カオスな物理演算マルチ対戦ゲーム『Gang Beasts』 大乱闘が生み出すハプニングに耐えられるか!?

Steam,アクション,インディーゲーム

Steamで行われるセールの中でもひときわ大きなイベントのウインターセール。2016年のウインターセールもSteamアワードの投票など大いに盛り上がった。

Steamの大きなセールではその値引きやセールに合わせたイベントといった様々な要因から注目を集める作品が現れる。今回のウインターセールもそうした作品がいくつか現れたが、その中でも一際注目を集めたインディーゲームといえば『Gang Beasts』だろう。

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『Gang Beasts』は開発中のゲームを販売し資金を集め、ユーザーからのフィードバックを得て開発に活かすSteamの早期アクセス制度を用いて現在も開発が続けられているマルチ対戦ゲームだ。PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」にて、1,980円で販売されている。

イギリスのインディディベロッパー「Boneloaf」がこの作品を早期アクセスで開発し始めたのは2014年8月。およそ2年半前にさかのぼる。早期アクセス開始当初から、そのコミカルなゲームプレイはSteamユーザーに注目されていた。

だが、本作は当初オンライン対戦を実装しておらず、オフライン専用のマルチゲームとして発売された。オフライン専用のマルチゲームはどれだけ面白くても販売が振るわない。しかも本作はパーティゲームの側面が強く、その傾向が顕著だった。結果、注目は集めたものの爆発的なヒットにはならなかった。また、本作は物理演算に重きを置いた作品であるためマルチ実装のハードルは高く、本当に実装できるのか不安視されていたのだ。

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だが、「Boneloaf」はそうしたユーザーの不安を跳ね除けるように地道にアップデートを進めた。ステージの追加、キャラクターのカスタマイズ、挙動の追加と調整、少しずつゲームは進化していった。そして2016年4月、ついにマルチプレイのクローズドベータが発表される。これにSteamユーザーは沸き立った。2年待ったマルチ実装が遂に目の前に来た!マルチプレイ正式実装を待つSteamユーザーの熱は日増しに高まっていった。

そうして時間はさらに過ぎた2016年12月、ついに『Gang Beasts』はオンラインマルチを正式実装する。待ちに待ったユーザーは燃え上がった。その絶好のタイミングでウインターセールに突入したものだから大変だ。今まで買い控えをしていた人たちがこぞって購入し、プレイヤー人口は激増。そしてSNSや動画サイト上でもその評判は拡散され、『Gang Beasts』ブームが巻き起こったのだ。

あまりのプレイヤー数の増加にサーバーが悲鳴を上げ、開発自ら現状を報告するにまで至ったのは少々興奮しすぎであったが、とにかく『Gang Beasts』がこのウインターセールで最も注目を集めたインディゲームと言っても過言ではないだろう。海外インディゲームの隆盛が届きづらい日本においても、2年前に発売されたゲームであるにもかかわらず話題になっているのだからすさまじい。

カオスな乱闘が生み出すハプニング

 

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これだけ注目を集める『Gang Beasts』の魅力とは一体何なのか?それはなんといってもプレイヤーの意図しない面白ハプニングだ。

『Gang Beasts』は3Dのステージ上で殴る蹴るの乱闘を繰り広げるパーティ格闘ゲームだ。プレイヤーは愛くるしい粘土人形のようなキャラクターを操作して戦いに臨む。最大8人までの多人数で対戦が可能だ。戦いを勝ち抜き、ステージに立つ最後の1人になれば勝者となる。

このゲームには敵のHPを減らして倒すという要素はない。敵をステージから叩き落してはじめて敵を倒したことになる。『大乱闘スマッシュブラザーズ』シリーズに近いシステムだ。パーティゲームとしての側面が強いことも似ている。

操作はこんなぐにゃぐにゃな見た目の割に複雑で、右手と左手のパンチ、右手と左手の掴み、持ち上げ動作、ジャンプ、ダッシュ、キック、伏せといったアクションが用意されている。しかもこれらのアクションを組み合わせることで、ドロップキックや逆立ち、壁登りといった様々なムーブを行うことができる。タイミングがシビアで難しいが、極めればアクロバティックなアクションで敵を翻弄できるだろう。

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さて、このゲームの大きな特徴はキャラクターやステージがすべて物理エンジンで演算されるところだ。

このゲームは多くの物理演算ゲームがそうであるように、見た目通りのモデルで物理演算がなされる。当たり判定が大きく設定されているということもないので、プレイヤーはこの短い腕と足で戦わねばならない。結果、乱闘は常に団子状態。上にのったりのられたり、ハチャメチャな乱闘が繰り広げられる。

また、格闘ゲームでは投げ技で掴まれれば操作を受け付けなくなるといったステータスの変化があるが、このゲームにはない。例え相手に掴まれても、それは相手が自分の一部を掴んでいるだけにすぎない。なので、相手に掴まれながら相手の顔を殴りつけることも、ジャンプして抵抗することも、逆に相手を掴み返して膠着状態にすることもできる。操作するキャラクターが気絶さえしていなければ、プレイヤーは常に自分のキャラクターを操作が可能だ。

そうなれば、全プレイヤーは常に好き勝手動きまわるので、乱闘に収拾をつけることは不可能となる。ごちゃごちゃの乱闘で、もはや自分がどっちを向いていて、何をしているのかもわからないし、敵がどこにいて何をしているのかもわからない。とりあえずパンチを連打したり、何かを掴んでみたりするだろうが、それだって当たっているのか何を掴んでいるのかわからない。無法地帯では狙った通りにゲームを操作することなどできないのだ。

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だが、こういった操作がちゃんとできない状況をストレスにせず、エンターテイメントにつなげているところが本作の素晴らしさだ。操作がちゃんとできていないのは相手もこちらも同じ。自分と相手のよくわかっていない動作が重なれば、誰も想定していない動作が物理エンジンの法則に従って演算される。お互いがお互いを掴んで離さずぐるぐる動いた結果、勢いあまってステージ外に落ちていく。複数人で1人を投げ落とそうとしたのに、連携が全く取れずなぜか落とされそうだった1人が勝利する。といった面白いハプニングが次々と発生するのだ。

乱闘で何が何だかわからなくなったプレイヤーたちの操作が物理演算で重なり合い、想像もしなかったハプニングが起きてみんなが笑ってしまう。それがこのゲームの作りなのだ。

普通なら当たり判定を調整したり、ステータスを変化させたりして、戦いをプレイヤーの想定する枠の中に抑え、駆け引きのあるゲームとして成り立たせる。だがこのゲームは、あえてそれを放棄。常に操作可能なキャラクターが物理エンジンで動く、という無法地帯を作って戦いをカオス化。意図しないハプニングが発生するように仕向けているのだ。

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さらにこのゲームのステージはハプニングが起きやすいよう、様々なギミックが仕掛けられている。衝撃で底が抜ける足場。ワイヤーが切れて落ちるゴンドラ。割れて分離する氷河。などなど、その全てがハプニングを引き起こすトリガーになっている。

無秩序な乱闘に、ギミックが満載のステージ。この組み合わせからくる無限大のハプニングがこのゲームの肝なのだ。

パーティゲームとしての注目を集める今と、今後

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話は少しずれるが、私は2015年5月に同人誌即売会にて『Gang Beasts』のオフライン大会を開いたことがある。20人程度で争うトーナメントで、それなりの規模だった。

参加者はコアゲーマーからゲームをあまりしない人まで様々、全員『Gang Beasts』は初体験。そんなゲーム大会をするには厳しい状態であっても、これがけっこう盛りあがった。

それもこれもすべて先ほど説明したハプニングのおかげである。忘れもしない。まだ操作もおぼつかないプレイヤーたちが必死で乱闘を繰り広げていたところ、突然ステージを吊り下げるワイヤーが切れ、全員ステージから落ちていったのだ。プレイヤーも観客も、私たち運営すらもびっくりして大笑いしてしまった。

遊べば何かしらハプニングが起こって大笑いできる。得手不得手関係なく、誰もがすぐに楽しめるパーティゲームとして『Gang Beasts』は現在のバージョンでも素晴らしい完成度を誇っている。

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だが、先述した通りこのゲームのアクションは組み合わせることで様々なムーブを繰り出すことができる。上級者同士の戦いになれば、これらのテクニックが活かされるのは間違いない。さらに、上級者ならば乱闘においても的確にキャラクターを操作することができる。とすれば、今後『Gang Beasts』が高度な読み合いと立ち回りが要求されるハイレベルな格闘ゲームとしての側面を獲得する可能性も否定はできない。

実際私たちの大会で優勝したのは、格闘ゲームの世界的イベント「EVO」のサイドトーナメントで優勝経験のある、格闘ゲームがとても上手な方だった。うまく立ち回って団子状態を回避し、持ち前のテクニックで勝利を収めたのである。グダグダな乱闘しかできないと思っていた当時、とても驚いた結果だった。

オンラインマルチに対応し多くのプレイヤーが『Gang Beasts』を遊ぶようになった今、『Gang Beasts』への研究が始まり、格闘ゲームとしてのポテンシャルが図られはじめたといえる。そうして、もし駆け引きや立ち回りを必要とするハイレベルな戦いを望むプレイヤーが増えれば、開発チームがそちらに舵を切ることもあるだろう。事実、ランクマッチ実装希望の声はフォーラムに寄せられている。

『Gang Beasts』がパーティゲームとしてさらに磨きがかかるのか。それとも格闘ゲームとしても花開くのか。それは今後の開発とプレイヤー次第だ。早期アクセスの行く末を注目したい。

[作品情報]
タイトル 『Gang Beasts』
制作者 Boneloaf (制作者様サイトはこちら)
対応OS Windows Vista以上, Mac Snow Leopard以上, ほとんどのLinuxディストリビューションで動作可
プレイ時間 1マッチ5分程度
価格 1,980円(早期アクセス)

購入はこちらから

  • 洋ナシ(@younasi

    海外インディゲームの情報同人誌を作っているただのオタクですが、声をかけられゲーム記事を書くことになりました。人生何があるかわかりませんね。そういうことがあるのは、もっとこう絵がうまかったりマンガが面白かったりする人だけだと思ってました。他の執筆者の方のように輝かしい実績はありませんが、世界で初めてSurgeon Simulatorでペン回しに成功したという地味な実績があります。

    ブログ:http://tukedai.minibird.jp/blog/