ゲームの半分はフリーゲームとして作り続けたい ―開発者SmokingWolf氏インタビュー(前編)

インタビュー,インディーゲーム,フリーゲーム

ゲーム開発ツールというと何を思い浮かべるだろうか。フリーゲームではRPGツクールやWOLF RPGエディター、吉里吉里などを使ったものが多い。最近ではUnityやUnreal Engineといった高機能でリッチな表現が可能なものも増えてきた。

最も根幹となるゲームシステムをはじめ、グラフィック、サウンドなど様々な要素が総合的に組み合わさっているゲームの制作を支えているゲーム開発ツールの役割は大きい。

その一つWOLF RPGエディターは個人開発者が提供しているものだ。2008年から提供を開始し、多くのフリーゲーム制作者が使用している。提供しているのはSmokingWolf氏。自身もゲーム開発者でもある。

ゲーム開発を進める中で、「自分が作りたいようにゲームを作るために制作ツールを自前で作った」というSmokingWolf氏。フリーゲームを自由な発想で作りながら、ゲームを有料で売っていく方法も模索している。どのような想いでゲームを開発しているのか、話を伺った。今回はその前編となる。

16年間作り続けて

――これまでのゲーム制作について簡単にご紹介いただけますでしょうか。

SmokingWolf
1998年に処女作『レジェンドオブレストール』を開発し、同年にサイトを設立して『レジェンドオブレストール』をサイトで公開して以後、16年以上に渡って『シルフェイド』シリーズや『WOLF RPGエディター』、『片道勇者』などを開発してきました。10年ほど前まではフリーゲームのみ開発していましたが、それ以後はフリーゲームとシェアウェア(有料)ゲームを交互に開発しております。

――16年間も開発されているのですね。『レジェンドオブレストール』まではゲーム制作はされていなかったのでしょうか?

SmokingWolf
初めて完成させたのが『レジェンドオブレストール』でした。それまではただ、RPGツクールで村を一個作ったり、壮大な構想を形にしようと素材だけ作って満足する日々が5年ほど続いていました。なので作ること自体は続けていたのですが、形にはならなかった、という感じです。

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SmokingWolf氏の処女作『レジェンドオブレストール』。シミュレーションRPGツクール95で制作されているが、その内容は破天荒なキャラたちによるハチャメチャな物語が展開されるアドベンチャーゲームとなっている

――おお、ツクールを5年ほど使い倒していたわけですね

SmokingWolf
はい、その過程でドット絵の作り方を練習したりもしていましたので、形にはならずともいい修行になっていたと思います。

――なるほど。そういった制作練習の過程で、『レジェンドオブレストール』を作り上げるための基礎力も備わった流れなのですね

SmokingWolf
はい、特にアルゴリズムの組み方に関してはツクールの機能の進歩にともなって徐々に習得できていったところが大きいです。新たなツクールが出るたびに少しずつ変数操作の機能が強化されていって、『レジェンドオブレストール』の頃にやっとまともな条件分岐が出来るようになって、そこから真に楽しい開発が始まったような気がしています。

別にたいそうなものを作らなくていいんだ

――そもそもの話になってしまいますが、WOLFさんはもともとゲーム会社で作ってたわけではないですよね?ゲームづくりのきっかけはどういうところだったのでしょうか

SmokingWolf
はい、ゲーム会社で作ってたわけではなくて、ずっと独学でゲームを作っています。スーパーファミコンの『RPGツクール SUPER DANTE』というゲームに触れてゲームを作る楽しさと可能性を知ったのが、ゲームづくりに最初に触れた瞬間だったと思います。

その後から『レジェンドオブレストール』までの経緯もちょっと説明しますと、その後5年くらいはRPGツクールDante98IIやRPGツクール3、RPGツクール95、シミュレーションRPGツクール95などいろいろなツクールを渡り歩きつつ、何か作ってみても自分の中で目新しさが出せなかったりして作り続ける意義を感じられず、結局一本も完成しませんでいた。
ある日、たった3時間くらいで作った『レジェンドオブレストール』の1話を友達に見せたところ、随分と笑ってくれたのがきっかけで「ああ、これでも楽しんでもらえるんだ!」と何かに目覚めました。「楽しんでもらうためには別にたいそうなものを作らなくていいんだ」と理解して、やっとゲームを完成させられるようになりました。そこがゲームづくりの第二のスタートでしたね。

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3時間くらいで作ったという『レジェンドオブレストール』。後の『シルフェイド』シリーズなどに繋がる軽快な台詞回しなど、豊富なアイデアの片鱗を見ることが出来る

――いわゆる長編・大作のような出来上がったものではなくて、コンパクトでも企画・アイデアの面でも面白がらせることが出来たという体験をされたんですね!

SmokingWolf
はい、その思い出が、今のゲーム開発にも繋がっている重要な原体験だったように思います。

―― 一番最初にツクールに手を出して作ってみたのは、いろんなゲームを遊ぶ中で、ツクールが目についたからなのでしょうか。

SmokingWolf
確か当時はインターネットなども普及していない時代で、私がたまたま中古ゲームショップに寄ったときに運良くRPGツクールに遭遇しました。これまで見て来たどんなゲームよりもそのタイトルは衝撃的で魅力的でしたね。

――他に、何か印象に残っているゲームなどはありますか?

SmokingWolf
当時の他のゲームはいっぱいありすぎて、すぐこれというのは思い出せないですね。ああ、スーパーファミコンなら『メタルマックス2』が非常に思い出に残ってます。

――『メタルマックス2』は特徴的な作品ですよね。戦車を改造して戦うRPGなんですが、たしか仲間に犬も連れて行けるという…(笑)

SmokingWolf
それまでのゲームと違った雰囲気が衝撃だったんでしょうね。あと私がミリタリーぽい雰囲気を好むのもありましたから、フロントミッションも好きでした。ああ、そうだ当時としては忘れてはいけないのがスーパーファミコンのサテラビューですよ!

――サテラビューとはまた懐かしいものを…

SmokingWolf
衛星通信(というのかな?)でゲームをダウンロードできる衝撃は忘れられませんでした。
あれも新しいゲーム観を教えてくれましたね。自分もこういうのに乗せて配信出来たら……!という夢を抱いたりもして。そのあと数年くらい経ったら、インターネットが普及して自分で同じように広く配信できる立場になっちゃいましたけど。

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――ミリタリー系が好きというのは意外ですね(笑)。てっきりローグライクなどがくるのかと思っていました。制作されている作品のテーマを決める際は、どのような考えで決めておられるんでしょうか。

SmokingWolf
私はたぶんゲームシステムから作ることが多くて、そのシステムの上に乗せるにあたって「作りやすい」テーマや雰囲気を乗せたほうがいいなという判断をしています。作りやすさの面で考えると、ミリタリー系って素材がないので、好きなんですがコストの都合で断念することが多いですね。

ローグライクそのものは『不思議のダンジョン トルネコの大冒険』や『不思議のダンジョン2 風来のシレン』によって新たなゲーム観に目覚めさせてくれて、とても面白かったと感じているんですが、他に触れてきたゲームも同じくらい魅力的だったのでローグライクに特別強い思い入れや情熱は持っていませんでした。というより、面白いものは基本的に何でも好きなんですよ。

「頭が変なんじゃないか」と思えるような

――たしかに、制作における素材はなかなか重要な問題ですよね。最近のフリゲを見ていると、素材が揃っているファンタジー系の作品がやはり多い印象です。

SmokingWolf
ええ、『片道勇者』もほぼ既存の素材だけで作ってしまいました。おかげでこうして完成させることができたとも言えます。重要なのはゲームシステムの方でしたからね。

――なるほど、重要と位置づけていた『片道勇者』のシステムを「ローグライク」と決めたのは、どういったきっかけだったんでしょう?

SmokingWolf
『片道勇者』の企画はまず最初に「強制横スクロールRPGを作る」というコンセプトだけがあって、それを成立させるために何が必要かを考えたときにローグライクのシステムが最適だと判断した、という流れでした。

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強制横スクロールRPG『片道勇者』(画像は追加要素版の『片道勇者プラス』)

――なるほど、強制横スクが最初にあったんですね。

SmokingWolf
はい、一目見て「頭が変なんじゃないか」と思えるようなジャンル名のゲームを作りたかったです。

――そんなきっかけが。 でも、たしかに「強制横スクロールRPG」と聞くと既存のゲームにはないアイデアですよね

SmokingWolf
「強制横スクロールRPG」なんて一覧に出ていれば、「なにそれ!?」って興味を引くかなと思ったんです。そういう意味では、もともとはただの一発ネタの立ち位置でしたね。

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『片道勇者』は、画面左から迫り来る「闇」に呑まれないように、右へ右へと進まなければいけない強制横スクロールのシステムが特徴的

――最近のインディゲームでは、意外なジャンルを組み合せるゲームも結構出てきてますからね。リズム×ローグライクの『Crypt of the Necrodancer』とか。

SmokingWolf
そうなんですよ! ゲームそのものの数も増えて、もはや「なにそれ!?」なことまでしないと注目されにくくなっている時代だからこそ、私も『片道勇者』の企画を最優先にしたのかなと今になって自分で振り返ってみて感じます。

ゲームの半分はフリーゲームとして作り続けたい

――「注目してもらう」という言葉にはプロモーション的な、いかに遊んでもらうか、という想いが込められているかと思います。ということでゲームを売っていく話を伺いたいと思います。フリーゲームとシェアウェアを交互に開発されているというお話でしたよね。

SmokingWolf
はい。シェアウェアの開発の始まりなんですが、私の就職活動が近付いてきたとき、身近な同級生が行くような業種に就職すると「心身はまだしも、少なくともゲーム開発者としては死ぬ」と直感していました。そこで就職活動が始まる前にゲーム開発で食べていけるか試しておきたくて、それが最初の有料販売に挑戦したきっかけです。

――生きるために有料販売に挑戦、ですね。

SmokingWolf
それ以後はゲーム開発で生活し続けられるようにするための生活の糧を得るために有料販売のゲームも作っているのですが、余裕がある限りゲームの半分はフリーゲームとして作り続けたいと思っています。
フリーゲーム開発には、自分が本当にゲーム作りが好きであることを確認できると同時に、一切のリスクなしに自由に実験ができる魅力があります。『片道勇者』だって、フリーゲームの枠でなければ生まれることはなかったでしょう。

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フリーゲームとして自由な発想で作り抜いたという『片道勇者』

――片道勇者は、当初フリーゲームでしたが、海外での有料販売や片道勇者プラスという形での有料販売という流れはどういう経緯だったのでしょうか。

SmokingWolf
実は『片道勇者』自体は、フリーの時点で開発を打ち切る予定でした。『片道勇者』は、いくら開発の労力をつぎ込んでもそれらが全部吸い込まれていくような感じのゲームで、もっと作り込めば面白くなるであろうことはなんとなく分かっていました。ただ、この作品に対しては当初は「収益にならないから」という理由で諦められる程度の執着しか持っていなかったんです。

――収益にならないから諦めなければいけないというのは苦渋の決断ですね。

SmokingWolf
結果として、自分の心も少し騙して、「もうこのフリーゲームのことを考えるのはやめよう、まず生活しなきゃ……」と考えていたので、「私の今の技術だとここが限界です」と理由を付けて、これ以上何かをしようという気持ちを沸かせないようにしていたところがあったんです。自分では信じたくなかったのですが、片道勇者は「未完」の作品だったのです。

ところが株式会社アクティブゲーミングメディアのPLAYISM(プレーイズム)さんから「片道勇者の英語ローカライズをして海外配信しませんか?」と声をかけていただいて、その少し後に「海外配信するにあたって、片道勇者に新要素を追加したバージョンを作りませんか?」と言われたんですよ。そうPLAYISMの人から言われた瞬間、私の中でモヤモヤしていたものが一気に晴れました。そのときようやく、「生活の糧にできないからこのゲームは無理にでもあきらめる」だったのが、「収益に繋げることができるなら、堂々と開発を続けていいんだ!」にスイッチが変わったのです。

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PLAYISMにて海外向けにローカライズ販売されている『片道勇者』

――実験的な作品が受け入れられるフリーゲームで開発を続けていて、それが商業にも繋がった瞬間がまさに転換点だったんのですね

SmokingWolf
はい。ただそれが収益的に成功したかというと、かなり雲行きが怪しい状況なんですけれどね。おかげさまで『片道勇者』は予想以上に評価されたのですが、過去の有料作品の収益と比べると『片道勇者プラス』の収益は今のところシェアウェアとしての前作『シルフェイド学院物語』の80%減です(日本販売分のみ比較)。

――かなり下がりましたね。

SmokingWolf
値段を前作から75%下げたら収益が80%下がったというシャレにならない状態になったのでこれからインディゲームに挑戦なさるご予定の皆さまは価格設定にはご注意くださーい!!

――なんと、安くしたらそれ以上に売れなくなってしまったということですね。

SmokingWolf
はい。でも、こういう失敗体験は大事だと思います。一番の目的は今後ゲームを売るにあたって、日本でのインディゲームの価格弾力性を今のうちに知りたかったというのがあります。要するに、「値段を下げるとどのくらい買う人が増えるのか」を実際の数値として知りたかったんですね。海外だと割引が行われているゲームや安価なゲームは安いというだけで買われていくんですが、日本だとそうならないことを学習できましたからよい経験ができたと思います。

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シェアウェアとして販売されている『シルフェイド学院物語』。SmokingWolf氏の過去作品からキャラクターが出演していることも特徴的なゲームだ

――なるほど、実験的な試みでもあったのですね。日々のツイートを見ていても、売上であったり販売方法など収益を上げるという点をかなり意識されていますよね。インディ開発者としてやっていくことに関して、先ほど価格の話がありましたが、他にも意識している点は何かありますでしょうか。

SmokingWolf
うーん、インディゲームの売り方はチームによって本当にまったく違っていて、しかもうまくいってるのかどうかも分かりづらいので販売戦略については本当に何とも言えません。たとえば私だと、全作品のうち半分をフリーゲームとして作ってある程度の知名度を維持し続ける方法をとっていますが、それが正解なのかどうかもいまだに分かりませんしね。それぞれのチームにとって最もやりやすい、一番売れるであろう方法を模索するような状況になっていて、それもインディの面白いところかもしれません。

私個人は、自分で意思決定ができ、完全に出来高制の独立開発で作るゲームの世界がとても楽しいと感じています。考えただけしっかり結果が出せるかもしれない世界なんて、ゲームの外じゃなかなか出会えませんよ!

――販売戦略についてはチームごとに最適なものを見つけるのがまず大事なんですね。フリーゲームをPRのような立ち位置で公開して、販売はシェアウェアのインディゲームで行なうというのはバランスが取れているように思いました。

SmokingWolf
問題は1回の収益までのスパンが長すぎるので、シェアウェアのターンで失敗すると大変なことになるところですね。どんなやり方も本当に一長一短だと思います。他にも、ばりばりコンシューマ進出しておられるチームがあったり、メディアミックスをばりばりされておられるチームがあったり、キックスターターを使ったりと本当に戦略が個性豊かです。最終的には、自チームに向いた方法を見つけられるといいですね。

インタビュー後編はこちら
「欲しい」と思われるものを作る―ゲーム開発者SmokingWOLF氏インタビュー(後編)

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。

  • すんくぼ(@tyranusii

    学生時代、MMORPG「リネージュ」で朝から晩まで飽くことなきレベル上げと戦争に没頭する毎日を送る。本業では廃人卒業後、国家公務員を経て、再びゲームの世界へ。「もぐらゲームス」を立ち上げました。ハマったゲームはライブアライブ、ファイアーエムブレム 聖戦の系譜、デモンズソウルなど。
    個人ブログもやってます:もぐらかペンギンか