冷や汗が出るほどに速く、ドリフトがメッチャ気持ちいいレースゲームをお探しながら『Victory Heat Rally』ですよ!

インディーゲーム,レースゲーム

主に1人称、もしくは3人称視点の3Dレースゲームというものは、その臨場感のある見た目も相まって、プレイヤーの身体が傾いたりする衝動に駆られやすい。急カーブを曲がる瞬間は最たるものだろう。

コースアウトすることなく綺麗に曲がり切りたいとの理想と、それを実現するためにドリフトを始めとする操縦技術が必要という現実、失敗した時の恐怖がせめぎ合うあまり、画面の動きに釣られるがまま身体ごと傾いてしまう。ゲーム全体のスピードが速かったりすれば、なおのことだ。その結果、勢いあやまって椅子から豪快に転げ落ちてしまった……なんて経験をしたことがある人も多分、少なくないかもしれない。

逆に「そこまで身体を傾けたことは一度もないぞ?」と、経験したことがない人もいるかもしれない。せいぜい、首が動くぐらいでは、と。

そんな“傾き耐性”を持つ人であっても、高確率で身体ごと傾いてしまうこと確実なレースゲームを今回、ご案内いたしましょう。

その名も『Victory Heat Rally』(ビクトリーヒートラリー)、略して「VHR」だ!

ドット絵のレーシングカーがフル3Dのサーキットを駆ける、ハイブリッドなハイスピードレースゲーム

『Victory Heat Rally』は2024年10月3日より、PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」で販売中のカーレーシングゲームである。アメリカ・ロサンゼルス出身の兄弟2人によって設立された、デジタルアートおよびゲームの開発スタジオ「Skydevilpalm」が制作。販売は3DアクションゲームYooka-Laylee(ユーカ・レイリー)を代表作とするPlaytonicのパブリッシャー部門「Playtonic Friends」が担当している。

もともとは2020年初頭からゲーム販売・投稿サイト「itch.io」にて、無料デモが公開されていたタイトル。最初の公開から実に4年以上もの時を要し、製品版として発売されたという経緯を持つ。また、製品版はデモ版にはなかった日本語テキストにも対応した仕様となっている。なお、本作は今後、Nintendo Switchを始めとする家庭用ゲーム機版も発売予定だ。

内容は「ザ・レースゲーム」と言わんばかりに王道。個性豊かなドライバーたちが乗り込むレーシングカーを操縦して、さまざまなサーキットを舞台に繰り広げられるライバルドライバーたちとの順位争いに挑むというものだ。

レースゲームとしては3Dの奥スクロールタイプで、視点は3人称。そして、スクリーンショットを見れば明らかな通り、グラフィックは2Dのドット絵を基調としている。この見た目からは、1990年代初頭にアーケード、家庭用ゲーム機で発売された疑似3Dのレースゲームが思い起こされるかと思われる。2Dのドット絵を拡大・縮小させる形で疑似的な3Dスクロールを表現して、奥行き感を出すというものだ。

だが、実際のゲーム本編は疑似3Dではなくて本物の3D。2Dドットで描かれているのはレーシングカーだけで、サーキットなどの地形は、往年の32ビット機や64ビット機のゲームを思わせるローポリゴンの3DCGとなっている。サーキット周囲の岩などの物(オブジェクト)が詳細に描写されていることからも、疑似3Dでないことは察せるだろう。言うなれば、2.5Dのデザインなのである。現在と過去のハイブリッドとも言う。

それもあって、走行中の臨場感と奥行き感は疑似でもなんでもない紛うことなき3D。それも常時60fpsというのもあって、思わず恐怖心を抱いてしまうほどにヌルヌルで、スピーディな3Dスクロールとなっている。

システム面では、ドリフトにフォーカスした作りが大きな特徴だ。本作に登場するサーキットの多くには急カーブが存在し、それらを曲がるに当たってドリフト走行が試されてくる。ドリフトの操作は簡単で、(Xboxコントローラ使用時)RTボタンを押しっぱなしにするだけ。押し始めると間もなくレーシングカーがドリフト走行をし始める。

また、ドリフトをすると「ブーストゲージ」が上昇。これが満タンになったタイミングでドリフト走行を解除する(RTボタンを離す)と「ブースト」が発生し、レーシングカーが急加速する。某カートのゲームで例えるところの「ミニターボ」があるのだ。

ブーストゲージは最大3段階まで上げられ、高いほどブースト発動時の加速が強力なものになる。逆にそれ以外でレーシングカーを加速させる手段は存在しない。

某カートのゲームや、エフがゼロのゲーム、そしてQがチョロ走るゲームなら、踏むことで加速する「ダッシュバン」があったりするが、本作にはそれもない。そのため、ライバルを追い抜いて上位を維持するカギとなるのはドリフトと、それによるブーストのみ。非常に明瞭で、レースゲームとしても分かりやすさ重視のゲームデザインとなっている。

他に収録ゲームモードは4種類で、シングルプレイのメインは「チャンピオンシップ」となる。ただ、その内容は複数のサーキットを舞台に連続開催されるレース(グランプリ)に挑んで総合順位を競うというものではない。

カップごとに用意されたサーキット個別開催の1レース「イベント」に挑んで、最後に「グランプリ」……カップ内の全サーキットが舞台の総合順位争いに挑むという流れで進む形になっている。

言うなれば、ステージクリア型のアクションゲームと同じ。イベントが「ステージ(コース)」、グランプリが「ボス戦」といった具合の位置づけになっているのだ。ご丁寧にも、アクションゲームを露骨に意識したマップ画面も用意。こんなレースゲームらしからぬ構成で展開されるシングルプレイモードも、本作の個性を象徴する部分である。

現在と過去の融合により実現した、冷や汗と身体の傾き不可避のスピード感とドリフトの楽しさ!

だが、本作において最も強い個性を表しているのが2.5Dのスピード感である。

誇張抜きに言う。本作はレースゲームに慣れていない人なら、本気で恐怖心を覚えるほど速い。ある程度、レースゲームに慣れている人でも、想像以上にヌメヌメとスクロールするので、全身(特に背中)にヒヤッとしたものが走るだろう。

特に高低差のあるサーキットを舞台にしたレースでは、そんなスピード感が持つ魅力と恐ろしさを存分にセットで思い知ることになるはずだ。実際に体験してみないと分からないのがもどかしいのだが、画面が上に下にとものすごい勢いで動くからである。並行して現在と過去、2Dのビジュアルに本物の3Dが自然に混じり合った映像に圧倒させられるだろう。

ドット絵を基調としたグラフィックの中に、ローポリゴンの3DCGを含ませるという表現そのものは決して新しいものではない。1990年代の中期には、そうした表現を採り入れたアクションゲームが一部、散見された。2000年代に入っても、携帯ゲーム機においてそのような表現を採り入れたアクションゲーム、ロールプレイングゲーム、そしてレースゲームがいくつか発売されている。

本稿で何度か出した某カートのゲームは、64ビット機で発売された作品と、携帯ゲーム機で発売された作品が、まさに平面と立体物を混ぜ合わせる手法を取っていた好例だ。

ただ、本作はレーシングカーのデザインからも分かるように、ドット絵らしさを強く押し出している。カーブを曲がった時やゴールした際の演出を見ると分かりやすいが、方向ごとに描かれている部分も少なく、カクカクとしている。

このいい意味での昔っぽい描かれ方をしたドット絵のレーシングカーが、高低差もきちんと表現された3Dのサーキットを駆けるというだけでも、いかに絵的に面白いものなのかは察せるだろう。表現的には斬新ではないのだが、不思議な新しさがある。それでいて、現在と過去が融合したかのようなハイブリッド味のある3Dスクロールを表現している。

前述の繰り返しになるが、静止画でも文字でもその凄さを伝えるのは難しい。そのため、少しでも興味を抱いたのであればぜひ、体験版を遊んでみていただきたい。この独特なスピード感と表現の凄さが分かると同時に、人によってはさらに味わってみたいがあまり、製品版への関心がうなぎ登りになってしまうはずだ。

そして、ドリフトでカーブを曲がるたび、怖いぐらい身体が衝動的に傾いてしまうだろう。そもそも、カーブを曲がる際であっても常時60fpsが維持されるのに加え、画面までレーシングカーの動きに応じて傾くのだ。どう抵抗しようが身体が動いてしまう!

一応、オプションで傾きの度合いは調整可能なので、「これはちょっと……」と感じた場合は最小にすればいい。だが、筆者としてはデフォルト設定のまま、プレイすることを強くおススメしたい。レース中の臨場感が増すのは言うまでもなく、ドリフトからのブーストを決める時の気持ちよさとスリルがずば抜けているのだ。

最初はあまりの勢いと傾き具合に戸惑うかもしれないが、頑張って慣れてみてほしい。さすれば、傾くのすら楽しく感じるようになるほど、スピード感の虜になってしまうこと請け合いだ。

ドリフトに関しては、決めるたびに心地よくて可愛らしい効果音が鳴り響くのも見所。非常にゲームっぽい、誇張気味の音なのだが、これのおかげでドリフトを決めるたびに心が躍る。同時に、その気持ちよさから何度も味わいたい思いに駆られる。

これもスピード感同様、プレイしてみないと分からないのがもどかしい部分だが、体験版を遊んでみればよく分かる。ある意味、ゲームらしい効果音を鳴り響かせることの重要性にも気付かされるこだわりを感じる部分でもあるので、ぜひ体験してみていただきたいところだ。そのまま製品版にもどうぞ。

盛り沢山の内容で送る「チャンピオンシップ」にも注目の傑作“爽快”レースゲーム

スピード感とドリフトの話題を長々としてしまったが、レースゲームとしての出来もバッチリだ。特にシングルプレイモード「チャンピオンシップ」は、ステージクリア型アクションゲームのような構成と、特殊ミッションも入り交ぜた盛り沢山の内容で楽しませてくれる。ボリュームもかなりのもので、一通りクリアするだけでも6~7時間を要する上、やり込み要素も盛り沢山なので、結構長く楽しめる。

レースバリエーションの豊富さも見所。前述した特殊ミッションでは、ターゲットの破壊、ポールの連続通過、そしてUFOによるキャトルミューテーション回避(!?)など色んな種類が用意されていて、順位争いとは異なる手ごわさがある。メインとなるレースも複数のチェックポイントを通過しながらゴールを目指す「ラリー」も存在し、終始、順位争いの周回レースが展開されるだけの構成となっていないのが面白い。

また、「チャンピオンシップ」のカップ終盤に設けられた「グランプリ」では、ライバルキャラクターとの順位争いも展開。そして、グランプリを制して特定の条件を達すると、ライバルキャラクターとの1対1のレースに挑めるようになる。

▲対戦格闘ゲームを思わせる体力ゲージが!

このレースもだいぶ変わっていて、相手の体力ゲージを競争で削り合うという対戦格闘ゲームっぽいものになっている。また、勝利すると選べるレーシングカーも増加。以降のレースにおける、攻略の幅が広がる。全レーシングカーの解禁に挑むという、やり込み要素のひとつになっているのも見所だ。

難易度も後半に行くほど、正確なドリフトが試されるようになるなど、やり応え十分のバランスで、結構な歯応えを得られるだろう。

こんな具合にシングルプレイのレースゲームとしても大変充実した内容で、その手の遊び込めるタイトルを探している人にも、本作は魅力的な作品となっている。

ほかに鮮やかで明るい色調が光るグラフィックと、各レーシングカーを操縦するドライバーたちのキャラクターデザインの可愛らしさ、ノリノリで熱い音楽も素晴らしい出来だ。操作性についても申し分なし。とりわけゲームパッドの操作はアクセル、ブレーキ、ドリフトのボタン配置が誇張抜きに完璧で、ビックリするほど手に馴染む。

▲提灯が浮いている……?

サーキットも豊富に加え、そのロケーションにも一部、「KANCHIGAI JAPAN」全開のヘンテコなものがあったりして面白い。もちろん、シングルプレイ以外にマルチプレイモード「バーサス」もあり、フレンド限定になるが、Steamの「Remote Play Together」の機能を使えば、オンライン対戦も可能だ。

逆に言えば、Steam側の機能を使わないと楽しめないのが難点だが。また、本作は日本語テキストにも対応しているが、全体的に翻訳が硬い。

一部、サーキットでは中継デモこと、ライバルドライバーへのインタビュー会話が挿入されるのだが、直訳感が強めで、人によっては気になってしまうだろう。そんなに会話量が多くないのがせめてもの救いである。

ちなみに発売当初は、テキストの改行処理が機能せず、台詞のテキストがウィンドウをはみ出してしまうバグがあったのだが、本稿執筆時点ではアップデートで修正されている。

それ以外では、初期選択可能なレーシングカーだとノーミス走行が必須になる「チャンピオンシップ」後半の難易度、ガードレール接触時の減速の大きさ、指定のオブジェクトに接触せずに走行する特殊ミッションの異様な難しさがある。

ただ、一部の難点は今後のアップデートで修正されることも予告されている。そのため、あくまでも本稿執筆時点での話になることを留意いただきたい。

そのような粗さを感じさせる箇所もあるが、総合的な完成度はなかなかのもの。特に繰り返しになるが、現在と過去の技術が融合したとも言えるドット絵基調のグラフィックと常時60fpsの滑らかすぎる3Dスクロール、ダイナミックな傾き演出によって実現したスピード感は本当に冷や汗モノ。そして、ドリフトも何度も決めたくなっちゃうほどの気持ちよさと爽快感がある。

アイテムによる妨害といった不確定要素もなく、シンプルに真っ向勝負のレースと起伏あるサーキットを走行する楽しさを堪能できる本作。レースゲーム好きならイチオシもイチオシの傑作だ。現代と過去の技術の融合によって実現した、ハイブリッドな3Dスクロールと圧倒的なスピード感に酔え!まずは体験版から始めてみるのもヨシ!

[基本情報]
タイトル:『Victory Heat Rally』
開発:Skydevilpalm(※販売:Playtonic Friends)
クリア時間:6~7時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):2,300円

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