脱出系タワーディフェンス(?)『Tower Escape』塔から逃げるための戦略を練り、エルフたちへの復讐の狼煙を上げろ!

インディーゲーム

今回、ピックアップする『Tower Escape』は上記スクリーンショット通りのゲームである。

スクリーンショットを見て、このゲームのジャンルをなんと回答するだろうか。
おそらく「タワーディフェンス」と答えるだろう。隊列を成して進撃してくる敵を迎え撃つ兵器・戦士などを配置し、時に強化を図りながら拠点の防衛に挑む、リアルタイム性の高いシミュレーションゲームだ。

ただ、様々な関連タイトルに触れてきた経験がある人なら、スクリーンショットだけを見るならこう感じるかもしれない。「随分と平凡なタワーディフェンスだな……」と。主に進撃してくる敵がゴブリンを始めとするモンスターで、迎え撃つのが騎士(ナイト)、弓兵(アーチャー)、魔導士(ウィザード)という辺りで平凡に感じてしまうのも無理はないだろう。

だが、その認識は大きな間違いである。本作は断じて平凡なタワーディフェンスではない。
そもそも、プレイヤーが指揮するのはモンスター側だ。迎え撃つ側ではない!

こちらはオフェンスだ。死霊術士となり、塔から脱出せよ!

つまるところ、本作『Tower Escape』はタワーディフェンスではない。
逆の立場を指揮することから、タワーオフェンスと称せるゲームなのだ。
シンプルに”逆タワーディフェンス”と称すのもアリである。

プレイヤーが扮するのは魔術王国にて、自らの責務に従事していた平穏な死霊術士(ネクロマンサー)。ある日、魔術王国は海の向こうよりやってきたエルフたちによって、あっけなく侵略されてしまう。主人公は逃げ延びた人々の救援要請に応じ、これに不死の軍団を派遣して抵抗を試みるも、エルフたちとの戦力差には叶わず敗北。挙句、彼らの罠に陥り、巨大な塔へと幽閉されてしまった。死霊術士はその強じんな生命力もあって殺すことができない。ゆえにエルフたちは幽閉という選択を取るに至ったのだ。

だが、彼らは主人公が魔導書「ネクロノミコン」を隠し持っていたことに気付いていなかった。かくして死の世界から仲間の召喚を試みた主人公はエルフたちへの復讐を果たすべく、塔からの脱出を目指す。このようなバックストーリーと共に本編は幕を開ける。

そのストーリー内容およびタイトル名からも明らかだが、最終目標は塔からの脱出。スタート地点は主人公が幽閉されている塔の最上階で、そこから階層を1階ずつ順に降りていく形となる。仮にその途上、主人公の生命力を示す「ハート」がすべて尽きてしまうとゲームオーバー。塔の最上階へと戻され、最初からやり直しになる。
また、それと同時に各階層の構造も変化してしまう。そんなローグライクの要素も盛り込まれていて、終始油断ならない戦闘(という名の脱出劇)が展開されていく構成となっている。

システム全般も逆タワーディフェンスだけに個性的な作りをしている。そもそも、プレイヤーのやることは進撃してくる敵を迎え撃ち、拠点を守る態勢を整えることではない。脱出するための進軍ルートを構築することだ。

階層こと各マップは、死霊術士が召喚したモンスターこと「ミニオン」たちを出口まで導くのが主な目的となる。まず初めに死霊術士が扮した「ヘビ」をマウス操作で動かし、ミニオンたちが進む出口までの道を作っていく。そのまま道を作りつつ、出口までヘビを到達させて左クリックをすると、ミニオンたちが進軍開始。あとは彼らが無事に到達するのを眺めればいいだけである。

本作はこの一連の流れをまとめて「Wave」と称している。タワーディフェンスではお馴染みのものだ。そして、やること自体は非常に単純に見える。だが、進軍ルート上には敵であるエルフたち「ガード」が存在。彼らはミニオンが射程範囲に入ると攻撃を仕掛けてくる。当然、攻撃を過剰に受けてしまえばミニオンたちはやられてしまう。しかも、タワーディフェンスよろしく、ミニオンたちを倒したガードは経験値を獲得し、次のWaveで「エリートガード」へとレベルアップ。さらなる脅威となってしまうのだ。

また、出口に到達させれば階層クリアという訳ではない。クリアするにはマップ上に配置された「カギ」をミニオンたちに回収させる必要がある。

このカギが規定数集まることで現在の階層はクリアとなって、次の階層へと進めるようになるのである。だが、1度のWaveでカギを集めきるのは困難。というのも、カギはミニオン1体につき1個しか所有できないのだ。また、カギを持ったミニオンたちがガードの攻撃でやられると、その場にカギを落としてしまう。やられたミニオンの後方に別のミニオンがいればその者が回収してくれるが、居なければ次のWaveでの再回収が確定。もちろん、次のWaveではエルフ側の戦力も強化。場合によってはカギを落とした所に新たなガードが配置され、難易度が上がってしまったりもする。

そうした仕組みもあり、意外に一筋縄ではいかない。合わせてWave進行と共に、プレイヤー側もどんどん不利な立場に(※敵が強くなっていく)。そんな逆タワーディフェンス特有の恐怖(?)も体験できるものに仕上げられている。

この基本の流れ以外にも膨大な要素が盛り込まれている。
詳しい解説は省略するが、Waveごとに得られたお金(コイン)を支払って新たなミニオンを召喚したり、能力強化を図る「ジェム」などを買ったり、カードゲームのデッキ編集のように進軍時の順番を決めるなどがその一端だ。

また、ミニオンたちは同じ種族同士を合体させることによる進化も可能。召喚できるミニオンも降りた階層のタイプ(属性)によって変化し、毎回、違った軍団が編成されるという見所もある。他にもプレイヤー自身が現在のWaveに介入する手段「スペル」、ミニオンたちのステータス以外に召喚・ジェム購入時の割引などの効果を及ぼす「レリック」など、特徴的かつ戦略性を高める要素は山盛りだ。

逆タワーディフェンスの時点でインパクト十分、悪く言えば一発ネタ感が漂う面もある。だが、実際はシステムからそれらを補う要素まで、非常に手の込んだ仕上がり。逆転の発想ならではの分かりやすさと楽しさを突き詰めた作品になっている。

逆タワーディフェンスという題材を突き詰めたゲームデザイン

そして、本作最大のセールスポイントは逆タワーディフェンスとしての見事な仕上がりである。

迎撃側ではなく、進軍側を指揮する逆の発想そのものは、ある意味、思いつきやすいネタである。様々なタワーディフェンス作品を遊んできたプレイヤーなら、1回でも「これが逆になったらどうなるのだろう?」と考えたことがあるかもしれない。
実際のところ、逆タワーディフェンスを作り上げた例は既に存在していたりする。2011年に発売された『Anomaly: Warzone Earth』がその一例だ。なので厳密なところ、本作の逆タワーディフェンスとしての作りは唯一無二とも、革新的とも言い切れない。

だがその出来は見事。特にローグライク要素と脱出にフォーカスした設計が異彩を放っている。

ローグライク要素に関しては、プレイするたびに変化するマップと敵の配置、そして力尽きれば最初からやり直しになるランダム性とスリルを演出するシステム全般だ。これらのおかげで毎回違ったマップ攻略が楽しめるのみならず、被害を最小限に抑え込むための戦略を練る面白さが表現されている。

元々、ローグライクは開始早々、戦力的に乏しいのがザラだ。だが、タワーディフェンスの場合、基本的に敵側が防衛側よりも戦力的に充実している傾向がある。その傾向を反映してしまうと、力押しでイケイケなゲームになり得る。
そこを本作はローグライク要素を用いて力押しな戦術を封じ、タワーディフェンス特有の戦略を練る面白さを異なる形で表現。まさに逆の立場に立つなりの考える面白さを確立させているのだ。

この逆の立場だからと言って、力押しするゲームにはしないとする工夫が上手い。また、なぜプレイヤー側が戦力的に乏しいのかという理由も死霊術士、幽閉されているといったストーリー側の設定などで説明し、納得感を出している。ゲームプレイにおいては、そこまで大きな影響を及ぼすものではない。ただ、そうした気配りを図っているのも、逆タワーディフェンスならではの遊び応えを表現しようとするこだわりがにじみ出ていて面白いところだ。

実際に戦略を練る過程も、逆タワーディフェンスならではのスリルと楽しさが表現されている。とりわけ秀逸なのが脱出にフォーカスしていること。

実は本作、敵のガードたちへの直接攻撃はほとんどできない。タワーディフェンスでは、そうした迎撃側に被害を及ぼす敵が登場するが、本作で指揮するミニオンにはそうしたタイプがいない。基本、脱出特化型なのだ。

そのため、基本的には逃げること第一に考えるだけでいいというお手軽感が出ている。それでも、侮れない。そもそも、敵のガードたちを倒せないということは、Waveを重ねるたびに戦力が充実していくことを意味する。同時に彼らの攻撃を避けられる安全地帯も減少。徐々にダメージ覚悟の脱出が試されるようになっていくのだ。そうした状況を緩和させたい……と思っても直接攻撃はほとんど無理!だからこそ、可能な限り最初のWaveでカギを回収し、Waveを重ねすぎて戦力が充実しない内に次の階層への到達を目指すことが大事。


▲安全地帯が……ない!

そうした制約もあって、侮りがたいのだ。そして、戦略の幅も広い。前述のように、カギが持てるのはミニオンにつき1個。なので、効率的に回収できるように出撃順序を編成したり、ダメージ覚悟の状況下なら、ガードにやられて失敗した時を補うサポート役を設けるフォローを考える必要がある。ミニオンの成長と進化、「レリック」と「スペル」の活用も重要だ。これで打たれ強くしたり、Waveに介入することによる支援を可能にすれば、より効率的で安全な脱出を実現できるようになる。だが、ローグライクなので、常に戦力が安定するとも限らず。そのことも踏まえ、別の順序を考えたり、はたまた戦力増強に必要な資金(コイン)を温存するということも時折必要になってくる。

まさに全編に渡って考えることのオンパレード。やることは脱出なのに、細部に渡って考えなければ平穏無事には済まないという巧みなゲームデザインとバランス調整が図られているのである。それでいて、Waveを重ねればどんどんプレイヤー側が不利になるという、逆タワーディフェンスならではの恐怖もきちんと表現。

一見、単純で分かりやすい内容ながら、その中身は驚くほど真摯に逆タワーディフェンス特有の面白さを追求。逆にしたなりの戦略を練る楽しさ、手ごわさ、スリルが入念に作り込まれているのだ。

確かに前例の存在を思えば、逆タワーディフェンスそのものは新しくない。だが、本作は本作で独自のアレンジによって、逆だからこその戦略を練る面白さと手ごわさを持つ、個性的な作品に完成されている。特にローグライク要素の活かし方と、ストーリーを絡め合わせることによる納得感を出す工夫は見事なものがあるので、少しでも関心を抱いたのなら体験してみていただきたいところだ。

また、いわゆる他の逆タワーディフェンスを遊んだ経験のある人にもシステム的な見所のある内容になっているので要チェックだ。中でも脱出ルート構築の面白さには、本作の『Tower Escape』というタイトル名の真髄を見るだろう。

気軽に遊ぶスタイルにも完全対応した、見所満載の傑作

実は気軽に遊べる作りなのも本作の大きな特色だ。ローグライクと言うと、失敗によるペナルティの大きさを連想しやすい。だが、本作は1回失敗したらそこで終了とはならない。難易度によっては3回までの失敗が許されるようになっている。

難易度と出したが、それも「イージー」「ノーマル」「ハード」の3種類(+α)が選択可能で、好みの加減で楽しむことが可能だ。
それでいて攻略中、ミニオンがガードに仕留められたとしても、それで永久消失になったりはしない。そもそもプレイヤーは死霊術士である。次のWaveでミニオンたちは復活するのだ。あえて復活させないようにするオプションも用意されているが、それはクリア後のやり込み要素で、普通にクリアするに当たってその設定でプレイする必要はない。他に操作もマウス単体で遊べる設計に加え、1周に要する時間も最長50分程度なので、失敗後のリトライもしやすい。それでいて、特定のミニオンを永久強化させるアップグレード機能も完備。

前述の紹介で若干、硬派な内容を連想したかもしれないが、こんな具合に実は身構える必要一切なし。軽い気持ちで遊んでも十分に耐えうる内容なのだ。
なので、本当にちょっと気になるという興味本位で遊んでも過度なダメージを受ける心配はない。繰り返しになるが、気になれば、迷わず体験いただきたいところだ。ちなみに無料体験版もある。抵抗があるなら、そちらからがお薦めだ。

このほかに本作は日本語にも対応しているほか、翻訳もバッチリ。先ほど1周に要する時間は短めといったが、やり込みを含むと20時間は裕に超えるなど、ボリュームもかなりのもの。しかも今後、様々な要素の追加を図るアップデートも展開されることになっているので、さらに底なしなゲームへと進化する可能性もある。

一部、日本語のテキストが見切れていたり、編成変更時のテスト(どんな順序でミニオンたちが走るのかを確認する)機能がない、合体による進化を狙おうとすると戦力的な偏りが生じやすいなど、細かな粗や不備も散見される。
また、Waveによる区切りを無くし、リアルタイム形式で遊ぶ「ヘビゲームモード」もあるのだが、かなり運に左右される難易度で、調整不足気味なのも惜しい。

だが、総合的には傑作と言っても差し支えない作品である。様々な要素を活用して実現した、逆タワーディフェンスならではの戦略性とスリルは特筆すべきものがある。

タワーディフェンス好きはもちろん、一風変わったシミュレーションゲームをお探しの人にお薦めの1本だ。やることはただひとつ、脱出だ。そのためにあらゆる要素を用い、最良のルートを編み出そう!

[基本情報]
タイトル:『Tower Escape』
販売・開発:Final Screw、IndieArk
クリア時間:40分~50分(1周)
対応プラットフォーム:Windows、macOS、Linux(SteamOS)
価格(税込):920円
備考:無料体験版あり

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