押し寄せる荒唐無稽の嵐!試行錯誤の楽しさ!攻めに攻める痛快”忍者”アクション『Shinobi non Grata』

アクション,インディーゲーム

天保九年―
世情の混乱に乗じて、
如月玄蕃率いる「朧一党」は魔界のものと手を結び、
幕府の転覆を画策していた。

その陰謀に立ち向かう影ひとつ。
いつの時代も闇の力との戦いを繰り広げてきた一族、
封魔忍の末裔、腕(カイナ)。

今、幕府最大の嵐が吹き荒れようとしていた。

そんなオープニングと共に幕を開ける『Shinobi non Grata』は、2023年5月25日より、Steamで販売を開始した横スクロール忍者アクションゲームである。元は作者であるPICOPICO256氏が架空のゲームの動画として公開していたものだったが、視聴者から好意的な反応が寄せられたのを契機に製品化へと至ったという経緯がある。(参考リンク

販売はフライハイワークス、開発協力として近年では「WOLF RPGエディター(ウディタ)」の家庭用ゲーム機移植を実現させたことで知られるエスカドラが参加。音楽はチップチューン作曲家で、『すすめ!! まもって騎士 姫の突撃セレナーデ』、『魔神少女 エピソード2 -願いへの代価-』(紹介記事)などのゲームにも携わったハイデン氏が担当している。

懐かしの要素と忍者のいい所どり満載のステージクリア型アクション

基本的な内容としては、ステージクリア型のアクションゲームとなる。プレイヤーは主人公の封魔忍「カイナ」を操作し、襲い来る敵を手持ちの武器で撃退しながら「章(チャプター)」と題されたステージを進んでいく。最終的に終盤で待ち受ける大ボスを倒せればクリアとなり、次のステージ(章)へと移行。再び大ボスを目指して進む、ということの繰り返しだ。

アクションゲームとしては、1980年代後半から1990年代前半に見られた1本道構成、いわゆるアーケードスタイルのゲームデザインとなっている。ステージ総数も5つ(5章)と、当時のそのタイプのアクションゲームらしいボリュームに収まっている。

システム面も忍者を題材にした、かつての名作アクションゲームを強くオマージュしている。象徴的なものでは、主人公カイナの攻撃アクション。主要武器で近接主体の「刀(カタナ)」と、6種類の「サブウェポン」を併用して戦うスタイルになっている。

サブウェポンはゲーム開始の時点で6種類すべてが使用可能。画面上部中央にそれぞれを指すアイコンが横に並んでおり、(Xboxコントローラ操作時)LB、RBボタンを押すとカーソルが動き、指定されたサブウェポンへと切り替わるようになっている。

選べるサブウェポンは「手裏剣」に「鎖鎌」などの(忍者的な)定番に加えて、「エレキテル」なるホーミングレーザーといったぶっ飛んだものと、全体的に個性強め。これらを「カタナ」と並行して使い、敵やボスを倒していくというのが基本的な戦闘スタイルになっている。

このシステムには往年のプレイヤーほどデジャヴを感じたかもしれない。ひとまず、名前は出さずに「最終的には忍びの道へと通ずるのである」とだけ記しておく。ちなみに道中ではアイテムが手に入ることもあり、一部にはカイナが一時的に分身するものも用意されている。繰り返しになるが、「最終的には忍びの道へと通ずる」のである。

なお、サブウェポン使用時には「魂」を消費。「魂」は画面左上、カイナの体力ゲージの下に表示され、これが空になればサブウェポンは使用不能になる。回復は単純に敵をカタナで倒した時に現れる「魂」を回収するだけ。道中に置かれた箱を破壊した時にも「魂」は得られる。逆にサブウェポンで敵を倒した時には「魂」が現れない。よって、戦闘ではカタナも使うことが都度、必要になってくる。

また、カタナとサブウェポンはコントロールスティック(もしくは方向キー)を倒すと、その方向に目がけて繰り出されるというエイムの仕様も組まれている。道中では多数の敵がカイナに迫ってくるようになってきて、時々、空を飛ぶタイプも現れる。そのため、時折方向を定めた攻撃も必要となってくるのだ。中には普通にジャンプしても届かない高い場所に現れたり、シューティングゲームのような弾幕を展開してくるタイプの敵もいる。

それに対しても「二段ジャンプ」、使用中に一瞬だけ無敵となる「前転」での対処が求められてくる。そのような移動絡みにも様々なアクションがあり、まさに忍者ならではともいえる縦横無尽で疾風迅雷な立ち回りが楽しめるのだ。
そして、これらにも往年のプレイヤーならデジャヴを感じるかもしれないが、ひとまずは「凄い忍は龍のごとし」と言っておくまでか。

そんな具合に全体としては忍者アクションゲームのいい所どり、またの言い方でトリビュートアルバムにして、動かす気持ちよさと華麗に戦う美しさに振り切った設計になっている。

ただ、全ステージが道中2割、(中、大含め)ボス戦8割の極端な構成で統一されているのは本作のちょっとした特徴。ボス戦に比重を置く構成自体はそれほど真新しいものではないが、おかげでどのステージも激闘続きという刺激の強い内容にまとめられている。

このゲームにはあの頃の荒唐無稽の嵐と試行錯誤の楽しさがある

単刀直入に申して、本作は特に前述の時代に生まれたアクションゲームに慣れ親しんだ世代、そして今もなおその当時のアクションゲームを愛し続ける人であれば文句なしに買いである。
忍者のアクションゲームが好きな人なら、今すぐ買って忍びの道へと進め。

先ほどトリビュートアルバムと表したが、実際に本作は元になったと思しき忍者アクションゲームの名作たちに限らず、1990年代にアクションゲーム好きを唸らせたであろう他の名作の要素がこれでもかと言わんばかりに詰め込まれている。そして、それらが一同に集まったことによって、本作特有の遊び心地が実現されている。

それはズバリ、むせ返るぐらいに襲い来る荒唐無稽の嵐!

忍者という題材を若干、外したかのような「サブウェポン」のラインナップに始まり、行く手に立ちはだかる敵に中ボス、果ては各ステージの舞台と、あの当時のアクションゲームを思わせるハチャメチャで、「えっ!?」と声が出てしまうような展開がこれでもかと言わんばかりに押し寄せてくる。

特にその面白さを象徴しているのが、本作最大の見所でもある中ボスたちだ。数の多さもさることながら、どの個体もユニークで奇想天外な攻撃パターンと動きでプレイヤーを翻弄してくる。また、どの個体にも往年のプレイヤーにデジャヴを感じさせる小ネタが仕込まれており、その種の世代を都度、ニヤリとさせる。使いまわしもほとんどないに加えて、一部には「天保九年とは!?」とツッコみたくなるメンツもおり、強烈な印象を残す。

丁度、直撃世代だった筆者からすると、その当時のアクションゲーム……主に本作のような1本道構成のゲームデザインを基本とする作品では、「出会いの面白さ」というものが際立っていた実感がある。

思いもしない容姿……例えば画面を覆い尽くすほど大きかったり、世界観を無視していたり、制作者のセンスがギラギラに光った(時に精神状態が危ぶまれるかのような)ボスと出会える面白さだ。そうしたハチャメチャなボスたちが本作には沢山登場する。それらの攻撃に翻弄されつつ、いかにして倒すかと試行錯誤する楽しさが詰まっているのだ。

よって、1990年代のアクションゲームで、そのような場面に惚れ込んだ経験があり、今もそれを求めているとなれば、ただちに本作を買って遊ぼう!ボス戦に限らず、ステージ構成や戦術面もだが、徹底して荒唐無稽を貫き通し、それらに襲われては悩まされる楽しさが凝縮されている。ものすごくいい意味でハメを外した展開が楽しめるので、少しでも気になったらこの忍びの道へと進もう。

荒唐無稽な点をピックアップしたが、試行錯誤の楽しさを突き詰めた難易度調整も唸る仕上がりだ。特に6種類ある「サブウェポン」を使い分け、敵や中ボスに対処していく過程は最高に楽しくて気持ちいい。

雑魚敵にせよボスにせよ、すべてに効果的なサブウェポンという名の”答え”が設定されているのも試行錯誤の楽しさを際立たせている。硬くて倒しにくい強敵は「大筒」を使えば攻撃を仕掛けてくる前に倒せてしまうほか、ボスも特定の武器を使ったら、あまり攻撃してこなくなってしまうなど、分かりやすいぐらい真っ向勝負を挑んだ時との差が現れる。そうした突破口が設けられているのもあり、一見、倒せそうに見えないボスも「何か手があるのでは?」と考えながら常時、挑んでいける。

また、効果的なサブウェポンを使えば一方的に勝てる訳でもなく、ある程度はカタナによる攻撃が必要とされる塩梅も絶妙。終盤のボスにはそうした個体も多く、終始、ゴリ押しでどうにでもなってしまわぬよう調整されているのが見事だ。

そして、こうした明確な攻略法が設けられているからこそ、2周目以降のプレイでは露骨なぐらいプレイヤーの上達が結果に現れる。
最初は5~6回のリトライを繰り返していたボスを1回で撃破し、そのままステージ全体を通し切れた時の達成感たるや、いかに格別なものなのかは語るまでもない。スコアという結果に現れるのもまた、上達したという実感を大いに高めてくれる。

それでも終盤のボスに関しては、初見殺しな要素の多い個体、パターンが安定しにくい個体もいたりなど、若干の粗さを感じさせる部分もある。
筆者個人としてはラスボス前座とラスボスに関しては、調整に一考の余地があったのではと思うところだ。具体的に前者は的確に回避したはずの行動が別の不確定要素でダメージとなってしまうこと、後者は全体的な視認性の悪さである。

とはいえ、そうした所を押し黙らせるほど、本作の荒唐無稽の”圧”は凄い。アクションゲームとしても試行錯誤する面白さとそれによる確かな上達が感じられるバランスの巧みさが光る。ネタも含めれば、おそらく最も楽しめるのは1990年代のアクションゲームを楽しんだ世代かもしれない。ただ、純粋に現代の視点からも残機制の非採用(無限コンティニュー可)、中ボス撃破のたびに途中経過が保存されるオートセーブ機能といった親切設計になっているので、遊びやすさは上々だ。

とにかく荒唐無稽と試行錯誤の果てにある”答え”という見所にピンと来るものがあれば、すぐにでもこの忍びの道へと進むのである。きっと5つというステージの総数からは想像もつかない、充実した忍者の戦いを思い知るであろうことをお約束する。

汝、荒唐無稽の嵐にあらゆる手を尽くして忍びの道を究めよ

そんなに荒唐無稽で試行錯誤の楽しさがあるとはいえ、肝心のアクションゲームとしての手触りに関する言及がないではないか、ですと?
手触りに関しては完璧だ。大事なことでもう一度言おう。

アクションゲームとしての手触りは最高にして完璧だ。

敵を倒せば「ズバシュッ!」という、それは見事なバッサリ音が鳴り響き、ボスを倒した時には巨大な斬撃エフェクトの後、画面が真っ赤になってからの輪廻応報で即身成仏の色即是空が空即是色の因果応報である!

そんな訳で、操作と演出周りは異論すら受け付けないぐらいに完璧な仕上がりとなっている。断じて誇張ではない。特に後者、ボスを倒した時の演出は爽快感バツグンで、それまで何度もリトライした経験も重なれば、圧倒的なカタルシスも得られる。
昔ながらのアクションゲームを名乗るなら、演出は仰々しくなくちゃダメとのこだわりをお持ちなら、本作は存分にそれを満たしてくれるだろう!

見た目は8ビット調ながら、背景が立体的にスクロールしたり、ド派手なエフェクトがほとばしるグラフィックも非常に手の込んだ仕上がり。音楽も耳に残る楽曲が揃っていて、とりわけ本作の象徴ともいえる第1章の楽曲は強く印象に残るはずである。

ストーリーはテンポ重視な関係か、ステージ開始前やクリア後に少し語られる程度。ただ、脇を固めるキャラクターが個性的。とりわけ、主人公カイナの許嫁である「つむじ」は、その言動からデモシーンにて見せるドット絵の動きも含めて大変可愛いキャラクターになっているので必見だ。きっと人によっては強烈に刺さってしまうはず。

非常に完成度の高い本作だが、唯一にして残念なのがクリア後要素が実質、皆無なこと。エンディング後にやり込み要素が解禁されることはなく、スコアアタックぐらいしかやることがなくなってしまう。実績も用意されているが、なんと普通にエンディングを迎えるだけでコンプリートできてしまうほど獲得難易度は低い。

また、難易度選択も存在しない。一応、サブウェポンを封じて2周目を遊ぶなど、やり方次第では難しくできる。ただ、それでもクリア後用で高難易度モードはあって良かったように思える。ボス戦だけを楽しむボスラッシュモードもそうだが、もう少し本編以外の遊べる要素を充実させてほしかったところだ。

他に気になるところでは、前述の終盤ボスの調整以外に道中が基本、続々現れる雑魚敵を仕留めながら突き進む展開に終始するワンパターンさもそのひとつだ。とは言え、これは中ボス戦の多さと激しさが補っている所もあるので、意図している可能性もある。それ以外だと、リトライ時に決まって中ボス戦の勝利後からで、道中を挟むことか。ただ、これも道中自体が短めで、サブウェポンの活用法次第で素早く攻略できる見所もあるので、単純に難点とは言い難くもあったりするのだが。

あれこれ書いたが、それでも本作のアクションゲームとしての完成度の高さは揺らがない。繰り返しになるが、昔ながらのアクションゲーム、忍者のアクションゲームが好きならば迷わず道を進め、である。素晴らしく仰々しい演出など、絵的な面でも楽しませてくれる見所があるので、そちらに興味がある場合もぜひ。押し寄せる荒唐無稽の嵐に忍の技で立ち向かおう。

そして技を究めつくし、好ましからざる忍び(Shinobi non Grata)となれ。

[基本情報]
タイトル:『Shinobi non Grata』
販売:フライハイワークス
開発:Studio PICO、エスカドラ
クリア時間:3~4時間
対応プラットフォーム:PC(Windows)
価格(税込):¥1,500

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