貴方は全ての断片を拾い切れるか。自発的に謎を明かす姿勢が問われる骨太探索ADV『断片思想』

青くて黒い怪物たちに襲われ、罵倒される少女ヴィネア。
彼らを振り切るよう逃げ続けた彼女は、いつしか館の地下室で目覚める。
そこに住む”みんな”は、ヴィネアのことをよく知っている素振りを見せる。
だが、ヴィネアは”みんな”のことを少しも知らない。
そもそも、自分のことすら覚えていなかった。

やがて、ヴィネアの前に謎の少女が現れ、館に滞在し続けるためには何らかの”役割”を持たねばならぬことを伝える。さらに滞在できる時間はあと6日。そのためにはどうすればいいのか。謎の少女は助言した。

「水晶を捧げろ。それが君の役割であり、君の生きる術だ。」

かくして少女の己を知る日々が始まる。

このような謎多きオープニングと共に幕を開ける『断片思想』は、個人サークル「月読みの里」制作によるWindows PC向けフリーゲーム。2020年9月にフリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」のほか、創作物総合マーケット「BOOTH」にて公開された。

「水晶」を集め、己の役割を6日間の内に探し出せ。

内容としては探索型のアドベンチャーゲームとなる。プレイヤーは主人公ヴィネアとなり、横スクロールで構成された館内のマップを行き来しながら、滞在のための”役割”を求め、1日を過ごしていく。

厳密には前述のストーリー紹介の通り、「水晶」を集めていくのが主な流れとなる。「水晶」は「かけら」と「塊」の2種類があり、前者は館の探索及び”みんな”こと同居人の少女たちとの交流イベントを進展させると入手。後者は深夜帯に現れる「空間」を探索・攻略することで入手できるようになっている。

深夜帯ということは、時間の概念があるのかと言われればその通り。朝昼晩、深夜の4つから1日は成り立つようになっている。時間の移行は「かけら」の入手とも関連する同居人たちとのイベント終了と同時に発生。一部の同居人が別の部屋に移動したり、以前の時間帯のイベントが見れなくなると同時に新たなイベントが解禁される。ただ、晩から深夜は別条件で、地下室のベッドで就寝することで移行する仕組み。

そして、深夜には「塊」が隠された「空間」が館内のどこかの部屋に出現。「空間」とはいわゆる「ダンジョン」(もしくは「イベントステージ」)で、館ではない土地を舞台とするマップ探索に挑む形になる。


▲空間内では敵から逃げ切る要素も登場。ダメージの概念もある。

クリア条件は最深部に到達すること。そこに「塊」が置かれていて、回収すれば館へ戻れるようになる。併せて館の2階にある「献上室」なる部屋の扉が解禁。

内部の台座に手に入れた「塊」を捧げられるようになる。捧げ終えれば、その日の内にやれることは完全に終了。地下室に戻って就寝すれば次の日になり、再び朝昼晩深夜を巡る展開が始まる感じだ。

長くなったが、このような流れで本編は展開される。なお、ゲーム最序盤はシステム、操作方法、館内の構造、プレイヤーの目的を紹介するチュートリアル、またの名で「0日目」との位置付け。これを終えた後から本番たる1日目が始まる。

さらにこれもストーリー紹介で触れた通りだが、館に滞在できるのは6日間だけ。最後の6日目の深夜に就寝すれば、そのままエンディングとなる。しかも、その結末は水晶(※2種共に)の数によって変化。十分に集められなかった場合は、相応の結末を迎える。

なので、6日目までにできる限り水晶を集めては捧げるのが、よりよい結果を導くカギ。入念な探りと観察力が試されるアドベンチャーゲームとなっている。

特に面白く、見所でもあるのが探索自由度の高さと寄り道推奨のゲームデザイン。水晶の数、結末、ストーリーの全容、その全てがプレイヤーがどこまで探索し、調べたかによって受け取る印象が著しく変わるよう、全体が構成されている。

タイトル通り、断片てんこ盛りなのである。

膨大な断片、それらを探る”探索型”の真髄を突き詰めた構成

その凄味が顕著に現れているのがストーリー。単刀直入に言おう。本作のストーリーは本筋と思しきイベントを追うのに徹すれば、ほとんど何も分からず終わってしまう。多くの謎を解明できないまま幕を引いてしまうのだ。幾つかあるエンディングの中で、最も良いものに辿り着けたとしても、である。

冒頭の紹介通り、本作は謎めいた展開と共に始まる。それが終わった後の館での6日間もまた、何も分からないまま始まる。そして、謎が続々と増えていく。主人公ヴィネアの素性、館、同居人の少女たち、助言を伝える少女、青くて黒い怪物、鏡とその先にある不思議な部屋、水晶、深夜に現れる空間と献上室、奇妙な夢、そして館の主と言われる”旦那様”と”奥様”。

一連の謎は、主目的たる水晶集めに従事すれば分かりそう……と流れから予感するかもしれない。だが、ならない。それどころか、プレイヤーの行動と選択次第では謎のまま消滅することも起こる。もちろん、消えれば取り返しは付かない。そのまま何も分からずエンディングを迎えるだけである。

言うならば、受け身の姿勢ほど返り討ちにされる。自発的に寄り道することこそが、全容解明のためのカギと言わんばかりのストーリーになっているのだ。

まさに探索型らしい探索型アドベンチャー。その醍醐味を徹底的に突き詰めた密度と、プレイヤーの取り組み方が最後まで問われる構成が異彩を放つ作りになっている。

特にストーリーの謎解明に繋がる情報こと「断片」も同居人の会話、アイテム、本棚に並んだ書物、空間内の世界、就寝する度に見る夢など膨大。文字通り骨が折れる思いで取り組まねばならない。本当にプレイヤーの謎を明かすことへの本気度が試されるのだ。

これに加えてゲームとしての遊び応えも抜群。特に深夜帯に探索できる「空間」は館と違って敵が襲ってきたり、危険な罠が登場したりと、アクションゲームばりの展開が繰り広げられるだけにスリル満点だ。館内の本筋、寄り道それぞれのイベントのバリエーションも豊か。一部、ミニゲームも用意されていたりしてプレイヤーに不意討ちも喰らわせてくる。

極め付けがエンディング。5+1種類が用意されていて、それぞれ全てを見るためには様々な検証が試されてくるのだ。また、そこに至るための”罠”を見破ることも試される。どんなものかは実際にその場面で確かめていただきたいが、ストーリー同様、受け身の姿勢であるほどハメられかねないものになっている。進め方も然り。見事それらに気付けば、1周で最も良いエンディングに辿り着くこともできなくないが、全てはプレイヤーが自発的になれるか次第である。

長くプレイするにつれて分かるのだが、本作は難解な小説、もしくは資料をあらゆる角度で眺めては情報を集め、整理していく解読ゲーム的な難しさと手強さが詰まっている。中でもストーリー部分は本当にそんな感じで、どれだけ断片を集められるか否かが後味のよい幕引きを迎えられるかにかかってくる。だが、そのストーリーの実態もまた、ある程度の覚悟が試される。詳細は伏せるが、もの凄く心抉る題材を扱っている。決して突飛なものではなく、普遍的とまで言えるものなのだが、人によっては強烈な不快感を覚えるかもしれない。だが、これを知ることで本作の全容というのは概ね判明する。

それに向き合う覚悟、根気を持てるか否か。まさに本作はプレイヤーがこのようなゲームに向き合う覚悟を試してくるのである。これらの特徴に対して貴方は興味を持っただろうか。
持ったなら、何も言わず挑戦していただきたい。そして、己の本気をぶつけるのだ。

描き込まれたドット絵とセンス溢れる演出も必見の傑作

全体的に重そうなイメージも持ったかもしれないが、実は遊び心地は快適。主に探索時の負担を軽減させる配慮が細かく、比較的テンポ良く進めていける。

中でも一部の部屋への瞬間移動を可能にするワープポイントたる「鏡」、ある人物と会話することで時間帯ごとに発生するイベントを随時確かめられるようになる「手帳」の機能は、まさに”痒い所に手が届く”を体現した便利さ。また、「空間」でも敵に襲われるとダメージを受けるが、仮に空になってもゲームオーバーにはならず、直前の部屋からすぐに再開されるので何度でもチャレンジ可能。さらにはそう言った要素を”無かったこと”にする大胆な救済措置も用意。本筋を早く進めたい欲求にも応えてくれるのだ。

他に移動もダッシュが可能なのでスピーディであることに加え、1日単位のボリュームもじっくり進めても20~30分程度と冗長化しすぎない程度に抑えられている。1周に要するボリュームも早くて3~4時間、じっくりで7時間と中編規模に抑え込まれているので、周回プレイにも取り組みやすいのが嬉しいところだ。

全編自作のドット絵で描かれたグラフィックも圧巻。キャラクターの一挙一動から、時間帯に応じたコントラストの変化、背景バリエーションまで非常に手の込んだ仕上がりになっている。特にヴィネアも含む、館内で暮らす少女たちは時間帯や場面に応じて衣装、髪形が変わるなど、見た目でも楽しませてくれる。性格的にもひと癖のある個性付けが図られているので、その点でも必見だ。

演出絡みでも音楽はクラシック曲中心の構成で、重苦しさと明るさが混在する館内の雰囲気を引き立てている。一部、サイレント映画風のデモシーンもあり、いかにもな台詞表現とストーリーの要所に迫るような描写には見入ってしまうはず。

本筋を追うだけでは理解しきれない寄り道推奨のストーリー、膨大な「断片」情報の数々、遊び応えも十分な探索部分。総じて、非常に骨太なゲームである。プレイヤーの遊び方によって受け取る印象も変わるので、賛否も分かれる側面もある。また、全てのエンディングを周回プレイで回収しようとなれば、イベント攻略の過程が作業的に感じやすい難点もある。

しかし、そう言った処も含めて本作は徹底的にプレイヤーの自発的な姿勢を問う、紛うことなき探索型アドベンチャーに完成されている。はっきり言って、生半可な思いで挑めば物凄いモヤモヤ感が残る。それを無くせるかどうかは、プレイヤーの取り組む姿勢次第。

この謎多き世界へと飛び込み、真相を解き明かす覚悟があるか。興味は持ったか。
どちらかを持ったのなら、挑むべし。あとは己の心持ち次第だ。

[基本情報]
タイトル:『断片思想』
作者:月読みの里
クリア時間:5時間~7時間(1周)
対応OS:Windows
価格:無料
備考:微弱な恐怖演出あり

ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/23897

※BOOTH
https://booth.pm/ja/items/2361381


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