ソシャゲ風だが、これは間違いなくゲームである。『伝説の旅団』

RPG,インディーゲーム,スマホゲーム

ボードゲーム界で有名なあのオインクゲームズが新たなスマホゲームをリリースした。タイトルは『伝説の旅団』。町から町へ旅をしていくRPGだ。

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真っ先に目を引くのは、独特な世界観とグラフィックだ。茶色を主体とした暗めの配色で、スマホゲーの主流である色鮮やかな配色とは正反対のものとなっている。世界設定が「太陽が昇らない世界」となっており、月夜の下で動物のキャラクター達が戦うという、間違えば重苦しい・地味といった印象になりかねない設定だ。

しかし、そこはデザイン面で定評のあるオインクゲームズ。絶妙な色合いと、ハイセンスなデザインにより、「暗い」というよりは「落ち着きと大人っぽさがある」印象となっている。なお、このゲームのデザインを担当したのは、以前大きく話題になったアラームでプレイするRPG『dreeps』を作った平岡久典氏だ。

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ゲーム内容は、ユニットを3体選んで出撃させ、戦って経験値を稼いで強化しながら進んでいくRPG系のゲームだ。戦闘はセミオートで進み、スタミナによるプレイ回数制限やガチャもある。カテゴリに当てはめるとしたら、いわゆる流行りの「ソシャゲ」的なものにあたる。

ソシャゲ(ソーシャルゲーム)に対する印象として「こんなものはゲームではない、射幸心や優越感でユーザーを煽って課金させる集金装置だ」という意見を多く見る。タイトルにもよるが、お金を払ったプレイヤーだけが満足感を得られる仕組みだったり、ゲーム自体が単なる作業でしかない、といったものも多く、しっかりとした「ゲーム」を楽しみたいプレイヤーが求めるものとは違う、というのが現状だ。

しかし、『伝説の旅団』は「間違いなくゲームである」と断言したい。その理由について、これから語らせて頂きたい。

「街にたどり着くまで回復しない」ことによるゲームとしての奥深さ

太陽が昇らない世界。主人公のサフォは、妹を取り返すために旅に出ることになったようだ。サフォひとりの旅だったが、鎧に身を包むチェルボや空を飛ぶアグロなどが同行、その後も徐々に仲間を増やしていきながら町から町へと旅をし、妹が捕らえられているアーガスの塔を目指す物語だ。

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このゲームのユニークな点は、まず「一度出発したら、次の町にたどり着くまで回復手段がない」という点だ。

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松明を立てながら町から町へと旅をする

道中はアーガスという名の怪物が襲ってくる。プレイヤーは手持ちのユニットから3体を選んで戦いに挑むことになる。次の町へたどり着くには規定の回数バトルを行う必要があるのだが、一度町を出たら基本的に回復・蘇生ができない。途中でユニットがやられてしまっても残ったメンバーでなんとか突破する必要があるのだ。逆に、次の町にたどり着いた際にひとりでも生き残ってさえいれば戦闘不能になったユニットも含め、完全回復することができる。

使えるユニットの数もそれほど多くない。HPには限りがある。「限られたリソースをいかに活用して、いかにして次の町へ辿り着くのか?」を考える必要がある。基本的には「各バトルのダメージをいかに最小限に抑えるか」を工夫することになるのだが、そのための戦略が非常に悩ましく、非常に秀逸だ。

例えば、鎧に身を包む「チェルボ」は体力が非常に高い盾役のユニットだが、体力は有限だ。長い道中、ずっとひとりで攻撃を受け止め続けるのは限界がある。ではいつチェルボを休ませるか? 休ませている間、誰に盾役を任せるか? といったジレンマが生まれているのだ。

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ユニットの体力残量を考えて、戦闘メンバーを決める。

ソーシャルゲームでは多種多様のキャラクターが用意されるが、実際に使うことになるのは手持ちの中で最も強いキャラクター達だけだ。弱いキャラクターは倉庫で眠っているか素材にする以外に使い道がない場合が多い。タイトルによっては「特定の属性キャラが有利になるクエスト」や「低レアキャラ縛りのクエスト」を用意して使い分ける意味を用意しているが、それは制限を加えて存在意義のないキャラクターにむりやり需要を作っているに過ぎない。

『伝説の旅団』でも、育成具合などによって強いユニット、弱いユニットが混在することになるが、先ほど説明した「道中は回復できない」というルールにより、全てのユニットに存在意義が生まれているのがゲームデザインとして非常に秀逸だ。強いユニットばかりに頼っていたら消耗してどこかでHPが尽きてしまう(この難易度バランスも絶妙だ!)。その時に残された低Lvのユニット達の出番となるわけだ。たとえLv1でも、後衛ユニットを1秒でも守ることができるなら、敵のHPを少しでも削ることができたなら、決して無駄ではないのだ。

オート戦闘とヘイト値を扱った、工夫しがいのある戦闘システム

このゲームの戦闘システムにはユニークな点がある。「ヘイト値」の概念があることだ。『FF14』などのMMORPGや『モンスターハンター』シリーズをプレイしたことがある人は聞いたことがあるかもしれない。一言で表すなら「誰が誰を狙うかを決める値」といったところだろうか。

例えば、後方にいる回復役のユニットがいる。前衛を攻撃してもすぐ回復されてしまうため、回復役を真っ先に倒すのがセオリーだ。AIでこれを表現するために、回復魔法を使用すると、そのキャラへのヘイト値が高くなるように設定されている。ユニットはヘイト値が高いユニットを優先して攻撃するように動くため回復役が集中攻撃されることになる。

一方、ヘイト値を操るスキルを持っているユニットがいる。チェルボの「ひきつけ」がそれだ。ヘイトをチェルボ自身に集め攻撃を集中させることで、回復役を守ることができる。

ユニークなのは、他のゲームでは敵AIにのみヘイト値の概念が搭載されているのに対し、このゲームでは敵味方共にAIで行動するため、双方にヘイト値の概念があることだ。このゲームでは、自律的に動きヘイト値でターゲットが変化する敵味方のAIをいかに有利な位置に誘導するかが重要となってくる、一風変わった戦略性を持つシステムとなっている。

バトル中にプレイヤーができることは「前進開始のタイミング調整」と「スキル発動」の2つ。これを利用して、例えばこのような戦い方ができる。

強敵が現れた。しかし1体だけだ。バトル開始後、後衛の弓使い「レポロ」だけを戦闘開始させ弓で後ろから攻撃。敵はレポロを倒そうと向かってくる。そこで前衛ユニットの「GO!」ボタンを押し、左右から挟撃。背後からの攻撃はダメージが2倍となるため、強敵でもいとも簡単に倒すことができる。(下記の動画では、レポロの「みだれうち」が全て背後ダメージとなり大ダメージを与えている)

また、非常にユニークなユニットが、アサシンの「ラセルティノ」だ。他のユニットは最も前にいる敵を優先して狙うが、ラセルティノのみ最後尾の敵を狙うような思考となっている。その性質を上手く活用すれば先ほどのように挟撃して一気に殲滅することも可能だ。

具体的なヘイト値は表示されていないため、仕組みが理解できるまではよく分からないかもしれないが、試行錯誤して仕組みが分かってくれば強敵でもあっという間に倒せてしまう。「前進タイミング」と「スキル発動タイミング」の調整だけでも驚くほどバトルの勝敗が驚くほど変わってくる。関われる要素は少ないが関われる幅は非常に広く、決して、レベルを上げて殴るだけの作業ではない、紛れもなくゲームだ。

「ゲーマー向け」であり、かつ「とても楽」

『伝説の旅団』がいかに戦略的で「ゲーム」であるかを語らせて頂いた。次は、多くのソーシャルゲームが持つもう一つの問題点である、「めんどくささ」についてだ。

まずはスタミナのめんどくささだ。スタミナを無駄にしないようにプレイしようとした場合、スタミナが最大になってあふれてしまうと、ロスが発生することになる。だからスタミナが最大にならないように気を配ってプレイする必要があり、さらにレベルアップやゲリライベントのことも考慮すると、先を見越した計画的なスタミナ管理が必要となったり、ときには深夜にもプレイせざるを得ない状況も生まれてしまう。

『伝説の旅団』のスタミナは、徐々に回復するのではなく「1日に3回、スタミナが全回復するタイミングがある」という形式だ。回復するタイミングは、午前5時、13時、21時。朝起きて通勤時間にプレイしスタミナを消費しきったら、あとはしばらくゲームのことを忘れて現実世界の生活に集中することができるのだ。今のところ、時間限定のイベントなどもない。反面、プレイできる回数は少なめとなっているが、忙しい社会人にとってはむしろありがたいのではないだろうか。

また、「強化する」「工夫する」に加えて「第三の戦術」があるのもユニークだ。普通、ゲームで難しい場面に遭遇したら、どうやって突破するだろうか。「キャラを強化して力で突破する」「戦略を工夫し、技で突破する」大抵のゲームでは、このどちらか、あるいは両方を駆使して進めることになるだろう。伝説の旅団は、さらにもう一つ「待つ」という戦術がある。

道中、回復手段はないと説明したが、実は例外的に「スタミナを消費してユニットの体力を回復する」という手があるのだ。バトルでダメージを受けたユニットをスタミナを使って回復しながら進めば、難しい場面でも突破できる。が、その分スタミナを多く消費するため、プレイ回数が減ってしまう、というデメリットもある。回復のために消費するスタミナをレベル上げに使った方がよいか? それともスタミナ消費による回復を活用して突破した方がよよいか? これもまた悩ましく、これもまた、ゲームだ。

また、本当に時間がないときでも、ユニットの回復にスタミナを使えばすぐにプレイを終えることができることも意味している。この第三の「待つ」戦術によって、新たな攻略法が生まれているだけでなく、本当に時間がないプレイヤーでもスタミナを有効に使える手段があるということだ。

また、課金しなければ手に入らない要素もなく、課金することは「時間短縮」でしかないため、「課金しなければ楽しめない」ということもない。ゲーム内でフレンドだとかランキングといったソーシャル要素もほとんどないため、せかされることなく自分のペースで楽しめるのも長所だ(もちろん、課金することでより楽しく遊ぶこともできる)。

自分のペースでゆったりと楽しめる大人のためのゲーム

ほかにも、レベル上げをする際にも損害を減らした方が効率が良いため、レベル上げも単なる作業にならず、ちゃんとゲームとして楽しみながらユニットを育成できる点や、ガチャも単なる確率ではなく中身が毎回異なる&中身が推測できるようになっているため、引くか引くまいかの判断もまたゲームになっている点など、細かい所で楽しめる工夫がされている。

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10個の宝箱に何が入っているか、左のリストに表示されており、内訳は毎回変化する。

『伝説の旅団』は、要素だけを見るとソーシャルゲーム的ではあるが、落ち着いたデザインで、工夫しがいのある深みのあるバトル。ゆったりと遊べるスタミナシステムなど、様々な面で既存ソーシャルゲームとは対極に位置するゲームだ。ソーシャルゲームに疲れた大人ゲーマーな方々に、是非とも触って欲しい一本だ。

[基本情報]
タイトル『伝説の旅団』
制作者 オインクゲームズ
クリア時間 アップデートで随時ステージが追加
対応OS iOS
価格 無料(ゲーム内課金あり)

ダウンロード
https://itunes.apple.com/jp/app/chuan-shuono-lu-tuan/id995158946?mt=8

  • ニカイドウレンジ(@R_Nikaido

    Twitterでゲームのこと語ってたら人生が変わった人。Twitterやってただけで文章力と思考力が身について、Twitterやってただけでライターやゲーム制作の仕事を頂きました。個人でゲームも作ってます。詳しいプロフィールや活動内容はプロフィールサイト