MSXの限界を追い求める伝説的な人物による新作にして、ユーモアたっぷりの探索アドベンチャー『タロティカ・ブードゥー』

アドベンチャー,インディーゲーム

1983年、マイクロソフトとアスキー(現:アスキー・メディアワークス)が提唱した8~16ビットのパソコン共通規格「MSX」は、テレビに接続できる低価格のパソコンを目指して設計され、ROMカートリッジによる機能拡張という特徴的な機能も宿していたことから、国内のゲームメーカーから多種多様なゲームソフトが発売された。

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そして当然ながら、パソコンということで、プログラミング機能も標準搭載。BASIC、アセンブリ、COBOLなどの言語を用い、ゲームを始めとするソフトウェアを自作することもできる。
その特色から、徳間書店より刊行されていたMSX専門誌『MSX・FAN』では、自作ソフトウェアの投稿コーナーが設けられ、毎月10本前後の投稿プログラムが紹介され、採用者には自作ゲームのROMカートリッジがプレゼントされるなど、当時のユーザーの間で大きな賑わいを見せていた。このコーナーで名を馳せた投稿者も少なくはなく、特に『まものクエスト』、『ネイティガの悪魔』と言ったRPG作品を発表されていた「TPM.CO SOFT WORKS」こと東郷生志氏は、当時のユーザーから”神様”と謳われている伝説的な人物だ。

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そんな東郷氏は2018年現在の今もなお、MSXの限界を追い求め、ゲームを作り続けている。今回紹介する『タロティカ・ブードゥー』は、1998年にオリジナルのMSXで動作するフロッピーディスク版が発売され、2017年12月29日にPCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で配信された作品だ。本作は2014年以降、「Bit Summit」を始めとするインディーゲームのイベントにも度々出展されており、2018年9月20日から2018年9月24日まで、千葉・幕張メッセにて開催された「東京ゲームショウ2018」でも遊ぶことができた。

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実は筆者も「東京ゲームショウ2018」において、本作をプレイしてきた。先日に掲載された「「東京ゲームショウ2018」注目のインディーゲーム6選」でピックアップすることも考えたのだが、ゲームがリリース済みであること、制作開始から完成に至るまでの軌跡から、此度の単独レビュー記事として取り上げる形とさせて頂いた。

https://www.youtube.com/watch?v=elaaUmJEnrc

なお、Steamで配信されているPC版にはMSXの公式エミュレーター「MSXPLAYer」が内包されており、ゲームはこちらで動かしてプレイする仕組みになっている。また、イベント出展の際に得られたフィードバックを元に、ゲームバランスにも再調整が施されている。更に日本語のほか、英語、韓国語、中国語 (繁体字&簡体字) の5カ国語に対応(しかも、フォントも東郷氏自らドットで打ったもの)。今後、更に3カ国語への対応が予定されている。

そして、先んじて紹介してしまうが、無料のダウンロードコンテンツで、本作の技術書、開発ツールも付属。プログラムは全て閲覧可能で、本作がどのように作られているのかを知ることもできる。

設計図風のマップ上で繰り広げられる、探索型アドベンチャー

改めてゲームの内容を解説すると、探索型のアドベンチャーとなる。

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ある日、空を航行していた旅客機がエンジントラブルを起こし、墜落への一途を辿り始めた。
墜落地点とされる場所には大きな屋敷が。
だが、そこに住まう家族は夕食を終わらせない限り、その場から動こうともしなかった。

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プレイヤーの分身となる主人公は、あちこちにいる家族を中央の居間に集め、夕食を御馳走した末に脱出させるべく、屋敷の探索に乗り出す。ストーリーの大筋はこのような感じだ。

旅客機が墜落する大惨事が起きようとしているのに、夕食優先とか何と悠長な、どんなシチュエーションだよと突っ込みたくなってしまうかもしれないが、そういうストーリーなのだから仕方がないということで何卒、ご了承のほどを。

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とにもかくにも、ゲームは屋敷を上から見下ろした、設計図風のマップで展開。カーソルを動かし、怪しいところを探って仕掛けを動かしたり、謎を解いたりしながら探索範囲を広げていく。

怪しい所は、カーソルを合わせると点線で描かれた四角形のアイコンが現れ、ボタンを押すと、画面右上のウィンドウに拡大表示される。
ここで方向キーを動かすと拡大した対象を動かすことができ、特定の状態(例えば窓なら全開にするなど)にした後、マップへと戻ると「チャイム」が鳴り響き、次の部屋に連なるドアの施錠が解除されたり、時には部屋に新たな仕掛けが現れる。

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この「怪しい所の確認⇒拡大表示し、方向キーで動かすなりしてみる⇒チャイムが鳴ったら更に詳しく調べる」の過程を繰り返しながら進めていくのが基本となる。

最終目的は中央の居間に家族全員を集め、厨房で夕食を作って食べさせることだ。居間へは比較的早い段階で辿り着く。だが、そこに居るのは屋敷の主だけ。残る家族は閉ざされた部屋にいるので、屋敷のあちこちを探索していくことになる。

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ちなみにこの屋敷には「火の精」が住んでいて、仕掛けを動かすに当たっては彼らの力が必須。はぐれた精霊も多くおり、彼らを探し、見つけ出すことも夕食提供への大きな足掛かりとなる。

そもそも、どうして精霊が屋敷にいるのか、という点で首を傾げてしまうかもしれないが、ストーリー同様、そういう世界観なのだから仕方がない、ということでご了承頂こう。

このゲームの9割はユーモアで出来ているのだ。(極論)

独特ながらも良心的な難易度

また、探索を進めていくと、敵との戦闘も発生。

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戦闘はリアルタイム形式で、方向キーの上下で盾を構えたり、剣を振ったりしながら攻防を繰り広げていく。画面右下に表示された「いのち」が空になる(カーソルが左端まで行ってしまう)と、プレイヤーの敗北。ただ、負けてもゲームオーバーにはならず、マップ探索に戻されるだけなので、何度も気軽にリトライすることができる。

その分、難易度はやや高め。盾で防御姿勢を取っても、敵の攻撃を受ける度に「いのち」が削られていくので、積極的に攻めていくことが求められる。何より、方向キーの上を長押しして剣を振り、そこから防御姿勢に戻すにも方向キーの下を長押ししなければならないなど、行動の際に間を挟むので、タイミング次第では一気に「いのち」を削られる。

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敵も個体ごとに異なるリズムで攻撃を展開してくるため、それに応じた戦術で攻める必要がある。力押しなんて言語道断だ。そうも仕組み自体は単純で取っつき易いが、独特な操作と防御時の設定、そして敵ごとの個性付けも相まって、一筋縄ではいかない手強さ。文字通り手に汗握る展開が楽しめる戦闘システムに完成されている。

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特に初プレイ時は、序盤で遭遇する「ゾンビ」には大いに悩まされることだろう。こんなの倒せないと思うこと請け合い。だが、ちゃんと倒せる。それもかなり単純な方法で、だ。幾度かのトライ&エラーを重ねてそれに気付かされた際、きっと肩の力が抜け落ちる感覚に襲われるだろう。

難易度に関しては探索周りも基本、手探りで行っていくので高め。しかし、こんなの気付くかと憤る意地悪な仕掛けは皆無。行き詰まっても、決まって調べが甘かったと気付かされるオチを迎える。

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意外にヒントとなる手がかりも散りばめられている。「なんだこれ?」と初めはよく分からなかった情報が、実は答えに繋がる手がかりだったり、謎の注意書きが実は本当にその通りだったりと、いずれも直接的になり過ぎず、かと言って理解を妨げない表現でまとめられているところに巧の仕事が炸裂している。

他に戦闘も勝利すれば、削られた「いのち」は自動的に全回復するので、わざわざプレイヤー自身に回復用アイテムを探して使わせる手間を省く配慮も施されている。

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80年代のMSXで作られたゲームということで、当時のイメージから本作の難易度には「難しい」、「理不尽」という印象を抱くプレイヤーも少なくないかもしれない。だが、その実はとても良心的で、自力で解き明かす面白さを尊重した絶妙なバランスになっている。

先述の通り、本作はイベントに出展した際に得たフィードバックを元に4年もの歳月を費やしてバランスを調整したという。実際にそれだけの年月をかけたのがよく分かる塩梅で、昔風ながらも現代にも通ずるやり応えが全編に渡って表現されている。

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特に若い世代ほど警戒心を抱いてしまうのも無理はない。だが、当時特有の難しさとハードルの高さはない。それどころか、時間を忘れてのめり込んでしまうこと確実。そして、昨今のゲームにない、唯一無二なプレイ感に魅了されるだろう。

現代も生き続けるMSXの底力と息吹がここに。

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他にも、本作はデモシーン、戦闘シーンにおいて、手描きのマウス絵によるアニメーションが挿入。見た目は簡素だが、動きは驚くほど滑らかで、場面ごとの情景を見事に描き切ったものに完成されている。アニメーションに費やしたイラストの数も600枚以上に及ぶとのことで、まさに執念と情熱の結晶。MSXで作られたゲームの視点で見ても、表現面の限界に挑戦した仕上がりになっているので必見だ。

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ボリュームはスムーズに進めば1時間以内でのクリアできる。しかし、入り組んだ謎と個性豊かな仕掛け、手に汗握る戦闘も相まって、密度は濃い。また、更なるやり応えを求めるプレイヤーに向けた「ヘルモード」を無料のダウンロードコンテンツとして用意するなど、アフターフォローも万全だ。

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▲東京ゲームショウ2018の展示にて。

東京ゲームショウ2018の展示では、MSXを知らない若い世代も並び、謎の数々に頭を悩ませつつも楽しむ姿を見ることができた。筆者は、女性のプレイヤーが笑顔で遊んでいたのがとても印象に残っている。そんなMSXの時代を知らない世代にも楽しめ、当時を生きた世代にも限界に挑む作者の本気とMSXへの並々ならぬ愛に溢れたゲームに仕上がっている本作。探索アドベンチャーとしての出来も非常によく、遊び応え抜群なので、興味があれば是非、プレイしてみて頂きたい。現代にも通じるゲームが作れるMSXの底力に触れてみよう。ゲーム作りに興味のある方は、付属の技術書も要チェックだ。

[基本情報]
タイトル:『タロティカ・ブードゥー』
制作者: TPM.CO SOFT WORKS
クリア時間: 1~2時間
難易度:初級~上級者向け
対応OS: PC(Windows)
価格: ¥980

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