タイミング次第でカードの効果が2倍3倍に!?メリハリのある攻防が味わえるデッキ構築型ローグライク『メビウスの迷宮』

RPG,フリーゲーム

名作『Slay the Spire』のヒットに端を発する、「デッキ構築型ローグライク」と呼ばれるタイプのカードバトルRPGのブームからはや数年。昨今ではフリーゲームにおいても人気ジャンルの一つとして定着しつつある。基本的なシステムは定番どころを踏襲しつつ独自のアイデアを加えたような作品も多く、そうした「プラスアルファ」の部分から作者のこだわりを感じられるのも後続作品をプレイする楽しみと言えるだろう。

今回紹介する『メビウスの迷宮』もそうした作品のひとつ。カードを使うことで溜まっていくゲージの使いこなしが命運を分ける独自システムが特徴となる作品だ。

4人の冒険者から1人を選び、それぞれのデッキで迷宮に挑む

冒険者たちが集う街の付近に出現したダンジョン「メビウスの迷宮」。本作は4人の主人公から1人を選び、このダンジョンを攻略していく。選べる主人公は最初は1人で、ゲームをクリアするたびに新しい主人公がアンロックされていくという仕組みだ。主人公によって初期デッキやダンジョンで入手できるカードが全て異なっている。

ゲーム開始時に使える主人公であるミレイユは、初期キャラクターだけあって安定感のある戦い方ができる

ダンジョン攻略の基本的な流れはノンフィールド型で、ランダムに3つ出現するイベントから1つを選んでこなすことで「探索度」が上がり、これが一定値に達するとボスが出現して倒せば次のエリアへ進むというもの。イベントの内容は、勝利すると新たなカードやお金などが手に入る戦闘や、カードとは別に3つまで持てる消費アイテムが手に入る宝箱、カードやアイテムを購入できるショップなど、オーソドックスなものとなっている。

戦闘システムも、デッキからランダムに手札に加わったカードを「AP」を消費して使用、やることがなくなってターンを終了したら敵が行動、敵からのダメージを数値分減らすシールドの値を稼いだり逆に敵のシールドを削るといった駆け引き、ターン終了時には使わなかったカードも捨てられAPやシールド値も引き継がれない……などなど、ジャンルの定番所を踏襲している。

各種イベントを選ぶ進行方式や基本的な戦闘システムは、このジャンルの定番を踏襲したものとなっている

その上で、本作ならではのシステムが「dustゲージ」の存在だ。特定のカードを使う「タイミング」によってその効果が2倍にも3倍にもなるという、独特の戦術性を生み出す要素となっている。

タイミングよくカードを使えば効果3倍にも!?「dustゲージ」の活用が命運を分ける

多くのカードは使用時、カード自身の効果に加えてdustゲージの値を増加させる効果を持つ。そしてdustゲージが最大値の4になった「覚醒」状態で覚醒時用の効果が設定されたカードを使うと、dustゲージが全消費され、攻撃系カードの与ダメージや防御系カードの獲得シールド値が2倍や3倍に。カードによってはさらなる追加効果が発動することもある。

覚醒状態で対応するカードを使えば、効果が2倍や3倍にもなる。もとの効果を別要素とのシナジーで底上げしておけば、その分伸び幅も大きい

通常時との差は絶大だが、ここでポイントとなるのは溜まったdustゲージを使うタイミングをプレイヤーが選べるわけではない点。覚醒状態で対応するカードを使えば、必ずカードは強化されてゲージは0に戻ってしまう。そのため今、強化が必要なカードは何か?というのを見極めて、どのカードでdustゲージを溜めてどのカードで使うかといった見極めが常に必要となってくる。任意に扱える強化状態というよりは、完全にはコントロールできない強化チャンスにより、戦況にゆらぎを与えているというイメージだ。

dustゲージはターンを越えて引き継がれるため、たとえば敵の攻撃が激しくて防戦一方となったとしても、その過程で溜まったdustが次ターンの攻撃への布石になるといった形で、ターンをまたいだ戦略性も演出されている。

デッキ構築型カードバトルの定石としてカード間のシナジーやコンボを意識することももちろん重要だが、ときにはそれを崩してでも、dustゲージの有効活用を優先するような場面もあるだろう。理想のデッキを構築していくだけではなくアドリブ力も高頻度に試されるのが本作ならではの面白さだ。

とくにゲーム後半は敵の攻撃も激しく、シールド系のカードを使う順番を1つ間違えたら詰みかねないといった緊張感のあるプレイも味わえる。一方でコンボやシナジーで御膳立てした上でうまく覚醒状態とも合わせられれば、一気にものすごい大ダメージを叩き出せるなど爽快感もあるシステムに仕上がっている。

敵の大技をそのまま受ければ詰むような場面を凌ぐため、文字通りの切り札をどのタイミングで切っていくか考えるのも醍醐味

ノベルパートで展開する、複数の物語が交差する群像劇も見どころ  

4人の主人公達は扱うカードが異なるだけでなく、ダンジョン攻略で得られる「SP」を消費して習得できるスキルもそれぞれ別物となっており、キャラクターごとに全く異なるプレイ感で遊ぶことができる。

キャラクターごとに用意されたスキルはいくつかに系統立てられており、入手できるSPの量的に1回のプレイですべては習得できない。目指すデッキコンセプトに応じたスキルの取捨選択もポイントだ

そして本作のストーリーも、4人の主人公それぞれの物語が個別に語られていく。ダンジョン攻略時のストーリー要素は短めのオープニングとエンディング程度で、主なストーリーはダンジョン攻略の進捗に応じて徐々に解放されていくノベルパートで描かれる。攻略とストーリーが分離されており、好きなタイミングでストーリーを読むことができるわけだ。

出自も立ち位置も大きく異なる4人の主人公達の物語は、ときにお互いリンクしつつ、時系列も重なっていたり全然違っていたりと、バラエティに富んだものとなっている。ある主人公が別の主人公の視点で描かれるような場面もあり、共通して登場する人物の印象も視点によりがらっと変わることがあったりと、群像劇の様相も呈している。

各主人公のストーリーではそれぞれがメビウスの迷宮へどう関わっていくのかが、多面的に描かれる

それぞれの主人公の視点で描かれる内容をパズルのピースのように組み合わせていくことで、「メビウスの迷宮」にまつわる真実が浮かび上がっていくのも面白い。また、各主人公のストーリーとはさらに異なる視点で描かれる「エピローグ」の内容も他のストーリーと連動するように少しずつ解放されていくという、シナリオ構成自体も興味を惹かれるものとなっている。

素直に上から読むならまずエピローグから物語が始まる、という構成自体もなかなか興味を惹くものとなっている

本作のダンジョン攻略は公称プレイ時間が1キャラクターあたり1~2時間と1周は比較的コンパクト。アンロック要素はキャラクター追加とストーリー解放のみでやり込み系の強化要素はなく、純粋な実力勝負を楽しめる。また難易度は恐らく本来の想定バランスと思われるVETERANに加えてカジュアルに楽しめるBEGINNERもあり、1プレイの軽さも相まってこのジャンルの入門にもピッタリだ。

デッキ構築型ローグライクの定番を踏まえつつ、dustゲージというプラスワンのアイデアによって独特の緊張感と爽快感をもたらしている『メビウスの迷宮』。このジャンルに興味のある初心者から新たな刺激を求める熟練者まで、幅広いプレイヤーにお勧めしたい作品だ。

[基本情報]
タイトル:メビウスの迷宮
制作者:KEN氏
対応環境:Windows
価格:無料

ダウンロードはこちらから
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_12412.html

  • 中村友次郎(@finalbeta

    RPGのプレイと紹介がライフワーク。システムに凝ったRPGをとくに好んでプレイします。商業で一番好きなゲームメーカーは日本ファルコム。運営型では原神にハマってます。
    過去に十数年ほど、窓の杜の連載記事「週末ゲーム」の編集と一部執筆を担当していました。