締め切り間近の漫画完成の秘策は”バチコーン!”お手軽でテクニカルな短編アクション『コミックバチコーン!!』
いつかの将来、大人気漫画家としてチヤホヤされるようになるはずの新人作家「早乙女コトリ」。オタク気質で大人しい性格の彼女は、今日もまた、締め切りが間近に迫る中で漫画の完成に頭を悩ませていた。
だが、彼女の頭の中には心強いパートナー(?)がいた。その名は「乙女鳥(おとめどり)コトリ」。早乙女コトリの頭の中でとっ散らかったアイディアやキャラクターなどをつかんで回しては投げ、コマに叩きつけて漫画を完成させてくれる頼もしい存在だ。
本日もまた、早乙女コトリの脳内では乙女鳥コトリが漫画作りのために大暴れ。さあ、来たる締め切りまでに脳内で漫画を完成させよう!そして、目指せ大ヒットの重版出来!
そんな愉快な設定とストーリーが特徴の『コミックバチコーン!!』は、2024年3月29日よりSteamで販売中の短編アクションゲームだ。「バチコーン編集部」と称された専門学校の学生チームによって制作された作品で、株式会社ゲームクリエイターズギルド主催の「ゲームクリエイター甲子園2023」では総合賞第2位に輝いたのを始め、複数の賞に輝いている。
アイディアをつかみ!振り回し!コマに叩きつけ!漫画を完成させろ!
前述のオープニングストーリーで2人の主人公を紹介したが、プレイヤーが本編で操作するのは乙女鳥コトリの方になる。舞台となるのも乙女鳥コトリが暮らす、早乙女コトリの脳内に広がる世界。ここで漫画を締め切りまでに完成させるため、飛んでつかんで回して叩きつけての”バチコーン”していくのが、プレイヤーこと乙女鳥コトリに課せられた使命である。
なんのこっちゃだが、要はステージのあちこちにいる敵(アイディア)をつかみ、投げ飛ばして漫画のコマにぶつけていくということである。
具体的な内容を説明すると、まず本編は作品(漫画)ごとに用意されたエピソード(ステージ)を順番にこなしながら進めていく構成となっている。
各ステージのクリア条件は、漫画のコマの完成。ステージ内には真っ白な漫画のコマが左右の壁と真下の地面、そして奥の壁に配置されており、これらすべてを完成させることによってステージクリアになる。
コマの埋め方は単純で、敵こと早乙女コトリのアイディアが具現化した存在にジャンプなどで接近してつかみ、そのまま勢いを付けてコマめがけて投げ飛ばし、「バチコーン!」と叩きつけるだけ。そうすることで漫画のコマが埋まる。厳密にはコマごとにぶつけるアイディアの数が設定されており、その分のアイディアをぶつけると完成する仕組みとなっている。
この過程を繰り返し、漫画のコマを完成させていくのである。なお、つかんで勢いを付ける、叩きつける動作はすべてコントロールスティックによる操作を前提とする。勢いを付ける際はグリグリと回し、投げつける時は飛ばしたい方向に傾けるという感じだ。そのような操作系を採用している都合上、本作をプレイする際は極力、ゲームパッドを用いることを推奨する。
また、叩きつけられる方向は左右、奥、そして真下(地面)と複数あるのだが、真下に叩きつける時に限り、勢いは縦方向に付ける必要がある。やり方としては(Xboxコントローラ使用時)Yボタンでつかんで、そのままコントロールスティックを回すだけだ。
ちなみにこの真下への叩きつけでは、投げた勢いの反動による大ジャンプも可能。ステージによっては、これで高所を飛び越えたり、地面に張り付き、つかめないアイディアを反動によって浮かばせることも試されてくる。そのような応用も状況に応じて求められたりと、コマ埋めだけで終始しないための工夫も凝らされている。
そのほか、本作には締め切りという名の制限時間も存在し、それまでの内にすべてのコマを埋めて完成させることも試される。ステージも中には大量のコマが続々と登場する特殊なタイプもあるほか、巨大なアイディア(ボス)と対決する展開も。
このように遊びとしては単純明快だが、主にコマ埋めの過程に考える要素が散りばめられたアクションゲームになっており、独特な攻略性を演出。加えて制限時間という形で締め切りの恐怖も表現していて、漫画家の苦悩も味わえるゲームにも仕上げられている。
一見、お手軽で遊びやすそうに見えて、極めるほどテクニカルな一面が露わになる
本作の魅力は、単純ながらもテクニカルな立ち回りが試されるゲームプレイ全般にある。
本編開始当初こそ、宙に浮かぶ敵ことアイディアをつかみ、それを振り回して漫画のコマに次々と叩きつけていく分かりやすい展開が連続する。途中、コマに叩きつけるアイディアの数が増える、ジャンプで足場を登りながら高所にあるコマを目指すなどの変化も生まれるが、やること自体は振り回して叩きつけてのバチコーン。お手軽で直感的なアクションを楽しむことに焦点を当てた作りになっている。
しかし、次第に本作に秘められたパズル性がテクニカルなアクションゲームとしての印象を強めていく。
具体的には前述した真下への叩きつけによる大ジャンプ、アイディアを命中させると壊せるブロックが登場するようになってからが顕著。順序立ててテンポよく動かなければ最悪ステージクリアが不可能(詰み)になったり、時間切れの憂き目に遭うようになるのだ。
特に壊せるブロックが登場するステージは、本当に何も考えず壊していくと周囲にアイディアがいない場所に着地してしまい、隣に動きたくてもジャンプ力が足りなくて詰んでしまう。また、投げ飛ばすアイディアに関しても注意すべき点がある。それは、叩きつけたアイディアはコマが完成するまでの間、そこに叩きつけられたままになること。元いた場所に復活しないのだ。
これが何を意味するのかと言えば、場合によっては詰みを生じさせる。2個のアイディアを叩きつけないと完成しないコマがあったとして、その近くにいたアイディア1個を叩きつけても、残りの1個が既に後戻り不可能な場所にしかいなければ、その時点で詰みが確定なのだ。しかも、基本的にアイディアの大半は出現場所に留まっており、ステージ全体を行き来するほど移動したりしない。なので、彼らが動いてくるのを待つ手段も使えず。結局、コマの近くまで投げ飛ばして運ぶしかなく、それを怠れば想像通りの結果を招くのである。
こうしたケースが途中から生じるようになり、テクニカルなアクションゲームとしての本性が露わになってくる。それは制限時間も同様で、徐々にステージ攻略における脅威になっていく。
特に本編後半のステージ、ボス戦は顕著で、素早くテンポよく叩きつけを決めていかないとほぼ間に合わなくなる。おまけに叩きつける前、振り回して方向を決めるという手順を挟むことも徐々にタイムロスを誘発する”元凶”としての姿を露わにしてくる。とりわけ本編終盤では、いかにして事前動作を最小限にできるかという素早い判断が突破のカギを握る。じっくり振り回し、確実に狙いをつける動作ではギリギリもギリギリ。とにかくテンポよく、そしてタイムロス前提の立ち回りが試されるのである。
始めて間もない頃こそ、本作に対してはお手軽なアクションゲームとしての印象を抱くだろう。紹介が前後したが、本作で叩きつけるアイディアはこちらへ危害をほとんど加えてこない上、それが邪魔をしてくるようなこともない。1ステージ当たりに要する時間も短く、早ければ数十秒でクリア可能な所もあるため、楽に一区切りまで行けると考えやすい。
だが、本作のテクニカルなアクションゲームとしての本性に気付いた時、実は結構一筋縄ではいかないゲームであることを大いに思い知らされるだろう。そんな意外性の高い手ごわさがあって、手軽でありながら確かなやり応えを感じられる作りになっているのだ。
何より、徐々に試行錯誤や素早い判断が試されていくような過程が、締め切りに迫られている漫画家の焦りを暗に表現しているのが面白い。後半のステージはその辺りが最も色濃く現れていて、余裕を持ったスケジュールで作品を作ることの重要性を思い知らされる……かどうかは人による。
詰みが生じるとは言え、メニュー画面から即座にリトライ可能に加え、1ステージ辺りに要する時間が短めなことから、やり直しの負担が軽いのも地味ながら特筆に値する部分だ。そして、やり直しがしやすいからこそ、効率的な攻略も極めやすい。
それを踏まえてか、スコアアタックのやり込みもあり、どこまで限界を突き詰められるかという遊びも楽しめる。しかも、オンラインランキングにもバッチリ対応している。そちらに参加すれば見事、締め切り地獄に追われる漫画家ゲーマーの仲間入りである。色んな意味で効率性重視の本編攻略とは違った立ち回りによる攻略が楽しめるので、極めたい思いが生じたなら挑戦いただきたいところだ。
やればやるほど漫画家の苦悩も分かってくる(!?)小粒な良作
後半にかけ、テクニカルな攻略が試されてくると紹介したが、難易度自体は低めであり、エンディングまでに要する時間も30~40分程度と短めとなっている。ただ、前述したスコアアタック、クリア後のおまけステージなどもあり、そちらも含めてプレイすれば、ある程度の満足感は得られるだろう。
ただ、正直に言えば、あと1作品(ワールド)分のステージがあっても良かったように思う。これは後半にかけて、テクニカルなアクションゲームとしての面白さと手応えが高まってくることに起因している。より手応えのあるステージを欲したくなりやすいのだ。
とは言え、後半は忙しい場面が多いことから、さらにステージがあった場合、ゲーム全体の難易度が一層高まる懸念もあった。全体の構成に冗長さが生じていた可能性もある。基本、どのステージもやることはアイディアをつかんでコマへと叩きつけることのためだ。
アイディアの種類、構造などで変化は付けていても、やることは変わらない。その意味では、現在の規模が丁度よいとも言える……のだが、それでも欲しい気持ちも出てくるだけあって、難しいところである。
しかし、だとするならば、アクション周りの演出はもう少し頑張ってほしかった。特に音楽周りが厳しい。ほんの数曲しかないうえ、ボス戦ですら通常ステージの曲になってしまっているのだ。おかげで盛り上がりが弱い。
さらにボスに関しては、撃破した演出も地味で物足りなく、達成感に欠けるのがアクションゲーム好きとしては物申さざるを得ない。ボス自体は倒し方、攻撃パターンなどでちゃんと個性付けされていただけに、殊更に演出周りの弱さが勿体ない。繰り返しになるが、ここだけはもっと力を入れて欲しかった限りだ。
演出に絡む点ではストーリーも必要最小限に加え、2人のコトリのやり取りも事務的な感じに終始しているのが寂しい。設定がユニークなだけあって宝の持ち腐れ感が凄く、ここも可能ならもう少し広げて欲しかったところである。
その辺はグラフィック周りが凝った仕上がりなのも起因している。また、もの凄く地味な所なのだが、コトリのボイスも素晴らしくクセになる可愛らしさがある。人によっては、もの凄く深々とぶっ刺さる可能性があるので要チェックである。ただ、そこにも惜しい点として、音量設定のオプションが未実装というのがあるのだが。設定できれば、特定の方々なら歓喜したのではなかろうか。
所々、あと一押しな部分もあるが、総じて最初の取っつきはお手軽ながら、進めていくと次第にテクニカルな一面が露わになる、小粒な良作アクションゲームに仕上がっている。
新人漫画家が脳内のパートナーと共に、人気漫画家へと上り詰めていくサクセスロードを見届けよう。そんな訳で、アクションゲーム好きであればぜひお試しを。そして、早乙女コトリ先生の次回作にご期待ください!(?)
[基本情報]
タイトル:『コミックバチコーン!!』
作者:バチコーン編集部
クリア時間:30~40分
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):500円
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・Steam