ロマンシングな「閃き」で手数爆発のせん滅大惨劇!これが短編“AXE”カタストロフRPG『世界の合言葉は斧』である
タイトル名の時点で、本作が何をテーマにしたゲームなのかは一目瞭然だろう。斧(AXE)である。気がつけば、当もぐらゲームスでも徐々にその取り扱い本数が増えつつある「斧ゲー」と言われるもののひとつだ。
本作の舞台となるのはアクス歴1200年、“斧による斧のための平和”が保たれていた世界。ここに謎の精鋭隊「七剣雄(しちけんゆう)」なる剣を巧みに使いこなす強大な敵が現れる。
斧を時代遅れの臭いものと一蹴し、斧を使う者たちに不当な差別を働く彼らは、斧使いたちの象徴的存在たる「AXE姫」を急襲。これにAXE姫は果敢に立ち向かうも、「七剣雄」の狡猾な戦術と罵倒の嵐によってあえなく討たれてしまう。
これに憤慨した「北海ドラゴン」「ゴメス」「エリック」「キャリー」、そして「死神五世」の斧使い5名は、打倒・七剣雄を掲げて立ち上がる。かくしてここに、斧と斧使いの名誉と尊厳を守るための粛清の旅が幕を開ける!
極めて物騒な言葉が紛れ込んだが、気にしてはならない。そういうゲームだ。
あと、若干のネタバレになるが本作には槍使い、弓使い、魔法使いは登場しない。敵は剣使いのみである。命拾いしましたね。
斧による斧の平和を脅かし、象徴的存在を討った憎き「七剣雄」に斧による裁きあれ!
ともあれ、本作『世界の合言葉は斧』は2025年5月より、フリーゲーム・インディーゲーム投稿サイト「itch.io」にて公開中のWindows PC向けフリーゲームである。制作にはRPGツクールMVが用いられている。
内容としては、ステージクリア方式で展開されるRPGとなる。プレイヤーは北海ドラゴンを筆頭とする5名の斧使いパーティを操作し、斧の仇敵にして憎たらしいことこの上ない「七剣雄」が待ち構えるステージを進み、1人残らずせん滅することに挑む。
遊び方としては、拠点マップから各ステージへと飛び、探索と戦闘を進めていく形。ステージは本編スタート時点で3ヶ所が解禁されており、どこからでも攻略を始められる。ただし、各ステージには推奨レベルが設定されていて、後半のステージほどそれが高めにされている点に注意が必要だ。
ステージは前半と後半に分けられており、それぞれの終わりに「七剣雄」との戦闘が待ち構えている。最終的に前半と後半それぞれで待つ「七剣雄」を倒せればステージクリア。これを繰り返しながら彼らをせん滅し、斧の誇りとAXE姫の無念を晴らすというのが主な流れであると同時に最終目標だ。
なお、ステージ攻略中はセーブを一切行えない。また、武器や防具などを購入できるお店も登場しない。それらはすべて拠点で完結する仕組みとなっている。

さらに、拠点への帰還と同時にパーティメンバー全員の体力が全快する、物価が高い、アイテム売却による資金調達ができないという特徴もある。特に物価の高さと売却不可な点はこれからプレイする人はよく覚えておくように……。
戦闘システムは敏捷性の高いキャラクターより順に行動する、ターン制のコマンドバトルスタイルを採用。ただし、次に取り上げるロマンシング風の要素で人それぞれの性(さが)を感じさせる仕様が備わっている。
ひとつに「閃き」。敵に強力な一撃を加えたり、メンバーの回復などを図る「スキル」を使うと、ランダムで新しいスキルを覚えるというシステムである。本作には前述で少し触れたようにレベルの概念があるのだが、上昇と同時に各キャラクターが新たなスキルを覚えることはない。スキルは基本的に閃きを発生させて覚えていくのだ。
ちなみに攻撃力、防御力などのステータスも戦闘終了時、レベルの上昇に関係なくランダムで上昇。つまるところ、戦闘を繰り返し発生させていけばキャラクターたちがどんどん強くなっていく。そのため、育成においてはレベルを上昇させることよりも戦闘をたくさん仕掛けることが優先される感じになっている。
もうひとつに「陣形」。特定の陣を組んで攻撃力や敏捷力の上昇などのステータスボーナスを得たり、敵の攻撃パターンを狂わせるといった戦術を編み出せる要素だ。陣形は全部で5種類あり、フィールド上でShiftキーを押せば常時変更可能。主に七剣雄との戦闘において意識する必要のある、多様な戦術を編み出す面白さを持ったシステムだ。
このほかに「斧レベル」なるものがある。文字通り斧のレベルである。これも先のステータス同様、戦闘終了時にランダムで上昇。上がることによって「閃き」で覚えるスキルの幅が広がるというメリットがある。
しかし、レベルキャップが敷かれているため、一定の値に達するとそれ以上伸びなくなってしまう。ただ、キャップの上限は各ステージの七剣雄(具体的にはステージ後半で対峙する七剣雄)を倒せれば増やすことができる。要はステージをクリアするほど斧も成長していくということである。大器晩成というヤツである。
こういった具合に戦闘システム自体は定番寄りながら、独特の戦術や攻略法が試される要素が網羅された作りになっている。言い方を変えるならば「ロマンシング A・XE」といった感じだ。そもそも「七剣雄」という名前からしてモロバレではあるが、そういうゲームなのだ。すでに察していたかもしれないが。
ロマンシングを通り越し、場外へと突き抜けてカタストロフ(殺戮の宴)
ただ、実態はロマンシングではなくてカタストロフである。
考えてみていただきたい。剣に槍、弓矢よりも一撃の威力が高い斧を使う者が5人も集まったら何が起きるのか、と。行く手を阻むありとあらゆる敵をかち割り、粉みじんにして再起不能にしていくパワフルダイナミックカタストロフ(略してPDC)の襲来である。
そもそも、斧という武器は威力の高さからくる代償として、命中率がほかの武器よりも下げられる定めにある。それは古今東西の斧が武器として登場するゲーム……特にRPGとシミュレーションRPGにおいては決まってそのようなNERFにさらされる。
しかし、本作の舞台となるのは“斧による斧のための平和”が保たれていた世界だ。ゆえに斧の命中率は低くない。基本的に当たる。たいていの場合、敵には大きめのダメージが入る。それが前述のレベルアップ諸々を繰り返すことでどうなるのかと言えば……
あらゆる敵が薪のごとく割られていく光景の連続である。
……そんな訳で本作の魅力は、斧でとことん叩き割りまくる快感とガンガン進みまくる爽快感である。
正直、ロマンシングなシステムや要素の数々は、「閃き」を除いてこの威力を前にして徐々に霞んでいく。もはや斧をたくさん振り回して当てるのが正義と言わんばかりに戦闘で繰り広げられる光景が過激化の一途を辿り、ついには「AXEトルネード」と言わんばかりの壮絶なカタストロフが続くようになるのだ。
色んな意味で「RPGとしていいのか、それ!?」となる無茶苦茶ぶりだが、斧使いが5人も揃っているのだから仕方がない!そして、これもあって本作は敵を容赦なく斬り倒す爽快感を存分に堪能できる、ある意味でありそうでなかったRPGに仕上がっている。
特に手数の多さが演出する圧殺に次ぐ圧殺は、色んな意味で「OH、NO……」となる迫力に満ちている。
前述したように本作には「閃き」のシステムがあり、これを決めるたびにパーティメンバーが新たなスキルを覚える。そして、覚えたスキルは即座に実行される。当初の戦術には組み込まれていなかった技が炸裂し、敵にさらなる被害……もとい、追い討ちが決まるのである。
その時の画面内で斧がズバズバドスドス決まる光景たるや、まさに壮観。
斧だからこそ印象深さと爽快感がプラスされている側面もある。前述したように斧は威力の高さが最大の強み。しかし、命中率の低さやら重さゆえの扱いにくさなどもあって、むやみやたらに連発できないみたいなイメージがある。
そういったイメージを覆す勢いで、本作はズバズバドスドスなのだ。本来、あり得ない光景が目前に描かれることもあって、余計に印象に残る。同時に爽快感がクセになる。
一応、この手の斧で暴れまわる快感については、『斧娘 プリティアックス』や外伝作品の『斧姫 プリティアックス外伝』(双方の紹介記事)でも楽しめるのだが、ロマンシングな要素と重なり合うことによる手数の爽快感とランダム発生ゆえの予測不能感は本作ならではと言える。
確かにどんどん強くなって、圧殺に次ぐ圧殺が続く展開で一部の要素が霞んでしまうのは否定できない。だが、この手数の多さが演出するハチャメチャっぷりは、ある意味では本作でしか味わえないもの。同時に攻めに攻め込めるからこそ、RPGにおいてゴリ押しが何よりも好きという人に刺さりやすい。
そんな色んな意味でRPGのお約束やらバランスをも突き抜けた体験が凝縮された仕上がりになっているのだ。また、斧の素晴らしさと恐ろしさも色んな意味でたっぷり堪能できる。特に繰り返しになるが「閃き」が演出する手数の多さからくる爽快感は、色んな意味でクセになってしまう気持ちよさがある。
もし、なんか色々スッキリしたいな、できればアクション性はない方がいいと思ったのなら、本作は最良の一作になるだろう。同時に遊ぶほどに斧への愛着と関心もマシマシになるだろう。でも、行き過ぎると大変なことになるので、その点はご用心を。
爽快感重視の勢い任せな遊び方に加え、ギリギリの戦いに身を投じる遊び方にも対応した短編RPG
しかし、力押しと爽快感に振り切っているなら、RPGとしての戦略性などには期待しない方がいいのかと、一連の特徴からはイメージしてしまうかもしれない。一応言っておくと、これはあくまでも難易度「NORMAL」での話。
紹介が前後したが、本作には難易度選択機能があり、ステータスにマイナス補正がかかる「HARD」「HELL」という高難易度も用意されている。そのため、こちらでプレイした時は「陣形」のほか、装備の調達やレベル上げなどの戦略も試されるRPGへと様相を変える。
もし、爽快感全振りよりは手応えを感じながら遊びたいなら「HARD」以降の難易度でプレイするのがオススメだ。特に最上位の「HELL」は物価の高い装備類、拠点以外でセーブできない仕様などの懸案に対処したり、「閃き」と「斧レベル」の上昇に伴うスキル習得が攻略の要になるなど、色々考える地獄……じゃなくて事柄が増える。
純粋に手数の多さからくる爽快感を味わいたくば「NORMAL」、斧ならではの立場の苦しさ(?)を味わいたくば「HARD」以降という感じで好みに応じた楽しみ方もできるので、色々試してみるのがオススメだ。
ほかにボリュームに関しても、1周するだけなら大体2時間~2時間半と短め。ただ、高難易度に挑戦したり、各ステージに隠された宝箱の全発見、最小セーブ回数、戦闘回数による攻略などのやり込み要素も揃っており、遊び方次第ではそれ以上に楽しめる。
マップに関しても、シンボルエンカウントを採用している関係で戦闘発生のストレスは最小限。また、随所に拠点へと帰還できるワープクリスタルも設けられているほか、ボス戦直前には推奨レベルの警告文が出るなどの配慮も凝らされている。
ただ、どのマップも構成は似たり寄ったりで、個性付けが甘いのは残念なところ。また、ストーリーもオープニングこそそれなりに語られるところはあれど、「七剣雄」との掛け合いはあまりなく、イベント量も少ないこともあって薄い。
それ以外にも「閃き」で覚えるスキルはレベル別で細分化されていて、高いレベルの技を覚えるほど低レベルのスキルの存在意義が薄れ、メニュー全体が縦に長くなってゴチャゴチャしまうのも惜しいところである。
主に「NORMAL」に焦点を当てるなら、力押しと爽快感に振り切っているなりに、色々犠牲になってしまっている部分もある。だが、「閃き」に由来する手数の多さが演出するパワフルダイナミックカタストロフな光景は圧巻。そして、これぞ「斧ゲー」とも言える破壊力と勢いの良さが凝縮されている。
勢い任せが過ぎるが、この作りと爽快感重視の設計に興味を持ったのなら遊んでみていただきたい一作だ。斧使いを侮辱した剣の使い手たちを5人パーティ、陣形、閃き、そして威力の高さでねじ伏せるのだ。さあ、AXEカタストロフを始めよう。「えいえい、斧ー!」
[基本情報]
タイトル:『世界の合言葉は斧』
作者:あまてん海老
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料
◇ダウンロードはこちら
・itch.io
https://amatenebi.itch.io/sekainoaikotobahaono