「BREAKS LP」レビュー ―音楽ゲームとリミックス作成ツールのあいだで
リミックス音楽というと、どんなイメージを思い浮かべるだろうか。
よくニコニコ動画などで視聴されるようないわゆる「音系MAD」や「アレンジ」「メドレー」の類はまだ親しみを持てるが、Windows Media Playerみたいなサイケな感じの映像に、ディレイなどのエフェクトをかけて・・・という感じのリミックス音楽には、「初心者おことわり」と言われているきがして、なんとなく腰が引けてしまっていた。
このBREAKS LPは、そうした敷居の高さを感じている筆者にとって、リミックス音楽の純粋な面白さを垣間見せてくれるゲームだった。
BREAKS LPは「音ゲー」かつ「リミックス作成ツール」
ゲームシステムの紹介だが、まずは動画を見ていただいた方が良いかもしれない。
BREAKS LPの「音楽ゲームとしての目的」は、一定間隔で出現するブロックを破壊してスコアを積み重ね、ゲーム内の曲が終了するまでに一定のスコアを稼ぐことだ。
ブロックを破壊するために、プレイヤーはステージ上のボールを加速させながら縦横無尽に動かすことができる。ボールをうまく誘導しつつ、なるべく多くのブロックを連続して破壊していけばスコアが伸びて、ステージクリアできる。
一方、「リミックス作成ツール」として、このゲームはもう一つの顔を持っている。BREAKS LPをやっている際に流れている音楽は、ゲームプレイによってリミックスされる。つまり、ゲーム中にポイントした位置によって音楽の再生位置が変わったり、ホイールで早さが調節できたり、ボールの左右位置で音楽の左右バランスが変わったりと、ボールの動きによって曲も多彩な動きをする。ボールの動かし方によって、楽曲が大幅に変化するのだ。
こうした形で作成された曲を聞き直したり、Wavファイルの形で書き出すことが出来る。書きだされた音声は、ガイドラインに沿った形で利用することもできる。
BREAKS LPは「ゲームプレイから楽曲のリミックス・パフォーマンスを生み出すことを目的とした」というゲームであり、ある意味では「リミックス作成ツール」でもあるのだ。
音ゲーは大体正解となる「譜面」―つまり、「こう演奏してください」という枠があるのが定石だと思うのだけど、このゲームには譜面のようなものは存在しない。だからこそ、自由にプレイしていい。そのプレイが曲となり、そのプレイが曲となる。迷わず行けよ。行けばわかるさ。
偶然性が作る音楽の楽しさ
BREAKS LPには二つの「偶然」がある。
ひとつめは、ボールの動かし方に関する偶然性だ。
ゲーム内でブロックを破壊するために使われるボールは、意外に狙った方向に行ってくれない(もしかすると筆者が下手な可能性もあるが)。そのため、意外に加速がついて壁にぶつかってしまったり、思わぬ場所をクリックしてしまったり、後半のステージになるとブロックがビームを出してきてボールが破壊されてしまったり、という感じで、意外に思ったようなプレイができない。しかし、この一つ一つが自分だけの音楽を作ってくれる。
そう、ふたつめの偶然性である「音楽の出来に関する偶然性」は、ボールの動きの偶然性が生み出すものだ。
普通の作成・編集ツールを使ってリミックスを作れば、多少の振れ幅はあるがある程度意図したものができるだろう。そのリミックスは当然クオリティは高いものになるが、おそらくは作者の意図を大幅に超えたものにはならない。一般的なツールはコントロールできるからだ。しかしこのゲームの場合には、リミックスはゲームプレイの副産物として生成されるため、作者も意図しなかったサウンドが突如出来上がるという振れ幅の余地を残しているのである。凄い。
こうして全く思いもよらない、自分の意図を超えたリミックスが出来てしまうというところにBREAKS LPの「リミックス作成ツール」としての面白さがあるのではないだろうか。
スコアの客観性と、リミックス評価の主観性
ゲームで思ったようにブロックが破壊できなくても、作られる音楽自体で意図しないサウンドができている、というのはプラスだ。そう考えてみると、ゲームでの失敗はリミックスの失敗ではないのだ。
そこでスコアのことをふと考える。BREAKS LPにはスコアがある。このスコアは、冒頭述べたようにブロックを破壊することで溜まっていくスコアであり、ゲームプレイの出来不出来を決める客観指標にすぎない。
だから、スコアが低くたってよいリミックスはできる。スコアはあくまで、ゲームプレイのモチベーションを保つための仕掛けにすぎないのだな、と。そういう意図で以下のつぶやきになった(140文字だと誤解があるかもしれないが、筆者はこれをゲームシステムの失敗と捉えているわけではなく、むしろ従来型音ゲーとの比較の中でスコアが全く別の使われ方をしているという点でかなり意味深い気がして、大変興味をもった)。
BREAKS LPはちょっとスコアの意味合いが違うかもなー。ある意味スコアを出すことは客観指標なんだけど良いリミックスを作ることとは必ずしもリンクしない。良いリミックスってなんなんだろうなー。ある意味で自己評価の軸を持たせてくれるゲームなのかもわからん。
— NoahP(のあP) (@powerofgamesorg) 2014, 3月 5
この点、制作者のなんも氏がエントリを書かれている。
BREAKS LPの「スコアと楽曲のクオリティ(?)に相関が無い」実装に至る思考
この中で、なんも氏は「ゲームを知らない人でも理解できる映像・音声コンテンツを出力するゲーム」を作ることを目指したうえで、以下のように仰っている。
そしてこの形を取ったゲームシステムをまとめると ゲームシステム駆動型の楽曲演奏・リミックス機構 となり、プレイヤーはシステムを駆動させるためのギアであり歯車でありパフォーマーでありスコア及びゲームデザインはプレイヤーを動作させるためのモチベーションに過ぎないということになります。
全部を紹介するより読んでもらったほうが早い。ので、記載されているTogetterまとめも併せて、興味が湧いてきたら是非。
初心者にとって、偶然性は良いイイワケになる可能性
リミックスを聴いたことはあっても、作ったことのない筆者は、冒頭挙げたようにやや敷居の高さを感じてしまっていた。ただ、このBREAKS LPの場合は「ゲームプレイの副産物」としてリミックスができる、という形式をとるため、「いや、ボールが思ったところに行ってくれなくてさ~」とか、「ブロック破壊するのに夢中になってただけだったにしては意外によくできたでしょ?」という感じで、ぶっちゃけた話リミックスが下手くそでも色々言い訳の余地を与えてくれるゲームだとも感じた。筆者だけかもしれない可能性は否めないが。
ちなみに、そういう偶然性を高めるために、LEAPMOTIONがもしあればそれでプレイしてみるのも良いかもしれない。LEAPMOTIONはいわゆる「ジェスチャーデバイス」で、手指の動きでPCを操作できる(しかも10本の指をそれぞれ認識しているらしい)。
結構なお値段するし、BREAKS LPはこれがなくても十分楽しめるのであえて購入するかどうかは少し迷ったほうがいいとは思うが、LEAPMOTIONでやると全く別の楽しみ方があるし、他のゲームもプレイできることを考えて一つのゲーム機として買ってみるのは良いかもしれない。
というわけで、もぐらゲームスでもBREAKS LPをLEAPMOTIONでやってみた。今回撮影に協力していただいた方のなかで最も手さばきが器用だったのだが如何?
というわけで、この「BREAKS LP」は、リミックスに対する敷居の高さを感じている人にこそプレイしてみて欲しいゲームだ。プレイした後すぐ次のステージに行くのは勿体無い。ぜひ副産物としてのリミックスを聞き直し、よく出来たものがあれば公開してみるのも良いのではないだろうか。
■BREAKS LP
[ソフトウェアタイプ]
シェアウェア(1,500円)
[対応OS等]
Windows, Mac(委託販売分については現状Windows向け)
[ダウンロード]
BREAKS LP 委託販売について – FullPowerSideAttack[dot]com
[製作者]
なんも 氏 (FullPowerSideAttack.com)
[プレイ時間]
1ステージ数分