7匹のケモノたちの世界を救う冒険を描く、手応え抜群の長編RPG『アルカンシエルの魔獣』

擬人化された動物キャラクター、またの名で「ケモノ」の人気は今なお根強い。フリーゲーム、インディーゲームでもそれを題材とした作品は幾つかあり、過去にもぐらゲームスにて取り上げたものでは、『Dust: An Elysian Tail』、『フリーダムプラネット』、『IQuest(アイキュエスト)』がある。

そしてまたここに、新たなケモノ作品のお出ましである。
その名も『アルカンシエルの魔獣』。

2020年7月24日、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」と「フリーゲーム夢現」にてWindows PC用フリーゲームとして公開されたロールプレイングゲーム(RPG)だ。『獣の神さま』、『一角獣と矢印の聖域』など、同じくケモノのキャラクターが登場するフリーゲームを過去に手掛けてきた作者・海野ひつじ氏の最新作でもある。

可愛い世界観とは裏腹な、戦術・戦略性高めのRPG

マモノの台頭と「触」と呼ばれる瘴気の蔓延により、緩やかに滅びの時を迎えようとしていたケモノと魔法の世界。

ある日、ライオンの少年「ラディア」は記憶喪失のイヌ科の少年「オボロ」に出会う。オボロは世界を救う力が入っていると謳われる”箱”を開けるのに必要な7色のカギの1本で、幻の「青のカギ」を所持していた。

自らを”希望の使いの後継者”と名乗るラディアはオボロと共に、今まで誰も成し遂げた者はいないとされる7色全てのカギを集め、マモノと「触」から世界を救うための冒険へと旅立つことになる。
果たして、彼らはカギを全て集められるのだろうか。そして、オボロの正体とは。

いかにも王道冒険活劇の始まりなオープニングと共に始まる本作は、拠点経由型の構成で進行するRPG。「賢者の庵」と呼ばれる場所にある「木の根の路」なるワープポイントを通って目的地へと向かい、ストーリーを進めていく。

このため、マップのスケールは小さめ。マモノと瘴気に蝕まれた世界という終末的な設定を踏まえてか、住民が暮らしていたり、お店がある街はごく一部にしか存在せず、残りはダンジョン系のマップが大半を占める、思い切ったまとめ方になっている。

装備類、消費系アイテムの入手機会もやや限定的。一応、ストーリー展開上の制限が無い場合は街へと行き来でき、戦闘やダンジョン探索時にも頻繁に手に入る。マップによっては行商獣なるアイテムを販売するキャラクターも出てくる。だが、計画的に集めることを意識しないと後々、準備不足という名のしっぺ返しを喰らう。そんな先を見据えた計画性が試されることがあり、なかなか考えさせられるバランスになっている。

戦闘も基本は伝統的なコマンド選択式だが、素早さのステータスに応じて敵、味方の行動ターンが細かく決定される「カウントタイムバトル」制を採用。画面右側に10ターン分のキャラクター別の順序がリストで表示されており、これを踏まえた判断が都度試される、戦略性の高い作りになっている。

また、ラディアを始めとするキャラクターはそれぞれ「アビリティ」なる技能を使用できる。「アビリティ」は「ノーマル」、「オリジン」、「パーティ」の3種類。「ノーマル」はレベルアップと同時に習得されるものになっている。こちらはメニュー画面の「Ability」を開き、2つ用意されたスロットに設定すれば効果を発揮。主な効果は防御力の上昇、属性の付与などの補助系が中心だ。

対し、「オリジン」はキャラクター固有の強力なアビリティ。ストーリーの展開に応じて習得される。さらにこちらの設定は強制的に実施される仕組みで、ノーマルのような着脱は不可。効果も状態異常の完全無効化を始め、戦闘の展開を左右する大きな影響を及ぼすものが揃っている。
本作では計7匹のキャラクターが登場し、その内の4匹しか戦闘には参加できないので、特にボス戦においては「オリジン」の種類に応じたメンバー選択が重要となる。「オリジン」と同じく着脱不可、かつキャラクター固有のアビリティである「パーティ」もまた然り。こちらは後衛(戦闘不参加時)に限って効果を発揮し、その種類次第で戦闘の流れが変わることがあるので、大いに熟慮の意義があるものになっている。

この他にも、キャラクターそれぞれの待つ魔法、必殺技などの「とくぎ」をグレードアップさせる「エンチャント」なるシステムなど、独自の工夫は満載。
マップが限定的な関係で、進め方は非常に分かりやすく、テンポ良く遊べるが、ここまで紹介したように戦闘周りが本格的。さらに難易度も気持ち高めゆえ、安易な力押しは通用しない。見た目の可愛さからゆるふわ系と想像するかもしれないが、その実は真逆も真逆。ギャップ激しめの骨のあるRPGになっているのだ。

そして、本作の魅力もギャップの激しさに集約される。

終始、戦術と戦略が揺れ動く秀逸な調整が光る戦闘とその難易度設定

最もその魅力が滲み出ているのは戦闘。厳密には難易度だ。
念のためが、断じて何十回ものゲームオーバーとリトライを強いられるようなものではない。適度に手応えのある難易度だ。心圧し折るほどの凶悪さはないので、安心いただきたい。
そもそも、そんな難易度をこのような可愛らしい作品でやられたらトラウマになりかねぬ!まあ、かつて当もぐらゲームスで取り上げた『フリーダムプラネット』には難易度以外の所にトラウマな要素があったが……。

脱線はさておき。主にボス戦にその特徴と魅力が顕著に表れている。それでいて、難易度の上げ方にまつわる工夫が秀逸。序盤は力押しが効きやすいホドホドの塩梅、中盤突入前から「エンチャント」や「アビリティ」と言った解禁されたシステムを活用した戦術が求められる調整が施されている。さらに終盤には(詳細は見てのお楽しみだが)突然、ひとりで戦わねばならない場面など変則的な展開が起き、プレイヤーに試練を与える。その後にも特定のキャラクターが選択不能になる縛りが生じるなど、常に戦略と戦術が揺れ動くように設計されており、終始、判断力と対応力を問いてくるのだ。

特に中盤、パーティメンバーの選択次第で苦戦確定になるボス戦を経験すれば、この難易度の侮り難さを痛感させられるだろう。実際、力押しが通用するのはほぼ序盤。以降は戦術、戦略を考えることが解法になってくるのだ。こんな可愛いキャラクターたちが活躍するゲームだし易しめなのでしょう、との思い込みをぶち壊すがごとき試み。まさにギャップの激しさを思い知らされる印象深い”罠”になっているのである。
同時に戦術と戦略を練る楽しさ、変化を付ける工夫が光るものにもなっている。そこを機に、各種システムをフル活用した戦い方へとスタイルが変わっていくからだ。

何より、これがワンパターン化の防止策としても働いているのが見事。単独戦闘に特定キャラクターの離脱など、様々なイベントを駆使し、それに応じた異なる手ごわさを表現している。アビリティのひとつ、「オリジン」習得後の変化もその魅力が込められていて、キャラクターの成長と新しい戦術が駆使できるようになる期待感が込められているのが印象的だ。

さらに秀逸なのが、レベル上げが攻略の最適解とされていないこと。そもそも、レベルを上げても個々のキャラクターは単騎無双できる程度に強くなることはない。なので、結果的に各種システムを駆使した戦術が試される。どうしてもという場合は、消費アイテムを大量にストックするのもあり。それが十分確保されていれば、低レベルでの勝利も夢じゃないのだ。

全体を通して感じるのが、本作は戦闘こそRPGのキモとも言える考えが込められていること。現にこちらに力を注いだ反動か、マップ探索周りは平坦。謎解きなどもなく、あっさりしたまとめ方になっている。その分、敵のバリエーションは多彩で、マップごとに個性豊かな敵を相手にした戦闘が楽しめるようになっている。ボスと違い、雑魚敵はゴリ押し余裕な程度に温いのだが、それでも登場する面子を変え、初遭遇時の驚きを表現している辺り、いかに戦闘へ注力したかは察せる感じだ。

それもあって、本作は手応えのある戦闘を求めるプレイヤーにはたまらない作りになっている。特にボス戦の手応えはピカイチで、一手ずつ考える楽しさとスリルを求めている人にはぜひ、体験いただきたい所だ。

一方、パーティ編成の楽しさを求める人にはおすすめしがたい。というのも、7匹いる仲間が全員揃う場面に乏しい。ストーリーの都合で離脱したり、別行動に出ることが多いのだ。仲間が多いRPGは色々な編成を試してこそ、と豪語する方は正直、本作は口に合わない可能性が高い。その辺の自由度は低めであるからだ。さらに前述の通り、ストーリー上の縛りも結構ある。そう言った要素に不快感を抱くなら、こう書くしかないのが苦しい限りだが、止しておくのが賢明だろう。

実はストーリーも結構シリアス。ケモノ好きには強く推せる力作

ただ、ストーリー自体の完成度は高い。世界を蝕む瘴気とマモノを退けるため、冒険を繰り広げていく王道の冒険活劇で、安定感のある内容にまとまっている。

特に主人公格に限らず、脇を固める仲間たちにも相応の見せ場を設け、誰一人とて空気にならないキャラクター描写が巧み。そして、結構シリアスな世界観と一部キャラクターの設定がいいアクセントになっている。

中でも主人公格のラディア、オボロには見た目からは想像もつかない重すぎる過去がある。中盤以降にはそれにちなんだショッキングな展開もあり、プレイヤーを釘付けにさせる。そんな辛く、苦しい状況下で彼らはいかなる行動に出るのかはぜひ、その目で確かめてみて欲しい。思わず胸が熱くなること間違いなしだ。

ビジュアル面でも多彩な表情が用意された各キャラクターの顔グラフィック、独自のスッキリとしたデザインが光るメニュー画面などが光る。顔グラフィックに関しては、戦闘画面のものもコロコロ表情が変わる。さらに戦闘画面限定の決め台詞にも、ストーリー展開に応じて変わる仕掛けが。そんな細かいネタが仕込まれているのもちょっとした見所だ。

ボリュームも早く進めても10~12時間以上と結構な規模。やり込み要素周りは控え目だが、手応えのある戦闘とストーリーの魅力もあって、最初から最後まで物足りなさは感じさせない設計だ。

ケモノのキャラクターたちが強調されがちだが、RPGとしてもバランスの取れた手応えと見所満載のストーリーを併せ持った完成度の高い作品に仕上がっている本作。若干、戦闘テンポがゆったり気味、探索周りは希薄との難点もあるが、プレイすれば十分すぎるほどお腹いっぱいになれる力作である。戦闘重視のRPGが好きな人はもちろん、ケモノキャラクターが好きな人ことケモナーにも自信を持っておすすめできる出来。可愛らしいキャラクターたちと共に、山あり谷ありの世界を救う冒険に出発しよう!

[基本情報]
タイトル:『アルカンシエルの魔獣』
作者:海野ひつじ
クリア時間:10~12時間
対応OS:Windows
価格:無料

ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/23440

※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_8923.html


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