ある意味「最もリアルな恐怖」を再現した『Neverending Nightmares』の悪夢について

インディーゲーム,ホラーゲーム

昨年末、日本語版が公開され話題になった海外発のインディホラー『NeverendingNightmares』。制作したInfinitap Gamesの設立者Matt Gilgenbachがゲーム制作に悩み、強迫性障害や鬱病といった精神疾患に苦しんでいたときの状況をゲームにしたというものだ。

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このゲームには当時の制作者の精神状態が映し出されている。

2013年9月には、Kickstarterで10万ドル(約1,000万円)の資金を集め2014年9月に英語版が、12月に日本語版がリリースされた。

コンセプトからして非常にインパクトのある作品だが、果たしてどんなプレイ感なのか気になるところだ。さっそく筆者もプレイしてみたが、ホラーゲームとしても文句なしに怖い。そんな本作のレビューをお届けしよう。

※なお、本レビューのSSには流血等の過激な表現が含まれるのでご注意いただきたい。

じわじわと追い詰められる悪夢の再現

このゲームは、主人公のトーマスを操作して、悪夢の中を探索したり、襲ってくる恐怖から逃げながら進んでいく、いわゆる脱出ゲームだ。

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跳ね起きるトーマス。周りには誰も居ない

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白黒、そして血の赤色が混ざる世界でドアノブや道具、絵など色がついている箇所を調べることができる。

このゲームで脱出するのは「悪夢」。
各チャプターとも進むにつれ、部屋が汚く、そして凄惨になっていく。もちろんドッキリ要素や怪物に襲われる怖さもあるのだが、何より徐々に不気味さを増していく見せ方が一番怖い。

そして「悪夢」の果てにあるチャプターの結末はどうなるのか?
悪夢を見たことがある人は思い出してほしい。その最後はハッピーエンドで終わっただろうか?悪夢というのは、多くの場合、追い詰められるような状況が続き、最後に自分の死や大きな苦痛、悲劇などの非常に嫌な場面を迎えたところで目が覚めるものだ。このゲームではそういった点を見事なまでに生々しく再現している

つまり、悪夢の中を探索し、追い詰められながら、最後に待ち受ける各チャプターのラストの場面は達成感のあるものではなく、その正反対で非常にショッキングな結末だ……。そして、その後は常にまたベッドで起きるところから次の悪夢が始まるという形でチャプターがつながっていく。

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探していたガビィという女性の墓を発見し崩れ落ちるトーマス。

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視界が閉じ、目を覚まして再びベッドから起きるシーンになる。新たなチャプターがスタート。まぶたの動きが再現されているような描写も特徴的。

独特なグラフィックと息切れがもたらす恐怖

このゲームのグラフィックは基本的には白地に黒で線を描いたグラフィックで非常に独特だ。主人公のトーマスの動きは非常になめらかで、まるで絵本の中でプレイしているかのような錯覚を覚えるほど。

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このモノクロな雰囲気もまた精神病的を彷彿とさせ、血の赤色を際だたせることになる。

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現れる敵もおどろおどろしい

なお、突然現れる敵はそれぞれ対処法があるので、ぜひ自分で発見してみていただきたい。非常に簡単な特徴しかないので、慎重に考えればクリアまではそう時間がかからないはずだ。

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闇が濃くなっていく…

主人公のトーマスは歩く以外にも走ることができるのだが、この走るコマンドが曲者。早く移動して敵から逃げるためにも、そもそも早くこの悪夢から逃れるためにも、走りたくなるのは必然だ。しかし、このトーマスは喘息持ち。走ると苦しそうに息切れの声が聴こえるようになる。この「ぜーぜー」という非常に苦しそうな声はプレイヤーに悪夢の中で必死に逃げようとする主人公の心境を感じさせるに十分な力がある。ヘッドホンをつけて耳元でこの声を聞いていると、まるで自分自身が悪夢の中にいるような、そんな感覚になるのだ。

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長時間走り続けると息切れを起こして立ち止まってしまうので敵から逃げるときには注意しよう。

『ゆめにっき』を彷彿とさせる意味深な展開

肝心のストーリーはどう展開していくのかというと、正直良くわからないという人が多いのではないかと思う。主人公が探しているガビィという女性は彼の妹なのか妻なのか、そして悪夢の中にかかっている写真に映っている人物も誰なのか、非常に謎が多いゲームになっている。それもそのはず、このゲームは悪夢なのだから。理にかなったストーリーが順序良く展開されるわけではない。

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一度クリアしたチャプターは選択できる。途中から分岐があり、エンディングは計3つ用意されている。各エンディングが意味するものとは?

深く考え過ぎない方がいいのかもしれないと思いつつ、どうしても意味合いを考えてしまうのがプレイヤーとしての性なのだろうか。まるでカオスのような世界を提示し、プレイヤーにその解釈を丸投げするゲームとしては日本のフリーゲーム『ゆめにっき』を彷彿させる。

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ゆめにっき』(2004)。こちらも何度も繰り返し夢の中を歩いていくアドベンチャーゲーム

しかし、この『Neverending Nightmares』には制作者も明言している目的がある。
それは、制作者Matt Gilgenbach自身が経験した精神病の世界を具現化したいということ。

この作品は、極めて個人的なプロジェクトです。
私自身が精神の病に苦しんでいた感覚をそのままゲームに反映しています。
強迫性障害と鬱に苦しんでいた思いを、
誰かに上手く伝えることがなかなかできませんでしたが、
このゲームの雰囲気から、私が感じていたものを知ってもらえればと思います。

また、公式ブログの中で、このゲームで達成したいことを2つ挙げており、「精神病が忌避されるのでものではなくもっと世の中で理解されるようにすること」そして「今も精神病に苦しむ人達に、1人だけではないと伝えること」だと言う。制作者の想いが強く込められた目的を持って作られたゲームだということが分かる。

制作者は、言葉を尽くして説明するよりも、自らの感じていた身体感覚をゲームという場で再現することでゲームプレイヤーに制作者自身の感覚を追体験させたほうが、より良い理解に繋がると判断したのだろう。そう考えると、ゲームの状況が言葉ではあまり語られないことにも一定の納得はいく。もちろん、その試みが成功しているかどうかは他ならぬプレイヤー自身が決めることなのだが。

筆者がこのゲームをプレイしたときに、真っ先に感じたのは「病んでいる」ということだ。絶え間なく繰り返される悪夢の体験は恐怖そのものだ。その恐怖はいわゆるホラーゲームをプレイして感じる怖さではない。何か自分が逃れられない世界に囚われ、1人彷徨っている、まさにその怖さを体験できる

プレイする時はぜひ覚悟して挑んでいただきたい。そして、ぜひその体験をこの制作に至ったストーリーとともに共有するのが、このゲームの楽しみ方ではないだろうか。

[基本情報]
タイトル
Neverending Nightmares
制作者  Infinitap Games
クリア時間 2~3時間程度(エンディングは3つ)
対応OS等 Windows XP 以降(Playismより購入できる日本語版はWin版のみ、Steam等で購入できる英語版はMac/Steam OS/Linux/Ouyaに対応)
価格 1480円

PC向け日本語版のダウンロード
Playism