ボールを投げて、その軌道を追え!リリース&トレース一人称パズル『Sphere』

パズル,フリーゲーム

全国一の栄冠を手にするため、高校球児たちが白球を投げては打ってする甲子園。日本における夏の風物詩のひとつだ。投手の投げたボールや打者の打ち返したボールの行き先を見極め、追いかける選手たちを見ていると、ある一人称パズルを思い出す。

それが今回紹介する『Sphere』だ。

ボールを投げて、自分も投げる

フランスの学生チームが開発した『Sphere』は、「足元に転がる球体を見つけた主人公が、目の前に現れた塔の扉を開く」というテキストで始まる。タイトルどおりこの球体(Shpere。以下、ボール)が本作の鍵を握る存在で、このボールに秘められた奇妙な力を使ってステージ上のパズルを解いて塔の頂上を目指すという内容だ。

なお、本作には英語版とフランス語版が存在しているが、テキスト自体はオープニングとエンディングに少々、あとは操作説明のためのものがちょっとだけ出てくるだけなので、プレイするだけなら言葉がわからなくともほぼ支障はない。

プレイヤーが持っているボールはマウス左ボタンで投げることができる。このボールは放物線を描いて飛び、壁に当たれば跳ね返る、という何の変哲もないものだ。だが、不思議なことにボールを投げたあとにもう一度マウス左ボタンを押すと、ボールを手元に引き寄せることができる

image06
スイッチにボールを当てて、オンオフを切り替えることも可能

image08
ゲームを少し進めると、奇妙な力がボールに備わる

さらにこのボールにはもうひとつ、魔法めいた力が備わっている。ボールを手元に戻したあとでマウス右ボタンを押し続けると、ボタンを押しているあいだ、先ほど投げたボールの軌道をトレースしてプレイヤーが動くのだ。上に投げれば上に、壁に当ててバウンドさせればプレイヤーも跳ね返るように動く。

image00
上に進みたいときは、そこに向かってボールを投げる

image09
ボールを手元に戻したらマウス右ボタンを押し続ける。さっき投げたボールの軌道をコピーして、プレイヤーが高く舞い上がる

前回紹介した『Tag: The Power of Paint』はジャンプができないゲームだったが、『Sphere』のプレイヤーも似ていてものすごく低いジャンプしかできない。しかし、ひとたびボールの力を使えば、高い段差もなんなく越えられるようになる。

image02
序盤以外はボールを投げても直接届かないような場所がほとんど

image04
直前に投げたボールの軌道が常時表示されるので、トレースの際の参考にしよう

このボールの軌道をトレースする能力は、プレイヤーがその場を離れても同様に発揮される。水切りのように床を何度かバウンドさせた軌道を保存しておき、別の場所に移動して離れた足場を向いてトレースすれば、まるでそこに床があるかのように空中を飛び跳ねて2段ジャンプ、3段ジャンプして遠くの足場に着地できるという寸法だ。正面の壁に当てて跳ね返す軌道をトレースすることで、前に進んだあとにバックするようなこともできる。

ゲームが進むと「動く足場」や「ボールは跳ね返るがプレイヤーは通り抜ける壁」などが登場し、ボールの投げ方や軌道のトレースの仕方に少し工夫が必要になる場面も出てくる。とはいえ、全体的に難易度は低めで1.5~3時間程度でクリアできるだろう。なお、ロケーションは全編通して室内であり、ボールの跳ね返りが予想しづらい岩や草地といった場所はない。

image01
ボールが大きく弾む赤い床

一人称パズルは身体機能を拡張するゲーム

『Sphere』がおもしろいのは、ワンボタン(マウス右ボタン)で人間にはできない動作ができるところだ。ボールの動きをトレースするという縛りがあるとはいえ、人間業らしからぬ大ジャンプや空中を飛び跳ねる複数回のジャンプができる。落下中の軌道修正もお手のものだ。言ってみれば、『Sphere』はボールの力を使って身体機能を拡張するゲームなのだ。

もちろん「身体機能の拡張」というのは何も『Sphere』に限ったことではない。

一人称視点のゲームに限定しても、『Mirror’s Edge』や『Titanfall』で採用されているようなパルクール(壁走りや壁走り中のジャンプ、壁登りなど)が身体機能拡張の手法のひとつとして挙げられるだろう。しかし、パルクールはあくまで人間業の範疇での身体機能の拡張である。一方の『Sphere』に登場するボールは人間離れした身体機能を手にするための、いわば魔法の道具、アイデアなのだ。

image03
『Mirror’s Edge』のアクションは、激しいながらも一応人間のできる範疇のアクション(画像は続編『Mirror’s Edge Catalyst』のトレーラーより)正直人とは思えないレベルの芸当だが、一応人間のできる範疇のアクションで走り抜ける『Mirror’s Edge』

image05
テレポートのような能力「ブリンク」を使える『Dishonored』は、魔法のような身体機能の拡張をしているいい例。こういうゲームが好きなら一人称パズルも好きかも

私の好きな言葉に宮本茂が言ったという「アイデアというのは複数の問題を一気に解決するものである」というものがある。例えば『Sphere』のボールは「高くジャンプしたい」と「空中で方向転換したい」を同時に解決してくれる素敵なアイデアだろう。3段ジャンプするわけでもないのに、2段ジャンプでも到底できないより遠くへの跳躍をも可能にするし、空中をジグザグに飛び跳ねることだってできる。無論、ほかのゲームにはないユニークな解決法をもたらしていることも重要だろう。

一人称パズルは、人間には不可能な挙動を介してその世界を見て回るゲームだと思うのだ。パズルはその世界をよりよく見るため、見せるために準備された仕掛けでしかないが、パズルを解こうと工夫しただけ身体機能は拡張し、その世界は花開く。「三人称視点だっていいじゃないか」とおっしゃる方もいるかと思うが、やはり一人称視点でその世界を歩き回り、何かを発見するという部分が魅力だと思う。拡張した身体機能によって、めまぐるしく変わる世界を見るのも一人称視点のほうが向いているだろう。

image07
大ジャンプや高速移動によって一瞬で背後に流れていく景色。そのとき聞こえる風を切る音も味わい深い

だから私は一人称パズルが好きなのだ。

今回紹介した『Sphere』はそんな一人称パズルのなかのひとつ。ボタン1つでボールの軌道をトレースし、我々人間にはできない動きでステージ上を飛び回る。そして、そのためには投げたボールと、そのボールが跳ね返る軌道を見極めるのが重要になるのである。そう、白球を追う高校球児たちのように
最後にまた次回のヒントを出して終わりにしようと思う。

「旧支配者への挑戦者」。

わかっちゃった人もそうでない人もお楽しみに!

[基本情報]
タイトル
『Sphere』
制作者 Team Sphere(制作者様サイトはこちら
クリア時間 1.5~3時間
対応OS Win、Mac
価格 無料

ダウンロードはこちらから

  • HayanieMozu(@HayanieMozu

    ポエムじみたことを書くのが好きなゲーム好き。NYDGamerというブログをやっており、TwitterとHOTLINE TOKYOという集まりによく出現する