リソース管理型ノンフィールドRPG『箱舟のノワール』 “幸運”を捧げて極限状況を生き延び、真相を解き明かせ

RPG,インディーゲーム

マップなどによるフィールドの表現がなく、戦闘を中心にテンポよく進行する「ノンフィールドRPG」。ランダム入手した消費型の武器などで戦っていくローグライク的なゲームデザインとの相性もよく、リソース管理や意志決定にフォーカスした名作が生まれているジャンルでもある。

Amamori Labのダウンロード販売作品『Ark Noir / 箱舟のノワール』もそうした、リソース管理型ノンフィールドRPGのひとつ。沈みゆく巨大船という舞台設定や、“幸運”を捧げることでさまざまな状況を切り抜けていくシステムが魅力の作品だ。

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沈没しつつある巨大移民船から脱出し、真相解明を目指せ

本作の舞台となるのは、新大陸へと向かう巨大移民船「ノワール」。原因不明の事態により沈没を始めた船から脱出するため、5つのフロアを踏破するのがゲームの目的となる。各フロアの道中では檻から逃げ出した獣との戦闘がランダムに発生。使用回数が限られている武器などのアイテムを駆使して撃退していく。

ノワール沈没の謎に迫っていくアドベンチャー要素も特徴で、他の乗客・乗員を救出し、証言を集めるのもゲームの目的。プレイの内容によってエンディングが変化する。さらに主人公を3人から選択可能で、主人公によって能力だけでなく一部のイベントも変化するほか、さまざまな条件によってアンロックされる実績要素もある。1周のプレイ時間は数十分程度で、繰り返し遊べる作品となっている。

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大陸間移民のため建造された2隻の巨大蒸気船のひとつ「ノワール」。この船が沈没し始めたことから物語は始まる

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ノワール沈没の謎に迫っていくアドベンチャー要素も見どころ

限られた「幸運」の使い所が攻略の鍵を握る

本作ではHPのほかに、「幸運の量」を表す値である「Fortune」が存在。これをさまざまな場面で使用していくシステムが最大の特徴だ。フロア内で物資コンテナを発見した際にはFortuneを消費することでランダムにアイテムを入手できるほか、休憩ポイントを発見した際はFortuneを消費して休憩すればHPを全快させることが可能。また、各フロア最奥のボス戦以外の戦闘からはFortuneを消費することで必ず逃走できる。他の乗客・乗員を救出する際もFortuneが必要となるが、状況によっては戦闘や特定アイテムの使用で代替できることもある。

Fortuneはフロアを10歩進むごとに最大値の1/7ずつ回復していくが、その用途の広さに対して入手量が十分とは言い難い。使い過ぎてしまうといざ必要な時に足りなくなってしまうが、かといって使い惜しんでいても武器やHPが足りずジリ貧になっていく。極限状況の中で、限られた「幸運」をどのタイミングで何に使うかというリソース管理が攻略の鍵を握っているのだ。

物資コンテナからは、Fortuneが足りる限り何度でもアイテムを引き出せるのもポイント。必要なアイテムがなかなか出ずFortuneを注ぎ込んでしまったり、逆に良いアイテムを引けた勢いでもう1回……!と望みをかけてみたりと、いわゆるガチャに近い感触もある。

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Fortuneを消費してコンテナからアイテムを引き出す。すべての基本だ

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他の乗客・乗員を救助する際もFortuneを消費する。戦闘や特定アイテムの使用で代替できる場合も

オープンな情報をもとに戦術判断を行うロジカルなバトル

本作の戦闘は自分と敵が交互に行動する1vs1形式。敵のHPと防御力の値はオープンになっており、攻撃の威力から敵の防御力を引いたものが最終的なダメージになるという、シンプルな仕様となっている。また武器を選んで攻撃するだけでなく、防御は防御用のアイテムを選択することで行う(当然、持っていなければ防御はできない)など、逃走を除き戦闘中のあらゆる行動がアイテムを選ぶことに集約されているのもポイントだ。

敵の行動内容は単純な攻撃のほかに大技や自己強化などさまざまで、次の行動は自動で開示されることがあるほか、自動で開示されなかった場合もFortuneを1消費することで任意に開示することが可能。敵が防御を固めたら防御力を無視できる「貫通攻撃」タイプの武器を使うなど、状況に応じた選択が重要となってくる。攻撃は基本的に必中、ダメージ算出にランダム要素は一切ないため、手持ちのアイテムの組み合わせにより何手かけて、どの程度の損失で敵を倒せるか、あるいは諦めて逃げるべきか……といった先読みも重要な、ロジカルなバトルに仕上がっている。

とくに中盤以降は敵の攻撃も激しく、1ターンの価値が重い。スリップダメージを与える「毒」や敵が行動できなくなる「気絶」など、状態異常の活用も非常に重要だ。逃げることができず、まさに死闘となる各フロアのボス戦に向けて、「ボスに勝てるアイテム構成」を作り上げていく戦略面もポイントとなっている。

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攻撃力や武器の性能などから算出された最終的な攻撃の威力がアイテム一覧上に表示される

戦闘に勝利した場合、および他の乗客・乗員を救出した際は「経験点ランプ」が1つ点灯し、4つ点灯するとレベルアップ。HP全快、Fortuneが最大値の50%回復、攻撃力上昇、防御力上昇という4つのレベルアップボーナスから1つを選べるほか、パッシブスキルにあたる「Perk」がランダムに2種類呈示され、どちらか1つを選んで習得できる。

Perkはステータスを上昇させるもののほか、「休憩ポイントを出現しやすくし、休憩に必要なFortuneを減らす」「銃器による攻撃の威力を上げる」など特殊な効果を持つものが多数用意されており、状況や主人公の能力、プレイの方針などに応じて必要なものを取捨選択していくのが悩ましくも楽しい。欲しいPerkがなければFortuneを消費して再呈示を行うことも可能だ。

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Perkはユニークなものが多数用意されている。呈示される2つから、「今回のプレイで必要なのはどちらか?」と選んでいくのが悩ましくも楽しい

歯応えのある難易度と豊富なバリエーション。何十周でも遊べる傑作

本作の難易度は高めで、最初のうちはノワール沈没の真相解明どころか、脱出すらままならずゲームオーバーになることも多いだろう。繰り返しプレイすることでコツを掴んでいくなどプレイヤー自身が経験を積むことも重要だが、システム上の強化要素としては実績をアンロックすることで、ゲーム開始時にあらかじめセット可能なPerkの種類とセットできる数が増えていくという仕組みがある。これによりキャラクターを強化し、さらに実績をアンロックしてPerkを拡充させていく……といったサイクルが、本作の周回ゲームとしての大きな流れとなるだろう。

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繰り返しプレイすることでゲーム開始時にセット可能なPerkを充実させていくことが可能

実際のプレイ感として筆者がとくに感じたのは、ランダム要素の振り幅がかなり大きい点だ。物資コンテナには出やすいアイテムの種類が設定されているのだが、「おそらく武器」と書かれたコンテナからそれ以外のアイテムばかり出る、なんてことはしょっちゅうだし、エンカウントの頻度もバラツキが大きい。最後の最後までプレイ内容が安定することはほとんどない。

そのぶん、何十周しても似たような展開になることはまずない。筆者の場合、20時間以上プレイしたところで初見のレアアイテムに遭遇することまであって驚かされた。ゲーム開始からクリアあるいはゲームオーバーまで、途中でセーブのない一発勝負である点も心地良い緊張感に繋がっている。

近現代の欧州がモチーフと思われる世界観も見どころで、モダンな趣のあるイラストに冒険小説やミステリーのような渋みのあるシナリオと、コンピュータRPGとして見るとなかなか独特であり、ゲームブックやTRPGのような雰囲気が漂っているようにも感じられた。救助した乗客・乗員の中には各主人公と縁の深い人物もいて、会話シーンなどを通じて描かれるキャラクターも魅力的。また、アンロックした実績に応じてさまざまな文書を閲覧することもでき、物語の背景などを垣間見ることが可能だ。

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縁の深い人物との会話シーンでは、主人公のキャラクターがより深く掘り下げられることも

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実績をアンロックすることで「アーカイブ」にて読める文章が増えていく。さまざまな側面から物語の背景などを垣間見ることが可能

ルールはシンプルで把握しやすく、それでいてアイテムや敵の行動、Perkのバリエーションの掛け合わせにより思考と判断で頭をフル回転させられるのが醍醐味の作品。体験版も用意されているので、リソース管理や意志決定が好きならぜひ触れてみていただきたいRPGだ。

【基本情報】
タイトル:『Ark Noir / 箱舟のノワール』
制作者:Amamori Lab
クリア時間:1周数十分、エンディングコンプリートまで10~20時間程度(筆者推定)
対応OS:Windows、Mac OS X
価格:DLsite 1,080円(税込) / Steam 972円

購入はこちらから

Ark Noir / 箱舟のノワール

Ark Noir / 箱舟のノワール(Amamori Lab)
「幸運」を使い、運命を切り開け。 オリジナルシステムのリソース管理RPG。

制作元サイト
https://amamorilab.wixsite.com/amamori-lab

  • 中村友次郎(@finalbeta

    フリーゲームと同人ゲーム、日本ファルコム作品をこよなく愛するゲーム好き。システムに凝ったRPGをとくに好んでプレイします。運営型ゲームはメギド72をPvPメインで、あとは原神など。
    過去に十数年ほど、窓の杜の連載記事「週末ゲーム」の編集と一部執筆を担当していました。