短時間で遊べて、やり応えも申し分ないフリーSRPG『事件譚シリーズ』

シミュレーション,フリーゲーム

シミュレーションRPG(SRPG)というジャンルは長編のイメージが根強い。
1周クリアに40~50時間超過は当たり前、例えその半分以下でも、分岐、アイテム収集などのやり込み要素があって、全ての攻略を目指すとなれば、場合によっては10倍近い時間を費やすことにもなる。

何も家庭用機に限定された話ではない。インディー、フリーゲームにおいても同ジャンルには長編作品が目立つ。いかにこのジャンルにそのイメージが深々と根付いているのか、そんな実態を考えさせられる次第だ。

それだけに、短編のSRPGはひときわ輝きを放つ存在になり得る。
以前、当もぐらゲームスで紹介した『マリィと賢者の森』は象徴的な一例だ。
やや変則的ながら、『NAROUファンタジー』もそれに当たる。

今回はさらなる1本……否、数本として『事件譚シリーズ』を紹介したい。

王都、亡霊、傭兵の3作からなるシリーズ(※2020年現在)

『事件譚シリーズ』とは、個人サークル「YKTTZの物置」制作の短編SRPG作品群のことである。2020年現在、3作品がWindows PC用フリーゲームとして配布されており、いずれも「事件譚」の名を冠していることから、そのように命名されている。先に名を挙げた『マリィと賢者の森』、『NAROUファンタジー』同様、制作にはサファイアソフトの「SRPG Studio」が用いられている。

システム、ストーリーの概略に関しては以下、作品別に紹介する。

王都騎士事件譚

シリーズ第1作。2016年6月20日に「ふりーむ!」にて公開された。

ライト王国の王都騎士団の若き女性騎士「レイア」は、王都郊外での任務の帰り、未知の怪物に遭遇する。そこに通りがかった青年「アルス」の助けを借り、怪物を撃退したレイアは依頼により、彼を王都「セントラル・ライト」へ案内する。
しかし、王都では不可解な事件が発生しており、その場に居合わせたと言われるレイアの友人で魔導士の「ジェームズ」に犯人の嫌疑がかけられていた。さらに当の本人は行方をくらましているという。

レイアはアルスと共に、事件の真相を求めて王都内を奔走する。
果たして彼女は真相に辿り着けるのだろうか。

内容はターン制のSRPGで、カーソルでユニット(駒)をつかんで移動させ、敵ユニットへ戦闘を仕掛けるなりして、勝利条件の達成を目指す伝統的なものになっている。システム周りも際立って独自なものはなし。回数制限が設定された剣に槍、斧、魔法などの武器、「速さ」のステータスで勝る側が2回攻撃を実施できる戦闘の仕組み、命中率に大きく影響する武器ごとの相性(三すくみ)など、ジャンルの伝統をストレートに踏襲した作りになっている。
あるイベントを発生させると特定のユニット(キャラクター)同士に関係性が築かれ、マップ上で互いを近づけて配置すると命中率や回避率に影響が出る「支援効果」、特殊攻撃が発動する「スキル」、そして体力(HP)がゼロになって力尽きてしまうと永久退場になってしまうシステム(ロスト制)も存在する。

ただ、ロスト制は「ノーマル」、「ハード」の難易度限定。
最も簡単な「イージー」は、やられても次のマップで復帰する仕様になっている。

そして、総マップ数は6つ。平均クリア時間も1~2時間。
SRPGとしては紛うことなき短編で、本作における唯一無二の見所となっている。

亡霊騎士事件譚

シリーズ第2作。2018年7月20日に「ふりーむ!」にて公開された。

「ライト王国」にて、とある不祥事に関与していた元老院の貴族が王都から逃亡した。
一方、王都騎士団の若き女性騎士「レイア」、その上司である「ライディン」は、最近、墓地で多発している墓暴き事件に関する調査で、仲間の「ジェームズ」と共に亡霊騎士の噂が流れる山「マウント・アルガス」を訪れる。

そこに来た彼女たちが目撃したのは、魔法によって動く骸骨兵士の姿だった。
しかも、その兵士たちの基になる死体は墓暴き事件に関係していた。これが何を意味するのか……真相を突き止めるべく、レイアを始めとする騎士団一行は、マウント・アルガスのさらなる調査を続行する。

その裏には恐るべき陰謀が隠されていた。

ストーリーは『王都騎士事件譚』の続きになるが、前作の出来事について知っていないと理解が追いつかない類のイベントは皆無。本作から始めても全く支障のない内容にまとめられている。

ゲーム内容は前作とほとんど変わらない。新要素も無く、徹底した伝統的SRPGにまとまっている。ただ、前作では「ノーマル」と「ハード」の難易度にのみ設けられていたユニットの永久ロスト制は廃止。全難易度、復帰式になった。

また、必殺が発動した際にはカットインが挿入されるなど、演出面も大幅に強化。マップ総数も10、平均クリア時間も5~7時間と大幅に増えたが、10時間を超過することはほぼなく、前作同様に短編の枠に収まっている。

傭兵の小事件譚

シリーズ第3作。2020年1月25日に「ふりーむ!」で公開。2020年現在における最新作。

亡き父の後を継ぎ、傭兵団の長となった少女「ユーリ」。ある日、彼女は神秘の眠る地「ネイチュリア」の神官から、ある場所を荒らす者たちの討伐依頼を引き受け、現地へと向かう。そこで彼女たちが見た者とは……。

主人公がレイアから、ユーリへと変更されたが、ストーリー的には前作『亡霊騎士事件譚』の続き……と言うよりは、外伝作品になる。例によって、前2作未プレイでも楽しめる設計だが、『亡霊騎士団事件譚』はプレイしておくといいかもしれない。

ゲーム内容は前2作と同様にターン制SRPGだが、システム周りが大きく一新されている。ひとつに武器。これまでの2作は耐久度が設定されていたが、本作はそれがなくなり、ユニットごとに固有の武器が割り当てられた仕組みになった。ふたつに「SP(スキルポイント)」。攻撃を命中させたり、ダメージを受けることで「SPゲージ」が蓄積され、それを消費することで特殊な技や必殺攻撃を繰り出せるようになった。(※ただし、魔法と杖に関しては前2作同様に耐久度形式になっている)

さらにゲームスタート時の難易度選択がゲームモード選択に。「ノーマルモード」と「チャレンジモード」が選べる。前者は永久ロストなし、後者は永久ロストありの仕組みになっている。また、後者はそれに加えてセーブも一切不可能(※中断セーブは可能)。途中でゲームオーバーになれば、問答無用で最初のマップからやり直しになる、このジャンルきってのシビアな難易度になっている。

ただ、マップ総数は4つと前2作よりも少なめ。平均クリア時間も早ければ30分、遅くても1~2時間ぐらいなので、再挑戦しやすい設計だ。とは言え、ペナルティの大きさから、初プレイ時は「ノーマルモード」推奨である。

短編として綺麗にまとまったゲームデザインとシナリオ

以上、3作が本記事を執筆した2020年2月現在、公開中になっている。

どの作品も特徴としているのが”短編であること”だ。
しかし、「SRPG=長編」のイメージが強いと、本シリーズに対しては「浅そう」、「物語が中途半端に終わってそう」などの印象を持ってしまうかもしれない。『王都騎士事件譚』、『傭兵の小事件譚』の2作は、平均クリア時間が1~2時間ほどなだけに、特にそのように思ってしまうだろう。確かにその通りというか、短編だけに一区切り着くまでの時間はかなり短い。

だが、決して物足りない内容である訳ではない。むしろ全作、短めながらも高い満足感とやり応えを得られる内容にまとめられている。なぜかと言えば、短編としてのバランス感覚を大事にする作り込みが徹底されているからだ。

厳密にはストーリー構成がそれに該当する。
3作いずれも風呂敷を広げず、かと言って起承転結などの基本と大筋の要点を押さえることは欠かさないという、短編の枠組みとその限りで許されることを守り通しているのだ。多少、強引な展開もあるが、「事件譚」を冠しているなりに「事件」の主題に着目し、それに登場人物達が奔走する様子を描くことに徹している。

なので、展開には全く無理を感じさせず、全部が終わった後にも素晴らしい余韻が残る。まさにこれこそ短編、と言わんばかりにその醍醐味を突き詰めたストーリーに仕上げているのだ。

中でも第1作『王都騎士事件譚』は、いかに大事に発展し過ぎず、事件を描き切ることに徹したかを実感させられるまとめ方になっている。マップ総数もギリギリ物足りなさを感じにくい量に収まっているのみならず、各構成も狭すぎず、広すぎずの適切なスケール。ストーリーも含め、いかに明瞭なコンセプトを打ち立て、作られたのかを実感させられる出来栄えだ。

最新の『傭兵の小事件譚』はさらに短くなっているが、こちらもストーリー構成に風呂敷を広げ過ぎない、事件を描くことに集中する徹底したこだわりとコンセプトの明瞭さがギラギラ光っており、確かなやり応えと満足度が得られる。マップがたった4つしかないその構成だからこそ成し得た「チャレンジモード」のシビアなバランスも、SRPGの可能性を感じさせられる仕上がりで印象深い。

残る『亡霊騎士事件譚』はシリーズ作の中で最もボリュームが大きい作品なのだが、やはりこちらも短編としてのバランス感覚を大事にした内容にまとめられていて、全てやり終えた後の満足度は高い。登場人物も多く、事件のスケールもこれまでの中では大きめなのだが、それでも短編の中に収め、やり過ぎないようにするまとめ方には並外れたセンスを感じさせられるところだ。

これだけ紹介しても、短編という特徴ゆえの「物足りなさ」への懸念は払拭できないかもしれない。だが、あえて言い切ろう。3作いずれも、それが杞憂に終わる内容になっていることを。「そんなまさか」と思うのなら、突撃してみよう。小説の短編、海外ドラマを髣髴とさせるまとめ方の上手さ、バランス感覚に唸ること間違いなしだ。

短時間で遊べ、満足度も申し分ないSRPGの決定版がここに

SRPGとしての出来も盤石だ。率直に言って、ゲーム的な真新しさは皆無。唯一、小事件譚は独自の工夫を凝らしているが、”外伝”とくぎ打っているだけに、オマージュ元が存在するので、知っているプレイヤーなら既視感を抱くだろう。

ただ、ユニット間の成長率と能力差、マップ上の敵配置など、基礎部分の作り込みは素晴らしく、申し分ないSRPGとしての遊び心地が得られる。
特にユニット間のバランスは見事で、それぞれの個性を活かす運用が試される。最も簡単な難易度でも単騎無双が発生するようなことはなく、それぞれを適切な場に当てて突破する展開になる作りにまとまっているのも見事だ。
また、成長周りも本作は「クラスチェンジ」のシステムがない関係で、素直に育成することへ集中できて遊びやすい。やり応えを求めるプレイヤーへも高い難易度を別途設け、相応の”手ごわさ”を堪能できるのも申し分ない配慮だ。

中でも『傭兵の小事件譚』特有の「チャレンジモード」は、ゲームオーバーが文字通りのゲームオーバーになる独自の怖さが詰まっているので、この手のジャンルに手慣れたプレイヤーならぜひ、モードの名称通りにチャレンジいただきたい。

唯一、目に付く難点としても仲間入りに多少強引な展開があったり、『亡霊騎士事件譚』に限って弓兵の決定力が弱すぎる(意図しているかもしれないが)ぐらいで、全体的にとてもよく出来た作品。SRPGは長編すぎるのが、遊びたくても時間が作れなくて……と、様々な事情にお嘆きであれば、ぜひプレイいただきたいシリーズ作だ。短くも侮りがたい事件の数々に挑み、解決の二文字を勝ち取れ!

[作品別基本情報]
タイトル:『王都騎士事件譚』
制作者: YKTTZ
クリア時間: 1~2時間
対応OS: Windows
価格: 無料

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/12081

タイトル:『亡霊騎士事件譚』
制作者: YKTTZ
クリア時間: 5~7時間半
対応OS: Windows
価格: 無料

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/18090

タイトル:『傭兵の小事件譚』
制作者: YKTTZ
クリア時間: 30分~1時間半
対応OS: Windows
価格: 無料

※ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/21929