この森では”何か”が起きている。世にも珍しいリス監視ミステリーアドベンチャー『NUTS』

アドベンチャー,インディーゲーム

体長おおよそ13~91センチ。体型に対して大きく、長い尻尾が特徴の動物「リス」。
一般的には樹の上で生活し、ドングリにキノコ、草などを好んで食べる「樹上リス」が最もよく知られ、主に森林で見かけられる。また木登り、ジャンプを得意とし、枝や樹に空いた穴の中に巣を作ることも多い。

特に冬になると、リスは「キャッシング」と呼ばれる餌を巣に貯蔵する行為に時間を費やすことがある。実際にその場を確かめてみると、膨大な数の木の実などが見つかりやすい。こうしたリスの習性、認知機能などを明らかにする研究も盛んに行われていて、一部の研究者からは論文も発表されていたりする。(参考リンク

そんなリス(厳密には樹上リス)の観察と追跡をテーマにした、一風変わったアドベンチャーがこれより紹介する『NUTS(NUTS – 監視ミステリー)』だ。2021年1月、Apple Arcade向けiOSアプリとして配信。同年2月5日にはSteamでPC(Windows、macOS)版、マイニンテンドーストア(ニンテンドーeショップ)でNintendo Switch版が発売されている。

森の中にカメラを置き、撮影した映像からリスを見つけ出せ

本作でプレイヤーが成すべきことはシンプル。リスの監視だ。
具体的な手順を追って解説すると、

まず撮影用カメラを持ち、舞台となる森の中を移動。

手持ちのGPS機器が指定する場所にカメラを設置。
その後、撮影用機材の置かれた「調査キャラバン」へと帰還。

機材の録画ボタンを押し、撮影を開始。同時に時間が夜に移行する。

そのまま撮影した映像を再生し、リスが映っているかをチェック。

リスの姿を捉えていたら、その瞬間を写真にして印刷。

印刷した写真をFAXから送り、依頼主からの指示を待つ。

以上、こんな具合である。
本作はこれらの過程を辿ってストーリーを進めていくのが基本となる。

しかし、なぜにリスを監視しなければならないのか。その理由もシンプル。
主人公はその仕事を依頼された、新米の現地調査員であるからだ。

依頼主はヴィアゴ大学研究所のニーナ・ショルツ教授。教授は人里離れた「メルモスの森」に生息するリスたちの調査を目的に主人公を現地へと派遣。数ヶ月間、調査キャラバンの中で過ごしながら、森のリスたちを監視する仕事に就くことになったのである。一連の流れはゲーム開始間もないオープニングにて語られる。

また、教授はリスたちに奇妙な動きが見られた場合、その様子を撮影し、追跡することも命じている。なぜ、そのようなことを依頼したのか。それについては後述する。

また、ここまでのスクリーンショットが示唆する通り、ゲーム的には1人称視点の探索型アドベンチャーとなる。この視点と言えば、ファーストパーソンシューター(FPS)が有名だが、本作は移動メインの設計。これと言って激しいアクションが要求される場面は無く、普段FPSを遊ばない人にも取っ付きやすいシンプル設計になっている。

本編も章単位に分けられたエピソードを順に追いながら、監視の仕事をこなす形で進行。舞台となる森の中のフィールドは調査キャラバンで行き来する設定も踏まえ、章ごとに変わる仕組みを採用。オープンワールドのような広大な土地を往ったり来たりすることはないため、いわゆるステージクリア型の感覚で進めていける構成だ。

ただ、相応にリスの追跡調査では根気が試される。
本作の魅力と独自性はそこに集約される。

執念と根気が試され、相応の達成感が味わえるリス監視とその追跡

そもそもリスを監視し、追跡するのが目的な時点で本作は相当風変わりなゲームだ。他に似たようなものがあるかと言われたら、まず出てこないだろう。1人称視点のアドベンチャーゲームと対象を広げれば、そこそこ有名なものが出てくるが。

そんな珍しい題材を扱うだけに、遊び心地も新鮮。何せ、本作の主たる遊びを一言で表するなら「張り込み」(待つこと)なのだ。珍しさは嫌でも察せるだろう。そして、それが遊びのキモだけに驚くほど静かで淡々としている。撮影した映像をチェックする時は最たるもの。モニターに備え付けられた再生、巻き戻しボタンを押したり、時にカメラを拡大・縮小させたりする調節を細々と行うことに終始するので、ビックリするほど地味だ。あまりに静か、かつ地味に進行するのもあって、時と場合によっては眠気すら誘いかねない。

加えて、リスもそう簡単に撮影できる訳ではない。基本、カメラを設置する所はGPS機器が伝えてくれるので、森全体をしらみ潰しに調べる手間はかからないのだが、設置して撮影すれば必ずリスが映るとは限らず。そこから向きを変えたり、レンズの中心点を別の所に合わせるなどの微調整を行う必要も生じるのだ。

なので、始めて間もない頃はなかなか上手くいかなくて苦労する。その分、見事その姿を捉えて撮影できた時の感慨はひとしお。その後を追跡するように撮影し、彼らの住処(キャッシングしている場所)を発見できた時には、何とも言い難い達成感を得られる。

それなりの根気と執念が試されるため、人を選ぶ側面があるのは否定しない。だが、撮影に成功し、徐々に人間の肉眼では捉えられない、文字通りの「小さな世界」が見えてくるのには好奇心と探求心をくすぐり、徐々に「今回はどこに潜んで、何を企んでいるのかな?」と前のめりで取り組んでいきたくなる楽しさがある。まさに「リスの監視」というこの題材あってこそで、特に探索型のアドベンチャーが好きな人ほど琴線を刺激するだろう。もし、小さな世界の発見という触れ込みに感じるものがあるなら、ぜひチャレンジして欲しいところである。相応の根気と覚悟が試されるが、未だかつてない探索を満喫できるはずだ。

また、終始リスを観察し続ける訳ではない工夫を凝らした構成も見所。本編は章ごとに舞台となるフィールドが変わり、それぞれで少し変わった撮影が試されたりもする。時にはリスの撮影でも、タイムスタンプ付きの写真を複数枚送るという、撮影技術と際どい調整が試されるものも。さらに終盤には全く別の”追跡”も待っているのだが、これに関しては直接その目で確かめていただければと思う。

撮影と共に描かれるストーリーも、ミステリーを謳うだけに不穏な空気漂う内容になっている。そもそも何故、教授はリスの監視を依頼してきたのか。これは冒頭をプレイすれば早々と明らかになるので言及してしまうが、森の中で起きている”異変”を突き止めるためである。それにリスが関わっているとされ、監視を続けていくのだが、徐々に彼らが大変なものをキャッシングしていることが露わになっていく。


▲木の実の山に紛れて物騒なものが……。

そして異変が暴かれるにつれ、ストーリー全体の不穏な空気も濃くなっていき、ついには主人公にも……これ以上は言及しないでおこう。
ひとまず、ミステリーを謳うのは伊達じゃない内容なのだ。この森の中で、リスたちが何を隠しているのか。何が起ころうとしているのか。全てが終わった時には、きっと本作が扱った深刻なテーマに対し、思いを馳せてしまうだろう。

ただ、結末に関しては非常に賛否が分かれるものである、と付け加えておく。
筆者としてはまだ描ける余地があったような、と思える締め括りだった。
あまりスッキリできる内容ではないのは念のため、覚悟しておいて欲しい。

粗削りな点はあるが、唯一無二の遊びが満載のアドベンチャーゲーム

また、操作性にも難がある。フィールドの移動、カメラの設置などの基本動作は概ね問題ないのだが、肝心の撮影映像のチェックが煩わしい。具体的にはNintendo Switch版なのだが、左右いずれかのスティックでカーソルを動かし、それを再生、巻き戻しなどのスイッチに重ね、Aボタンを押して動作させる。再生、巻き戻しをするための専用メニューから実施する形ではないため、大変使いにくいのだ。また、スイッチのサイズが小さくてカーソルを重ねにくい。そのために押し間違いもしやすく、ストレスフルな作りになってしまっている。全くコントローラに合わせた最適化ができていないのだ。

せめて、メニューを独立させた作りにしてくれれば……。携帯モード時に限って使えるタッチスクリーンに非対応なのも厳しい。もし操作でストレスを感じたくない場合は、マウスが使えるPC版を推奨したいところである。

他にボリュームも大きくない。スムーズにいけば4~5時間ほどでエンディングに到達できる。ただ、森の中に隠されたカセットテープを探し出す収集要素があるので、それも並行すれば相応の密度になる。ストーリー的にも教授の人物像を補う情報が多々含まれているので、より背景を知りながら進めたい場合はぜひ、森の隅々を探し回ってみて欲しい。

あと一歩な所はあるものの、リスの監視という名の「張り込み」がキモのゲームプレイは唯一無二で、良くも悪くも強い印象を残すアドベンチャーゲームに完成されている。これまでのスクリーンショットの通り、グラフィックも一風変わったデザインで、章ごとに基調となる色が変わる仕掛けが凝らされているのも必見だ。

この不思議なテーマとストーリーに惹かれたのなら、ぜひ十分な根気を持った上で挑んでみていただきたい稀有な意欲作。カメラと撮影用の機材を駆使して、森に潜んだリスたちの世界とそこに隠された秘密を暴き出そう。

[基本情報]
タイトル:『NUTS』(NUTS – 監視ミステリー)
発売元・作者:Noodlecake / Joon, Pol, Muutsch, Char & Torfi
クリア時間:3~5時間
対応プラットフォーム:iOS(Apple Arcade)、Nintendo Switch、PC(Windows、macOS)
価格(税込):¥2,050(Nintendo Switch、PC)
備考:12歳以上対象(軽度の罵り言葉あり)

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※Nintendo Switch版
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000036368.html

※PC(Windows、macOS版)

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