第17回ウディコンで発見!独特なゲームデザインや物語で魅せるフリゲRPG・ADV3選
毎年7月から8月にかけて開催されている、ゲーム制作ツール「WOLF RPGエディター(通称ウディタ)」製ゲームのコンテスト「WOLF RPGエディターコンテスト(通称ウディコン)」。第17回目を迎えた今年も、約60本におよぶ多彩な作品が集まった。エントリー作品はすべて無料でプレイすることが可能だ。
本記事ではそのなかから、RPGを中心にプレイしゲームデザインの独自性を重視する筆者がとくにハマった3作品をピックアップ。RPG2作品と、RPG的なバトル要素も取り入れたADV1作品をご紹介する。物語の面でも際だった個性を感じられる作品もあるため、そちらも合わせて注目いただきたい。
あくまで広大なウディコンの世界の一側面を筆者の視点で切り取った形となるが、ウディコン作品を楽しむとっかかりの一つとして参考になれば幸いだ。
昨年の記事:第16回ウディコンで発見!独自のシステムや演出が光る“RPG好きにプレイしてほしいフリゲ”4選
Rewot.16 ─リワット イチロク─
不治とされる病「悪魔病」を治す薬の材料を得るため、薬師アセビと、患者を名乗りアセビをセンセイと呼ぶ少女シキミが塔を登っていくノンフィールドRPG。“血と毒が要のノンフィールド回顧RPG”を謳い、毒がシナリオ上も、戦闘においても強い存在感を放つ作品となっている。

戦闘はターン制のコマンド選択型で、センセイとシキミの二人パーティだが、二人の使えるコマンド自体がほとんど別物なのも特徴。例えば薬や毒などの道具は、薬師であるセンセイだけが使用できる。なかでも主に3種類ある毒の活用が、本作の戦闘に独自の戦略性を与えている。

RPGで「毒」といえばまずイメージするのは継続ダメージだが、本作では他にも、1ターン行動不能になる「麻痺」や通常の行動が取れなくなることがある「錯乱」という状態異常も毒で与えるシステムとなっている。ちなみに継続ダメージを与える毒は「出血」の毒だ。この3つの状態異常には、出血ならHP回復不能、麻痺なら100%溜まると強力な「切札」を使えるようになる「TP」を一定量減少といった効果もついている。ぱっと見でイメージしやすい効果に比べるとやや地味なこうした効果が、使いこなせるとなかなか渋い活躍をしてくれるのも本作のバトルの醍醐味だ。
ボスを含めたあらゆる敵にすべての毒が効くのもポイント。敵味方の行動順が「速」の能力値に依存しランダムにブレる要素がないこともあり、センセイとシキミの連携なども含め、状態異常による戦術を詰めて行く楽しさを味わえる。一方、それぞれの毒は自然回復すると数ターン耐性がつくという仕様があるため好きなだけ掛け放題とはならず、効果的に使うにはタイミングも重要。ボスごとのギミックなども凝っており、RPGでは状態異常を活用するのが好き、という人にはとくにお勧めしたいバトルに仕上がっている。

シナリオは回想シーンを挟みながら展開。「悪魔病とは何か」といった大きな謎も追いつつ、ところどころにいい意味での引っかかりを覚える描写などもあり、先が気になり考察も捗る内容だ。落ち着いたセンセイとテンション高めのシキミによる掛け合いも、コロコロ変わるシキミの表情とともに楽しめる。

統一感のあるビジュアルやUIデザイン、ボーカルによる戦闘BGMなどで、薄霧の中を征くような独特の世界観が表現されているのも見どころ。システム、シナリオ、演出と総合的な完成度が高く、遊びやすさの面でもさまざまな気遣いが感じられる。RPGという形式ならではの物語や設定の見せ方も散りばめられており、RPG好きならぜひ触れてみてほしい作品だ。
[基本情報]
タイトル:Rewot.16 ─リワット イチロク─
制作者:植物の灰
公称プレイ時間:3~5時間
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
https://i104mo74.blog.fc2.com/blog-entry-99.html
デスペレートエランド
小国「レーバ」の治安機関に所属する機械人形のミシオとその上司のフェアレスが、とある誘拐事件に立ち向かっていく短編ノンフィールドRPG。画面の中央にあるマス目状のスロットを敵味方で取り合いながらスキルを発動していくという、ユニークなシステムが最大の特徴となっている。


本作の作者であるケイ素氏がこのコンセプトの作品をウディコンで公開するのは、今年で連続3回目。回を重ねるごとに洗練と変化を経てきたが、本作ではスキルの発動方法が一新され、過去作とは大きく異なる戦略性を生み出している。相変わらずユニークすぎて言葉で説明するのが難しく、実際に触れていただくのが早いのだが、勘所ができる限り伝わるよう、かいつまんでご紹介したい。
本作の戦闘は敵との1vs1。過去の負傷が原因で戦えないフェアレスは戦術指揮を執るという形で、直接戦闘はミシオが一人で担当する。ミシオはあらかじめセットした4つのスキルを使用できるのだが、これを使うために必要なのが画面中央に8つあるスロット。スロットには赤、青、緑とワイルドカード的な位置付けの白という4色があり、スキルごとに使用に必要なスロットの色と数が決まっている。

スロットを埋めるようにミシオがスキルを使ったら、次は残ったスロットを敵が埋めてスキル発動というように、使えるスロットがなくなるまで交互に行動していく。敵が使うスキルと必要なスロットも見えるので、敵がスキル発動に使うスロットを先に奪って行動阻害することも可能というわけだ。
スロットに関してはスキルを使う前段階においてもポイントとなる要素がある。紹介が前後したが戦闘中の各ターン開始時は8つのスロットの色がランダムに決まったのち、そこから一定数、色を変えたいスロットを選んで別の色に変更できる仕組み。自分の有利なスロットになるようある程度干渉する余地はありつつ、どの色に変わるかはランダムなので完全に都合よくは行かないという、戦況に程よいゆらぎを与える要素となっている。準備段階ではランダム要素に一喜一憂し、最終的に整った盤面ではパズルチックに敵味方の発動スキルをコントロールしていくという、メリハリの効いたバトルが面白い。
戦闘で使用するスキルはノンフィールドのステージを進行している際にランダムに提示され、欲しいものがあれば手持ちのスキルと入れ替えるという形。本作のプレイ時間は1周は1時間程度だがスキルは多数用意されており、難易度も3つあるため繰り返し遊べる作品となっている。

ちなみに、同コンセプトの作品を3作公開したケイ素氏だが、この「スロット取り合いバトル」が続くのはここまでとなりそうだ。制作関係者でもない筆者になぜそんなことがわかるのかというと、ケイ素氏は今年3月時点で本作がほぼ完成したことを公表し、4月にはさらにその次となる作品の制作進捗を公開しているからだ。ウディコン数カ月前にもう次に向けて動かれているというバイタリティに驚かされたが、さておき戦闘システムに凝った作品を作り続ける同氏の次回作にも期待したい。
[基本情報]
タイトル:デスペレートエランド
制作者:ケイ素氏
公称プレイ時間:約1時間
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_13900.html
月を生む話
二重人格の高校生「神原耕介」とその裏人格の能力者「緋色月」が、街を謎の怪物が襲うという事件から幼馴染みの「御堂島冴子」を守るため調査や戦いを繰り広げて行くという、現代異能もののノベルADV。転校生として送り込まれてきた「組織」の能力者「山内貞(通称やまだ)」との緊張関係からの共闘など、その手のライトノベルやノベルゲームの愛好者なら「いつものあれ」で通じる、いい意味でコッテコテの中二病ノリが存分に味わえる作品となっている。


表向きは普通の高校生であり自分の別人格のことを知らない耕介が事件を調査し、それを緋色月が裏で支えるという展開がシステムで表現されているのも特徴。具体的には事件の内容や周囲の人物について耕介が調査する際、耕介の調査能力に応じて成功率が変わるのだが、通常はこの確率がざっくりとしか把握できない。しかし緋色月の異能により、調査に必要なコストである「体力」を少し消費することで成功率を1%単位で把握でき、さらには体力を2倍消費することでどれだけ成功率が低くても確定で成功させることができるのだ。


調査には日数制限があり体力の回復にも日数がかかるため、確実を期すため異能を使うか体力温存のため異能に頼らずワンチャンに賭けるか、また冴子ややまだと交流することで調査能力を上げる要素もあるためそれに日数を使うか……など、意志決定やリソース管理がADVとしてのポイントとなっている。一方、シナリオの展開に応じてRPG的な戦闘シーンも挟まれるが、ここでも確定クリティカルやほぼ絶対の回避といったチート級の能力によって緋色月の特異性が表現されるのも面白い。
なお調査に必要なコストは体力の消費のほかに「ストレスの上昇」もあり、溜まったストレスは耕介が二人暮らしの兄、恭太に「甘える」ことで解消できる。……ただ、この甘え方に少々、いやかなり問題がある。ネタバレ防止とセンシティブの両面から具体的な言及は避けるが、「異能バトルものの日常側」のように見えていた耕介の側こそ、狂気を孕んでいると言える。
申し遅れたが本作、作品紹介の警告に「エログロナンセンス(画像無し)です」とあるように、上記の甘え方も含めシナリオの一部描写は人を選びかねないものとなっている。そのほかにも留意すべき点があるため、プレイ開始時は起動時に表示される「おことわり」を把握した上で臨んでいただき、また内容について合わない、受け入れがたいと感じたら無理はしないでいただきたい。
少し脅かすようなことも書いてしまったが、決して終始重苦しい展開ばかり続くわけではなく、耕介と冴子のコミカルな交流や、なんだかんだで信頼関係を結んでいき凸凹バディっぽさが出てくる緋色月とやまだなど、ストレートに楽しかったりアツかったりする場面も沢山ある。また恭太と耕介/緋色月の兄弟関係も、歪んではいるかもしれないがその中にも真摯な家族愛だってきっとある、と感じさせられた。テンポがよくキレのいい(ときに切れ味が鋭すぎもする)掛け合いのテキストも見どころだ。


どなたも気軽にどうぞ、とは言いにくいが刺さる人にはとことん刺さる、そんな作品となっている。合う・合わないは少し進めれば判断できるので、もし興味があれば、繰り返しになるがもろもろご留意の上、この仄暗い中にも一筋の希望が見える世界へ足を踏み入れていただきたい。
[基本情報]
タイトル:月を生む話
制作者:クリムS氏
公称プレイ時間:初見一周1時間程度(※マルチエンディング)
対応OS:Windows
価格:無料
ダウンロードはこちらから
https://freegame-mugen.jp/adventure/game_13881.html