”世界最新の文学”に見えた頃――『あたし彼女』書評
http://news.netpoyo.jp/2013/09/1776

一方自作ゲームでは、これまでPCに向かってゲームを作るという市場しかなかった。正確に言うと、かつて、ニンテンドーDSなどの携帯ゲーム機で『RPGツクール』シリーズが発売されたこともあったが、その仕様や諸々の問題もあり、それほど一般に広く使われるようにはならなかった。

もちろん、文字だけ打てる媒体があればなんとかなってしまう、小説のような創作物と、音やグラフィック、文字表現のほかゲームのスイッチ、フラグなどを管理しなければならないゲームを一緒に語るつもりは毛頭ない。だが、自作小説の世界は『小説家になろう』などのサイトなどでも見られるように、かなりの部分で携帯、スマホ用のカスタマイズが行われてきていると感じる。

こうした「簡便性の向上」が自作小説文化を育ててきた一つの側面であることを考えると、今後はゲーム制作の文化にも、ケータイ小説のような簡便性が持ち込まれてもいいのかな、と思う(繰り返しになるが、もちろん、全部のゲームがケータイ小説みたいになればいいということではなくて、多様性の問題だ)。

『RPGクリエイター』に話を戻す。公開されたばかりの本作だが、制作者のsatoapp氏にメールで確認をしたところ、今後、制作されたゲームのパッケージを配布可能になる機能を追加するとのこと。その内容について、以下のようにコメントを頂いた。

今後のアップデートで製作したゲームを共有可能にする機能を搭載予定です。
ユーザーの皆さんにどのような形で提案していけるかという点で詳細を検討中ですが、
製作者がRPGファイルを書き出し、他のユーザーがそれを読み込んでプレイできるという機能になります。

本機能が実装されれば、制作したゲームはより多くの人に遊ばれるようになり、より自作ゲーム界にも広がりができる。かつてのケータイ小説のように、現在は様々な自作ゲームに関する賞ができているから、そういった試みも始まるかもしれない。本作を使用した名作ゲームがつくられることを大いに期待したい。

公開されたばかりのアプリのレビューに対し、やや過剰な期待を持ったレビューになってしまったかもしれない。ただこれは、個別のゲームに対する期待というよりは、スマホ自作ゲームという市場が徐々に開拓され始めたことに対する期待と考えて頂きたい。個人的には、「ケータイ小説ぐらいカジュアルに、電車やトイレや人待ちの時間にちょこちょこゲームを作れたらいいのに」という非常にささやかなニーズに対応した製品がようやく出てきた、ということで、今後、これまでになかったゲームが登場するのではないかと、ワクワクしているところである。もし面白いゲームができたら、ぜひ教えて欲しい。

本作はRPG形式に特化した形式になっているが、シューティングやノベルゲームなど、今後他のゲーム形式にも対応したような「ゲーム制作ゲーム」が生まれるかもしれない。PC向けのエディタには『RPGツクール』以外にも、『WOLF RPGエディター』『LiveMaker』『吉里吉里』など多様なジャンルに対応した幅広いエディタがあるように、スマホ向けのエディタにも今後様々な種類が生まれていくのかもしれない。本作のアップデートも楽しみだ。

[基本情報]
タイトル RPGクリエイター
制作者 satoapp(@satoapp)氏
プレイ時間 心ゆくまで
対応OS iOS版

価格 フリーウェア(機能限定版。機能解除は通常900円だが、6/30までセール中で400円)

  • Noah(@powerofgamesorg

    通称のあP。「もぐらゲームス」エグゼクティブプロデューサー&共同編集長。ゲームをする人。「ゲームのちからで世界を変えよう会議」の中の人。経営戦略(ゲーム産業)と金融が一応専門分野。 MMORPG「リネージュ」の元プレイヤー(8年ぐらい、10,000時間ほどプレイ)。長らく一つのゲームをやりこむ派でしたが、最近は雑食気味にいろんなゲームをプレイしています。思い出に残っているゲームはリネージュ、ティアリングサーガ、勇者のくせになまいきだ。or2など