相次ぐ怪奇現象の果てに待つ運命とは―大胆なイベントの数々で魅せる、力作ホラーアドベンチャー『ミッドナイトシンドローム』

アドベンチャー,フリーゲーム

奇妙な風習がある田舎町「神舞町」。

都会から転校してきた女子高生・藤田ぽんずは6月のある日、後輩でオカルト部に所属する猫屋巴美に「『こっくりさん』をしないか」と誘われる。ぽんずは同級生の友人・霧下繭香を連れ、渋々ながら深夜の学校へと忍び込み、真っ暗な教室内で「こっくりさん」をする。

だが、その日を機に3人は何度も怪奇現象に襲われることになってしまう。次第に恐ろしい事件も起こる中で、3人は来たる夏を無事に迎えられるのか。そして、一連の怪奇現象が終わりを告げる時はいつなのか。

3人の女子高生たちが怪奇現象に翻弄される様と、青春の日々を描く『ミッドナイトシンドローム』は、2024年4月24日より創作物総合マーケット「BOOTH」にて無料配信中のホラーアドベンチャーゲームだ。本稿執筆時点では「ふりーむ!」と「PLiCy」(※ブラウザ版)、「Steam」でも配信中である。

当もぐらゲームスでも、2021年6月掲載の「制作途中フリーゲーム3選(2021年6月号)」で、1章のみプレイ可能な体験版を取り上げたことのある作品。このたび、3年近い時を経てついに完成版が公開されるに至った。

複雑怪奇で先が読めない展開が紡がれる、ホラー系探索アドベンチャーゲーム

ゲームの内容は、見下ろし視点のマップを探索する要素を持ったアドベンチャーゲームだ。プレイヤーは藤田ぽんず、猫屋巴美、霧下繭香の3人の女子高生の視点に立ち、ある日の「こっくりさん」を境に始まった怪奇現象に襲われる日々を追体験していく。

本編は章ごとに語られるストーリーを追っていく一本道構成で進行。各章は「探索パート」と「調査パート」の2つで構成されていて、前者では章の舞台となるマップを探索しながらストーリーを進めることを、後者では学校内のマップを探索して他の学生たちに聞き込みをしながら怪奇現象の噂を集めていくことをメインとしている。

なお、「調査パート」は必ず「探索パート」が終わった後に発生し、調査中に怪奇現象の噂を見つけ出すことによって、次の章へと移る。以降もその繰り返しである。

最終的には3人が怪奇現象に襲われる日々から脱せられるか否かを見届けるのが、プレイヤーに課せられる目標となる。なお、エンディングはマルチ形式で、各章でプレイヤーの取った行動と選択に応じて、終章の結末が変化する。

さらに一部の章にも分岐要素を用意。発生するイベント、ストーリー展開、果ては探索パート全体の内容までもが変わるようになっている。しかも、それらの分岐を経てもメインストーリーはちゃんと進行。いわゆるバッドエンドにはならない(※一部、バッドエンドになるケースも用意されている)。

そういった特徴もあり、本作は1周だけでストーリーの全容を解明するのは困難で、事実上の周回前提の作りになっている。

ただ、多少ネタバレになるが、クリア後要素として「チャプターセレクト」が用意されているので、周回自体の負担は軽め。イベント時の会話を早送りできる機能も備わっているほか、1周のボリュームも4~5時間程度に収められているなどの配慮もされている。

他のゲーム周りでの特徴では、3人の女子高生。最初の1章でぽんずを操作すること、タイトル画面にその姿が描かれていることから、彼女が本編の主人公だと思うかもしれない。だが、実際は3人全員が主人公。全体としてはぽんずを操作する場面が多いのだが、他の2人も節々で操作することになるのである。そのため、誰ひとりとして存在感が薄れるようなことがない。

まさに3人の女子高生が怪奇現象に襲われる日々を追体験するという、ストーリーのキーテーマを表したゲームデザインになっている。

さまざまな”違い”を表現した、凝りに凝った章ごとのイベント

ただ、この一連の設定、特に真夜中の学校に忍び込んだのを機に怪奇現象に襲われるようになる下りには、往年のゲーム好きほどデジャヴを感じたかもしれない。2つのパートで構成された章も含め、「なんか昔、似たようなゲームがあったような……?」と。

大体お察しの通り、そしてタイトル名からも明らかなように、本作は1996年にPlayStation向けに発売されたのち、シリーズ展開を見せた横スクロール型アドベンチャーゲーム『トワイライトシンドローム』をオマージュしている。

実際、3人の主人公や2つのパートで構成された章など、所々に同作を意識させるネタが散りばめられていて、分かる人ならばニヤリとしてしまう作りになっている。

しかし、ゲーム自体は見下ろし視点のマップが舞台の探索型アドベンチャーという点で別物。探索中やイベント中、手順を誤るとゲームオーバーになってしまうなど、ジャンル特有のトラップも仕掛けられている。ただ、数はそんなに多くなく、基本的にはスムーズにストーリーを追っていける、遊びやすさ重視の難易度になっている。

そんな本作の魅力は、章ごとの凝った作り込みにある。具体的にはそれぞれ、独自のイベントやマップ探索が楽しめるよう、徹底した差別化を図った内容に仕上げられている。驚くほど立派な起伏が表現されているのである。

特にその極致とも言えるのが、4章と5章である。実は前述した、分岐要素が用意された章である。具体的な内容については紹介を伏せるが、「メインストーリーの一部に、こんな大胆な仕掛けを入れるのか!」と、思わず感心してしまうほど凝ったものにまとめられている。正直、この章だけでひとつの短編ゲームが成り立つのでは、と思うほどだ。

ストーリー、演出、果てはシステム面でも、この2つの章は明らかに違っていて、それまでとは違った探索型アドベンチャーゲームが楽しめる。

さらに分岐があるゆえ、1度の体験では全容が把握できない上、そのまま別パターンを確かめず次の章に進んでメインストーリーを進めていけば、紛うことなき、そのプレイヤーだけの本作『ミッドナイトシンドローム』のストーリーが誕生するのだ。

結末はほぼ決まっているが、その過程がプレイヤーごとに変わる作りは、どこかテーブルトークRPG(TRPG)やゲームブックを思わせるもので、不思議な余韻と(いい意味での)後悔を演出する。仕掛けそのものは真新しくないものの、なかなか面白い試みの章になっているので、初見プレイ時はぜひ、他の分岐も確かめるといったやり直しをせずに進めてみてほしい。全てを終えた時、本作に対する印象がより一層強いものとして残るはずだ。

他の章も独自の謎解き、イベントが仕込まれているほか、そのための独自システムや演出も設けるなど、非常に手の込んだ作りになっている。

本作は『RPGツクールMV』を用いて制作されているのだが、そのツール内で可能な要素、表現を追求したとも言えるまとまり具合になっているので、これらも並行して要チェックである。色んな意味で、体験版公開から3年近い時を要した理由を察するかもしれない。

章ごとの内容にフォーカスしたが、もちろんストーリーも見所満載である。特に終盤からエンディングにかけては、思わず「えっ!?」と声が出てしまうこと確実な展開が待ち受けている。それが何かは当然、口が裂けても言えないが、きっと本作がホラーアドベンチャーを称するなりの意味を思い知らされるはずだ。一瞬たりとも迷わず、結末を見届けて欲しい。

もし、納得がいかないのなら……反抗しよう。

全要素を体験するだけでもかなりのボリューム。紛うことなき力作ホラーアドベンチャー

一部の章に分岐要素が設けられていることもあって、それらを含めた全体のボリュームはかなり大きい。単純にストーリーを追うだけなら前述したように4~5時間ほどだが、全部を確かめるとなれば、10時間近くを要することになるだろう。

グラフィックもイベント中におけるキャラクターたちの立ち絵のほか、マップ上のキャラクタードットなど、オリジナルの部分が多く、凝った仕上がりだ。特に立ち絵は一部の章でしか見られない、特別なものも用意されているので必見だ。

他に演出周りもホラーらしく、恐怖感を引き立てる工夫が随所でなされている。とりわけ音楽と効果音の使い方は絶妙で、マップごとの印象をより強烈にすると同時に、その場独自の雰囲気を確立させている。おかげで深夜帯に遊んだ際の臨場感も申し分なしである。そんな訳で、これから本作を遊ばれるのであれば、夜が更けた時間帯を選ぶことを強くおススメしたい。”真価”を味わえるはずだ。

難易度も謎解き、逃亡ともに適度なバランスに調整されているほか、ゲームオーバーが絡むイベント直前にはセーブが強制的に挟まるといった配慮も万全。ただ、詳しい内容は伏せるが、7章は強制挿入後もセーブ可能になっていることで、詰みが生まれる余地があったのが多少気になった。なので、今後プレイされる方は7章では、なるべく強制以外でのセーブは行わないように(仮にするにしても、必ず新規のデータを作る形で)と忠告しておきたい。

操作も節々でマウス操作が要求されるため、キーボード単体やゲームパッド単体でのプレイが難しい点は好みが分かれるかもしれない。ただ、操作性自体は決して悪い訳ではなく、マウスを使うイベントも含めて納得感のあるものに仕上げられている。特にマウスを使ったイベントは演出的にも凝ったものになっているので必見だ。

2021年当時、当もぐらゲームスで取り上げた頃にも章の数が多めになることが予告されていた本作。誇張抜きに、完成版はその数に違わぬボリュームと驚くべき作り込みが光る仕上がりとなっている。繰り返しになるが、その中でも本当に4章と5章には驚かされた次第だ。ストーリーでもホラーとは別に驚かされる部分が多く、一通りプレイすれば強烈な思い出が残ること確実な本作。

ホラーアドベンチャーゲーム好き、探索型アドベンチャーゲーム好きはぜひプレイいただきたい力作である。オマージュ元たる『トワイライトシンドローム』好きもぜひ。様々な怪奇現象を体験し、自分だけの体験談を作り上げよう。そして、ゆくゆくは抵抗せよ。

[基本情報]
タイトル:『ミッドナイトシンドローム』
作者:ナツミカン
クリア時間:4~5時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格(税込):無料(※有料の投げ銭版あり:550円)
公式サイト:https://midnight-syndrome.com/

◇ダウンロードはこちら
・ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/25540

・Steam

・BOOTH(※投げ銭版もあり)
https://midnight-games.booth.pm/items/5617529

◇プレイはこちら
・PLiCy
https://plicy.net/GamePlay/178158

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence