狂気の短編ホラーゲーム?『上の乳歯を屋根に投げる』「株式会社 歯」の歯は、従業員の職場復帰のために頑張ります!

アドベンチャー,フリーゲーム,ホラーゲーム

「株式会社 歯」に勤務する主人公「歯」は、日々の多忙が祟り、自室で寝落ちしてしまう。

それから間もなく、1本の電話が鳴り響く。そのけたたましい音で目を覚ました歯は、寝ている間に仕事で何かあったのかとの不安を胸に受話器を取る。そこから聞こえてきたのは、「たす…け…」という、あからさまに怪しいメッセージ。

嫌な予感をビンビンに感じた歯は、急ぎ職場へと戻る。そして、予感は的中する。3名の従業員が職務を放棄して逃亡していたのだ!

逃げ出したのは「虫歯」「猫歯」「ヤンキー歯」。かくして歯は、3名を探して復帰させるため、職場とその外にある市街地を探索し始める。果たして歯は何事もなく、3名を職場復帰させられるのか?というか、怪しい電話の件は放置でいいのか!?

思わず脳が思考を放棄したくなる展開と世界観だが、本当にこの通りのストーリーが開始早々繰り広げられるのだからご容赦いただきたい。その過程をここまで文字に起こした自分(筆者)の頭もゾワゾワしたんだ。

そんな訳で『上の乳歯を屋根に投げる』である。
「……は?」と言われても、『上の乳歯を屋根に投げる』なのだから仕方がない。

正統派・探索型”ホラー”アドベンチャーゲーム……こんな世界観で!?

『上の乳歯を屋根に投げる』は2024年5月17日より、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」で公開中のタイトルだ。ジャンルは探索型ホラーアドベンチャーゲーム。またしても「……は?」となったかもしれないが、本当にこの設定でホラーゲームである。

プレイヤーは「株式会社 歯」の社員「歯」になって、職務放棄で逃亡した3名の歯の捜索に挑む。最終目標は大体お察しの通りである。3名の歯を職場復帰させることだ。そのためにプレイヤーは職場と外の市街地のフィールドマップを行き来し、その行方を探っていく。

本編開始直後から、そこそこ広い範囲が行き来可能だが、基本的にはストーリーに沿って発生するイベントをこなしながら進めていくルート固定の構成。次の目的地、やるべき事柄は露骨なぐらい分かりやすい演出と共に挿入されるため、あまり右往左往することもなく進めていける作りになっている。

発生するイベントの種類も、探索型アドベンチャーゲームの定番を網羅。突入もしくは交渉に必要なアイテムを探したり、それを組み合わせたり、仕掛けを解いたり、こちらを襲う”なにか”から逃げるといったものが用意されている。

システム周りも、とりたてて特徴的なものはない。プレイヤーこと歯ができることも、マップ上の移動とそこにある家具、置き物などを調べるぐらいだ。

……え?歯なのにどうして移動ができるんだ?

何をおっしゃるか。足が生えているんだから、移動できること自体に何も不自然なことはないだろう。足が生えているからこそ、職場放棄した3名も逃亡できたのだ。

そんな訳で、探索型アドベンチャーゲームとしては正統派も正統派で、他作品のプレイ経験がある人ならばすんなり馴染める仕上がりとなっている。

このストーリーと世界観には理解に時間を要すると同時に、オチには思わず「……は?」となる

だが、ストーリーと世界観、そしてキャラクターたちはそうもいかない……だろう。

なにせ、主要な登場人物が「歯」である。我々人間の口の中に生えている、真っ白な(時々、金属に包まれていたり、汚れていたりすることもある)歯だ。芸能人の命だとか平成の一時期、盛大にもてはやされたあの歯である。

本編開始早々、「なんだこれは……」と戸惑ってしまうのも無理はない。しかも、彼らは株式を発行している会社の従業員という設定だ。ちょっと何を言っているのか分からなくなってしまうのも自然の摂理である。

おまけにそれ以外の脇を固めるキャラクターたちもカオスの極み。タヌキ、ウシ、ニワトリ、ハチといった関連性がよく分からない動物たちはまだ序の口。

他に「なんで会話できるの?」と言いたくなる、想像だにしないキャラクターが登場してはストーリーに絡んでくる。どんなキャラクターが出てくるのかはあえて伏せさせていただくが、人によっては腹の虫が鳴ったりするかもしれない。

これに加えて舞台設定も職場内に人の体内と思しき部屋があったり、なぜか電車の車両に繋がっていたりとムチャクチャ。こんな何が何だかよくわからない世界を舞台に、プレイヤーは職場放棄で逃亡した3名の歯を探すことに挑むのだ。色んな意味で理解が追い付かない感覚になるのは察せるだろう。それほどまでに馴染むまでに時間を要する、狂気のストーリーと世界観が全編に渡って炸裂するのだ。

そして、こんな世界観と設定でありながらホラーゲームなのである。ますますもって「なんのこっちゃ」だが、実際、あらゆる意味でホラーとしか言い様がない展開が連続する。

特にストーリーはその極みで、先読み困難に加えて、思わず「……は?」と声に出て口が開いたままになってしまう展開の連続になっている。

「ウケ狙いで言っているのか?」と言われるかもしれない。だが、本当に「……は?」と言いたくなる内容である。詳しくは言えないが、特に終盤からエンディングまでの展開はその真骨頂。まさかが過ぎるオチに思わず発してしまうだろう。同時に、なぜそのエンディングを迎えてしまったのかの理由を知りたくなり、それを調べ始めて答えを突き止めた時にも「……は?」となってしまうはずである。

曖昧な紹介になって申し訳ない。だが、それほど常人には理解しがたいストーリーと恐怖が描かれているのだ。なので、気になったのならすぐにでも突撃いただきたい。正直、最初は諸々理解が追い付かないかもしれないが、次第にオチが気になって進めたくなってしまうと同時に、最後の最後の結末に困惑してしまうはずである。

逆に言えば、あまりにも”クセつよ”な作風なので、好みも分かれやすい。しかし、誇張抜きにストーリーは先が気になりすぎるハチャメチャな展開の連続の上、オチも最初から見通せないこともあって、最後までやり通す気力は湧くはずである。多分。

また、ホラーゲームとは言え、いわゆるドッキリさせる類の演出は控えめ。皆無という訳ではないのだが、苦手な人でも安心して楽しめるを通り越して、「これをどう怖がれば!?」となってしまうだろう。しかし、実はちゃんとホラーであるなりの意味も込められてる。中でも真相を解き明かした時には、思わず「ゾッ」としてしまうはずだ。

加えて本作、音楽による雰囲気作りが素晴らしく、一部、本気で恐怖心をあおってくる場面もある。ゆえにプレイに当たってはぜひともヘッドフォン装着の上かつ、時間帯も深夜を選ぶことを強く推奨する。ホラーを称するわけを実感させられるだろう。

あまりにも唯一無二が過ぎる味とトラウマ(!?)を宿した怪作

本編のボリュームは普通に進めて30~40分ほど。ただ、実は本作、マルチエンディングでもあるゆえ、それらすべてを確かめるなら1時間以上は費やすことになる。

特に初回プレイ時は、確実に2周目に挑むことを余儀なくされるかもしれない。その理由は、本作を最初から普通に進めてエンディングまで辿り着くことによって”分からされる”。

ただ、その理由は人によっては逆にストレスを抱くかもしれない。実際、本当に「……は?」と言いたくなる構成になってしまっているのだ。初回プレイ時の「……は?」を体験してみていただきたい思いから、ボカしながら言うが、割と嫌らしいトラップが用意されている。おそらくは、意図的にそうしていると推測されるのだが、プレイヤーにとっては不快に感じかねないトラップになってしまっているのは一考の余地があったように思う。せめてエンディング到達時、その存在を明かすヒントがあっても良かったのではないだろうか。少しネタバレになってしまうが、ヒントなしは若干、不親切であるように感じた。

また、本編中盤に襲撃イベントが用意されているのだが、直前にセーブを促す配慮がないのもちょっと惜しい。このイベントの突破もフィールドの狭さもあって若干、難易度が高め。1回でも接触すれば問答無用でゲームオーバーになってしまうのも、突破法を踏まえると難しくし過ぎているきらいがあるため、この場面に限りダメージ制を設けても良かったように思えた次第だ。

他に世界観のカオスっぷりがホラー部分をかき消してしまっている場面も少々あるのだが、これは狙ってやっている可能性もあるため、そういうものと考えた方がいい。ただ、前述したがホラーの雰囲気作りは見事で、ヘッドフォン装着時にその効果が一層高まるのは特筆に値する。楽曲のチョイスも悪くなく、ここぞという場面で適切なものが使われている。

グラフィックも手描き感あふれる歯のグラフィック、一部スチルが独特の味わいを出すと同時に、次第に可愛らしく見えてくる不思議な魅力がある。登場人物たちの台詞も言葉遣いが大変面白く、ジワジワと笑わせてくれる……のはホラーゲームとしてはいいのかどうか。

▲なんなんだこれは……

とにもかくにも、色んな意味で”クセつよ”なホラーゲームであることは察せたかと思われる。前述の繰り返しになるが、この世界観とストーリーに少しでも関心……というか、どうオチを付けるかが気になったなら、ぜひプレイを。びっくりさせる類の演出が控えめなことから、ホラーゲームが苦手な人や初心者にも易しい作りになっているので、その入門編としてプレイしてみるのも一興だ。

ただ、普通に遊べば色んな意味で「……は?」となる体験が待っていることにご覚悟を。あと、人によっては弁当にご用心である。「なぜに?」と言われても、最後までプレイすれば納得させられるはずである。さあ、新たなトラウマを作ってみましょ?

[基本情報]
タイトル:『上の乳歯を屋根に投げる』
作者:すり身
クリア時間:30~40分
対応プラットフォーム:Windows
価格(税込):無料

◇ダウンロードはこちら
https://www.freem.ne.jp/win/game/32444

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