SF RPG『ツキノヒト』 滅びた月面都市で紡がれる、65年越しのボーイ・ミーツ・ガール

RPG,フリーゲーム

時は西暦2139年。廃墟と化したかつての月面都市を探索するサルベージャーの少年ジーマは、その深層でカプセルに包まれた少女を発見する。コールドスリープから目覚めた少女はしかし、カグヤという名前以外を忘れてしまっていて……

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そんなジュヴナイルSFめいた導入から物語が展開していく本作『ツキノヒト』は、どこか寂寥感のある世界観で展開するエモーショナルな物語と、歯応えのあるバトルを持ち味とするRPGをフリーゲームとして公開し続けている鍵虫氏の最新作だ。

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月で目覚めた少女と二人の少年が織りなすSFストーリー

本作の舞台となるのは、かつて人類の叡智を結集した学術都市として栄えたが、65年前に起きた“大磁嵐ヴォーテックス”と呼ばれる災厄により壊滅し、廃都となった月面都市。ジーマと相棒の少年イアンはカグヤの記憶の手がかかりを探すため、彼女を連れて廃都を探索していく。カグヤの記憶と共に明らかになっていく65年前の真相、そして半世紀以上経った今に続く「呪い」。“AI”や“月と地球の確執”といったSFらしいモチーフも絡めつつ、過去と現在が交差しながら物語が展開する。

本作の大きな魅力の一つが、掛け合いの台詞などによって生き生きと描かれるキャラクター達。ジーマは堅物でぶっきらぼう、イアンは楽天家でノリが軽いと性格は真逆だが、そんな二人によるアクション映画ばりのテンポよいやり取りはお互いの信頼を感じさせ、ジーマの仲間想いな点や熱血ぶり、イアンの周囲への気遣いなども徐々に見えてくる。

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性格は真逆で言い合いもしょっちゅうだが、ここぞという時には息の合ったコンビぶりを見せるジーマとイアン

彼らのコンビに加わることになったカグヤは、サルベージャーの苛酷な流儀に戸惑い、ときに価値観の違いにぶつかり合いながらも、冒険を通じて二人との絆を深めていく。その過程で科学者という自らの本分と本来の性格を取り戻していくにつれ、探求心と行動力のあるタフな少女という一面も見えてくる。実は結構口が悪いところもあるが、そこがむしろ可愛かったりもするのである。

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記憶と共に、本来のタフなメンタルを取り戻して行くカグヤ(可愛い)

そんな3人を取り巻く、サルベージャー達の拠点となる宇宙船「エンデバー」の人々も個性的だ。サルベージャー達を取り仕切る「船長」は老齢の女性だが衰えを感じさせず、温和ながらどこか油断ならない面も。食堂で話を聞ける他のサルベージャー達も、ゲーム進行に応じて変化していく会話内容によってそれぞれの持つ物語を垣間見ることができ、作品世界を身近に感じさせてくれる。

また、魅力的なキャラクターは人類に限らない。人に寄りそい、その存在意義を果たすAI達も独自の存在感を放っている。エンデバーの整備を担当するナナミは、いつも元気いっぱいで仕事熱心なアンドロイドっ娘。廃都にてスリープモードから目覚めたサポートロボット・エルクロスは、論理的思考の中にどこかユーモアや情も見出せる、味のあるキャラクターだ。

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整備担当のアンドロイド、ナナミ。いつも元気いっぱいで癒やされる

そんなユニークなキャラクター達に囲まれつつも、軸となるのはやはり3人の少年少女達の関係性。いくつかの転機を経て変化していくそれが、カグヤの過去や大磁嵐の謎に迫っていくSFストーリーと両輪でプレイヤーを牽引していく。

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移り変わっていく少年少女達の関係性も見どころ

“難しい”けど“理不尽”ではない、フェアネスを感じさせる絶妙なバトル

本作の戦闘は、オーソドックスなターン制のコマンド選択型。MP(本作での意味合いは“メンタルポイント”あるいは“マッチョポイント”……恐らく後者はジーマの場合を指すものと思われる)を消費するスキルや、戦闘中の行動で溜まっていくTPが100になると使える大技「トランススキル」を駆使して戦っていくというあたりも、本作の制作ツールであるRPGツクールで定番のシステムと言える。

そんな中で本作のバトルの面白さを担保しているのが、調整の妙。まず味方側の調整においては、一つ一つの性能が練られたスキルの活用が面白い。ジーマはターゲットを自分に集中するスキルや多彩なガード系スキルによって守りの要となり、得物である砲剣に“着火”することで攻撃スキルの効果が変わるといった要素も。カグヤのスキルはESPによる属性攻撃と味方全体の支援がメインで、イアンは多様な状態異常の付与と、状態異常の敵へさらに追い打ちをかけるようなスキルを使いこなす。

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複数の効果を併せ持っていたり、条件によって効果が変わるものなど多様なスキルを使いこなすのが面白い

パーティメンバーの役割分担が明確で戦略を立てる楽しさに繋がっているが、これを補強するシステムが「作戦会議」だ。各メンバーの戦闘スタイルを攻撃寄り、防御寄りの2タイプから選ぶというもので、能力値が変動するほか、トランススキルと、パッシブスキルにあたる「特性」が変化する。特性は防御寄りスタイルのジーマなら戦闘不能になってもターン終了時に復帰、攻撃寄りのイアンなら状態異常の敵へ攻撃する際に攻撃力が上昇といったように、それぞれの役割を担うにあたって要となるほど有用性が高いものばかりだ。

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3人の戦闘スタイルの組み合わせを決める作戦会議。とくに特性は戦術を大きく左右する

こうした戦術要素を駆使して戦っていく敵も、それに相応しい歯応えのある調整が施されている。本作の戦闘は比較的難易度が高めで、ザコ戦も「ちょっとした障害」レベルではなく、適切に対処していかないと全滅必至。ボス戦では行動パターンの把握や固有ギミックの理解が重要となってくる。

とはいえただ闇雲に難しいのではなく、試行錯誤に集中できるような仕様が整っているのも特徴。たとえば行動順は素早さを表す能力値「SPD」の順で固定となっており、ランダムに変動する要素はない。さらに敵の能力値や状態異常への耐性、属性攻撃の有効度はオープンな情報として参照可能。こうしたデータを駆使して、有効な戦術を探っていくのがバトルの醍醐味だ。

また、ボスの大技の前には相応の準備行動があったり、隙を突いて一気に猛攻や立て直しができるタイミングもあったりと、戦闘に緩急がついているのもポイント。いわゆる「初見殺し」はほぼ無く、難しいなりにこちらもしっかり対処したり大技の準備を整える余地のある、フェアな戦いを楽しめる印象だ。

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敵の能力値や状態異常への耐性、属性攻撃の有効度を常に確認できるため戦略を立てやすい

なお本作は難易度が3種類あり、一番下の“Casual”を選べば純正難易度である“Venture”より戦闘は易しくなる。画像入りでシステムを丁寧に解説したマニュアルも付属しており、こちらにはボス戦のヒントも掲載。Casualでも通常攻撃や特定スキルの連打で進められるほどバトルが陳腐化することはなく、それでいてゲーム外も含めたフォローにより、幅広いプレイヤーがそれぞれに戦闘を楽しめるようになっている。

RPGのプリミティブな面白さを丁寧に練り上げた良作

魅力的なキャラクター達が織りなすドラマと、それを盛り上げるバトル。本作はRPGのプリミティブな面白さを、丁寧に練り上げた良作と言える。マップデザインやBGMで醸し出される寂れた月面都市の雰囲気など演出も凝っており、カグヤ達3人に用意されたキャラクターイラストも独特のタッチでそれぞれの魅力を引き立てる。

少年と少女の出会いから動き出した物語が、やがて世界の命運をかけた戦いへ繋がっていくという展開は王道だが、SFというRPGでは比較的希少なジャンルが新鮮味を与えており、また舞台設定を活かしたネタや小道具を散りばめた、ジャンルへの造詣と思い入れを感じさせる内容は、とくにSFファンならワクワクさせられるだろう。

物語を進めると、カグヤが眠りについた65年前を生きた人々の、彼女との因縁も見えてくる。過去に打たれた布石と今を生きる者たちの奮闘が、カグヤという二つの時代を繋ぐ少女を焦点として集束し、絶望的状況に立ち向かう力となるクライマックスは圧巻だ。

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SFならではの設定や展開もきっちり押さえており、クライマックスに向けて加速する物語に引き込まれる

公称プレイ時間は6~8時間程度。中だるみせず興味を引き続けるシナリオは、構成の妙もあって良質なSF映画に相当するような物語体験を、RPGならではの没入感と共に堪能させてくれる。RPGに物語を求める人にもバトルを求める人にも、自信を持ってお勧めできる作品だ。

[基本情報]
タイトル:ツキノヒト
制作者:鍵虫氏
公称プレイ時間:6~8時間
対応OS:Windows
価格:無料

ダウンロードはこちらから
https://www.freem.ne.jp/win/game/23222

  • 中村友次郎(@finalbeta

    RPGのプレイと紹介がライフワーク。システムに凝ったRPGをとくに好んでプレイします。商業で一番好きなゲームメーカーは日本ファルコム。運営型では原神にハマってます。
    過去に十数年ほど、窓の杜の連載記事「週末ゲーム」の編集と一部執筆を担当していました。