話題のビジュアルノベル『VA-11 Hall-A』の開発チームSukeban Gamesに聞いた!彼らのゲーム制作への熱い思いとは?

インタビュー,インディーゲーム,ノベルゲーム

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TGS一般公開日一日目。たくさんのインディゲームが展示される中、一際注目を集めた作品がある。ベネズエラに拠点を置くSukeban Gamesの開発したビジュアルノベルゲーム『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』(以下『VA-11 Hall-A』)だ。
 
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『VA-11 Hall-A』は、サイバーパンク都市グリッチシティに居を構えるバーVA-11 Hall-A(ヴァルハラ)のバーテンダーであるジルとなり、VA-11 Hall-Aに訪れるさまざまな顧客の要望に応え、カクテルを提供していく作品だ。サイバーパンク+バーテンダーという独特のストーリーと世界観に加え、多くのビジュアルノベルが選択肢で展開を左右するところを、このゲームは提供するカクテルで展開が変化するという非常にユニークなシステムを持っているのが特徴だ。日本のカルチャーに影響を受けたとされるビジュアルも非常に魅力的である。

本作は2016年6月にSteamでリリースされ、瞬く間にSteamユーザーの心をつかみ、その地位を不動のものとした大ヒット作品である。その魅力的なビジュアルや独特のシステムが日本においても話題となり、日本語版のリリースが待望されていた。

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そんな中、先日PS Vita版の発売日が2017年11月16日と発表され、待ち望んだゲーマーたちは沸き立った。その熱は当然TGSにも伝わり、インディディベロッパー発のビジュアルノベルというある種ニッチな作品にもかかわらず最長100分待ちという大行列となった。(私が事前に確認に伺った13時の段階で80分待ちだった。すごい。)大手ディベロッパーのAAAタイトル並みの行列である。その注目度の高さも計り知れる。

VA-11 Hall-A(ヴァルハラ)日本語版サイト

さて、今回私たちはベネズエラからはじめて来日したSukeban Gamesのおふたりにインタビューする機会を頂いた。

多くの注目が集まる本作。様々な視点でのインタビューが重なるであろうことを考え、今回は「インディディベロッパーとしての活動」と「ゲーム制作へのこだわり」に主眼を置き、インタビューを行った。

『VA-11 Hall-A』に込められた開発者の熱意とは?

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――今回で『VA-11 Hall-A』は二度目のTGS出展ですね。TGS2015ではゲームの展示のみでしたが、今回は開発であるSukeban Games自ら参加しての展示と聞いております。しかもSukeban Gamesはベネズエラから出ることすらはじめてということで。何か手ごたえなど感じておられますか?

Sukeban Games:
予想以上に、それこそ爆発的に話題になっているみたいですね。ビジネスデイでは多少の列はできていたんですけど、数人程度のものでした。まあこんなものだろうなとそのときは思っていたんですが、今日来てみるとこんなに大きな行列ができていて、わあ!すごいな!と。

で、その時はじめて気づいたんですが、ああ、本当に私たちは成功しているのかも!なんて。すごくうれしいですね。

――日本では本作に非常に注目が集まっているようで、一般公開日の初日である今日100分待ちの大盛況だと先ほど伺いました。たくさんのファンが詰めかける形となりますが、何かうれしかったことなどございますか?

Sukeban Games:
一番うれしいのはファンに会えたことですね。こうしてTGSに参加するのははじめてのことですので。日本のイベントなので当然日本のファンも多く来てくれましたが、その他にも私たちと同じベネズエラ出身のファンが来てくれたり、ペルー出身のファンにも会えたり、Twitter上で知り合って今までやり取りしてきたけれど実際に会ったことがなかった人とも会うことができたりと、たくさんのファンに会うことができました。ファンに愛されているんだと、やっと自覚しましたね。ありがたい限りです。

以前からTwitterでやり取りしていたイラストレーターさんにイラストとサインがもらえて、最高ですね。

――こうしたイベント以外でもインターネットを通じてファンと交流されていたとのことですが、そうした中でうれしかったことはどんなことですか?

Sukeban Games:
すべてですね。ファンにしてもらえることはすべてうれしいです。感謝しきれないぐらいです。絵を描いてくれたり、何かしてくれたりするのを見るのは、何度見ても飽きることはありません。

――ファン以外にも、Sukeban GamesはWolfgameやMidBossといったディベロッパーとつながりをもって、コラボレーションをされていますよね。ですが、Sukeban Gamesはベネズエラから出たことがないはずです。こうした交流はどのようにして生まれたのでしょうか?

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(MidBossの『2064: Read Only Memories』。『VA-11 Hall-A』とコラボしている。)

Sukeban Games:
答えは非常に単純で、(ネット上で)メッセージを送り合ったりすることでつながりを深めてきました。インディーズのすごくいいなと思うところは、仲介者や役員といったものがないので何かしたい、コラボしたいと思ったらすぐに直接話を持ち掛けられて、いいなと思ったらすぐに実現できる。そこがインディーズのすばらしさのひとつですね。

――コラボといえば、Sukeban Gamesの看板キャラクターであるデイナ(Dana Zane)はVA-11 Hall-A以外にも様々な場所、例えば先ほどの『2064: Read Only Memories』やSukeban Gamesの他作品『Sales Pitch』にも登場します。彼女はどういったキャラクターなのでしょう?キャラクターの印象についてお教えください。

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(画像は現在Steamで配信されている英語版)

Sukeban Games:
デイナというキャラクターは私たちが最初に描いたキャラクターです。このキャラクターは『VA-11 Hall-A』用に作ったわけではなくて、元々は私たちが運営しているブログのために作ったキャラクターなんです。

――DANGERUですね。

Sukeban Games:
はい。そのブログでは日本のポップカルチャーを紹介しているんですが、そこにマスコットのようなキャラクターが必要だと考えたんです。それで作ってみようという話になって。

他のマスコットってかわいければいいみたいな、見ている人が親しみやすい性格のよさそうなキャラクターを置いておこうという風潮ってありますよね。デイナはそういうキャラクターではなくて、もっと強い、いかついイメージの、やられたらやり返すようなエッジの効いたキャラクターにしたいと思ったんです。しかも、デイナはすぐにできたキャラクターではなくて、何年もかけて進化してきたキャラクターなんですね。今、皆さんが知っているデイナと最初に生み出されたデイナはかなり違います。

あと、デイナというキャラクターの面白いところは、主人公でもない、一番人気のあるキャラクターというわけでもない、『VA-11 Hall-A』のキャラクター人気投票を行ったときはデイナは3位なんですが、そういうキャラクターであるにもかかわらず、すごく目立っている。印象に残るキャラクターなんですね。何年もかけて作ってきたキャラですが、すごくやりがいがありましたね。

デイナというキャラクターがいたからこそSukeban Gamesという名前が決まったというのもありますね。会社の名前を決めようという段階になって、いろいろ考えたんです。そのとき、あの日本の映画なんだっけ。ギャングっぽい女の子がいて、リーダーがいて……。ああ、それはスケバン(『スケバン刑事』)だね。よし!それだ!それにしよう!2人ともピンときてすぐに決まったんです。

デイナというキャラクターのやりたいことをやる、言いたいことを言う、そういう彼女のハードコアな一面を会社にも反映させようと思っていたんです。それで、彼女の本質を考えると、スケバンという名前しかないと思い、Sukeban Gamesという名前が生まれました。

――Sukeban Gamesの前にまずブログがあったというのは知っていましたが、そのブログのマスコットから会社の名前が生まれたというのは面白いですね。キャラクターと言えば、先月頃からキャラクター創作秘話をSukeban Gamesのページにて公開なさっていますよね。こちら拝見させていただきましたが、キャラクターに深い思い入れのある開発なんだなと感じました。こうしたキャラクター造形の源はどこにあるのでしょうか?

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Sukeban Games:
キャラクターだけでなくゲームの各要素がそうなんですが、2人で話し合った時に出る、ああいうのってカッコいいよね、こういうのってできたら面白いよね、というところが源になっています。そこから、それをどうすれば実現できるのか?ということを考えて、とにかくやってみる。非常に単純なプロセスですが、キャラクター作成やゲームの要素は、こうした思いを源に作っています。

――言葉は少し違うかもしれませんが、チャレンジ精神でもって作っておられると。

Sukeban Games:
ええ、まさしくその通りですね。

――『VA-11 Hall-A』のストーリーについてもぜひお伺いしたいのですが、『VA-11 Hall-A』はサイバーパンクメガロポリスという壮大な世界観の上で、ジルという女性の葛藤を描く作品ですよね。私はこの作風がとても好きなのですが、せっかくの世界観なのだからもっとお話を広げていってもいいのに!というプレイヤーの声もあります。Sukeban Gamesのカッコいいことをどんどんやっていこう!という精神とある意味逆行した、小さいストーリーを描いているのはやはり狙いやこだわりがある部分なのでしょうか?

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Sukeban Games:
そういった意見は私たちも見たり、耳にしたりしています。今いくつかのプロジェクトを手掛けているんですが、ここにみなさんからのフィードバックをしっかりと受けて制作しています。

『VA-11 Hall-A』は確かにスケールの小さいゲームワールドに対し、広がりに可能性を感じるキャラクターがたくさんいます。このスケールの小ささは意図的なもので、私たちはまずは小さいスケールでゲームを作ろうと考えました。そして完成後に、同じキャラクターを使って別のストーリーを始めたり、はたまた別作品に登場させたり、様々な試みができるようオープンエンドの形を取ることにしたんです。

今、私たちはたくさんのアイデアを持っていて、詳しくはまだ何も言えないのですが、みなさんの意見をとても参考にしています。さきほどの、お話をもっと広げるべきだというような感想もネガティブには受け止めずアイデアの源泉となっています。まだ何も言えない新作ですが、楽しみにしていただけたらと思います。

――なるほど。VA-11 Hall-Aはスケールの小さい作品ではありますが、これは狙い通りで、今後の広がり、展開を考えた上でこのスケールになったということですね。

Sukeban Games:
はい。そこを狙ってのものです。

――少し話は変わるのですが、ビジュアルノベルは日本のメジャーシーンからは少し引いたところにある状態ですが、日本のインディないし同人ゲームシーンにおいては人気が高く新作もどんどん作られているジャンルです。で、日本のインディ・同人ディベロッパーもどんどん世界に向けて作品を発信していこうと考えている方がたくさんおられます。そこで、先んじてビジュアルノベルで世界的に成功されたSukeban Gamesとして、今からビジュアルノベルで世界に挑戦する開発者に向けてなにかアドバイスなどありますでしょうか?
 
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Sukeban Games:
ゲーム全般もそうかもしれませんがビジュアルノベルで特に思うところで、これからゲームを作る、発表していく方にぜひアドバイスしたいのは「とにかく今のトレンドに逆らってやれ」ということですね。例えば、高校生の日常という作品が流行っているのならば、それはやめて、そこら辺にいるサラリーマンの日常にバイオレンスを入れてみたりとか、トレンドと全く違うことをやった方がいいと思いますね。

トレンドに沿って作れば売れるかもしれませんが、それは今流行っているから売れるだけで、あとから興味を引けない作品になってしまうかもしれない。(ビジュアルノベルは)オリジナリティがすごく大事なので、流行っているから作るではなく、自分が面白い、カッコいいと思うものに従って作る方がいいと思うんです。それが一番のアドバイスですね。とにかくトレンドには逆らえ。

――トレンドに逆らえ。素晴らしい言葉ですね。

Sukeban Games:
もう一つのアドバイスとしては、キャラクターを作るときは自分のわかっていると思い込んでいることではなく、ちゃんと自分がはっきりわかっていることを描くべきです。例えばTVを見ると、お母さんはこういうものだとか、学生はこういうものだとか、そういうお決まりみたいなものがあるじゃないですか。でも、それらは本当のそれとは違ったものであることもまた多いわけです。

言い方は悪いかもしれませんが、怠けて描写をしてしまう人って、こういうテレビのお決まりなんかをそのまま自分のキャラにも当てはめてしまう。私はもっと、自分の体験したこと、自分で見たこと、自分が触れたことを描いた方がいいんじゃないかなと思います。もちろん、ドラゴンみたいな架空のものは体験しようがないですが。

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Sukeban Games:
ただ少しでもリアリティのある作品、『VA-11 Hall-A』もそうですが、こうした作品はフィクションの中のキャラクターを参考にするのではなく、自分の知っている人やことを参考にするべきだと思います。『VA-11 Hall-A』はサイバーパンクではありますが、キャラクターはリアリティある描写を心がけています。例えば主人公のジルは独身女性ですが、独身女性のイメージをTVから持ってきたりせず、私の知っている人はこんな感じなんだけどな、という自身の知るイメージでもって作っていく。先ほどの話にもつながりますが、トレンドやお約束ではなく、自分が正しいと思ったものを描くべきですね。

――「自分たちの経験を作品に落とし込む」というところなのですけど、VA-11 Hall-Aは開発者がベネズエラのバーで実際に見聞きしたことを参考にエピソードが作られているというウワサを以前に耳にしたことがあります。そういったことって本当にあるのでしょうか?

Sukeban Games:
バーの中で起こることは実際に体験したことと関係ないですね。ただ、ゲームの中のバーの外、世界で起きていることのほとんどは実際の話がベースになっています。政治的な話とか、暴動が起きたりとか、環境が悪くなったりとか。これらは実際に私たちが目で見て、耳で聞いて、肌で触れたことばかりですね。

それに連なってくることなんですが、必ずしも自分の体験をもとにエピソードや世界観を書けとは言えないですが、自分の体験は自分が一番分かっていて、自分が一番この体験をどう伝えたいか分かっている。こういうところを描くことで必ず面白いものは生まれてくると思います。

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Sukeban Games:
少し話は離れてキャラクターについてなんですが、かわいいやカッコいいだけではなく、実際に世界に存在しているようなキャラクター作りを私たちは心がけています。自分の中では彼女たちが実際生きて、生活していてもおかしくないと考えています。VA-11 Hall-Aのキャラクターはゲームを起動したときに突然発生するわけではなく、以前からずっとキャラクターが何十年も生活をしているんです。

キャラクターがプレイヤーのゲームのために存在するわけではなく、変な言葉ですが、プレイヤーがキャラクターの人生に追いついていく。長く生きてきた彼女たちには当然経験や思いがあります。そこをゲーム中ですべて表現できなくとも、しっかりと考えておく。すると、すべては表現できなくとも、プレイヤーには必ずそこが伝わるんです。作者自身の経験だけでなく、取り巻くものすべての経験や人生を考えた世界観づくりが非常に重要です。

――そうした作品作りの上で日本のプレイヤーが気になっていることなのですが、『VA-11 Hall-A』は日本人からするとかなり日本のゲームびいきに映る作品なんですね。公式ページでも『シュタインズ・ゲート』や、『ペルソナ』、『キャサリン』、TVアニメ『アイドルマスターシンデレラガールズ』といった日本作品がちょくちょく話題に上がっており、日本作品好きを感じさせます。どんな作品が『VA-11 Hall-A』に影響を与えたと言えるでしょう?

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Sukeban Games:
実は、あまりゲームからインスピレーションを受けたということはなくて。強いてなにか影響を受けたゲームをあげるとするならば、『真・女神転生』と『キャサリン』ですね。ただ、『キャサリン』に関しては『VA-11 Hall-A』を制作するまでプレイしていなかったんです。そのビジュアルや音楽は非常に気になっていたんですが。

ゲームというよりは、いろんなテレビ番組や映画、自分の国の現状・文化からインスピレーションを受けています。ただ、私たちはいろんなゲームのファンなので、その影響がにじみ出てしまっている……というところはあると思います。

――ストーリーやキャラクター、そしてそのインスピレーションまで、全てがご自身の体験から発せられている。すばらしいお話でした。インタビューありがとうございました。最後に、日本のファンに向けて何か一言ございますでしょうか?

Sukeban Games:
今日の盛況を見て思ったんですが、まだ日本語版のリリースがなされていないので、日本の方の中にはこんなゲームになるんだろうなと想像して期待してくれている人も多いのかな、と。遊んでみたいけど英語だから遊べない、遊んでみたけど英語だから難しかった、という人も多い。これを自分たちの経験に照らし合わせると『サクラ大戦』に近いかなと。

『サクラ大戦』のアニメはこっちでもやっていたし、『サクラ大戦5』はアメリカ版が発売されたんですけど、ちゃんと『サクラ大戦』をプレイできたことがないんですね。でも、そんなほとんど触ったことがないゲームシリーズなのに、きっと自分はこのシリーズが大好きなんだ!プレイしたら好きになるんだ!ってなんとなく分かるんです。多分、日本のファンが『VA-11 Hall-A』に抱いている感覚も同じようなものなんじゃないかなと思います。

これだけ多くのファンが待ち望んでくれていますので、私たちは皆さんの期待を裏切らないことを祈るばかりです。

開発者の思いが詰まった作品。11月が待ち遠しい。

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短いインタビューであったが、Sukeban Gamesのゲームにかける思いの一端を知ることができる貴重なインタビューだった。自分たちの道を行くんだ、自分たちの人生をゲームに活かしていくんだ、という一本筋が見える印象で、『VA-11 Hall-A』という作品がいかに彼らの熱意と信念で作られてきたかがわかる。

本作の大ヒットも、日本での熱望ぶりも、そんな彼らの思いがゲームからあふれ出たからこそなのだろうと改めて思わされた。今のゲーム飽和時代、伊達や酔狂でゲームはヒットしない。彼らだからこそ、『VA-11 Hall-A』は完成し、世に受け入れられたのだろう。

ビジュアルノベルは冒頭でも触れたように、いまやニッチなジャンルである。だが、そのニッチさをはねのけ世界で成功した本作の熱量はすさまじい。ぜひ11月を待ち、この作品に込められた開発者の思いを堪能してほしい。

  • 洋ナシ(@younasi

    海外インディゲームの情報同人誌を作っているただのオタクですが、声をかけられゲーム記事を書くことになりました。人生何があるかわかりませんね。そういうことがあるのは、もっとこう絵がうまかったりマンガが面白かったりする人だけだと思ってました。他の執筆者の方のように輝かしい実績はありませんが、世界で初めてSurgeon Simulatorでペン回しに成功したという地味な実績があります。

    ブログ:http://tukedai.minibird.jp/blog/