死後の世界で、未練を果たせ。『マージカルマン イトア』をプレイしてみた

RPG,フリーゲーム

みなさんはゲームを、特にRPGを遊ぶとき、何を求めてプレイするだろうか。「魅力的なキャラクター」、「面白い戦闘システム」、はたまた「美しい世界観」?
もちろん、人によって様々な好みがあるだろう。しかし、その中でも「心に残る物語」を楽しみたいというプレイヤーは多いのではないだろうか。そこで今回は、RPGに「物語」を求めるプレイヤーに向けて、今まさに人気となっているフリーゲームRPG『Margikarman ItoA』を紹介する。

本作はつい先日から、実況者のレトルト氏による実況もされている。こちらも多くのユーザーに見られており、話題となっている。

RPGツクールVX Aceにて作られた本作は、シナリオが「切なくて、泣ける」と、とにかく好評。公式サイトによれば既に累計50,000ダウンロードもされているという人気作だ。今回の実況で再び話題になったことで、さらに多くのプレイヤーがダウンロードしているのではないだろうか。

なお、本作の物語の中心となるキャラクター達を描いているスバルイチ氏は、ゲーム製作ツール「WOLF RPGエディター」を使ったゲームコンテスト「ウディコン」の第4回にて総合5位に入賞した、独特なシステムがウリのRPG『Princess Saviour』のイラストも担当している。

主人公の「突然の死」から始まる数奇な運命を見届けろ

主人公である「硲 幸丞(はざま こうすけ)」は、友人達と普通の高校生活を過ごしていた。だが、あるとき突然謎の世界に迷い込み、化物に襲われてしまう。そこに現れた「女死神」を名乗る女性に助けられるものの、それと同時に幸丞は既に死んでしまった人間「境界人」だと告げられる。

image12
自分も知らぬ間に死んでしまい「境界人」となってしまった幸丞

彼女によると、幸丞に残された「猶予」の時間のなかで「生前にやり残したこと」を思い出さなければ、さきほどの化物「ダースト」のようになってしまうという。幸丞は、この世界は夢だと思いつつも、境界人の集う「狭間の世界」や、かつて生きていた「現世の世界」を巡ることになる…。

image02
「狭間の世界」の境界人たちは、みな何かしらの「未練」を持っている。

仲間たちの「未練」を探し、悲しい「過去」を乗り越えろ

幸丞が自分の「やり残したこと」を探すうちに、同じような境遇の仲間と出会う。彼ら、彼女らにも様々な事情があり、一緒に未練を探していくことになる。そんな仲間たちの物語をハイライトで紹介していこう。

image04
1人目の仲間は、友人の妹である橘 葵井(たちばなあおい)。
8才にして死んでしまった彼女の「やり残したこと」とは…。

image11
現世にて兄と再会した葵井。しかし、境界人は現世の人間に干渉できない。

image06
家族とはもう話せない、自分は一人なんだと絶望してしまった葵井は…。

image03
絶望の中から葵井を助け出せ!

image10
戦いを終えた後に自宅に帰ってみる幸丞。何故か飼っていた犬は境界人が見えるようだ。

image15
2人目の仲間となるのが、「永遠の27歳」を自称する「神 蔵之助」(じん くらのすけ)。
生前は若き助教授だったが、おちゃらけた性格で幸丞の調子を崩してくる。

image07
そんな蔵之助も、変なアダ名を付けてくる葵井にはタジタジ。

image01
現世で蔵之助の「未練」を調べていくうちに、ある真相が見つかる。

image16
全てを思い出してしまった蔵之助を待つ結末は…

image05
主人公の部屋に飾られている、かつて死んだ幼馴染「咲良 愛海(さくら まなみ)」の写真。
この女の子の秘密に迫るとき、物語は急展開を迎える…。

本作の根底には「生と死」という重いテーマが流れており、物語の本筋は次第にシリアスになっていく。しかし、それとは対称的に、幸丞や仲間たちの会話シーンはコメディ要素が強く、底抜けに明るい。また物語が進むと、仲間達との会話を見ることが出来る「ゴーストーク」も開放される。これは『テイルズオブ』シリーズのスキットシステムのようなもので、本筋では語られないキャラたちの何気ない日常が垣間見えるものだ。こういった多くのお楽しみ要素のため、シリアスでありながら雰囲気は重くなりすぎず、最後まで息が詰まることなくプレイすることが出来るだろう。

限られたHP回復手段。残された「猶予」の中で戦い抜け!

次は『Margikarman ItoA』の物語をさらに盛り上げてくれる戦闘システムについて紹介しよう。このゲームの戦闘は端的に言うと、前半は、回復手段が限られる緊張感。後半は、派手な大技で打ち合う爽快感が特徴。まずは「回復」の不自由さについて説明しよう。

image00
幸丞やその仲間達は、最大HP(猶予)こそ高いものの、回復手段が非常に限られている。
普通のRPGにあるような宿屋などの回復スポットも存在しない。

image09
猶予を回復するアイテムは入手方法が限られている上に、回復量は0.6%というものも…
仲間達の猶予を0にしないように、常に緊張感を持って戦闘に臨むことが求められる。

これらの制約は「境界人には猶予が限られている」というゲームの物語設定とマッチしており、印象的なシステムになっている。これだけだと「なんだか難しそう…」と思うかもしれないが、後半になるにつれてHPを回復する手段は段々と豊富になっていく。そのため、戦闘が苦手なプレイヤーも安心して物語を楽しめるようになっている

「防御」は最大の「攻撃」。機を見て大技を繰り出せ!

2つ目の特徴としては、幸丞達のパラメータのひとつである「TP」だ。TPは戦闘で行動するたびに上昇し、一定のポイントを消費することで必殺技を放つことができる。キモとなるのは、幸丞達の取る行動によってTPの上昇具合が変わることだ。例えば通常の「攻撃」だとTPは1上昇する。次にMPを消費して攻撃する「スキル」を使うとTPは2上昇する。敵の攻撃を防ぐ「防御」を行うと、なんと3も上昇する。普通のRPGでは影が薄くなりがちな「防御」なのだが、本作の戦闘での「防御」は、貴重な猶予の減少を防ぎつつ、さらにTPを貯めて必殺技の準備も出来る、という非常にオトクな選択肢なのだ。このゲームで「防御」が最大の「攻撃」である理由がこれだ。

image14
と、トイレの貞子さんも言ってます。

image13
TPを消費した大技『バタフライト』を発動!
必殺技を発動するとキャラクターボイスも流れる。

物語が進むにつれて主人公たちが大技を覚えていき、限られたHPで戦っていた前半とは打って変わって、大技の繰り出し合いという激しい戦いになる。前半と後半で戦闘のバランスが変わるメリハリも特徴だ。

本作は、ゲーム後半に明かされる、主人公の「死」にまつわる謎が明かされる怒涛の展開も見逃せないものとなっている。プレイ時間としては6~8時間ほどの短編作品となっているので、話題沸騰の作品を、この週末にぜひともプレイしてはいかがだろうか。

[基本情報]
タイトル Margikarman ItoA
制作者 ゆうやけ氏(制作者様ページはこちら
クリア時間 6~8時間
対応OS Win XP/VISTA/7/8(RPGツクールVX Aceの動作環境)
価格 無料
ダウンロード http://www.freem.ne.jp/win/game/6244

  • poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。