『超連射68k』に込められたシューティングゲームの攻撃性 フリゲで始めるSTG:第1回

シューティング,フリーゲーム,連載

先週の連載が予想以上の反響で少々、怯えています……。プロフィールにも書きましたが、私、せいぜい東方ノーマルをノーコンティニュークリアできる程度の能力。STGが特別に得意というわけではありません。とはいえ、「好きなもんは好き!」という気持ちで、少しでも多くの人にSTGの楽しみを知ってもらえたらと考えています。

またどちらかと言えば、STG好きからの反応が多かったのですが、本連載の主眼はSTGの新規プレイヤー獲得にあります。なので、テクニック的な話は、初歩の初歩程度しか話しませんし、個別のタイトルの攻略などはないです。個々の作品を例にしつつも、マニアックに思われがちなSTGというジャンルの魅力を伝えるのが、あくまでも本連載の目的です。

STG固有のわかりにくさ――ゲームネイティブな視点

さて本題に入る前に、一つ印象的なエピソードを話させていただきます。私はSTGに限らず、アーケードのゲームや雰囲気は大好きです。同時にもちろん多くのゲーマーと同じく、家でもゲームをプレイします。以前、住んでいた部屋では、リビングルームにXbox360を設置して、アメリカンなカウチスタイルでゲームをプレイしていました。

リビングでゲームをするようになって気づいたのは、STGをプレイしていても、同居人が全然、興味を持たないことです。TPSやFPSといった3Dのゲームだと多少は興味を持って話しかけてくることがあります。またオープンワールド系のゲームに至っては、ゲームをそれほど遊ばない同居人も釣られて始めてしまうこともありました。


一見して何しているか…わかりにくいですよね。しかも『赤い刀』は視点も独特。

もちろん、その人の潜在的な関心によるところは大きいでしょう。ですが、非ゲーマーからすると、STGはパッと見て「よくわかんねぇ」ものではないかと予想されます。わかる人にとっては「ここで決めボムか……」、「稼ぎのためのパーツ破壊、パネェ」、「今のミスはゲームランク調整ね」といった風に把握されるものも、STGをプレイしない人にはさっぱり理解されません。さすがにそこまでの理解は求めませんが、個人的には2Dの画面で自機が動いているだけでなので、それほど分かりにくいとは思えないのですが……。

この原因のひとつは、STGの視点の特異性にあると思われます。今回は詳細に触れることはできませんが、縦シューにしろ横シューにしろ、STGの構図は他の映像メディアとは独自に発展したものであり、いわば「ゲームネイティブ」な視点なのです。そのため、映画の構図から類推して理解できるFPS/TPSとは違って、STGはゲームに慣れていない人にはパッと見で理解するのが難しいと思われます。(このSTGの視点の独自性についてはまたいつか書きたいと思います。)

STGは避けゲーか?

以上のような映像的なハンディキャップを持ったSTG。それをまったくプレイしたことのない人にお勧めするには、直接、ゲームプレイの本質に迫ることが近道だと思います。つまり、ずばり「STGとはこういうゲームである!」と宣言してしまうのです。もちろん独断と偏見によるところが大きいですが、特定のタイトルを挙げるだけでは、なかなかプレイするきっかけにはならないでしょう。それこそ映像的に超美麗であるとか、キャラクターが萌えキャラばっかりとか、そういうフックがあれば別ですが……。

では、STGとは何でしょうか?なんとなくのイメージでもいいので、ちょっと心に浮かべてください。


弾幕パネェっす。ですが、まあ『虫姫さま』は道中が肝なんですよ!

高難易度、覚えゲー、初見殺し、弾幕……なんだか物騒なものばっかり返ってきそうですね(汗)。確かにこれらは現在のSTGの重要な一要素だとは思います。ですが、ここで注目したいのは、これらのイメージのほとんどが、STGの「避ける」要素に特化していることだと思います。つまり、これらのイメージは、よくある言説のひとつである「STGは避けゲー」という言葉に集約されるように思います。

STGは避けゲー。

いや、否定はしません。実際のところ、STGにおいて敵弾を避けることは重要です。しかしながら、いささかこの点ばかり過剰に喧伝されるきらいがあります。それにSTGのプレイヤーの一人として、「STGのプレイ経験は避けることによって生まれるか?」と問われるならば、否と答えます

というのも、新規プレイヤーに「STG=避けゲー」という構図を植え付けるのは、様々な誤解を生じさせます。弾幕系を筆頭にSTGには確かに「避けの快感」は存在します。ですが、それはある程度、熟達したプレイヤーが味わえる体験だと思います。さらに避けを中心となるSTGでも、その多くはパターン化されたものです。そのため、実際のプレイヤー感覚に照らして言えば、避けているというより、特定の順番に撃ち込んでいるというのが適切でしょう。(さらに言えば、アドリブ避けの快楽を追求したSTGはそれほど多くないと思います。)

では、STGとは何なのか?そのプレイ経験の本質はどこにあるのか?

それは攻撃性です。「STGは避けゲー」というフレーズによって、見過ごされがちですが、「撃ち込む」という表現にも表れているとおり、STGは本来、攻撃的なのです。

連射に込められたメッセージ――『超連射68k』の攻撃性

では、STGの攻撃性はどこに宿っているのでしょうか。ここで紹介したいのが『超連射68k』です。

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本作はもともとシャープのX68000用に開発された同人ゲーム。あのシュタゲに登場するマンハッタンシェイプのマシンですね。当時はこのX68000で多くのSTGが制作されたそうで、Windows以前のインディーゲームとしては見逃せないシーンのひとつです。

1998年に完成版がコミケで頒布され、2001年にWindowsに移植される形で無料化しました。フリーのSTGとしては日本最古の作品の一つとも言える本作。そのクオリティの方でも高く評価され、今やインディーゲームのクラシックとなっています。

当時を振り返ったよっしん氏のスライド。

内容は『達人王』や『BATSUGUN』といった90年代の高難易度STGに強く影響を受けており、派手なエフェクトによる破壊の爽快感が特徴です。弾幕STG登場前夜とあって、敵弾はさほど多くはないですが、弾速が早めで難易度は結構高いです。ちなみに音楽は同人音楽の世界で著名な柏木るざりん氏が担当。X68000のFM音源を活かしたテンポの良いサウンドトラックは、ゲーム音楽のマスターピースとしても、しばしば名前が上がります。

さて、ゲームの紹介はこれくらいにしておいて、本題に入りたいと思います。『超連射68k』は名前の通り、「連射」というテクニックをフィーチャーしています。『超連射68k』だからといって、68000回の「連射」を求められるわけではありませんので、安心してください(笑)。

筆者と同じようなファミコン~スーファミ世代の人には言うまでもないでしょうが、「連射」とはボタンを連打して弾を速く多く打つ技術です。なぜ「連打」ではなく「連射」なのかというと、この技術がSTGと深い関わりがあるのです。

というのも、この技術を広く一般に知らしめたのは「16連射」で知られる高橋名人こと高橋利幸氏でしょう。彼はハドソンの宣伝マンとして人気を集めますが、このテクニックを最初にお披露目したのがSTGだったのです。『スターフォース』、『スターソルジャー』と当時のハドソンの看板作品は連射を要求するSTGでした。そのため、高橋名人の必殺技も「16連打」ではなく、「16連射」であったのです。

連射という技術。それが示す攻撃性は明らかです。右手を酷使して敵を瞬殺していく。それはSTGの攻撃性を体現していたのです

この攻撃性は『超連射68k』にも、当然、発揮されます。本作の操作はショットとボムという非常にオーソドックスなものです。しかしながら、昨今のメインストリームのSTGと異なり、押しっぱなしでもショットは連続して発射されません。その代わり、一回の入力に対して数発のショットが撃たれるセミオート連射が採用されています。

この仕様については、作者のよっしん氏が自身のサイトで説明しています。

手連射世代のゲームには、 後のオート連射世代には無い撃ち込み感と手ごたえがあります。 手連射はシューティングゲームの醍醐味の一つでした。(中略)超連射68K には、当時失われつつあった手連射要素を入れたいと考えました。 散々悩んだ結果、 セミオート連射というフィーチャーの導入にとどめました。 最低限必要な連射速度は、親指でプチプチと連射するケースを想定して、 秒間 4 発程度に設定しました。 それ以上の速度で連射しても、ショット連射速度は変わりません。
超連射68K 開発後記

『超連射68k』がリリースされた90年代末には、連射は既に陳腐化したテクニックであったと思います。既にファミコン時代から高橋名人の居たハドソンも含め、多くのメーカーが連射機能がついたコントローラーを販売していました。アーケードのコントローラーにも連射機能が設置されることは珍しくありません。

では、それにも関わらず、『超連射68k』はどうしてプレイヤーに連射を求めたのか?それはよっしん氏が説明しているように、「打ち込み感と手ごたえ」にあるわけですが、私に言わせるとこうなります。

プレイヤーにSTGの攻撃性を忘れないで欲しいから。

昨今では手による連射が求められるSTGはほとんど存在しません。自機のメインの攻撃は押しっぱなしでも十分な能力が発揮され(オートショット)、ショットを垂れ流すプレイがデフォルトとなります。結果として右手がお留守になり、左手による弾避けにプレイヤーは集中することになるのです。

「STGは避けゲー」という認識は、こういった部分にも起因すると思われます。実際にはオートショットのSTGであっても、慣れたプレイヤーならば意識は弾避け以外にも向けられます。敵の配置、アイテムの出現場所、撃ちこみの調節など、一見してわからないところにSTGの「攻撃性」は宿っています。

しかしながら、オートショットをデフォルトとすると、STGが本来持っている攻撃性が隠されてしまう。『超連射68k』のよっしん氏はおそらく、無意識にそう考えたのだと思います。セミオートの本作は高橋名人のような16連射は求められません。しかし、常に右手を動かすことによって「避けるよりも撃つ」という意識が芽生えるのです。

連射から張り付きへ――見敵必殺、破壊の快楽

では実際に『超連射68k』をプレイしてみましょう。できれば連射機能があるゲームパッドで。えっ!?連射機能使っても良いのかって?いや良いんですよ。ちゃんとSTGの攻撃性に意識が向かっていれば、連射パッドを使っても本作の魅力は存分に味わえますから。付け加えると本作の難易度は決して初心者向きとは言えません!連射パッド無しでは一周クリアも難しいと思いますので、持っている方は躊躇なく使用してください。

最初のステージはかなり簡単だと思います。破片が立体的に回転する開幕時の爆破演出やボスの破壊シーンは、非常に凝ったもの当時の技術力の高さが伺えます。昨今のSTGに比べると、ザコキャラは適度に耐久力を持っています。そのため、少し近づいて弾を撃ち込むのを意識してください。どうですか?気持ちが良いくらい敵の編隊を沈めていくことができませんか?


古いゲームなので撮影には苦労しました…。爆破演出などは今見てもカッコ良い!

途中に出現する中型機を破壊するとクルクル回るアイテムが出現します。ボム、シールド、パワーアップでワンセットになっているアイテムは、3つのうちからどれかを選ぶ必要があります。とりあえず最初はショット性能を高めるパワーアップを取ることをおすすめします。そうすることで道中での敵の破壊がより楽しくなります。ちなみに3つのアイテムの真ん中に潜り込み、一定時間経過するとハイリスクながらもアイテムを総取りすることができます。クリアにもスコアにも重要なテクニックですが、最初は無理に狙わなくても良いでしょう。

ステージ2からが本番です。中盤以降に固めの大型機が登場して来ます。放置すると大量に弾を吐かれて非常に厄介。ではどうしたら良いのか?そうです、ここでも避けるのではなく撃つのです!これらの大型機は、接近して弾を撃ち込むことで破壊できるように調節されています。俗にいう「張り付き」というテクニックです。後半のレーザーを撃つ中型機も張り付きで対処することが可能です。


前に出ることで避けるべき弾は減ります!常に攻撃的なプレイを

このように『超連射68k』は、たとえ連射パッドでプレイしても、張り付きのテクニックが必須となります。避けにくい攻撃をしてくる敵がいても、攻撃前に接近して破壊すれば良い。見敵必殺、積極的に前に出る!それがSTGなのです。特に本作では、この張り付きの爽快さを追求するため、ショット威力、衝突判定、効果音から敵パターンまで練りに練られています。

『超連射68k』は、連射といういささかレガシーなテクニックをフィーチャーしていますが、その目指すところは明らかです。連射によるショットの撃ち込みを意識することで、プレイヤーは能動的に攻撃的に敵を破壊していく。小気味良い撃ち込み音と爽快な爆破演出に釣られて、プレイヤーは自然に前へ前へと敵に接近していきます。これぞSTGの本来の快楽であり、「避けゲー」というレッテルでは見えてこない攻撃性の正体なのです。

以上のように本作は、STGの攻撃性を理解するためにはうってつけの作品です。最初に始めるSTGとしては少々難しくはありますが、コンティニューも可能ですので、気軽にプレイしてみてください!

[タイトル]
『超連射68k』

[ソフトウェアタイプ]
フリーゲーム

[対応OS]
Windows 95/98/2000/XP
(それ以降のOSは互換モードで起動)

[ダウンロード]

Yosshin’s web page

[制作者]
ファミベのよっしん

[プレイ時間]

  • 死に舞(@shinimai

    非常勤講師をつとめるかたわら、音楽やゲームなどの様々なコンテンツに関して執筆しているフリーライター。Hotline Tokyoというゲームファンによるイベント主催しています。最近プレイしているSTGは『ダライアス外伝』。ラスタースクロール最高だよ!!!東方ノーマルをクリアできる程度の能力。