凸の突起部分を凹に刺して□を作るだけ。けど、この『とつとつ』なる作品はパズルゲームにあらず……?

フリーゲーム

画面に映し出された5行5列、合計25個の凸凹ブロック。パッと見ただけなら、「これで何をするんだ?」と首を傾げてしまうはずである。

デコボコした形状のブロックがズラリと並んでいるだけで、別に仲間ハズレなブロックがある訳でもない。どこからどう見ても、すべてのブロックがデコボコとした形をしている。

……なに?「いや、そんなはずはない!どこかに仲間ハズレのブロックがあるはずだ!」ですと? いやいや、ありませんってば。必死になって眼が充血する勢いで探し続けると、ゲシュタルト崩壊起こしますから止めましょう。そんなにゲシュタルト崩壊したいなら『SushiCup Legend』(紹介記事)を遊びましょう。

無関係のゲームの話題を強引に差し込んでしまったが、それはともかく。

この画面で何をするのかと言えば、単純に凸と凹を繋ぎ合わせて「□」を作るだけである。
凹んでいる部分に凸の突起部分をスライドさせ、カチッとはめ込めば□の出来上がり。

それが今回ピックアップする『とつとつ』なるゲームだ。元々は2024年9月にAndroidデバイス向けの無料ゲームアプリとして配信。2025年5月からはWindows PC版も登場し、「ふりーむ!」と「フリーゲーム夢現」にてダウンロードできる。もちろん、無料である。

25個の凸凹をスライドさせ、可能な限り□を作り出そう

ゲームの内容については前述した通りである。操作はキーボードの方向キー、もしくはゲームパッドのコントロールスティックを用いる形で、画面全体を上下左右のいずれかに傾けて凸と凹を動かす仕組みとなる。

なお、傾けた際に動く凸と凹は画面内にあるすべてのブロックが対象。ボール転がしの玉のように、上下左右に「スルッ」と動く。念のためだが、物理演算処理は一切含まれていないので、まったく意図しない所に転がって落ちてしまうみたいなことはないのでご安心を。そんな動きをこの凸凹のブロックたちがしたら一種のホラーでしかない。

それはともかく。そのように動かして凸の突起部分が凹にハマる配置になっていれば、そのままガッチャンコして完全な□が誕生する。これを繰り返しながら、可能な限り□を作っていくのだ。

ルール自体は単純だが、実際に遊んでみると意外に頭を使う。

特に凸と凹をハメる時は突起部分が完璧にハマる配置でなければならず、それを25個あるブロックをよく観察して探していかなくてはならない。また、同じ形状のブロック(凸と凸、凹と凹)が2つ重なると1つに統合されてブロックの総数が減り、上下左右の端から外にスライドさせるとその部分が逆側(右端なら左端)へと移動する。

この仕組みを理解した上で、戦略的にブロックを動かしていくことが求められるのだ。

さらに□が完成しないと画面左側に表示された「ライフ」が減る。

本作は制限時間はないのでじっくり考えられるのだが、スライドして□が作れないとライフが1つ失われる。そのまま続けて1個も□が出来ないと、ゲームオーバーになってしまうのである。逆に1個でも□があれば、ゲームオーバーにはならず次のステージへと移行する。

正直、ちょっと分かりにくい表現で申し訳ないが、本作のパズルは複数のステージ……仕組み的に言うなら「ラウンド」で成り立っている。ラウンドの終了と次のラウンドへの移行は、ライフが空になった時に判定される仕組みで、この終了時に出来上がった□の数がそのまま次のラウンドのライフになる。

つまるところ、すべての凸凹を重ね、画面全体が□で埋まるようにする必要はない。最低でも1個の□があればそれでラウンドクリアになるのだ。

ただし、□が1個だとライフ1でのスタートになるため、次のラウンドで□を完成させられなければ即刻ゲームオーバー。確実な一手を考える必要が出てくる(逆に最終ラウンドで1個残ってればパズルクリアなので気にする必要なし)。だが、□が多ければ次のラウンドでも余裕をもって□作りができる。

少々ややこしい解説になってしまったが、本作のパズルはこういった流れで進行する。最終的に最後のラウンドまで□を作り続けることがクリア条件となる。完璧にやる必要はないものの、作ることは継続しなければならない。そんなユニークなルール設定が凝らされていて、一風変わった体験をプレイヤーに提供してくれるのだ。

しかも、本作は本編の進行に応じて「ボトル」「ブロック消去スキル」なる追加要素も解禁される。特に「ブロック消去スキル」は、その名の通り1個のブロックを任意に消去できる機能で、□を作るのに邪魔な形状の凸や凹を消して流れを作ることもできる。

ただし、使用するにはブロックを4回動かして専用ゲージを満タンにする必要がある。その間にライフも減るので注意が必要だ。このような要素も本作には用意されていて、単調になりそうな一連のパズルに戦略的な深みを作り出している。

□を作れずにラウンドを終えてもゲームオーバーを防いでくれる「ボトル」もそうだが、単純な思考タイプのパズルゲームとしては、ちょっぴりアクションゲーム、アドベンチャーゲームっぽさがあるのも本作の大きな特徴のひとつである。

実は思考型パズルゲームではありません。不思議な島を舞台にした大ボリュームで送る……

作品の魅力も、一連の単純ながらも独特なゲームルール……ではない。

そもそも、ここまでの時点で言及していないことがひとつある。それは本作のジャンルである。

実は魅力というのはジャンルである。本作『とつとつ』は思考型のパズルゲームではない。本当のジャンルは広大なフィールドマップを舞台にした冒険を繰り広げていく探索型のアドベンチャーゲーム。

前述したパズルは、探索の過程で発生するイベントなのだ。ルール周りが個性的で、本編もパズルから開始となるので、その種のゲームと勘違いしやすくもあるのだが、実態はまるで違う。冒険が根幹を担うゲームなのだ。

主人公は凸のブロック。プレイヤーは凸になって、舞台となる不思議な島の各地を冒険していく。最終的なゴールは、凸が幽閉されていた塔の頂上に置かれた「赤い箱」を開けること。

だが、塔の頂上へと繋がる道は謎の封印によって閉ざされてしまっている。この封印を解除するため、プレイヤーこと凸は島の各地を冒険していくのだ。その途上で前述の凸凹パズルが冒険を阻む障害として現れ、解いて道を切り開いていくのである。

この内容こそが本作の魅力となる。なにせ探索と思考型パズルを交互にこなしながら進めていくのだ。仕組みからして個性の強さがほとばしっている。

しかも、フィールドも結構広く、道中にも凸凹パズル以外の仕掛けも設けられていたりと密度も濃い。探索の過程で「ダンジョン」に潜る展開が用意されているという点でも、その密度の濃さが大体想像できるだろう。

ルートに関してはほぼ一本道であり、基本的にはあらかじめ定められたレールに沿っていくような場面が多い。ただ、メインルートから外れた場所に前述した「ボトル」やライフの最大値を上昇させる強化アイテムが隠されているといった、探索を遊びの根幹においているなりのお約束も網羅。

また、島にはいくつかのエリアが用意されているのだが、それぞれの地形や仕掛けにも明確な違いを現した個性付けが図られている。パズルを発生させる凹がステルスゲームの敵兵みたいな動きをしたり、マップ全体が反転したりなど、バリエーション豊かな工夫の数々には思わず声が出てしまうこと請け合いだ。

ずっとパズルを解くだけの展開に終始しないのも面白い。実はあるタイミングで、パズルそのものを消滅させられる力を使えるようになったりもするのだ。どんな風に消滅させられるのかは、そこまで到達してのお楽しみだが、ともすれば退屈で単調になりやすい内容に緩急をつける要素として見事に機能しており、その工夫の上手さに唸るだろう。

そして、ストーリーもちゃんと用意されている。テキストによる説明が皆無なため、基本的にビジュアルから読み解く形なのだが、島のあちこちで凸の主人公が直面する展開と、それを付け狙う謎の存在の暗躍には、結末知りたさにどんどん進めたくなってしまうこと確実。

そもそも、どう見てもパズルのブロックな凸が冒険するその光景からしてシュールの極み。嫌でもこのストーリーがどう収束するのが興味が津々となるはずだ。

こんな思考型パズルと見せかけて実はアドベンチャーな実態もさることながら、中身も手の込んだ仕上がりというのがインパクト抜群。特に探索の密度と意味深なストーリーは、いずれも強い印象を残すものにまとまっている。下手すれば、パズルのことを忘れてしまうぐらいに。そもそも、ボリューム的にクリアまで約8時間はかかる規模でもあったりする。

だが、肝心のパズルも本編進行に応じて解き方のパターンが変わるなど、飽きさせない工夫がちゃんと凝らされているので、お見逃しなきよう。そもそも、終盤になれば嫌でも本作はパズル無くして語られず、となるはずである。多分。

一部演出に警戒レベルの注意が必要な点を除けば、パズル好きには強く推せる作品

グラフィックと演出周りのこだわりも並外れている。

特に演出に関しては、フィールド内に配置された奇怪な建造物に接触すると急に色がつき、音楽も流れ始めて賑やかになるのが面白い。新たなエリアやポイントに到達した時にも、背景が豪華になったり、特殊なエフェクトが舞うなど、思わず見とれてしまう演出があるので必見だ。

しかし、褒められない部分もある。それがフラッシュバックだ。本作、特定のポイントへの到達と同時に主人公の凸が過去の記憶と思しきものを思い出す演出があるのだが、これの挿入があまりにも唐突すぎて、心臓に悪いものになってしまっている。

▲このような映像が何の前触れもなく急に(不穏な音楽と共に)再生される。

加えて、音楽も不気味でホラー感高めというおまけ付き。正直、こういうのは事前に警告するか、前置きとなる演出を追加してワンクッション入れるなどの配慮が欲しかった。何より急に、全く予想だにしないタイミングで挿入されるのがよろしくない。

この点には筆者自身、プレイしていて非常に大きな疑問と不快感を覚えたので、あえて声高かつ厳しく指摘させていただく(そして、今後遊ばれる方はこのような演出があることに注意いただきたい)。

ほかにやや気になるのが操作だ。パズル周りは特に問題ないが、探索の移動に若干の難がある。本作の移動は昔懐かしのスネークゲームを思わせる、方向転換のみでプレイヤーが自動で進んでいく仕組みになっている。

この移動中、一定の時間が経つと加速し、早く動けるようになるのだが、この加速までの時間がやや長く、場面によってはストレスを感じる要素になっている。

主にダンジョンのような狭い通路のある場所や、行き先が分からず右往左往してしまった時に問題が顕在化する。壁への接触や進行方向とは逆にキーを入れた瞬間など、失速する機会が目立つだけに、加速を任意式にするか、加速の時間を短くする配慮があればよかった。

ほかにマップで干渉可能な仕掛けが分かりにくい、一部導線が曖昧で迷いやすい局面があるなど、やや引っ掛かりを覚える部分もある。

ただ、それを含めても全体的には適切にまとまっているほか、探索型アドベンチャーゲームと思考型パズルゲームを組み合わせた発想のユニークさがほとばしっている(だが繰り返しになるが、フラッシュバック演出については一切擁護できない)。

パズル性の高いアドベンチャーゲームが好きな人には、間違いなくオススメできる作品である。奇妙な形の主人公になり、不思議に満ちた世界を冒険し、その果てに待つ真実を目指そう。だが、繰り返しになるがホラー系の演出があるので、苦手な場合はご注意を。(願わくば、本記事掲載後にその辺の緩和を図るアップデートが実施されればと思うが……)

[基本情報]
タイトル:『とつとつ』
作者:ただとし
クリア時間:4~8時間
対応プラットフォーム:Windows、Android
価格(税込):無料
備考:一部、ホラー表現あり

◇ダウンロードはこちら
・ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/33674

・フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/puzzle/game_13722.html

・Google Play Store(※Android版)
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.Company.TDTC_totsutotsu

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

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