勇者、絶対さ許さん!復讐してける!そげえ血が見てえなら見せちやる!ゴブリンねぶりなすな!ゲームブック風アドベンチャーRPG『ゴブガリ』

RPG,アドベンチャー,フリーゲーム

ゴブリン。言わずと知れた、ヨーロッパの民間伝承に登場する伝説の生物で、邪悪な意志を持った小人。文献によっては意地悪な妖精などとも例えられ、主に剣と魔法のファンタジー世界を題材にした作品では、最弱モンスターの象徴とされる。

だが、独自の言語体系を持ち、部族社会を形成していたり、残忍な手口を好むなど、決して無力なほど弱い訳ではない。「小鬼」とも呼称される通り、その内面は鬼畜であり、決して弱いからと言って舐めてかかってはならぬモンスターなのである。

gobugari_01

そんなゴブリンを題材にしたゲームとして今回、『ゴブガリ』を紹介する。本作は2019年4月6日、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」、「ノベルゲームコレクション」にて公開された、しげきんぐ氏制作によるPC(Windows、Mac)用アドベンチャーゲーム。後者のサイトで公開されていることから明らかだが、「ティラノスクリプト」で制作された作品で、ブラウザ版も用意されている。

勇者達の横暴を食い止めろ!RPG要素満載のアドベンチャーゲーム

昔、ある王国に魔物を退治する勇者がいた。

gobugari_02

そんな勇者の前に二匹のゴブリンが現れた。ゴブリンを狩る「ゴブリン狩り」に従事していた勇者は、連れである王国騎士一行が見守る中、瞬く間に二匹を一刀両断。そして、さらなるゴブリンを狩るべく、彼らが生活を営む村へと向かうのだった。

gobugari_03

そんな二匹のゴブリンが倒される模様を子供のゴブリン(以下、子ゴブリン)が見ていた。勇者に倒された二匹のゴブリンは、子ゴブリンの両親だったのだ!理不尽な形で親を失ってしまった子ゴブリンは、復讐を果たすため、そして村を守るため、無謀にも勇者とその一行と戦う決意をする。果たして、多勢に無勢なこの戦いは吉と出るのか、凶と出るのか……?

作品の名から、ゴブリンを狩ることが目的の内容を想像するかもしれないが、それをする勇者側は敵。主人公(プレイヤー)側はゴブリンで、彼らの横暴を阻止するため、行動していく物語となっている。

gobugari_04

ゲームはクリック操作主体のコマンド選択型アドベンチャー。舞台であるゴブリンの村のあちこちを移動し、怪しい場所を探索したり、敵である王国騎士達と戦ったりしながら、打倒勇者を目指す。

最大の特色はロールプレイングゲーム(RPG)の要素を取り入れたゲームシステム。騎士達と戦う下りから明らかだが本格的な戦闘イベントが用意されていて、単純に物語を読み進めることに終始しない作りになっている。

gobugari_05

詳細な仕組みも独特。まず装備。言うまでもなく、戦闘は武器、並びにアイテムを装備した上で挑むことが重要となる。丸腰で挑めばどんなことになるか?そんなの返り討ちに決まってるべ。

ただ、ゴブリンは初期段階はその丸腰状態。なので、村の貯蔵庫を始めとする、怪しげな場所を探索して入手、装備していく現地調達方式となる。

gobugari_06

だが、一度に持てる武器とアイテムは一つだけ。もし、探索中に別の武器、アイテムを手に入れた時は、装備しているものと交換して捨てることになる。一応、武器は捨てたとしても、入手したものが貯蔵庫にある箱の中へ記録される形で収納されるので、後から再回収可能。アイテムは武器と違って記録はされないが、手に入った場所を調べれば再入手できる。

ただ、本編ではイベント進行に当たって特定の組み合わせが必要になることが多々ある。そのため、必要に応じて交換し、戦闘を始めとする各種イベントに応じていくことが求められる。

gobugari_07

その戦闘も特徴的な作りだ。RPGのコマンド選択型ではなく、敵とプレイヤー両者の「レベル」と「攻撃力」が高い方が優先的に攻撃でき、低い方は反撃もできず一方的に殴られ続ける、数字勝負方式になっている。

しかも、攻撃を受けた側はダメージ量に応じてレベルも低下。受け続けるほど、先に攻撃を仕掛けた側が優勢になっていくのだ。また、必ずしも二つのステータスが高い方が攻撃できる訳ではない。基本、攻撃行動は確率計算によって決定されるので場合によっては敵が先手を打ち、気が付けばレベルを下げられて形勢逆転してしまうこともある。

言うまでもないが、下がったレベルは戦闘終了後もそのまま。回復はしない。なので、可能な限り高いレベルまで上げ、ダメージを受けても挽回できる程度の武器とアイテムを持って挑むことが重要だ。

gobugari_08

このように基本はコマンド選択型のアドベンチャーでありながら、随所でRPG的な戦略が求められる、不思議な遊び応えに満ちたゲームになっている。まるで「ゲームブック」のよう、と言われればまさにその通り。あれに近い遊び心地なのである。

ゴブリンの”ずる賢い発想”が勝敗を左右する

そして、ゲームバランスの味付けが面白い。
ゴブリン特有の”ずる賢い発想”がカギを握るものになっている。

特に戦闘システム、具体的にはレベルの仕組みと「移動」のコマンドがそれを演出。レベルは食料を食べたり、敵に勝利すれば自動的に上昇するようになっている。RPGお馴染みの経験値を一定値溜めて上昇させる仕組みではないので、関連する条件を達成すれば、サクサクと上がっていく。時には一気に5から10まで引き上がったりもするほどだ。

gobugari_09

だが、延々とレベルを上げ続けることはできない。というのも、戦闘を重ねる度に敵が強くなっていくようになっている。本編にはレベル上げに最適な、敵(王国騎士)の無限湧きポイントがあり、そこで戦闘を仕掛け、勝利を重ねればゴブリンを強くしていける……のだが。繰り返す度に敵が強くなり、ついには正規の方法で上げることすら無理なレベルにまで達し、強敵になってしまうのだ。

もちろん、どんなに装備を整えた所で、挑めばミンチだっぺ。食料で強化するもダメだ。一定以上のレベルより上にはなれない、上限が設定されているんだべさ。

gobugari_010

だが、そんな強敵と戦わねばならない時が来る。そもそも、勇者がそのような者だ。何せ、レベルが100。チート同然だ。勝てる訳がねえ、などと思ったかもしれない。

しかしながら、勝てるのだ。

gobugari_011

それを可能にするのがゴブリンの”ずる賢い発想”。彼らは罠を作る能力に長けており、村の特定ポイントに落石などの罠を仕掛けられる。そして、戦闘中に「移動」のコマンドを選び、罠を仕掛けたポイントに場所を移せば、それが発動して敵が強制的にダメージを受ける。反撃も発生せず、レベルが減少して戦況を有利にできるのだ。

移動には回数制限があり、罠も一度限りだが、逆に上手くやりくりし、罠も複数仕掛ければレベルの高い相手にも大ダメージを与えられ、数値の差を潰せる。それでゴブリンのレベルより下になれば大チャンス。積年の恨み晴らしちゃるのお時間だ!

gobugari_012

こんな”ズルい”戦術が用意されていて、強敵とも真っ向勝負ができるようになっている。そして、装備も適切であれば強敵も打ち倒せる。まさにゴブリンだからこそ許される戦いを演じられるのだ。このような作りをしているだけに、戦略が上手くハマった時の快感は格別。ゴブリンって楽しい奴ら、鬼畜って素敵だと、気持ちよさすらある唯一無二の手応えを得られるのだ。

同時にゴブリンの怖さも知れる。今なお、最弱モンスターの象徴とされるゴブリンだが、昨今は彼らの恐ろしさも描いた作品が登場し、注目を集めるようになっている。それらの作品でも罠で相手を貶め、群れで襲い掛かって凌辱したり、時には猛毒を塗った武器で再起不能にするなどの”ずる賢い発想”を駆使し、戦況を一変させてしまう様子が描かれている。

gobugari_013

本作のゴブリンはデザイン的には邪悪さはない、それどころか田舎言葉で喋る可愛いらしいキャラクター付けがされている。だが、戦いを重ねるにつれ、その内面が露わに。そして、彼らの真の実力は相手をハメ落とす知恵にある、と思い知らされるのだ。

最弱と謳われるゴブリンの真の実力に着目し、独特な戦術・戦略性を表現したこのバランス調整と設定は巧みの一言。最初は太刀打ちできなさそうと思えてた戦況が、どんどん有利になっていく過程もワクワクするものがあり、プレイヤーを引き付けて離さない魅力に秀でている。

特に中盤に差し掛かる辺り、騎士の軍勢と戦う場面が本作の真骨頂である。ぜひ、ゴブリンならではの戦略を駆使して彼らを倒してみて欲しい。本作のゲームバランスの興味深い作りにきっと唸らされるはずだ。

ゴブリンを舐めれば悪夢を見る。それを知れる珠玉の逸品

ボリュームは意外に短め。早ければ40~50分でクリアできる。しかし、常に戦略を練り、探索を繰り返しながらプレイしていくのもあって、物足りなさは感じさせない。また、エンディングも数種類用意されている。中には時限要素が絡むものもあって、それを達成するか否かでその後の結末も大きく変わるので、ぜひ、色んな可能性を探って挑んでみて欲しい。

gobugari_014

グラフィックもキャラクター達はフルカラー、背景は茶色主体というグラフィックのスタイルも印象的で、バックで流れる荘厳な楽曲も相まって、独自の雰囲気を作り上げている。ストーリーもアッサリしてはいるが、複数のエンディング、そして手短にまとまった台詞回しで楽しませてくれる。田舎言葉で喋るゴブリンが醸し出す愛くるしさも印象的だ。

gobugari_015

背景の色を統一している関係で、クリック対象がやや分かりにくかったり、戦闘も時々運が極度に現れて不利に陥るケースがあるのは少し気になるが、総合的には非常に高い完成度を誇る。ゴブリンを舐めてはいけない、そんな教訓を学べる珠玉の傑作だ。特にRPG好きにおすすめ。昨今、ゴブリンに対する認識が変わりつつある人もプレイしてみて欲しい。追い討ちの一手になるかもしれない。場合によっては、巷で有名なスレイヤーの人の助けを……呼ぶと、血の惨劇も甚だしいので止めましょうね。おらたち、平和主義者だべ。

gobugari_016

[基本情報]
タイトル:『ゴブガリ』
制作者: しげきんぐ
クリア時間: 40分~2時間(※エンディングのコンプリートを除く)
対応OS: PC(Windows、Mac)
価格: 無料

※ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/19870

※ノベルゲームコレクション(ブラウザ版)
https://novelgame.jp/games/show/1747

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence