少し珍しい”雰囲気系”SRPG『徒花の国』。不思議な世界を舞台にした、少女と魂たちの謎多き使命の物語

シミュレーション,フリーゲーム

そこは人々が生きる世界からずっとずっと遠い世界。
死せる魂たちが最期に行き着く場所。

その世界の一端で少女「ベル」は目を覚ました。
彼女の使命はただひとつ。

”この世界の主”を滅ぼすこと。

静かで意味深なオープニングと共に幕を開ける本作『徒花の国』は、2021年12月下旬より「ふりーむ!」にて公開中のWindows PC用フリーゲーム。シミュレーションRPG(SRPG)制作ツール『SRPG Studio』製タイトルである。

独自要素由来の戦術性とストーリー表現で個性を出したSRPG

制作ツールが物語る通りにジャンルはSRPG。カーソルで主人公の少女「ベル」を筆頭とするユニット(駒)たちを移動させたり、敵に戦闘を仕掛けるなりして勝利条件の達成を目指す。

進行はSRPG伝統のターン制、「味方⇒敵」の順序で展開する。システム面でもユニット固有の特殊能力「スキル」、主人公を除き戦闘敗北時に撤退扱いとなるユニットなど、SRPGに慣れ親しんだプレイヤーには見覚えのあるものが網羅されている。だが、全体的には本作独自の仕様を持ったシステム、要素が大半を占めている。

特に象徴的なのが、全ユニットに設定された「EP」と「FP」という2つのステータス。「EP」は端的に言うならば回復系アイテム、上位の武器を用いる際に消費するエネルギー的なものである。本作にはアイテムにせよ、武器にせよ「耐久度」の概念がない。武器に至ってはほぼ無限に使えるものも存在する。

しかし、特殊な効果や高い威力を持つものの場合は「EP」を消費。アイテムに至っては必ず消費する仕様になっている。その分、EPがある限り何度も使えるのだが、EPというのは武器もアイテムも別々ではなくて共通。アイテムで消費しすぎれば高威力の武器の使える回数は減り、逆に武器で消費しすぎればアイテムの使える回数が減るのだ。

おまけにマップ攻略中にEPを回復させる手段はない。ユニットのレベルアップで最大値は上げられるが、回復はマップをクリアした時だけと限定されているのである。なので、EPを消費する類の武器、アイテムを使う際は状況を踏まえた選択と判断が重要。

仕組みは単純ながら、使い所を誤れば戦術の幅が狭まるという(いい意味で)嫌らしく、プレイヤーの判断力を問うシステムになっている。耐久度の概念がないなりの代替要素な側面もあり、風変わりな”手ごわさ”が表現されているのも特色だ。

もうひとつの「FP」は、敵に攻撃が命中するたびに溜まっていくエネルギー。これが最大に達するとユニットが光り、「覚醒」というコマンドが解禁される。「覚醒」状態になれば、1ターンの内にもういちど行動が可能。広範囲を移動したり、敵に追加攻撃を叩き込むといった戦術が実践できるようになる。ただし、覚醒中はFPがターン経過のたびに減り続け、空になると解除されてしまう。再び覚醒可能にするには敵を攻撃し、FPを1から溜め直さなければならない。また、覚醒中は敵を攻撃してもFPは溜まらない仕組み。延々と状態を維持することはできないため、勢い任せに攻めすぎないようにする注意が必要だ。

まさにここぞという場面で使うのが望ましい”逆転の一手”。これもEP同様、プレイヤーの判断力を試すシステムになっており、独特な戦術・戦略を練る面白さが詰まったものにまとめられている。

他にベル以外の仲間ユニットは、マップ上に配置された「魂の断片」なるものを再生して加入させる仕組みとなっていたり、戦闘における2回攻撃は武器の専用スキルに依存し、基本的には1回限定という独自のシステム、仕様が設けられている。
ストーリーの表現手法も変わっており、全編ナレーションとマップ上での演出を主軸に展開される。ベルを始め、キャラクターごとのやり取りはほとんど存在しない設計になっている。その特色から”雰囲気系SRPG”と称される一面も。

この大よその特徴などが物語る通り、本作は基本こそ伝統的なSRPGながら、戦術・戦略面の独自色は強め。さらにストーリーも珍しい手法でまとめているという、個性の強さが光る作品に仕上がっている。

率直に申せば、この一連の特色全てが本作の魅力である。

SRPGでは珍しい、多くを語らぬ雰囲気重視のストーリー

特に異彩を放っているのがストーリーだ。主人公のベルを始め、キャラクターたちの多くは言葉を発さず、淡々と戦いを繰り広げていく。分かっているのは、彼女は”世界の主”を滅ぼそうとしていること。その者が住まうとされる城を目指していること。

だが、なぜ滅ぼそうとしているのか、その理由は一切語られない。そもそも彼女についても、「魂の断片」を再生して使役できる能力を持つ少女という情報以外がない。行く手を阻む敵たち、断片から再生される者たちの素性も全く分からず。
ただ、生前に何らかの因縁があったのでは、何らかの出来事で舞台となる世界に囚われているかもしれないと匂わせる程度。

まさに多くを語らず、プレイヤー各々の自由な想像に委ねるという、雰囲気ゲーム極まれりの作風なのである。そのため、少しでも全容を掴みたいなら、マップとその地形、敵の情報、現在の戦況などから考えを巡らせ、推測するしかない。

正確な答え(真相)は存在しないので、いくら考えようが最終的には可能性で終わってしまうが、断片的な情報を元に隠されたストーリーに迫っていく楽しさと手ごわさはこの作りあってこそ。刺さる人なら深々と刺さる内容になっているのだ。

裏を返せば、興味を持てないと何が何だかのまま終わってしまう。エンディングすらこの姿勢を厳守しているので、全ての謎を明かして綺麗に終わりを迎えたい人なら不満が残るだろう。その意味では好みが分かれやすい。そして、考察が勢いづけば何周も遊びたくなる。この極端さが膨大な文章を用い、ストーリーを描くSRPGとは一線を画す個性になっている。

とりわけマップとその地形、敵の配置、戦況を駆使して”匂わせる”表現は秀逸なものがあるので、ぜひ少しでも確かめていただきたいところだ。色んな意味で「こういうストーリーの描き方もあるのか」と唸ってしまうかもしれない。音楽の使い方にも、この作りならではのものがあるので、並行して要チェックである。

雰囲気に限らず、マップに関しては攻略する楽しさにも秀でている。何より難易度の塩梅が絶妙。簡単すぎず難しすぎず、そして個々のシステムを空気にさせずという気を遣ったバランス調整が光っている。

難易度の上昇過程も理に適っており、中でも終盤のマップにおける本作独自のシステムと、細かな仕様の応用を試す構成は巧み。SRPGに慣れ親しんだプレイヤーも唸る作りになっているので、ぜひ体験してみて欲しいところだ。雰囲気作りに凝っているだけのSRPGではない”本気”を思い知らされるはず。また、2回攻撃発生の仕様、被ダメージの大きさなどで力押しを効きにくくしているところにも、分かる人ならニヤッとしてしまうかもしれない。

件の独自システムである「EP」、「FP」もマップ攻略、敵との戦闘にアクセントを加えるものとして確かな存在意義を出している。特に強力な武器による攻撃、回復用アイテム使用の際に消費する「EP」がもたらすジレンマにはもどかしくなること請け合い。攻撃すれば回復のチャンスが減る、逆に回復すれば攻撃の回数が減るという際どい選択と決断が試される時は、思わず「おのれEP!」と心の中で悲鳴をあげたくなると同時に、熟練者なら「これこそSRPGの醍醐味よ」と唸ってしまうだろう。

ストーリーの作りがユニークで、雰囲気作りにもこだわりつつ、SRPGとしての遊び応えも欠かさない。なので、どちらを求める人にも相応の体験を提供し、満足させてくれる。このバランスの取れた仕上がりには、主にSRPG好きほど「上手い!」という感じに唸ってしまうだろう。
だが、注目の度合いではストーリー、雰囲気作りに軍配が上がる。繰り返しになるが、本当に珍しい手法でまとめられているので、じっくり細かい要素を確かめてみて欲しい。

このような作りのSRPG特有の体験を味わえることをお約束する。

SRPGとしても、雰囲気ゲームとしても秀逸な作品

本作はSRPGとしては短編に属するもので、クリアに要する時間はおよそ2~3時間程度となっている。ただ、マップは十分な数が用意されていて、難易度の調整も優れていることから、物足りなさはほとんど感じさせない。むしろ、終盤のマップが申し分ない手応えなのもあって、十分すぎる満足感が得られるだろう。

反面、やり込み要素はない。昨今のSRPGは、難易度の選択機能を搭載するのが一種のお約束になっているが、本作は珍しく非搭載。1つの難易度に絞り込んだ、いわゆる”ストロングスタイル”になっている。なので、2周目以降に高い難易度で楽しむ、みたいなことはできないが、縛りプレイ的な選択肢はあり。仲間ユニットを増やす「魂の断片」の幾つかを見逃し、最小戦力で攻略するのがそれだ。こうすることで手ごわさが倍増するので、もしも本編に物足りなさを感じた時は挑戦してみていただきたい。ただ、やり方によっては地獄を見る可能性もあるので、その点はご注意を。

このほか、本作は音楽の使い方も素晴らしく、あるマップでの敵ユニットの動きとも絡めた緊迫感の描写はインパクト十分。最終マップからエンディング、そこからのタイトル画面への帰還の流れもなかなか印象的、かつ考察意欲を刺激するものになっているので注目だ。

正直、見た目が「SRPG Studio」製作品らしさ溢れるもののため、地味に映るのは否定できない。ストーリーも本当に多くを語らないので、合わない人にはとことん合わないだろう。

だが、この珍しい手法によるまとめ方と、SRPGとしての確かな手応えは特筆に値する。戦術・戦略性を求める人から、ストーリーを求める人にまで共通した驚きを提供するところもまた然りだ。その意味でも記憶に残りやすい魅力の詰まった作品。ひとつのSRPGとしても良作以上と言い切れる出来なので、ぜひ機会があればお試しを。

謎の世界と少女が紡ぐ、不思議なストーリーと戦いをじっくり味わってみよう。

[基本情報]
タイトル:『徒花の国』
作者:まきのり
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:Windows
価格:無料

※ダウンロード・プレイはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/27277

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