奈良県の光と闇を描き、遊ぶ者全てに奈良県のなんたるかを知らしめる怪作RPG『ファイ奈良ファンタジー』

豊かな海に囲まれた海洋王国「ナラランド」。
だがある日、突如現れた魔王マツナガによって四海が干上がり、山で囲まれた内陸国へと変貌してしまう。

これに心を痛めた国王ゴダイゴは、国内からショウトク、サコン、ヒミコ、セイメイの4人の若者を無理矢理王城へと呼びつけ、魔王討伐の命を下す。ただし、国が万年財政赤字である都合により報酬はなし!もし、これを拒否すれば問答無用で地下牢行き!

結局、引き受ける以外の選択肢がない4人は渋々、魔王討伐の旅へと出る。
果たして、彼らは魔王を倒し、ナラランドを救えるのだろうか。

という、凄く世知辛いオープニングと共に始まるのが、これより紹介する『ファイ奈良ファンタジー』である。その名の通りに関西の奈良県を題材にした作品で、同県にまつわる豆知識を自虐的に紹介しているTwitterアカウント「卑屈な奈良県民bot(@nntnarabot)」の中の人2号こと、あをにまる氏が制作。2021年1月30日に「ゲームアツマール」にて、無料ブラウザゲームとして公開された。また、Windows PC向けダウンロード版も「フリーゲーム夢現」にて公開中だ。

バランス周りに奈良県の暗黒面が潜む正統派RPG

ジャンルはロールプレイングゲーム(RPG)。プレイヤーは4人の勇者を操作し、舞台となるナラランドの各地を巡りながら、魔王マツナガの討伐を目指す。
具体的にはマツナガの居城「シギサン城」を目指せばいいのだが、城には「大和三山バリア」なる謎の結界が張られており、中に立ち入ることが叶わない。この結界を解くには国王ゴダイゴいわく緑、黄、赤の3つの「宝玉」が必要とのこと。

よって、これらの宝玉全てを集めるのを目的に各地を巡って、要所ごとで起きるイベント及びダンジョンを攻略していく形となる。RPGとしては比較的王道の構成だ。

マップもナラランド全体図を表したマップ、それぞれのエリアの詳細マップの2種類に分けた王道設計。戦闘はダンジョンのエリア限定で、移動中にランダムで発生する形式(ランダムエンカウント)を採用している。

戦闘システムも敏捷性のステータスが高いキャラクターより順に行動するターン制を採用した、伝統的なコマンド選択型。通常攻撃と「スキル」による特殊技を駆使して戦う。「スキル」にはMPを消費して発動するタイプのほか、ダメージを受ける、防御する、通常攻撃を決めると溜まっていく「TP」を消費する強力なタイプの2種類を用意。それぞれを適時使い分けながら、敵を迎え撃っていく。また、戦闘で得られた経験値が溜まると冠位(レベル)が上昇し、キャラクターのステータスが上昇。特定の冠位になれば新たなスキルも習得し、戦術の幅が広がるようにもなっている。

そのほか、街のマップにある「武器屋」、「防具屋」で装備類を購入し、ステータス強化を図る要素も完備。装備類は武器、防具の2種類に限定された簡易設計。単純に強くしたければ、相応の武器と防具を買って装備すればいい、潔い形にまとめられている。

このようにRPGとしての作りは王道、もしくは正統派以外の何者でもない。「全部、RPGの定番じゃないか!」とツッコまれても実際、そうなのだから仕方がない!「解説するまでもなかろうに!」と言われてもあえて解説する!とにもかくにも、これと言って斬新なシステム、戦術性も何もない普通のRPG。それが本作だ。

強いて言うなら、資金面のバランスが特殊。金欠になりやすい。主に店で売られている装備類、アイテムの物価が高く、無計画に買い漁れば一気に資金が底を付くのである。

なぜ、そんな設定になっているのかと言えば、本作が奈良県を題材にした作品だからである。長らく財政赤字が続き、2020年11月には財政悪化の5市町に「重症警報」が発令されたほどの現実の設定に基づき、そのようなバランスに設定されているのだ(※作中でもそんな具合に語られている)。「生々しすぎるわ!」「世知辛いよ!」と言われても、奈良県なのだから仕方がない!基づくことは何ら不自然なことではないのだ!多分!

という具合に、本作の魅力はもはや言うまでもない。
徹底的に奈良県をネタにしまくった作風である。

辛いよ奈良県。おいでよ奈良県。

何せ、奈良県の豆知識を自虐的に紹介するTwitterアカウントの中の人が作り上げた作品である。それはもう、むせ返るほど膨大な奈良県ネタが詰め込まれている。

冒頭のストーリーからして、その一端は見て取れるだろう。主人公の勇者4人、国王、魔王の名前はいずれも奈良県にゆかりのある歴史上の人物から命名されている。エリア名も現実の奈良県内の市町村、名所を由来に設定。県民の方はもちろん、少しでも奈良県に訪れたことのある人も苦笑い確実なネーミングになっている。

細かい部分でも、以下の奈良県がすぎるネタが炸裂。

歴史と雑学に満ちた「スキル」。

名産品を極力再現したアイテム。
(※大人の事情により完全再現は自重)

国の天然記念物でお馴染みの鹿。

バーベキュー禁止条例。
(※正式名称:天川村をきれいにする条例

および、それを破る飛鳥時代のヤバい親子。

極め付けに大和高田市の地下闘技場。

こんな調子のネタが終始、飛び出してはプレイヤーに奈良県の何たるかを知らしめてくるのである。もちろん、例に挙げたのは全体のごく一部、序の口である。そもそも、ストーリーに関係しない町の住民、果ては雑魚敵にまでネタが仕込まれているので、全部を把握して理解するだけでも膨大な時間を費やすことになる。そして、それらを確かめていく内に奈良県への理解も深まっていき、最終的には「実態確認のために奈良県を訪れてみたい」という気持ちにすらなってくるのだ。


©2020 Sony Interactive Entertainment LLC.

まさしくフリーゲーム界に現れし『Ghost of Tsushima……は言いすぎた。

あえて筆者の地元で、作中では「サイタマ共和国」と命名されている地をネタにした名作『翔んで埼玉』と言っておこう。


※本記事はサイタマ共和国民の手によって執筆されました。

実際、ギャグ寄りの作風なので、人によっては脳裏に過ぎるかもしれない。

また、奈良県に興味を抱いたプレイヤーへのサポート要素(兼エリア)として「元ネタ小学校」なるものも用意。その名の通りに作中のネタの詳細をここで細かく知れるのだ。「地元ネタ小学校」の間違いだろ、とか言ってはいけない。

さらに学校内で確認できるネタはゲームの進展に応じて増加。厳密には生徒が増えていき、話しかけると作中の様々なネタの詳細を教えてくれるのだ。奈良県の豆知識を紹介しているTwitterアカウントの中の人が手掛けているだけあって、その内容は読み応え抜群。ほんのり小ネタも効かせたテキストで楽しませてくれる。そして、豆知識紹介が増える仕掛けが本編攻略のモチベーションを高める要素としても機能。つい夢中になって進めてしまう面白さを演出しているのだ。

これぞネタの有効活用。ゲームクリアには直結しない要素ではあるが、本作をただのネタゲー(バカゲー)に終わらせず、奈良県の魅力を再認識させるご当地ゲームとしても確立させるという、高い志を感じさせるものになっているのだ。

加えて、RPGとしての出来も良い。前述の通り、際立ったシステム的な特色はないのだが、戦闘のバランスがよく、優しすぎず難しすぎずの適度な塩梅に調整されている。特にボス戦が見事。冠位をそこそこ上げて挑んでも、4人の特徴を踏まえた戦術が試される絶妙なバランスになっている。特殊なアイテムの使用が要求されたり、それに応じてストーリー上の掛け合いが発生したりと、戦闘内容にも細かい工夫が凝らされていて、なかなか作り込まれている。

さらに戦闘直前には全回復ポイント、推奨冠位を教えてくれるガイド看板も設置!なんたる慈悲深き配慮!そのネタ臭の強さとは裏腹な完成度の高さ、遊び応えには色んな意味で驚かされると同時に、「只者ではない!」との思いを抱くだろう。

それでもネタに突っ走ったゲームとの印象は拭えないかもしれない。何せ、名前からして某有名RPGにちなんだ『ファイ奈良ファンタジー』である。これで真面目なノリを想像するとか無理がある。だが、プレイすると、とてもいい意味でその名に恥じない内容であることが分かる。RPGとしても遊び甲斐のある作りだと分かる。

少しでも関心を抱いたのなら、奈良県在住に問わず本編に触れてみて欲しい。というより、奈良県以外の人ほど触れてみて欲しい。きっと作者の圧倒的な郷土愛とゲーム愛に感銘を受けるはずだ。

手堅い面白さと奈良県の豆知識もたっぷりな良作

とは言え、ストーリーに関しては会話でネットスラングが多用されるなど(※特にヒミコが決まって言い放つ)、苦手な人には拒否反応を覚える要素が相応にある。そもそも、主人公4人の設定からして大分アレである。本記事では直接的な表現を”あえて”避けたが、人によっては嫌な生々しさを抱くかもしれない。

ゲーム部分も戦闘バランスは良好な反面、ダンジョンマップは構成がマンネリ気味。スイッチの切り替え、クイズの仕掛けに偏り過ぎていて、もう少し違いを表現できなかったのかと思ってしまう。作中でネタにしているので、意図しているのかもしれないが。
他に敵とのエンカウント率も若干高めなのも気になる。ただ、どこもそんな長丁場にならないのが救い。探索中も常時セーブが可能なので、好みのペースで進めていける。決してタイトル名の由来となったゲームの3作目に登場した、伝説的最終ダンジョンをオマージュした展開はないので、ご安心いただきたい。

大体、普通にプレイしても3~4時間ほどでエンディングに辿り着ける短編だが、膨大な奈良県ネタ、適度な戦闘バランスが相まって密度は濃く、クリア後の満足度も結構高い。
ネットスラング多用気味とは言え、ストーリーも終始愉快かつ、「どうしてこうなった」なイベントの連続で見応え十分。中でも序盤はもの凄く頼りなさそうだった4人が、ちゃんと勇者らしく活躍する終盤は色んな意味で必見だ。

ネタゲー(バカゲー)としても、ご当地ゲーとしてもよく出来た本作。RPGとしても手堅く、気軽に遊べるので、その手のゲームを求めている人にもおすすめの良作だ。この作品を通して、奈良県に対する知識を深めてみよう!いずれは訪れてみよう。

なお、コロナ禍の昨今、本当に訪れる際は入念な感染対策をお忘れなく。

[基本情報]
タイトル:『ファイ奈良ファンタジー』
作者:あおにまる
クリア時間:3~4時間
対応OS:Windows、スマートフォン、タブレット
価格:無料

※プレイはこちらから(ブラウザ版)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm18327

※ダウンロードはこちら
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_9290.html


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