「パターンゲー」の醍醐味と魅力ギッシリの”8×2ビット風”古典的2Dアクション『ガブリエルの影 Lords of Exile』

アクション,インディーゲーム

2D、3Dを問わず、アクションゲームではキャラクターが俊敏に動き、敵との戦いや難関の突破をこなしていく様が定番とされ、評価の対象にもされやすい。

では、その中でキャラクターが俊敏に動かないと評価されないのかと言えば、決してそんなことはない。あえてキャラクターの動きをゆっくりめにし、ダメージを受けた際の仰け反りも大きくした上で、先の展開を踏まえた対処、手持ちの武器の特性を考慮した立ち回りに遊びの根幹を置いたアクションゲームもある。「戦術重視系」とも称せるだろうか。

とりわけ2Dに関しては、1980年代にそうしたタイプのアクションゲームが頻繁に見られ、一部は好評を博してシリーズ化も遂げている。

今回紹介する『ガブリエルの影 Lords of Exile』は、そんな1980年代に見られた戦術重視系のアクションゲームへのオマージュを捧げた新作である。

タイトル名、さらに上記スクリーンショットから、日本製のタイトルのように見えるが、実際はスペイン生まれだ。2024年2月15日よりPC(Steam)のほか、PlayStation 5/4、Nintendo Switch、Xboxシリーズ(Series X|S、One)向けに発売中である。ゲーム内テキストもタイトルの通り、日本語に対応している。

全8ステージ構成の古典的2Dアクション。怒れる王への復讐を果たせ!

太古の昔、戦乱に包まれた極東の地「エクシリア」。「弱者は強者に支配されるべし」の思想を持った騎士「ガブリエル」は、怒れる王「ガラガー」直属の血に飢えた処刑人として、何千もの人々の命を奪ってきた。その度を超える凶暴性にガラガーはいつしか恐怖を抱く。そしてガラガーは、ガブリエルへの戒めと警告のため、彼の愛しのフィアンセを殺害する。

だが、結果としてこの行為はガブリエルの逆鱗に触れてしまう。
そして、ガブリエルは自身の行いと思想がこの事態を招いた罪を背負い、ガラガーの打倒を誓う。かくして、血を血で洗う復讐劇の幕が開いた。

そんなオープニングと共に始まる本作は、ステージクリア型の横スクロールアクションゲームだ。プレイヤーはガブリエルを操作し、仇敵ガラガーとその王国の打倒を目指し、全8つのステージ(作中表記は「レベル」)の攻略に挑む。

ゲームデザインは1本道構成で展開される、1980年代から1990年代前半に見られた古典的な横スクロールアクションゲームを踏襲。各ステージのクリア条件が最後に待ち受けるボスを撃破すること、一度クリアしたステージへの再訪はできず、ひたすらに前進していく本編の流れなど、いかにも当時らしい遊び心地を持ったアクションゲームとして設計されている。

アクションに関しても、プレイヤーの操作するガブリエルは歩行速度が遅く、テンポもややゆったりとしている。ただ、それ以外の攻撃などは対応するボタンを押せば俊敏に繰り出せる仕組み。できることも豊富で、スライディング、下突き攻撃、金網に捕まっての全方位移動まで、高い機動性を持ったキャラクターになっている。

また、ステージをクリアすると、ガブリエルは倒したボスが持っていた「スキル」を習得。次のステージから、その「スキル」にちなんだ新しいアクションが可能になったり、パワーアップが得られるようになる。前者は二段ジャンプ、後者は通常攻撃の範囲拡大および威力の強化がその一例だ。これに応じてステージにも、前のステージにはなかった新しい仕掛けが登場するなど、分かりやすい変化が生じる作りとなっている。

さらに「スキル」とは別に「影」なるものもある。

これは特定のステージの節目にある「オナコの修行」を乗り越えるとガブリエルが獲得するもの。画面左上、体力ゲージの下にある「呪いゲージ」が満タンになり、対応するボタンを押すとガブリエルの背後にその戦いをサポートする影のようなキャラクターを召喚できるのだ。『ジョジョの奇妙な冒険』の「スタンド」みたいなもの、と言えばどんなものか想像しやすいだろう。

影は攻撃ボタン長押しで、それぞれが持った技を繰り出してくれる。「カツ」なら特定のブロックを破壊する衝撃波、「シンセク」なら特定の柱に刺し、ガブリエルをそちらに引き寄せるチェーンフックといった感じだ。ただ、召喚中に技を繰り出すと、ゲージが減る。もし、そのままゲージが尽きれば影はその場から消えてしまう。

ただ、「呪いゲージ」自体は自動回復するので、ある程度、待っていれば再度召喚可能。それとは別にゲージを満タンにするアイテムを取るという選択肢もある。このようなガブリエルとは別の存在の力を頼りに攻略していく場面も各ステージには設けられていて、スキル共々、入り組んだ展開を見せてくれるようになっている。

他にガブリエルはメイン武器の剣以外にもサブ武器も扱える。サブ武器を使えるようにするには、対応するアイテムの獲得が必須に加え、有限式なので数が尽きると使えなくなってしまうが、剣との組み合わせと状況に応じた使い分けを心がければ、ステージをより安全に進めていけるようになる。さらにシステム周りは古典的なアクションゲームを踏襲しつつも、現代のゲームらしく、残機制は採用していない。基本、やられてしまっても、そのブロックごとの始まりから再開できる良心的な設計だ。

これぞ正真正銘「パターンゲー」な醍醐味と面白さがギッシリ!

本作の魅力は徹頭徹尾、1980年代の古典的な名作アクションゲームが持っていた”楽しい高難易度”を表現していることである。

正直なところ、本作のような1980年代の名作アクションゲームに影響を受けて作られた新作は、インディーゲーム界隈で結構見られる。とりわけ残機制を採用せず、現代的な遊び心地を持たせたものは定番になっている印象すらある。

ただ、これはひょっとすると筆者個人の偏見かもしれないが、そういう残機制を廃した作品に限って、難易度を不当に高く設定する傾向が見られる。ゲームオーバーによって大きく巻き戻される不安・ストレスがないことを免罪符に、道中に大量の一発アウトな仕掛けを接地したり、敵の配置を初見での対処は到底不可能なものにしたり、陰湿な敵を揃って出現させるといったものが一例だ。

もちろん、中にはそんなことをせず、真っ当な高難易度を表現した作品もある。しかし、「残機制がないから、思いっきりやっちゃえ」と、やりすぎている作品があるのも事実。そのようなものに出会うと、つい心の中で言いたくなってしまうのだ。「これの何が楽しいの?」「そういう難易度って、当時のアクションゲームにあったものだっけ?」など。

なので、本作にもそうした不安がプレイ前にはあったのだが、最後までクリアした今、断言しよう。本作は残機制無しを免罪符にせず、徹頭徹尾、1980年代の古典的な名作アクションゲームの”楽しい高難易度”が表現されている!

特に「パターンゲー」としてのバランスを、道中からボス戦まで徹底しているのが見事だ。突然、思いもしない所から敵が出現したり、攻撃順序を崩してくるみたいなことはなく、すべてが決まったパターンで構築されているので、トライ&エラーを重ねるほど、分かりやすいぐらいプレイヤーの動きが洗練されてくる。

そして、初見時はボロボロにされた難関もボスも僅かなダメージで乗り越えられるようになるどころか、場合によっては無傷での突破も余裕になるのである。

こうしたトライ&エラーを重ねるたび、プレイヤーの動きが洗練されていくのは「パターンゲー」の醍醐味。それを本作はほぼ完璧に近いレベルで押さえており、プレイヤーに上達することの快感と嬉しさをこれでもかと言わんばかりに提供するのである。しかも、道中にせよボスにせよ、プレイヤーに「何を考えているんだ!」と言いたくなる陰湿なシチュエーションを可能な限り抑え込んでいる。

一部、ビックリさせられる場面もあれど、何回かやっているうちに「大したことなくね?」となるものに設計されているのだ。なので、これといって強いストレスを感じることがない。ミスしたとしても「自分の動き方がいけなかった」と納得できるものに設計されているのである。

これを最初のステージから最後のステージ、果てはラスボスまで一貫してやっているのも特筆に値する。終盤になると、さすがに嫌らしい動き方をしたり、倒し方にコツのいる敵も出てくるのだが、いずれも被害を最小限に抑えられる「答え」があるので、「もうこんな奴に二度と会いたくない!」との嫌悪感も抱きにくい。むしろ、「今度はサクッと倒してやる!」と強気になってしまうぐらい印象が変わる。

ボスもラストを含め、きっちりパターン化できるので、どの個体も戦っていて楽しい。一部には、気付くと「なんでやねん!」とツッコみたくなること確実の安全地帯が設けられた個体もいて、それが1980年代のアクションに限らないゲームらしさを醸し出している。

色々とカオスすぎるステージごとのロケーションもそのひとつ。中世の村を乗り越えたら、突然鳥居や寺院が登場する日本的な場所が出てきたり、それを乗り越えたら突然近未来になってロボットまで出てきたりと、いい意味で統一感がない。おかげで、「次はどんなステージとボスが?」とのワクワク感も刺激され、止め時を失ってしまうことも。

こういった古典的なアクションゲームならではの醍醐味や面白さが、しっかりと押さえられているのだ。特に「パターンゲー」が好きな人ほど、本作は深々と刺さること間違いなし。そして、その醍醐味をよく分かった調整具合に嬉しくなってしまうだろう。

現代的な仕様でありながら、それに甘えた難しさを自重しているのも好感が持てる。主人公ガブリエルは、その過去もあって好感が持ちにくいキャラクターだったりするのだが、ゲーム全体は逆に持ちやすいのもギャップがあって面白い。

残機制なしの仕組みが仕組みだけに、「どうせ嫌らしさに振り切ったタイプなんでしょ?」との先入観を持つ部分もあるが、ぜひ、騙されたと思ってプレイしてみていただきたいところだ。見た目からは想像もつかない”やさしさ”と”楽しい高難易度”を感じるはずだ。

8×2ビット風な表現面は気になれど、遊び応え申し分なしの良作!

ところで”やさしさ”と言えば本作、音楽にも注目である。

なんで”やさしさ”と音楽が繋がるんだと言われれば、かの「今、RPGは優しさの時代へ」のキャッチコピーで当時の世代の方々からはお馴染み、アクションRPG『イース』の初期シリーズで音楽に携わった古代祐三氏が一部、楽曲を提供しているからである。

厳密には古代氏が作曲しているのはごく一部で、残る楽曲の大半はGravity Circuit(グラビティ サーキット)』、『Bot Vice』(紹介記事)などで音楽を担当したDominic Ninmark(ドミニク・ニンマーク)氏、『Nuclear Blaze(ニュークリア・ブレイズ)』などの音楽を担当したPentadrangle(ペンタドラングル)氏が手がけている。

両氏による音楽も大変素晴らしく、各ステージを大いに盛り上げる。印象的な旋律もあって耳にも焼き付きやすく、思わず聴き浸ってしまうほどだ。「1980年代のアクションゲームは耳に残る音楽も魅力のひとつだ!」との認識を持つ人なら、本作の楽曲にはまさに「これだよ、これ」とニヤニヤしてしまうだろう。

ただ、本稿冒頭のトレイラーを確認すればお分かりの通り、グラフィックが8ビット調なのに対して、音楽は16ビット調(FM音源)と、完全に見た目通りになっていないのには違和感を覚える人もいるだろう。正直、これで8ビット風を名乗るのは相当無理がある感じだ。8×2ビットというのが正しいかもしれない。(実はグラフィックにも多重スクロールがあったりなど、それっぽくない部分がある)

しかし、ゲームをプレイしていると次第に気にしなくなっていくはずだ。なぜなら、耳に残る楽曲たちが「そんな細かいことはいいだろ!」と、出来のよさでゴリ押ししてくるからである。かくいう筆者もゴリ押しされました。サウンドトラックはまだでしょうか。

他に操作性も良好で、特に各種アクションのレスポンスの良さは動かしているだけでも楽しい。攻撃のヒット時に派手な効果音が鳴り響くといった、手触りの面もバッチリ押さえられている。また、ボリュームはステージ数こそ少ないが、1ステージ当たりの物量が大きいこともあって、物足りなさはほとんど感じさせられない。

本編クリア後のやり込み要素としても、最速クリアに挑む「スピードランモード」、ボスとの連戦に挑む「ボスラッシュモード」を用意。さらに第2のプレイヤーキャラクター「リリア」も選択可能になり、ガブリエルとは違ったアクションによる2周目を楽しむことも可能だ。

▲ガブリエルとは異なるスピーディなアクション、遠距離攻撃が特徴の「リリア」

総じて当時のアクションゲーム、とりわけ「パターンゲー」の醍醐味と魅力を忠実かつハイレベルに仕上げている本作。逆に惜しい部分も幾つかあり、「影」を使ったアクションはステージの作りもあって「無理矢理使わされている」感が強く、十分に活かしきれていない。スキルのひとつ、「2段ジャンプ」もごくたまに反応が遅れることがあるのも気がかりだ。

▲カーソルの指している項目が豪快にズレている……

そして、日本語テキスト。翻訳は及第点で、フォントも8ビット感全開なのだが、テキスト表示位置が露骨にズレてしまっているのが残念。他の言語では問題ないだけに、実装時に調整し忘れたのだろう。本編をプレイするに当たっての支障はないのだが、気にしないのにも無理があるズレ具合なので、後々にアップデートで修正されるのを願うばかりだ。

幾つかの惜しい部分はあれど、アクションゲームとしての出来と遊び応えは申し分ない。このジャンルが好きな人であれば、ぜひとも挑戦いただきたい良作である。

音楽も素晴らしくパワフルな楽曲が揃っているので、そちら目的でプレイしてみるのもよし。殺伐とした雰囲気とは裏腹の”やさしさ”すら感じさせる復讐劇を果たそう!

[基本情報]
タイトル:『ガブリエルの影 Lords of Exile』
開発:Squidbit Works(販売:PID Games、PixelHeart、Plug In Digital)
クリア時間:2~2時間半
対応プラットフォーム:Windows、Nintendo Switch、PlayStation 5/4、Xbox Series X|S、Xbox One
価格(税込):1,700円(Steam)、2,420円(PlayStation 5/4)、2,450円(Nintendo Switch、Xbox Series X|S、Xbox One)

◇購入はこちら
・PC(Steam)

・Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000070631.html

・PlayStation 5/4
https://store.playstation.com/ja-jp/concept/10007918

・Xbox Series X|S、Xbox One
https://www.xbox.com/ja-JP/games/store/lords-of-exile/9pl8n6w6nh3t

  • シェループ(@shelloop

    様々なゲームに手を伸ばしたがる人。2D、3Dのアクションと手強めの戦略シミュレーションを与えると喜びます。

    Webサイト:box sentence