キュートで退屈(?)なフリーホラーゲーム『Spooky’s Jump Scare Mansion』 あなたは1000部屋目にたどりつけるか?

年末年始。大みそかからお正月にかけて長期休みという方も多い。長期休みはゲーム三昧だ!と意気込んでいる人もいるのではないだろうか?

今回はそんな長いお休みにぴったりのホラーゲーム『Spooky’s Jump Scare Mansion』を紹介しよう。本作はゲーム配信プラットフォーム「Steam」にて無料配信されているフリーゲームで、Steamアカウントを持っていればすぐに遊ぶことができる。

このゲームの特徴は、とにかく「長い」こと。長いといってもそれはプレイ時間ではない。その道のりがはてしなく長いのだ。

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『Spooky’s Jump Scare Mansion』はアメリカの二人組のインディディベロッパー「Lag Studios」が手掛けた作品。タイトルにある「Jump Scare」とは、ホラー映画などによくある大きな音を鳴らしたり映像を変えたりしてびっくりさせる演出のことで、ようするにワッと驚かせるのが得意なゲームだ。心臓にはよろしくない。

ちなみにタイトルロゴに張り紙をして名前を書き換えているのは、諸事情でタイトルが変わったからである。以前は『Spooky’s House of Jump Scares』というタイトルだった。なぜタイトルが変わってしまったのか。そこにはインディゲームのつらさが隠れている。

事の発端はドイツのモバイル会社「Spooky House Studios」が「Spooky house」の商標を取得しようとしたことに始まる。そこで商標と似通った本作とぶつかってしまった。「Spooky House Studios」は「Spooky House」のヨーロッパ圏での商標を取得しているとして、「Lag Studios」にタイトルの変更を要求したのだ。大きい会社ならここから法廷闘争に突入するところだが、二人組の小さすぎるディベロッパーにはその力がなかった。そして、最終的にタイトルが変更される形となったそうだ。これは本作のSteamの更新情報にて開発者自ら報告している。

インディゲームはたびたび法廷闘争に巻き込まれる。が多くの場合、開発チームの規模の小ささが災いし、チームに苦労だけが強いられてしまう。なんとも、つらい話である。

話がそれてしまった。ゲームの話に戻ろう。

世界一キュート(?)なホラーゲーム

 

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『Spooky’s Jump Scare Mansion』はプレーヤーが古くから丘の上に立ついわくつきの大邸宅に訪れるところからはじまる。そこへこの邸宅の主であり、ゲームの案内役であるスプーキーちゃんが現れる。かわいい。

「こんにちは。私はスプーキー。ここは私のおうち。つつましいプレーヤーさん、あなたは1000の部屋を通り過ぎることができるかしら?」

そう、このゲームは1000の部屋を生きて通過することが目的だ。

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スプーキーちゃんの大邸宅は空間がねじ曲がっているのか、部屋が一本道のようにいつまでも続いている。部屋の形は様々で、ただの廊下のようになっている部屋、アーケードゲーム機が陳列された部屋、行き止まりがいくつもある部屋などたくさんのパターンがある。プレーヤーはここをただひたすら通過していく。

操作はFPSなどによくみられる一人称視点のものそのままで、慣れている人はすぐに遊べるだろう。右上に今自分が何部屋目を通過しているのか表示されているので、ゴールまであとどれくらいかすぐにわかる。部屋のデザインはスプーキーちゃん同様、かわいいイラスト調になっている。

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怖がらせ方もかわいい。部屋を進んでいると突然看板が飛び出して、音がジャジャジャーンと鳴る。びっくりはするが、看板そのものはとてもかわいい。ここまでキュートづくしのホラーゲームはなかなかないだろう。不気味なBGMが流れてはいるのだが、スプーキーちゃんはプレーヤーを怖がらせる気があるのだろうか?

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安心してほしい。このゲームは間違いなくホラーゲームだ。プレーヤーが特定の部屋数を通過すると、特殊な部屋が現れる。謎の研究所であったり、日本の学校であったり。その場所はさまざまだ。突然のグラフィックデザインの変化に驚くことになるだろう。

この特殊な部屋は通常の部屋と違い、ドアにカギがかかっていて次の部屋にそのまま進めない。なので、カギを探して部屋を探索せねばならない。すると、この特殊な部屋には何やら怪しいメモ書きや血痕が残されている。ああ、これはきっと、化物がいるに違いない……。

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デター!特殊な部屋のカギを開けると、そこに縛られていた化物もまた部屋から解き放たれる。化物は問答無用にプレーヤーを襲ってくるのでとにかく逃げねばならない。部屋を脱出したからといって安心はできない。やつらもまた部屋を通過してプレーヤーを追いかけてくるのだ。攻撃を食らって減った体力は徐々に回復するものの、化物の攻撃はとてつもない威力がある。何度か攻撃されるだけで死んでしまう。

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プレイヤーはスタミナの続く限り走ることができるが、すぐにスタミナは切れてしまう。うまくやりくりして化物から逃れよう。何部屋か逃げ延びれば、化物を振り切ることができる。だが、一度解き放たれた化物は何度も君を襲いにやってくる。次、無事に逃げられるかはわからない。

ちなみに、殺されたときの演出は化物によって異なる凝った作りになっている。

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あまり書いてしまうとネタバレになるので避けるが、化物にはそれぞれ特徴があり、プレイヤーを苦しめる特殊な性質を持っている。プレイヤーの視界を狂わせる、化物を見ていないと高速で移動し、見ている限りは動かない、部屋を少しずつ埋め尽くして触れるだけで死ぬ、などなど。さまざまな化物から逃げ延びねばならない。

スタミナの回復を待って、迫る化物から逃げたい衝動にかられ、やっとの思いで走った先が袋小路だったとき、このゲームの真の恐怖を知ることになるだろう。精神的に焦らせ、ランダムに選ばれる部屋を通り抜けるというシステムで追い込む作りはよくできている。かわいいデザインではあるが、このゲームはホラーゲームなのだ。

あと、化物に追われてめちゃくちゃ緊張しているときに、ババーンと看板おばけが出てこられると非常にびっくりする。こんなにかわいいやつに怖がらせられるなんて。この屈辱感もぜひ味わってほしい。

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さて、このゲーム、オマージュやパロディが非常に多いのも特徴だ。このゲームはセーブポイントが最初は50部屋おき、途中から100部屋おきに設置されているのだが、ここを出るときの演出がバイオハザードを彷彿させる。たまに部屋に設置されているゲーム機はどれも名作レトロゲームのパロディ。そもそもアメリカの作品なのに日本の学校が出てくるのはジャパニーズホラーゲームのオマージュ。そして、最後に出てくる化物なんてギミックからなにからなにまで……といったように。それはもういたるところにオマージュやパロディがある。ゲームファンならきっとニヤリとできるはずだ。

”やめたい気持ち”と戦う異例のゲームデザイン

 

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しかし、いかに定期的に化物たちの住処を訪れ、化物たちから逃げ回ったとしても、やっていることは部屋を通り過ぎるだけの単調なゲームである。部屋はパターンからランダムに選ばれてはいるものの、そのパターン数も限られる。100部屋も通り過ぎるころには大体の構造を覚えてしまうだろう。退屈さに投げだしてしまうのも時間の問題だ。

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それでいいのだ。このゲームはなんとクリアを諦めることを前提に作っている。その証拠に、このゲームは何部屋生きて進めたかがスコアとして記録されるようになっている。死んだあとセーブポイントをロードして、また死んだ場合もその部屋数が記録される。死なずにどこまで進めたかがこのゲームのスコアではない。諦めずにどれだけ進めたかがこのゲームのスコアなのだ。

1000部屋という途方もない数の部屋を、理不尽な化物の攻撃にも耐え、諦めずに通過しきれるか。それが、このゲームの作りなのである。通常のゲームならプレイヤーをあの手この手で楽しませ、最後まで遊ばせようとするが、このゲームはプレイヤーを”やめたい気持ち”と戦わせ、最後まで遊ぶことができるのかを試す異例のゲームデザインなのだ。インディゲームならではの作風だろう。

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あなたは1000の部屋を通り過ぎ、このゲームのエンディングを見ることができるだろうか?それはあなたの飽きっぽさと忍耐力にかかっている。

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またこのゲームはフリーゲームではあるが、海外のインディディベロッパーの作品らしくマネタイズも考えられている。DLC販売があるのだ。最初はゲームのサントラだけだったが、現在は1000部屋目以降に存在する謎のエリアを探索するエキスパンション『Karamari Hospital』も配信されている。ゲームを気に入った方はぜひ買ってあげてほしい。

また、先日Unityエンジンで作り直したHDリマスター版の開発が発表された。現在Steam Greenlightにて投票を募っている。HDリマスター版はVR対応や日本語翻訳も考えているそうなので、こちらも併せて応援してほしい。

年末年始のお休みは長く休めるものの、やることがなくて退屈だという人も多い。今年のお休みは、その退屈さと戦ってみるというのはどうだろうか?スプーキーちゃんがあなたの挑戦を待っている。

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[作品情報]
タイトル 『Spooky’s Jump Scare Mansion』
制作者 Lag Studios(制作者様サイトはこちら)
対応OS Windows Vista以上
プレイ時間 4~5時間程度(DLC含まず)
価格 フリーソフト(サントラ:980円, エキスパンションDLC『Karamari Hospital』:198円)

ダウンロードはこちらから

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    洋ナシ(@younasi

    海外インディゲームの情報同人誌を作っているただのオタクですが、声をかけられゲーム記事を書くことになりました。人生何があるかわかりませんね。そういうことがあるのは、もっとこう絵がうまかったりマンガが面白かったりする人だけだと思ってました。他の執筆者の方のように輝かしい実績はありませんが、世界で初めてSurgeon Simulatorでペン回しに成功したという地味な実績があります。

    ブログ:http://tukedai.minibird.jp/blog/