穏やかな深海に放たれた一撃必殺の美学。期待の若手サークル惑星まりもの潜水艦STG『伊』

インディーゲーム,シューティング

STGのTipsをフリーゲームで学んでいく「フリゲで始めるSTG」。今回は番外編として有料同人ゲームを紹介したい。というのも、今回紹介する『伊』はシンプルで初心者でも始めやすく、「狙いうち」というSTGにおいて重要な要素が学べる作品だからだ。

『伊』は同人サークル惑星まりもが開発した横スクロールシューティング。2014年末のコミックマーケット87で発表された作品だが、午前中には既に完売。その後、同人ショップでの委託販売もされたが品薄状態が続いている。ダウンロード販売の予定もあるらしいが、気になった方は今すぐ購入をおすすめする。

惑星まりもは同人ゲーム界隈では若手のサークルだ。東方二次創作の無料ミニゲームをいくつかリリースした後、現在は「ハイテンポローレゾ2DSTG」と題された『イマリス』を開発中。本作もその『イマリス』の開発の合間を縫ってリリースされたちょっとしたミニゲームのはずであった。しかし、シンプルかつ斬新なシステムが話題になり、図らずも惑星まりもの有料ゲームとしてのデビューを飾ることになった。

見えない敵を撃とうとして…… 

本作はSTGとしてはかなりシンプルな部類だ。名前のとおり、伊号潜水艦を操作して画面内の敵を撃破していく。操作は魚雷の発射のワンボタンのみ。魚雷は装填に時間がかかり、一発ずつしか撃てないが威力は強力だ。また画面内に敵が登場すると自動的にショットが放たれる。ただしショットの威力はかなり貧弱。画面内の小型編隊を倒すくらいにしか使えないので、あくまでもメインの武器は魚雷だ。

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右側のドットのオーバーレイ部分が敵影を示す。

最大の特徴はソナーで敵を探知して、先制して倒すというアイデアだ。見えている画面は4:3の通常のもの。だが画面右端にはさらに2画面の領域が広がっており、ソナーを使って探知することが可能だ。敵影などソナーで探知した情報はドットでオーバーレイで表示され、プレイヤーをそれをたよりに魚雷に打ち込んでいくというわけだ。

ソナーの情報から先読みしてテンポ良く魚雷を発射することで、敵機が画面内に登場する前に駆逐できる。結果、腕が良ければ良いほど画面内が穏やかという不思議なSTGに仕上がっている。もちろん、海底という世界観を鑑みれば、この独特な雰囲気は絶妙にマッチしていると言えよう。

ワンショットワンキルの原始的快楽

ソナーというギミックもさることながら、筆者が一番、グッと来たのはワンショットワンキルの快楽だ。『スペースインベーダー』以来、STGには狙いうちという要素があった。黎明期のSTGは技術的制約から画面に表示できる弾丸は1つか2つであった。そこではいかに正確に特定の敵に弾を当てることが重要なテクニックだった。壁の裏側のUFOを撃ち落とし、敵編隊の最後の一機を逃さず、巨大ボスの小さなコアを撃ちぬく。ダーツのブルズアイを射抜くような原始的快楽がそこにはあった。

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中型機の弾は本気で殺しにくる。見てから対処していては遅い。

『伊』の魚雷もまさに画面内に一発しか撃てない。そのため、ソナーを利用して先制して中型機を撃破することが攻略の前提となる。というのも小型機編隊は無視できる範囲のものだが、中型機が画面に登場すると即座に殺意のある高速弾を撃ってくる。至近距離での戦闘は絶体絶命だ。ただし魚雷を中型機にヒットさせると画面全体の敵弾が消えるので、一気に形勢は逆転する。もちろん至近距離で魚雷を外すことは死を意味する。このリスクとリターンが本作における狙い撃ちの快楽を担っている。

深海を感じさせる調和したサウンドとビジュアル

本作に限らず惑星まりもの作品は、フラットなピクセルアートとアンビエントなチップチューンが特徴的だ。『伊』においてはこれらのビジュアルと音楽は深海という世界観に見事にマッチしている。定期的に鳴らされるソナーの音は静かなBGMの良いアクセントとなり、誤解を恐れずいえば眠気を誘う。おそらくSTG史上もっとも静かなBGMではないだろうか。

潜水艦や敵のデザインも温かみが感じられるピクセルアート。ゲーム内の実績をアンロックすると、これらの敵のデザインを水槽の中で閲覧することも可能だ。魚雷の発射音や水面に走る水しぶきなど、シンプルながらも非常に凝った演出も見逃せない。少人数短期間で作られたゲームだからこそ、むしろ高いレベルでの調和が感じられる。

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実績アンロックによって水槽の魚が増えていく。

示された惑星まりもの世界観、今後の作品に期待が高まる

本作は全2ステージとボリュームは少ないが、惑星まりもの実力が存分に発揮された佳作だ。ワンボタンというシンプルな操作系であるため、STG初心者でも気軽に始めることができる。そして狙い撃つという古典的STGの魅力が凝縮された形で味わえる。またステージ数は少ないが、早回しや周回要素があるため、コアなSTGプレイヤーならばスコアアタックを楽しむことができるだろう。

メインで開発されている『イマリス』も完成の予定は決まっていないが、現状の体験版からかなり期待できる作品だ。縦スクロール、3種類の武器、独特な「運命操作システム」とこちらはやや玄人向きの内容になっているが、同じくフラットなピクセルアートとアンビエントな音楽からは『伊』と同様の匂いが感じられる。『伊』のダウンロード販売と共に、『イマリス』の完成が待ち遠しい。


開発中の『イマリス』。本作と同じく統一感のあるビジュアルとサウンドに期待が高まる。

[基本情報]
タイトル
 伊
制作者 惑星まりも
クリア時間 2時間程度(1周クリア)
対応OS win
価格  400円(税抜)

販売はこちらから
http://amamoriya.gozaru.jp/i/index.html

  • 死に舞(@shinimai

    非常勤講師をつとめるかたわら、音楽やゲームなどの様々なコンテンツに関して執筆しているフリーライター。Hotline Tokyoというゲームファンによるイベント主催しています。最近プレイしているSTGは『ダライアス外伝』。ラスタースクロール最高だよ!!!東方ノーマルをクリアできる程度の能力。