あの脳が震える縦シューティングゲームの続編にして、時間感覚が歪むハイテンポ横スクロールアクション『Aeon Drive』

アクション,インディーゲーム

『Dimension Drive』というゲームを覚えているだろうか。


▲『Dimension Drive』

2018年にPC、家庭用ゲーム機向けに発売された縦スクロール型シューティングゲームだ。左右2つに分割された画面(次元)を行き来し、襲い来る敵を撃墜しながらステージを進む、脳みそがかき乱される作りを最大の特徴としていた。また、開発の始まりから誕生に至るまで、理不尽な出来事に見舞われた作品でもある。(紹介記事

そんな『Dimension Drive』の続編が2021年に発売された。

その名も『Aeon Drive』。9月30日にNintendo Switch、その翌日の10月1日にXbox One(Xbox Series X|S)、PC(Steam)向けに発売された。海外ではPlayStation 4(PlayStation 5)版も発売されているが、本記事執筆時点で日本国内では未発売となっている。

開発は前作に引き続き、オランダのインディーディベロッパー2Awesome Studio。全機種版共に日本語字幕に対応しているが、前作のローカライズを担当した架け橋ゲームズは未関与となっている。

30秒後に大爆発!時空を歪めて危機を脱しろ!

ストーリーは前作『Dimension Drive』のエンディング後から始まる。多少、前作のストーリーに関するネタバレを含む紹介になることをご了承いただきたい。


▲『Dimension Drive』より

宇宙征服を目論む「アシャジュル帝国」の最高指導者「ニーズ」を倒し、その野望を阻止したジャックリーン・タイウッド(ジャック)とその相棒であるAIのヴェラ。

だが、戦闘後に起きた緊急事態を回避するため、ジャックは自機「マンティコア」と共に別次元世界へのワープを試みた。

無事、ワープには成功するが、その反動でマンティコアのエンジンが故障。制御不能に陥り、そのまま別次元の地球大気圏内へと突入し、「ネオ・バルセロナ」と呼ばれる都市へと墜落してしまう。

ジャックはすんでの所で脱出に成功するも、マンティコアは大破。さらに内蔵されていた次元転移を可能にする「ドライブコア」が街のあちこちに散らばってしまう。しかも、コアは熱暴走を起こしており、30秒後には街どころか、惑星そのものまで滅ぼしかねない大爆発を起こしてしまう。

街の警備隊に捕まったジャックは、ヴェラの協力を経て留置場から街へと脱出。そのまま散らばったコアを回収し、来たる大爆発を食い止めるため「ネオ・バルセロナ」の街を奔走することになる。果たして、たった30秒しかない時間内にジャックとヴェラはこの危機的状況を乗り越えられるのだろうか?

以上がオープニングとなる。前作『Dimension Drive』を知る人なら、今回のジャックの姿を見て「誰?」と思ったかもしれないが、同一人物である。


▲参考として前作『Dimension Drive』の時のジャック

キャラクターデザインが変更された影響でこうなっている、ということで認識いただきたく。

そして、オープニングで語られる内容から察せる通り(記事の見出しでバレバレだが)、本作はシューティングゲームではない。ステージクリア方式の横スクロールアクションゲームという、完全な別物となっている。本作において、プレイヤーはマンティコアではなく、ジャック当人を直接操作。ネオ・バルセロナの都市を駆け抜けながら、「ドライブコア」の回収を目指す形となる。

具体的には「セクター」ごとに用意された「エリア」を順番に攻略しながら進めていく構成だ。エリアは全セクター共通で10。全てをクリアすると次のセクターが解禁され、再び10エリア攻略に挑むとの流れを繰り返し、進めていくのが基本となる。

エリアのクリア条件は単純明快。ゴール(EXIT)に到達するだけだ。

ただし、30秒以内に辿り着かなければならない。前述の通り、本作のストーリーは「ドライブコア」の熱暴走が継続中の下で展開する。その設定を踏まえ、迅速な行動を要求する構成になっているのである。ゆえに一瞬たりとも立ち止まない。だが、時には「30秒は無理!」と嘆きたくなる局面も設けられている。

そんな時は「エネルギーコア」の力で時間を加算すればいい。「エネルギーコア」は道中に散らばっているコアのパーツを4つ集めると1回使用可能になり、5秒だけ時間を足せるようになるのだ。さらに続けてパーツを4つ集めると2回使用可能になり、計10秒が足せるようになる。以降も回数が増えるたび、5秒単位で時間が増加。このような機能の活用も時折求められるようになっていて、ひたすら立ち止まらず走ってゴールを目指すことに終始しない、入り組んだ展開を演出している。

主人公ジャックのアクションもそのような展開を演出。なかなか機動力の高いキャラクターで、近接主体の斬撃、壁を蹴りながらの駆け上がり、攻撃効果のあるスライディングまで繰り出せるようになっている。

その中でも特筆すべきは「ワープ」。(Nintendo Switch版の場合)Aボタンを押すと、ヴェラをアンカーのように横方向に射出。そのまま壁や天井に突き刺さった状態で、再度Aボタンを押すと、その刺した場所へジャックが瞬間移動するのである。

これで狭い細道の先にある部屋へと移動したり、進路を邪魔する熱線を突破するといった離れ業が可能。また、壁や天井に突き刺さる特徴と射出する形式を応用し、スイッチを押したままの状態にさせたり、離れた所にいる敵の警備ドローンに攻撃を加えるといったこともできるようになっている。2回続けての射出は不可能など、制約もあるが、この要素もまた前述の「エネルギーコア」と同様、エリアごとの入り組んだ展開を演出。前作『Dimension Drive』の次元移動にも近いアクションに仕上がっていて、人によっては本作があの作品の続編であることを納得させる”らしさ”を感じるかもしれない。

他にダメージの概念はなく、時間切れに限らず敵や罠に接触、穴に落下してしまえば問答無用で1ミスになるシビアさ、ほぼ地続きのセクター全体の進行形式といった特徴的、かつ独特な要素は豊富。最大4人参加可能な同時プレイにも対応していて、気の合う知人や友人と力を合わせながらエリア攻略を楽しめるのも売りのひとつになっている。

ただ、『Dimension Drive』の続編と耳にした人は心の底からこう言いたくなったかもしれない。「どこが続編だ!?」と。実際、そんなツッコミが出てくるのも止むなしな程度に、本作はゲームシステムから基本の遊びまで全てを一新。そのように明言できる部分はストーリーのみという、あまりにも野心的で思い切りの凄い続編になっている。

むしろ、続編を名乗る完全新作が正確かもしれない。

僅かな時間をあり得ない方法で突破する、いい意味での違和感

本作の”表面的な”魅力をあげるなら、続編なのにゲーム部分が全く続編ではないことだろう。縦スクロールのシューティングゲームとして発売された作品の次が横スクロールのアクションゲーム、というだけでもインパクトが大きすぎる。

内面的な魅力をあげるなら、抜群かつ独特な違和感も含んだゲームテンポとリプレイ性の高さの2つだ。ゲームテンポについては、30秒以内にゴールを目指す作りだけあって、驚くべき速さで進行する。前述の通り、セクターには全部で10のエリアが用意されていて、ボリューム的に見ると充実している。だが、全部を終えるのに要する時間は大よそ5~6分。長くても10分未満。1エリア辺りに要する時間が30秒以内と限定されているだけに、見た目の数とは釣り合わない速さで進んでいくのである。

そのこともあって、進行上のギャップも激しい。「こんなに速く進むはずがない!」との矛盾と違和感が付きまとう、不思議な遊び心地が表現されているのだ。それがまさに作中でジャックが体験していることの再現になっている。どう考えても間に合うはずがない残り時間を時空を捻じ曲げるチート技を用い、切り抜けようとするストーリー上の設定を見事にゲームへと落とし込んでいるのだ。加えて、脳が震える体験を提供した前作『Dimension Drive』のらしさも込められている。

単に圧倒的な速さで進むなりの爽快感や疾走感を表現するだけに終わらせず、ストーリーの設定と主人公の置かれた立場も追体験できるよう設計されているのは、巧みの一言。表面的に体験するなら、ハイテンポなアクションゲームとの印象に終わるだろう。だが、ストーリーやジャックの置かれた立場に身を投じてみれば、違った世界とこの設定の意味が見えてくる。そんな意図的なゲームテンポというものが確立されているのだ。

そのため、これから本作をプレイするに当たってはぜひ、ジャックに自分を投影しながら遊んでみることを強く推奨したい。そのようにすることで、本作がテーマ性を込めたアクションゲームである実態が分かるはずだ。

リプレイ性の高さも特筆に値する部分。中でも各エリアの作りがいい意味で嫌らしい。無事、クリアできても何らかの”やり残し”が生じる。それを演出するのが1本道ではない地形構造。30秒以内にゴールを目指す流れから、エリアの構造は1本道になっていると想像するかもしれないが、実は分岐点が満載。ルートによっては早々とゴールできるが、「エネルギーコア」のパーツが少ないので手早く移動する必要が生じたり、逆に別ルートはパーツが沢山手に入る反面、ゴール到達まで時間がかかると言った変化が生じるのだ。

また、この手の構造でお約束の収集アイテムも複数設置。それらもルート選択を誤れば姿形すら見せないなど、露骨に”やり残し”を意識させる隠し方になっている。極めつけに制限時間が30秒しかないので、全部の分岐を確かめるのは困難。いくら「エネルギーコア」による時間の加算を用いたとしても、限界があるのだ。

こういう構造をしているので、1度クリアしてもそれで完全に終わりとはならない底の深さがある。また、収集アイテムを回収しきっても、今度はゴールまでの時間をどこまで縮められるかというチャレンジ(タイムアタック)が残る。任意のやり込み要素なので、挑むかはプレイヤーの自由だが、一度、縮める快感を知ってしまえば止められなくなる。しかも、本作にはオンライン対応のランキング機能も搭載。ランキング自体も全エリアに固有のものが用意されているので、上位へのランクインを目指そうとなれば、膨大な時間を費やすことになるのは必至だ。

普通にクリアするだけでも、やり切った後にも何らかのやるべきことが残る。このような作りをしているのもあって、本作のリプレイ性の高さは突出したものになっている。特にいかに素早くゲームを終えられるかという、リアルタイムアタック(RTA)が好きな人ならば、本作の作りは間違いなく刺さるはずだ。いい塩梅で”やり残し”を生じさせる作りにも、制作側のこだわりを感じること間違いなし。


▲画像はオフライン時。オンライン時にはユーザー名が表示される。

いわゆる短距離を走るような遊びをテーマにしたアクションゲームは、難易度を徹底的に高く設定し、進行ルートも限定することで達成感と満足感を演出する傾向があるが、本作はそれとは全く違う。1回だけでは終わらない。

少しでもその構造に興味が出たのならば、ぜひ本編をプレイしてみていただきたいところだ。あるいはPC版限定になってしまうが、体験版も配信されているので、そちらで試してみるのもひとつの手だ。

ジャンルが一新されても独特な体験満載の良作

操作周りも抜群によく、アクションゲームの醍醐味たるキャラクターを動かす楽しさと嬉しさが見事に表現されている。前述で取り上げたヴェラの射出も、横に限らず上や斜め方向まで自由に角度を決めて実施できるのが快適。

ただ、意図しない場所へ撃ち込んだ際に手元へ回収するのがLボタンと、Rボタンのスライディングと勘違いしやすい配置になっているのは気になるところ。また、斜め方向へ撃ち込む際には十字キーもしくはコントロールスティックで狙いを定めるのだが、ややズレやすい。タイムロスにも繋がるため、固定方向に射出するボタンがあっても……と思ってしまった。

グラフィックも今回は全編がドット絵のデザインに一新されているが、背景の自己主張が強め。その影響で、後半のセクターに敵のドローンや弾が見えにくい場面があるのは看過できない部分だ。ドット絵自体の完成度は非常に高いのだが、背景はもう少し、明るさを抑えて視認性を確保して欲しかったところである。

ボリュームも裏を返せばエンディングまでは短い。順調に進んで2時間~2時間半ぐらい。ただ、前述のアイテム回収やタイムアタックなど、やり込み要素は豊富に揃っているので、そちら込みなら長く遊べる。また、詳細は伏せるが、実は普通に最終セクターまで終わらせても、本作は完全なゲームクリアとはならない。どういうことかは一部の収集アイテムが関係している、とだけ言っておこう。

細かい部分を見ると粗も散見されるが、危機的状況を時空を捻じ曲げ対処する設定を忠実に反映したゲームテンポ、やり込み甲斐のあるエリア構成、中毒性の高いタイムアタック、そして優れた操作性など、総合的な完成度は良作レベル。難易度もこの設定とゲームコンセプトとは裏腹に優しすぎず、難しすぎずの適度な塩梅で遊びやすい。

また、時間に迫られる中で遊ぶのはちょっと……というプレイヤーにも配慮した、時間なしモード(タイマーオフ)も用意されている。ただ、そのモードでプレイすると、本作屈指の魅力である意図的なゲームテンポと、ジャックの置かれた立場の追体験が味わいにくくなるので注意いただきたい。

縦スクロールのシューティングゲームだった前作から著しく変貌した本作。だが、その中身には間違いなくあの脳が震える体験に等しい、いい意味での違和感と矛盾が詰まっている。アクションゲームとしても深くやり込める作りになっているので、ジャンル好きの人ならばぜひプレイいただきたい。

なお、前作『Dimension Drive』のストーリーを知らずに遊んでも全く支障はない。ただ、ジャックとヴェラの関係性、以前どんな戦いを繰り広げたのかを知っていればより楽しく遊べるので、興味があれば前作『Dimension Drive』もプレイしてみて欲しい。2021年現在もNintendo SwitchPlayStation 4Xbox OnePC(Steam)向けに発売中だ。

[基本情報]
タイトル:『Aeon Drive』
発売・開発元:2Awesome Studio、CRITICAL REFLEX
クリア時間:2~3時間
対応プラットフォーム:Nintendo Switch、Xbox One(Xbox Series X|S)、PC(Windows、Mac、Linux)
価格(税込):¥1,500(Switch)、¥1,750(Xbox)、¥1,520(Steam)
IARCレーティング:7歳以上

購入はこちら
※Nintendo Switch
https://store-jp.nintendo.com/list/software/70010000044012.html

※Xbox One(Xbox Series X|S)
https://www.xbox.com/ja-JP/games/store/aeon-drive/9nhtfx2vt9sd

※Steam

  • シェループ(@shelloop

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