点をつなぎ、怪獣を追放せよ―鋭利で毒のある現代風刺も込められたフリーゲーム問題作『Sayonara Sigil Sentry』
1991年、スペイン。北西海岸において、コードネーム「Peones」(ペオネス)と呼ばれる巨大な敵対的異常が複数発見される。
政府はただちに空軍による爆撃を試みるも、敵は驚異的な再生能力を持っていたことから、十分な効果を得られずに終わる。しかしながら、空爆で彼らの肉片を引き裂くことには成功。ただちに陸地に散らばった肉片の回収が行われ、研究チームによる分析が開始された。
結果、敵はケルト神話の妖精(フェイ)と全く同じ体質を持っていることが判明した。
スペインのガリシア州、アストゥリアス州のケルト神話および民俗学研究グループは、分析結果を受けた調査で、伝承から各個体の名前を魔法の紋章で綴ることによって“追放”ができる可能性を発見。すぐに大規模な紋章作成遠隔兵器「Sigil Sentry(シジルセントリー)」の開発・製造へと乗り出し、それを完成させた。
あなた(プレイヤー)は「シジルセントリー」のパイロットである。「シジルセントリー」はキーボード、あるいはゲームパッドで遠隔操作ができる。さあ、兵器の動作テストを完了させたのち、巨大な敵を“追放”するためのミッションに挑むのだ!
そんなオープニングと共に幕を開けるのが、今回ピックアップする『Sayonara Sigil Sentry』(さよならシジルセントリー)。2025年3月27日より、Steamで配信中のWindows、Linux(SteamOS)向けフリーゲームである。
完成図と指示される順番に従って紋章を作り、怪物の攻撃をよけながら魔法陣を完成させろ。
どんなゲームかをひと言で言えば「点つなぎ」だ。
具体的には自機の「シジルセントリー」を動かし、四角形のマス目(グリッド)で構成されたフィールド上に紋章を順番に沿って作成。指定された完成図……作中諸々の設定にちなんで「魔法陣」と呼ぶことにしよう。それを完成させていく。
魔法陣が完成すると、敵の「ペオネス」にダメージが入る。そして、一定回数完成させられれば「ペオネス」は追放(Banished)。ステージクリアとなってストーリーイベントを挟んだのち、次のステージ(新たなペオネスとの戦い)が始まる感じだ。
乱暴にまとめるならば、点つなぎボスバトルゲームといったものである。
構造的にはアクションゲームと、パズルゲームの要素を含んだものになっている。システム周りにも自機と敵におけるダメージの概念や、リアルタイムで展開される魔法陣作成と敵の攻撃といった双方のジャンルを思わせるものを持つ。

どことなく個性の強さを匂わせているが、遊び自体は「点つなぎ」なのでワリと単純。1マスずつ自機を動かして、紋章を作っていくだけ。それ以外の操作はない。(あるとしたら、紋章を作る順番を間違ってしまった時のリセットぐらい)
ただ、紋章が作られるのは自機の先端部分。現在、自機がいるマス目の上には作られず、そこから1マス空いた先(現在のマスから数えて2マス目)になるという性質がある。
このため、フィールド上には絶対に紋章を作成できないポイント(※最下部のマス目すべて。逆に上部は最大2マス外部にも紋章を作れる)も存在し、それを念頭に入れた上で魔法陣の完成を目指す必要がある。

また、魔法陣は必ず順番通りに紋章を作成しないと完成とならない。その完成図および紋章を作る順番(指示)は、画面の左上に常時表示されるため、それを参照しながら取り組むのが鉄則となる。
なお、魔法陣を完成させると完成図が更新され、新たな魔法陣と順番が表示。そのため、「ペオネス」を追放するまでは、何個も異なる魔法陣を完成させることになる。

さらに一連の作成は敵の「ペオネス」がいる中で行う。当然、相手はこちらに攻撃を仕掛けてくる。それに自機が触れれば、もちろんダメージ。そして、必要以上にダメージを受けすぎて、左上の完成図の真下にある耐久力の数値が0になればミッション失敗だ。よって、作成に当たっては敵の攻撃の回避も必須である。
このような特徴的なルールや要素もあり、単純な点つなぎに終始しない内容にまとめられている。まさしく「点つなぎボスバトル」で、パズルあり、アクションありのさまざまジャンルとそれにちなんだ戦術が交差するゲームになっている。
怪獣映画で特殊な兵器などを使って決死の戦いを繰り広げる兵士の緊迫感を味わえる、不思議な点つなぎが誕生
魅力についても分かりやすい。
点つなぎとボスバトルが交差するその内容とゲームシステム全般だ。

パズルゲームの問題を解いているようで、アクションゲームをやっているかのようなその内容は、ありきたりな表現だが摩訶不思議としか言いようがない。基本は前述したように、画面左上に出された完成図と順番に沿って、マス目のフィールド上に紋章を作り、魔法陣を完成させるだけなのだ。
なのにボスが攻撃を仕掛けてくるわ、それを避けながら生き残らねばならないわと、アクションゲームみたいになる。加えて、それによって自分が倒されてしまいかねない危険も付きまとう。しかし、こちらからボスに攻撃を加えることはできない。できることは単純に紋章を作り、魔法陣を完成し続けることだけ。
まるでSF映画や怪獣映画における、特殊かつ回りくどい方法での戦いを余儀なくされた作戦を実体験するかのような遊びが確立されているのだ。相応に戦闘中(ミッション中)にもやたらと緊迫感が高まる瞬間が何度かあって、プレイヤー自身が現場でミッション遂行のために奮闘する“名もなき兵士”になりきった感覚に陥ることも。
中でも怪獣映画が好きで、現場で怪獣と人間たちが戦うシーンが好きな人なら、より一層なりきり感が爆発しちゃう……かもしれない。そんな気持ちを呼び起こす特徴もあって、なかなかに面白いシステムに完成されているのである。
当の怪獣ことボスたちも非常に個性的で、怪獣映画らしい緊迫感と兵士になりきる楽しさを大いに引き立ててくれる。特に個性付け、具体的にはボスそれぞれの攻撃全般が凝っている。
シューティングゲームの感覚でこちらに弾を発射してくるタイプは序の口。こちらを追尾しながら突進(体当たり)を仕掛けてくる、広範囲に広がる爆撃を繰り返す、果てはそれまでの情勢をひっくり返す大逆転技をかましてきたりと、まさにこちらに息つく暇をも与えない暴れっぷりを見せてくれるのだ。
魔法陣を完成させるたび、攻撃パターンがどんどん激しくなったり、大きく変わったりする様も必見。これと共に紋章を作るスキが少なくなったり、逆に早急な作成と魔法陣の完成を余儀なくされるなど、戦術全般の転換を余儀なくされたりもするのだ。主に本編後半に対峙する怪獣ほどこの傾向が強く、まさに文字通りの手に汗握る点つなぎが繰り広げられる。
このパターン変化によって、単純な遊びである点つなぎに起伏を作っているのも見逃せない部分だ。おかげで展開がワンパターンになりにくく、常に刺激を感じながら紋章作りと魔法陣の完成を楽しめる。
ミッション中に作る魔法陣および順番が固定でなく、毎回ランダムなのもワンパターン化の防止に一役買っている。紹介が前後したが、完成させる魔法陣は常にランダム。作成する紋章の数が少なくなったり多くなったりを繰り返すのだ。ある時は3つ作れば十分なのが次は4つになったり、6つになったり、逆に3つに戻ったりなど、どんな指示が出てくるかは読めないのである。
これもワンパターン化の防止策として見事に機能しており、それぞれのミッションをほのかに盛り上げてくれる。ほかにもミッションによっては進入不能な障害物が登場したり、マス目の総数が少ないみたいなパターンもあったりする。
実際にプレイしてみれば、よく点つなぎをこんなに緊迫感があって、遊び応えのあるゲームに昇華させたなと感心させられるはず。「なんか単調そう」との先入観を持った上でのプレイなら、なおのこと「全然そうじゃない!」と驚かされるだろう。
その意味でも誇張抜きに前例のない体験が得られるゲームである。また、点つなぎそのものは脳を鍛えるトレーニングとしても有効との話がある。本作はボスバトルのおかげで、脳内の思考力のみならず処理速度も試されるところもあるので、その辺を鍛えるゲームを探しているという人にもオススメできる……かもしれない。科学的証拠はないのだが。
けど筆者は「おそらく一定の効果はあるはず!」とお伝えしておきます。
現代社会への強烈な風刺が込められたストーリーは賛否不可避。毒々しい雰囲気も漂う意欲作にして問題作
また、本作には極めて毒気の強い見所がある。ストーリーと世界観だ。

実は本作のストーリー、現代社会への強烈な風刺が込められたものになっている。あらすじこそ、特異な体質を持った怪獣に特殊な兵器で挑むという王道っぽさのあるもの……なのだが。怪獣の体質にまつわる起源と真実が明らかになって以降、おぞましい展開を見せていくことになる。
これ以上のことは刺激が強すぎるため省略する。正直、かなりメッセージ性の強いもののため、人によっては拒否反応を覚えるかもしれない。精神的恐怖を煽るビジュアルが多々出てくることにも注意が必要だ。
ただ、こうした現代社会の風刺は怪獣映画にも見られるもの。その意味では非常に“らしさ”と現代に作られたなりの特色を持ったストーリーにまとめられている。
割と題材がキツめなのと、本編が日本語に対応していないため、翻訳しながら読む手間が生じるところもあるのだが、少しでも気になったら覚悟の上で確かめてみていただきたい。色んな意味で本作のことが忘れられなくなってしまう……か、嫌悪感を持つことになるだろう。とにかく繰り返しになるが……覚悟の上で。
ほかにグラフィックはここまでのスクリーンショットの通り、赤と緑を基調にした古風かつ切り絵を思わせる独特なものになっている。若干、毒々しさも感じられる一面もあって、とりわけボスたちの容姿には人によっては名状しがたきなにかを感じるかもしれない。

音楽もこうした見た目を踏まえてか、全体的に雰囲気重視。ただ、戦闘時に巨大な文字が表示されるのを始めとする演出と、世界観の特色もあって妙なインパクトを宿したものになっている。どこかゾッとするような生々しさも感じられるものになっているので、興味があれば耳を傾けてみていただきたい。
ボリュームもスムーズに進められれば1~2時間ほどでクリア可能と小規模。難易度もホドホドの手応えに収まっている。
ただ、後半には少しでも判断が遅ければ詰みかねない戦闘があるなど、やや荒っぽいところも。また、視認性に関しては基本は問題ないのだが、左上の完成図および指示が薄暗すぎるところがあり、もう少し明るくして欲しい……との欲が生じてしまうかもしれない。
とは言え、全体的には意欲作にして(正しく)問題作と言えるタイトルだ。冒頭にも書いたように無料で遊べるので、少しでもこのゲームシステムに興味を抱いたならお試しを。紋章を作って魔法陣を完成させ、怪獣を現世から追放しよう。
だが、真なる怪獣は別にいることを忘れるなかれ。
[基本情報]
タイトル:『Sayonara Sigil Sentry』
作者:ApeHardware
クリア時間:1~2時間
対応プラットフォーム:Windows、Linux
価格(税込):無料
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