目的を果たせば物語は始まり、ゲームは終わる!?衝撃の“始まる”探索アドベンチャー『始まりのダンジョン』

アドベンチャー,フリーゲーム

今回ピックアップする『始まりのダンジョン』は、文字通り“始まる”ダンジョンが舞台のゲームだ。

舞台となるのは「アンスナック」という村の奥にある廃坑道。そこを探索し、目的を達成することで物語が「始まる」のである。

「なるほど。つまり、始まることで本格的な大きな物語が描かれていくのですね?」「複数の物語を楽しめるゲームということか?」と考えるかもしれない。

しかし実際は、そんな物語が描かれることはない。始まるだけなのだ。大事なことなので繰り返そう。始まるだけである。

始まった先には始まりしかない。それが本作『始まりのダンジョン』の正体なのだ。

「……なんのこっちゃ?」と思われるだろうが、本当に重要なことなので改めて説明しよう。ダンジョンを探索し、目的を達成しても始まるだけである。「終わり」ではなく「始まり」。それが本作なのだ。

新米自警団員の物語は、廃坑道に現れた魔獣退治を果たすことによって本格的に「始まる」

「なにがなんだか……」と思われるだろうが、まずは作品情報を紹介しよう。本作『始まりのダンジョン』は、2025年4月より「ふりーむ!」「フリーゲーム夢現」で配信されている、RPGツクールMZで制作されたWindows PC向けフリーゲームだ。

内容は見下ろし視点のマップ探索と謎解きを主軸としたアドベンチャーゲーム。ただし、ツクール製アドベンチャーゲーム定番の鬼ごっこや時間制限イベントといったアクション要素は完全にカット。戦闘要素もなく、マップ探索と謎解き、そしてストーリーに比重を置いた作りとなっている。

そして、ストーリーに関しては冒頭で言及したように一風変わった試みを行っている。一部の情報を省略し、オープニングで語られるストーリーを紹介しよう。

舞台となるのは「アンスナック」という村。この村の自警団に所属する主人公「ニアネス」は、聖歌を勉強中の妹「イアミア」と2人で暮らしていた。

ある日、ニアネスは村長から魔獣退治の依頼を受ける。なんでも村の奥にある廃坑道に魔獣が1匹現れたという。数は少ないものの、場所が場所だけに放置すれば村の住民に被害が及びかねない。しかし、魔獣退治の経験が豊富な自警団の長は現在、森の魔獣退治で村を離れている。

そこで自警団に入団間もない新人で、村に待機していたニアネスに白羽の矢が立った。新米のニアネスには荷が重い任務だが、彼女は村の安全を守るため、魔獣の現れた廃坑道へと向かう。果たしてニアネスは無事、魔獣を退治できるのだろうか?

以上がオープニングストーリーだ。要は新米自警団員の奮闘を描く内容で、件の魔獣退治こそが「始まり」を告げる引き金となる。

詳しい流れは伏せるが、ニアネスが魔獣退治を成功させることで、本作のストーリーは本格的に「始まる」のだ。そして、そのままゲーム終了である。

大事なことなので、もう一度言おう。ゲーム終了だ。

「これ以上先のストーリーにプレイヤーが干渉することはできません。彼女たちの未来に幸あることを祈りましょう」と言わんばかりにシャットアウトされてしまう。これこそが本作の核心。始まってしまうと遊べなくなってしまうアドベンチャーゲームなのだ。いわゆる打ち切り。「俺たちの戦いはこれからだ!」のアレである。

そのような仕掛けを盛り込んだストーリーになっている。当然ながら、始まってしまうと、その時点で明かされなかった謎も永久放置に。

「なぜ魔獣が現れたのか?」「ニアネスはその後どうなるのか?」などの気になる事柄のすべてが、「それらは始まりの先で明らかになりますが、プレイヤーが知ることはできません!」と閉店ガラガラの勢いで追い出されてしまう。

そんな訳で、始まってしまったら諦めるしかない。だが、どうしても納得がいかないなら……時間を遡って別の「始まり」を探すのである。

長い前置きになったが、これが本作のアドベンチャーゲームとしての正体。パラレルワールド的な題材を扱った、周回前提の内容なのだ。魔獣退治を機に「始まる」ストーリーを、可能な限り謎を放置せずに始めさせるため、最良の「始まり」を探すことがプレイヤーに課せられる目的なのだ。

具体的には全部で4つある「始まり」への到達を成し遂げる形だ。そのために「始まり」を起こす出来事の直前まで遡ることを繰り返し、別の可能性を探ってよりよい「始まり」への到達を目指す。それが本作の最大の特色であると同時に、魅力となっている。

後味は悪くないが生殺しの極みな「始まり」!そして、謎がひも解かれていく快感に満ちたストーリー

特に「始まる」ことで、プレイヤーが「これ以上は知る権利なし」と言わんばかりに追い出されてしまう作りが大変面白い。いわゆる「バッドエンド」に等しい仕掛けだが、本作が面白いのは後味が全然悪くないこと。

今後のさらなる展開と、ニアネスたちの辿る運命を予感させる「始まり」ばかりで、強い興味と関心を誘うと同時に、「どんなストーリーになるのか見てみたい!」との気持ちにさせるものになっているのだ。「始まったことで、ニアネスたちにはさらなる悲劇が……」とか、「この世界の命運はもう……」みたいな絶望感は全くない。

「きっと何かを成してくれそう」「残された謎が明かされそう」という期待感を抱かせ、前向きな気持ちにさせてくれる、まさしく「始まり」らしい引きが表現されているのである。そして「ぜひ続きが見たい!見させてくれ!」という思いも生まれる。

ところが……プレイヤーは干渉できない……!退場である……!これで退場……!

まさに「生殺しの極み」な体験を提供する作りなのだ。前述したが、まさに打ち切りのそれ。長年購読してきた連載漫画が突然終わってしまい、後で起きる展開を見ることができなくなって悶絶するのに等しい体験が凝縮されている。

正直、「バッドエンドよりもエグいやんけ!」と思うかもしれないが、これが本作の面白いところであると同時に、ありそうでなかった新鮮な体験が得られる部分となっている。そして、ちゃんと消化不良感もなく「始められる」内容になっている。

念のためお伝えしておくが、本作のストーリーは未完ではない。最終的には謎が一切放置されることなく、スッキリできる形に収束する設計になっている。同時にプレイヤーの興味・関心を強烈に誘う工夫と仕掛けの巧みさが異彩を放つ。

特に素晴らしいのが謎の散りばめ方と回収の仕方。「始まり」にはあらかじめ想定された順番(※1から4と辿る)があるのだが、その順番通りに進めていくとストーリー上の謎が絶妙な塩梅で残るようになっていて、自然とプレイヤーに次の「始まり」を探し出すやる気を刺激してくれる。

さらに順番に沿って行くことで、探索アドベンチャーゲームとしての作りが進化していく構成にもなっている。本格的な謎解きが登場したり、行動範囲が広がるなど、できることがどんどん増えて歯応えとゲームとしての面白さが増していくのだ。

具体的にどう変化していくのかは、体験してのお楽しみということで紹介を控えるが、取り組むほどにゲームもストーリーも深まっていく過程にはワクワク感がフルスロットルになること間違いなし。そして、プレイヤーの興味と関心を絶妙に誘うフックに絡んだ要素の置き方、回収方法の上手さに唸ってしまうだろう。

ストーリーも見どころ満載である。新米の自警団員が魔獣退治に挑むという単純な内容だが、実は世界観や登場キャラクターたちの過去などが事細かに設定されており、意外に密度の濃いものに仕上げられている。

とりわけ必見なのは、村にまつわる歴史。詳しくは言えないが、「始まり」を探っていく過程で思いもしない真相が浮かび上がる展開には最後の最後まで釘付けになってしまうだろう。関連する情報を記した資料(アーカイブ)も豊富に用意されているほか、記されている情報量も多く、個々の内容を読み解くだけでも別のアドベンチャーゲームを遊んだのに等しい満足感が得られる。

ほかにキャラクターたちもニアネスを始めとする主要な面々に限らず、村長、シスター、自警団の長といったサブの面々にも活躍の場を用意していたり、ストーリーにほとんど絡まないモブにも印象に残る個性付けが図られているなど作り込みが細かい。主要な面々も好感が持てる性格付けがされており、中でもニアネスとイアミアの姉妹はその裏設定も含めて強く印象に残ってしまうだろう。

「始まり」によるシャットアウトという特徴の時点で既に面白いが、実はストーリー周りもゲーム部分も侮れない完成度。特にストーリー構成の巧みさと、世界観を始めとする設定周りの基盤は素晴らしいものがあり、決して「始まる」ことによるユニークさだけで攻めた作品ではないことを思い知らされるはずだ。

同時に「始まる」ことによる後味のよいシャットアウトも、色んな意味で印象に残ってしまうこと間違いなし。「バッドエンド」のような絶望感を感じさせないその締めくくりは、ある意味、本作の設定あってこその面白さと個性があるので、気になればぜひ体験してみてほしいところだ。

ただ、人によっては強い消化不良感を感じてしまう側面もある。そこは念のため、ご用心を。

さまざまな謎を解き明かし、最良の「始まり」を見つけ出そう

ちなみに「想定された順番」と前述したように……「始まり」の探り方はやり方次第で順番を飛ばして進めることも可能。

だが、声を大にして言わせていただく。これから本作をプレイされるという方は、初回プレイではなるべく想定された順番の「始まり」を辿って欲しい。飛ばす遊び方に関しては、2周目以降のお楽しみとするのがベストだ。

なぜそうした方がいいのかはすべての「始まり」を辿れば分かるはずだ。ひとまずは順番通り楽しんでみてほしい。そうすれば、強く推奨する意味と面白さに気づけるだろう。(そもそも、初回プレイで順番から外れた遊び方をするのは地味に難しかったりするのだが)

なお、本編のボリュームはすべての「始まり」への到達を成し遂げるだけでも2~3時間ぐらい。規模的には中編だが、前述したストーリーの情報量の多さと、徐々に進化していく謎解きとマップ構成もあって、物足りなさはほとんど感じさせない。むしろ、一通りやり終えた時には体感10時間ほどのアドベンチャーゲームを遊び終えたかのような充実感が得られるはずだ。

「始まり」を探すことを筆頭とする謎解きも、行き詰まった時に便利なヒントが豊富に用意されているほか、バリエーションにしても脳味噌フル回転な複雑なパズルはないので取り組みやすい。そして、どんどん解き明かしていきたくなる面白さに満ちている。

そこも実際に遊んでのお楽しみなのだが、ひとつのひらめきと“何か”の獲得を機にテンポよく道が切り開かれていく快感は、人によっては“某レジェンド”を錯覚させるかもしれない。そもそも、本編にはそんな“某レジェンド”を思わせるネタもあったりするのだが……。

総じてストーリー主体のアドベンチャーゲームとしても、探索と謎解きに焦点を当てたアドベンチャーゲームとしても意欲的かつ、確かな面白さを持った仕上がりの本作。唯一、普通にシステムとしての戦闘を用意していれば劇的に映えたであろうイベントが存在するのが惜しいところだが、完成度の高いその仕上がりは間違いなく傑作と言える。

魔獣退治を機とするさまざまな「始まり」の物語をぜひ、その目で確かめてユニークすぎる消化不良感を味わってみてほしい。そして、さまざまな謎と秘密を解き明かして、最良の「始まり」を見つけ出すのだ。

アナタたちの戦いはこれからだ!(次回作にご期待ください?)

[基本情報]
タイトル:『始まりのダンジョン』
作者:静江有星/砂十屋
クリア時間:2時間半~3時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
・ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/33672

・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_13568.html

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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