フリーゲームRPG『ダージュの調律』 小説のような物語手法と優れたゲームデザインを兼ねた珠玉の短編

今回は「VIPRPG紅白2014」というゲーム投稿イベントに提出された1作品である短編フリーゲームRPG『ダージュの調律』を紹介する。「VIPRPG紅白」では、過去には「戦闘のランダム性を限りなく廃除した理詰めのRPG」というゲームデザインがプレイヤー・制作者の間で話題となり、現在ではPLAYISMにて配信されているフリゲRPG『ふしぎの城のヘレン』なども提出されてきた。こういった鋭いゲームデザインを持つ作品が多く投稿されているのが特徴のイベントだ。
今回取り上げる『ダージュの調律』も、主人公の心境・内面にフォーカスした小説のような物語手法、それにゲームとしての遊びのデザインが絶妙に組み合わさっている…という非常に作り込まれた珠玉のゲームだった。さっそく詳しく紹介していきたい。

「主人公」は「英雄」じゃない。平凡「未満」な少年の物語

このゲームの主人公は、銀の採掘事業で一財を成した父を親に持つという少年「ダージュ」。しかし、彼は人生の成功者である父を持ちながら、後ろ向きな性格で、いつも自分の部屋にこもり本を読みふけっていた。また剣術の達人であり周囲からの信頼も厚い完璧な弟「セインツ」といつも比較され、自宅である屋敷でも孤立気味。自分の居場所を見つけられないでいた。

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物語の冒頭、お祭の夜に一人佇む少年「ダージュ」(画面中央。作中では猫のようなグラフィックで描かれている)。

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女の子が落としたハンカチを返すことも出来ない内気な少年だ。

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野生生物であった「エレジット」(ダージュの隣の緑色の丸い生き物)をペットのように可愛がっている変わり者であるということも、ダージュが屋敷の中で孤立する理由となっていた。弟である「セインツ」(画面下)にも、それについて心配されてしまう。

本作の大きな特徴としては、最初に挙げた画像でも見られたようなメッセージ表示の手法だ。内気なダージュの行動や内面を描写するときのみ、まるでサウンドノベルのような形で心境が叙述される。そのため目の前の出来事に主人公が何を感じているか、といった心情の変化を追いながら進むという構成になっているのだ。

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様々な出来事や事件を前にしてダージュの考えが描写される表示形式。他の全てのキャラクターは、通常のメッセージウィンドウが出て会話が表示される。

「現実」と「夢」が交差して物語が進む「Episode Choice」

『ダージュの調律』の物語の大まかな展開としては、ダージュが行く先々で様々な事件に巻き込まれ、それをなんとか切り抜けていく…というものだ。構成としてはいくつかのエピソードに分かれていて、現実世界での事件や冒険を乗り越えていく物語の本筋「Main Episode」のほか、エピソード間の物語といった位置付けで、ダージュの夢の世界を探索する「In The Dream」がある。また、一度クリアしたエピソードには好きなときに戻ることが出来るため、まるで「一度読み進めた部分を、また読み返すことが出来る」という小説のようなゲームデザインになっている。

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ひとつのエピソードはさらに「chapter」という区分で分かれており、一度クリアした場面にはいつでも戻ることが出来る。

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「現実」のエピソードの序盤では、川原に生息する生物が凶暴化してしまう。それはエレジットと同じ種族の生物なのだが、治安を守るために自警団と協力して討伐しなければならない…。

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ふとしたきっかけで、いつも暮らしている綺麗な屋敷とは全く異なる場所である「下水道の街」に落ちてしまったダージュとエレジット。帽子をかぶった「オラクル」(画面左)という男が街を治めているらしいが…。

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「現実」だけでなく、ダージュの「夢」のエピソードにもなぜか登場し、道化のように振る舞うオラクル。「夢と現実は表裏一体」と忠告する彼は、ダージュをどこに導くのか。

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「夢」の世界を冒険するエピソードは、現実世界での事件解決のような具体性のあるものではなく、ダージュが自分自身の心に潜り、それと向き合っていくものとなっている。

創意工夫で乗り越えろ!「レベルアップ」の無いゲームデザイン

このゲームは、RPGでありながら敵を倒しても経験値は入手出来ず、「レベルアップ」することはない。では、どうやってダージュを育てるかというと「人と会話して知識を得る」「ダンジョンを攻略して困難を乗り越える」などの経験をすると入手できる「ギフト」を使う。このギフトを好きなようにパラメータに割り振ることでステータスを上げることが出来る。
ギフトはステータス画面でいつでも振りなおすことが出来るので、例えば「高い耐久力を持つが、炎の魔法に弱い」というボスと対峙したときには、ギフトの割り振りを魔力に一極集中する…というやり方で対処することが可能なのだ。

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戦闘は「ドラクエ」的なターン性のコマンド選択式だが、先述した「ギフト」システムもあり、工夫しがいのあるものとなっている。

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ギフトの振り分けなどを行えるステータス画面。直感的で分かりやすいものとなっている。

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レベルアップが存在しないため、いわゆる魔法スキルのことを指す「Extra」の習得も、装備アイテムに宿る魔力を引き出して覚えるものとなっている。ギフトの振り分けによってダージュの魔力を一定値上げるごとに、使用できるExtraが増えていく。

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ギフトの割り振りのヒントを教えてくれるキャラクターや、怪しい「薬」でダージュの能力値を上げてくれる人もいる。それらを活用すればゲームの難易度としては難しくないものとなっている。

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物語を進めていくと、一緒に戦ってくれる仲間が加入してくれる。仲間としてダージュに同行してくれるキャラクターにはギフトを振ることが出来ず、能力はエピソードごとに完全に固定されている。

最後まで一貫して描かれる物語のテーマは必見

ゲームジャンルを「アンチヒロイック・ポエトリー」と銘打ったこの作品は「平凡未満で、全て後ろ向きに考える少年」が「まるで物語上の英雄のような、完璧な弟」を代表とした人々と関わり、悩み、成長し、そしてどうやって現実との折り合いをつけていくか?というテーマが一貫して描かれている。そのため、ファンタジー世界を舞台に描かれる作品でありながらも現実的な悩みをテーマとし、プレイヤーの心にも強く訴えかけるものとなっている

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村1つを滅ぼしてしまうほど凶悪な怪物「人食いカーネイジ」、巷で噂となっている「謎の暗殺者」、ダージュにとって身近な「銀」を取り巻く事情、そして交差していく「現実」と「夢」……。後半になるにつれて、これら全ての要素が絡み合い、エンディングに向けて収束していくというストーリーテリングも見事。

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全てに後ろ向きだったダージュが、様々な苦難を乗り越えて最後に出した答えは必見だ。

作中ではいわゆる「クトゥルフ」を彷彿とさせるホラーなグラフィックや、癖の強い台詞回しがある。ということを注記しておくが、そういった要素を加味しても、短くも印象深いゲーム体験を与えてくれる逸品だと感じた作品だった。3-5時間ほどでエンディングを迎える短編なので、心に残るゲームを遊びたい人はぜひともプレイしてみてほしい。

※本文中で「猫のような」と表した主人公「ダージュ」を中心としたキャラクターは、かつて2ちゃんねるなどで人気だったアスキーアートのキャラクター「モナー」を模したキャラとなっている。作者のローゼンクロイツ氏は、こういったキャラを使用したゲームである「モナーRPG」を主に制作しており、本作もその一つとなっている。

[基本情報]
タイトル ダージュの調律
制作者 ローゼンクロイツ 様
クリア時間 3-5時間程度
対応OS WinXP / Vista / 7 / 8 (RPGツクール2000の動作環境に準拠)
価格 無料

ダウンロードはこちらから
http://www.geocities.jp/vipkohaku2014/entry/017.html
※このゲームは、ダウンロードした後に、RPGツクール2000で作られたゲームの起動ファイル(「RPG_RT」という名称のファイル)が別途必要となります。RPGツクール2000で制作された他のフリーゲームから、起動ファイルをコピーするなどして用意できます。

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    poroLogue(@poroLogue

    もぐらゲームス編集長。大学在学中にフリーゲームをテーマとした論文を執筆。日本デジタルゲーム学会・若手発表会にて「語りとしてのビデオゲーム(Videogame as Narrative)」を発表。NHKのゲーム紹介コーナーへの作品推薦、株式会社KADOKAWA主催のニコニコ自作ゲームフェス協賛企業賞「窓の杜賞」の選考委員として参加、週刊ファミ通誌のインディーゲームコーナーの作品選出、株式会社インプレス・窓の杜「週末ゲーム」にて連載など。

    フリーゲーム作者さんへのインタビュー・レビューなど多数。フリーゲーム歴は10年半ばほど。思い出に残っているゲームは『SeraphicBlue』『Berwick Saga』。