変形武器を手に少女は戦う。SF世界観とハイテンポ演出で魅せるデッキ構築型ローグライク『アルファ・キューブ』

フリーゲーム,ローグライク

フリゲなどの個人制作においても、定番ジャンルの一つとして定着した感のあるデッキ構築型ローグライク。システム面はもちろん、世界観や演出などにおいてもそれぞれのこだわりや工夫を感じるような作品が次々と登場している。

そこで今回は、「SF・メカものが好き」「可愛い女の子が格好良く戦うのが好き」「システムが凝っていて、その上でストーリー要素もしっかりあるゲームが好き(欲張り)」という筆者がハマったデッキ構築型ローグライク『アルファ・キューブ』を紹介したい。本作は2025年4月末よりフリーゲーム夢現にてダウンロード版が、PLiCyにてブラウザ版が配信中のフリーゲームだ。Steamでの配信も予定されている。

ハイテンポ・スタイリッシュな演出も見どころのデッキ構築型ローグライク

AIが形成した巨大な兵器「キューブ」の内部で「シーラ」と呼ばれる少女が目覚めるところから、本作の物語は始まる。ナビゲーターとなるAI「ツキカゲ」の導きでキューブからの脱出を目指しつつ、キューブとは何か、またシーラ自身も何者なのかに迫っていくというのが本作の流れだ。

巨大なキューブから脱出するため、逆にキューブの中心部に到達し統括AIを倒すことが当面の目的となる

ローグライクとしてのステージ攻略中にもシナリオは進行し、戦闘とシナリオが一体となったような演出も見せ場となっている(一度みたシナリオは省略されるので周回のテンポは削がれない)。ときに敗北しつつも周回を繰り返していくというローグライクのゲーム構成も、シナリオとしっかりリンクしている。

演出のテンポのよさも、周回を繰り返すゲームとして大きなポイントだ。本作のUIはマウスやタッチ操作でプレイするものだが、カード選択時の効果発動やカードのドローなど、何か操作をしたときのレスポンスが非常によく、「間」がほぼ存在しない。演出も高速で、それでいて何が起きているか見失うことはないギリギリのラインを攻めている印象だ。プレイ動画も撮影したので是非、テンポ感を疑似体験していただければと思う。

また、シーラが扱えるデッキは3種類あるが、これはシーラの持つ変形武器「マルチウェポン」の型として表現される。小柄な少女が大きな武器を振るって戦う様子が、戦闘画面の立ち絵や攻撃ごとの多彩なエフェクトアニメーションで表現されているのも見どころ。疾走感のあるものを中心とした戦闘BGMと合わせてスタイリッシュにプレイを盛り上げ、繰り返し挑戦する際のモチベーションにも貢献してくれている。

シーラが扱う3種類のデッキは、変形武器「マルチウェポン」の型として表現される。変形武器というガジェット、またそれぞれのデザインもSFらしい格好良さを感じさせてくれる

敵の「領域展開」による理不尽なギミックをどう切り抜けるかが攻略の鍵

本作の基本的なゲーム構成はデッキ構築型ローグライクとしてオーソドックスなものだが、いくつか特徴的な要素もある。まずステージの進行だが、ノンフィールド形式でランダムに提示される2つのイベントから1つを選んでいく形。ただこの際、どんなイベントが出現するかをある程度プレイヤーがコントロールできるのがポイントだ。

具体的には、ステージ開始時に「ルート」をAとBの2つから選ぶことになる。ルートによって、敵との戦闘、持っているだけで効果を発揮する「メモリ」(いわゆるレリックにあたるもの)の入手、HP回復やカード強化ができる休憩といったイベントの配分が変わってくる。戦力強化の方針に応じて、ある程度出現するイベントを選べるという形だ。

最初にルートを選んだら、あとはイベントを二択で選んでいくだけとステージ進行もテンポがよい

戦闘においては、「SPゲージ」が最大値の8になると使える「SPスキル」が、戦況を大きく動かしたり、守りを固めたりできる重要な戦術要素となっている。これ自体は比較的定番の要素だが、SPの溜め方に特色がある。ターンごとや敵を倒したあとに1増加するほかに、ターン終了時にカードを使用するコストであるAPが余っていると、その分がSPに加算されるのだ。

この手のゲームだと、使い切れなかったカード使用コストはそのまま消失するタイプも多い。いかに無駄なくコストを使い切るかもプレイングのうち……という面も確かにあるのだが、とはいえそうそう上手く行かず勿体ないと感じることも多いのではないだろうか。本作の場合は余剰APが無駄にならないのでお得感があり、また次ターンに備えて敢えてAPを使い切らないという戦略も生まれてくる。

SPスキルは複数から選んで発動可能。状況に応じて使い分けられる切り札だ

マルチウェポンの型ごとの独自システムや調整も練られており、仕込みを重ねて大ダメージを出すといった、カードバトルの醍醐味を味わえるようになっている。たとえば多様なバフ・デバフを扱える「ESPサイズ」(文字通り、超能力と鎌で戦うイメージだろうか)には独自のステータス「力場」が存在。さまざまな方法で高めることができ、これを参照する場面も攻撃に防御、スリップダメージの効果量と多岐に渡る。

力場の値は上げる方法も用途もさまざま。“ESPを扱う武器で力場を高めて戦う”という設定もサイキックSFらしくてグッとくる

こうしたシステムを活用して戦っていく敵の調整も練られている。特筆すべき要素は、一部の敵が展開してくる「領域」。戦場にさまざまな特殊ルールが追加されるイメージで、多くは敵側に有利となる。攻略ネタバレになるので詳細はあまり語れないが、たとえばこちらが攻撃系のカードを使えば使うほど敵の攻撃力が上がるなど、カードゲームの定番戦術をメタってくるようなものもある。「そんなんアリか!?」と言いたくなるような反則技にどう対抗するか頭を捻る、ギミックバトルゲーとしても楽しめるものとなっている。

0コストカードの生成やドローソースを駆使して小さいダメージを積み重ねていくという、この手のゲームの面白さが詰まったデッキコンセプト……とは相性が最悪の「領域」。こんな無法が許されていいのか

繰り返しの中で描かれる、少女の戦いの物語

本作は繰り返し攻略していくことでシナリオが進展。それに応じてステージの内容も一部が変化する。より物語の真相に迫っていくことと、難易度の上昇がリンクするような形だ。メインストーリーとは別のやり込み系コンテンツも用意されており、1周自体は軽めだが長く遊べる作品に仕上がっている。

シナリオの面では、シリーズ前作『ミカゲ・キューブ』(ダウンロード版 / ブラウザ版)の存在にも触れておきたい。こちらは2021年にリリースされた作品で、アルファ・キューブからは過去の時代の出来事が描かれる。必要な情報は『アルファ・キューブ』作中で示されるのでプレイは必須ではないが、あとからでもプレイすると、一部キャラクターの行動の真意などがわかりやすくなるかもしれない。

システム面は『アルファ・キューブ』より比較的シンプルで、扱うデッキが異なるキャラクターが3人いるがそれぞれ1周でストーリーは完結と、気軽に遊べる作品となっている。難易度も『アルファ・キューブ』より低めのため、『アルファ・キューブ』の周回中の息抜きに温故知新してみるのもいいかもしれない。

『ミカゲ・キューブ』

筆者は『アルファ・キューブ』がリリースされた際、SF的な世界観やキャラクターに惹かれるものを感じつつ手に取ったが、実際にプレイしてみるとデッキ構築型ローグライクとしての調整も絶妙でリプレイ性も高く、やり込み要素も十分と隙のない作品だった。このジャンルが好きな人なら全方位にお勧めできる、完成度の高い作品だ。

その上でやはり、「苛酷な運命に立ち向かう少女の物語」に興味があれば、よりいっそう強くプレイをお勧めしたい。繰り返されるシーラの戦いの先にあるものを、どうか見届けていただければ幸いだ。

基本情報

タイトル:アルファ・キューブ
制作者:kainushi
公称プレイ時間:1プレイ30分~1時間程度
対応環境:Windows、ブラウザ
価格:無料

ダウンロード(フリーゲーム夢現)
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_13563.html

ブラウザプレイ(PLiCy)
https://plicy.net/GamePlay/203935

ダウンロード(Steam、配信予定)

  • 中村友次郎(@finalbeta

    RPGのプレイと紹介がライフワーク。システムに凝ったRPGをとくに好んでプレイします。商業で一番好きなゲームメーカーは日本ファルコム。運営型では原神にハマってます。
    過去に十数年ほど、窓の杜の連載記事「週末ゲーム」の編集と一部執筆を担当していました。