スキルを鍛え上げ、決定的一撃を!怒涛のストーリー展開も必見の長編RPG『First Sin』

RPG,フリーゲーム

とある国の浜辺。そこにひとりの青年が倒れていた。

しばらくして青年は目を覚ますが、彼は自分の名前を始め、過去の記憶を失ってしまっていた。どこかに記憶に繋がる手がかりはないか、浜辺を探索すると、そこには漂着したひとつの箱が。

なぜか見覚えのあるその箱を開けると、中から古びた槍が出てきた。手にすると、やけに馴染む。また、槍を振った際に服に何かが入っていることに気づく。調べてみると、そこには「シグルド」という名前が記されたお守りがあった。

それが自分の名前だと思い出した直後、近くのどこからか悲鳴が。
急ぎ声の方向へと向かうと、そこには魔物に襲われようとしている少女がいた。

彼の記憶を取り戻す旅は、ここから幕を開ける。

凄く王道ファンタジーを感じさせるオープニングと共に始まる本作『First Sin』は、「RPGツクールMV」製の長編ロールプレイングゲーム(RPG)。
2022年1月よりPC(Windows、Mac)、ブラウザ向けフリーゲームとして「ふりーむ!」、「フリーゲーム夢現」、「ゲームアツマール」の3サイトにて公開されている。(※「ふりーむ!」のPC版ダウンロード時には「ふりーむ!ID」が必須)

思うがままにスキルを鍛え尽くせるやり込み系RPG

RPGとしての基本設計は正統派寄り。マップを移動・探索し、敵と戦いながら、ストーリーに沿って発生するイベントを攻略していくというものである。

ストーリーは章単位で分けられており、ある程度イベントの攻略が完了すると一区切りを迎え、次の章へと移行。そのまま、新たに降り立った土地(国)や現在の状況を踏まえた次の章が始まるという仕組みになっている。

その構成からストーリー主導型とも捉えられるが、行動の縛りは強くない。中盤に差し掛かると、既に攻略し終えた場所に戻ることが可能になるなど、ある程度の自由度は確保された作りになっている。

マップも舞台となる土地の全体を表したフィールド、街にダンジョンといった局地(エリア)というRPG定番の2種類に分けて構成。

ただ、フィールドは疑似3Dで描かれていたり、街に関しては専用メニューから目的地を選択して決めれば、即座にその場へ到達できるなど、ちょっとした工夫が凝らされている。

戦闘システムも基本は敏捷性の高いキャラクターから順に行動する、コマンド選択型という王道のもの。通常攻撃、魔法や特技による攻撃「スキル」、ダメージを受けるなどして溜まっていく「TP」を消費して繰り出す強力な「奥義」を用い、敵と戦っていく。これだけなら正統派も正統派だが、「スキル」に関して大きな仕掛けが凝らされている。

それが本作の特徴でもある強化要素。またの言い方で「熟練度システム」。スキルを1回使うごとに威力が上昇し、何度も繰り返し使えば使うほど、決定的な一撃を放つ強力なスキルへと変貌していく仕組みになっているのである。


▲上ウィンドウの説明文2行目、先頭の「3」と書かれた箇所の数値が使うたびに上昇していく。

具体的にはスキルの説明文に記されている、頭の数値が上昇。上昇する値はランダムだが、現在の数値の範囲内……例えば3であれば、0~3の数値内での強化が実施される。つまり、その数値が大きくなればなるほど、1回使うたびに上がる値も増えるということである。また、これは攻撃に限らず、回復系のスキルも対象。

なので、どちらのスキルにせよ、基本的に同じものを使い続ければ続けるほど、後々大きく化ける。無論、その過程において手間こそ要するが、費やした時間がそのまま絶大な効果として返ってくることから、やり込み意欲を存分に刺激。何かを延々と鍛え続け、無類の強さを手にしたい欲求を持つ人の心を大いに揺さぶる底なしなシステムになっている。

また、スキルは戦闘向けの「魔法」、「特技」、「奥義」以外にも「パッシブ」なる4つ目がある。これは体力や攻撃力、防御力の上昇といった基礎ステータスの上昇や特殊な能力を与えるスキルで、「装飾品」なるアイテムを装備することで効果を得られる。

これもRPGでは定番の要素だが、本作が独特なのは「装飾品」に付与された「パッシブスキル」を自分のものにできること。装飾品を装備した状態で戦闘に挑み、勝利すると「LP」なる専用経験値を獲得。これが最大値に達すると、「装飾品」に付加された「パッシブスキル」が装備しているキャラクター固有のものとして習得されるのだ。

そして、メニュー画面にある「スキル装備」から習得したスキルを装備すれば、装飾品なしでその「パッシブスキル」の効果をキャラクターの基礎能力にできる。なので、「装飾品」を装備して沢山戦闘し、「パッシブスキル」を得れば得るほど、キャラクターの能力を自在に設定可能に。そんなカスタマイズ性を際立たせる工夫が凝らされているのである。

ただ、装着できる「スキル」は最大16まで。それぞれコストも設定されていて、「CP」と称された値の範囲内に収めなければならない。

また、「スキル装備」は「パッシブ」以外に「魔法」、「特技」も対象。それらにもコストが設定されているので、仮にレベルアップと同時に新しいスキルを覚えても、既に16のスキルを装着済みなら、どれかを外して着けないと使えるようにはならない。
逆を言えば、あまり使わないスキルは自由に着脱可能ということ。

自分なりに「スキル」に表示する量を調整できるのだ。よくRPGでは強力な魔法などを習得するほど、弱い魔法を使う機会が減って、それがメニューのスペースを取り続けるだけになるが、本作はそういったスキルを退場させられる。

仕組みとしては地味だが、おかげで自分なりに使いやすいメニューを構築できる。ステータスに限らず、こういった所にもカスタマイズする楽しさが打ち出されているのだ。このような一風変わった快適さが追求されているのもちょっとした見所である。

全体的にRPGとしての基礎は王道である。ただ、プレイヤーが好き勝手いじり倒せるシステムや機能が豊富。まさに”やりたい放題”な自由度の高さが表現されていると同時に、やり込み系RPGとも称せる個性が際立った作品に仕上げられている。

極めようとすれば、ほぼ底なしのスキル強化システム

魅力も明瞭で、やりたい放題できるシステム全般だ。

特にスキル強化は鍛えれば鍛えるほど、驚異的な威力を発揮するものへと変化していくので、あえて時間を沢山要してでも強くさせたくなる中毒性と面白さがある。

しかも、強化可能なスキルは序盤の時点で覚えているものから、ゲームが終盤に差し掛かる時点で覚えているものまで全てが対象。それらを最強状態まで強化させようとすれば、本当に延々と遊び続けられてしまうほどだ。

「スキル装備」と「パッシブ」の習得で、プレイヤー好みの能力を持ったキャラクターを自在に作り出せるのも面白く、その種の要素が好きな人の心をくすぐる。

最大装着数が16に限定されているため、完全無欠なキャラクターを作るのは難しいが、逆にどこを強くし、どこを弱点にするかあれこれ考えて試すのが楽しい。制限があるからこそ、他のキャラクターにその時考えた役割を与えられる余地もあるほか、基礎ステータスにも個性が存在するため、少し変わった性能になる面白さもある。

そして、どの技をメニュー画面に残すか残さないかを選べる機能。前述でも言及したが、これが地味に便利で、自分なりの使いやすさを追求できるのが嬉しい。ひとつのスキルを鍛え上げる際にも、操作における手間を減らしてくれる点でありがたく、ストレスなく強化する過程に集中できる。

一応、ツクール標準のボタン入力記憶機能をONにしても対処できることだが、それを使わない時でも負担を感じさせないよう配慮しているのは素直に見事。RPG特有のレベル上昇に応じて技が増え、メニュー内がゴチャゴチャする問題の解決策としても機能しており、ありそうでなかった快適さを実現している点でも特筆すべき部分と言える。

こうした見所もあって、本作はやり込み甲斐が極めて高い。相応に刺さったプレイヤーを飽きさせない施策もばっちりで、1周目クリア時点の強化をそのまま引き継いだ2周目、専用のボスといった特典も用意されている。

特に徹底的に強化されたスキルを序盤から活用する、力でねじ伏せる快感は格別。1周目時点でやり残したことにも引き続き挑戦できるので、本当にその気になれば延々と遊べてしまうほど、底なしに等しい深さがある。

RPGに対し、とにかくキャラクターを限界まで鍛え上げ、その無茶苦茶な力でやりたい放題暴れる快感が好きという思いが強ければ、本作はそれはもう、ストライク間違いなし。色々やりたい放題できるからこそ、難易度の上下も思うがままなので、軽い気持ちで遊べるRPGを求めている人にも訴えかけるものがあるだろう。

あえて固有の作品名を出してしまうならば、日本一ソフトウェアのまさに”やりたい放題”を売りにする看板タイトル『魔界戦記ディスガイア』にハマった人向けとも言っていいかもしれない。ジャンルは別物だが、同作に近しいものが本作にはある。

また、やり込み周りを抜きにした場合でも、ハイテンポな構成が異彩を放つ。イベントの長さ、マップの規模などが丁度よいボリュームに収まっているほか、移動や戦闘に要する時間も短めに済むので、ほとんどもたつくことがない。本編ストーリーも長編とは言え、エンディングまでは最短で10時間程度。あまり時間が取れないという人にも嬉しい設計だ。

これに加えて、ストーリーも全体的にハイテンポ……というよりは、(誇張抜きに)超絶怒涛の勢いで進む内容。最初から最後まで、目まぐるしく様々な事件が起きていく構成には、思わず見入ってしまうこと請け合いだ。

また、ストーリーには実のところ、大きな仕掛けもある。これ自体は実際にプレイしてのお楽しみだが、初見時であればきっと、このような一言を衝動的に発してしまうはずだ。「変わりすぎにも限度がある!!」と。

ある意味、本作のストーリーにおける超絶怒涛ぶりを象徴するイベントでもあるので、ぜひそこまで頑張って進めてみていただきたい。きっと、色んな意味で強烈な印象が焼き付いてしまうはずだ。

よくも悪くもハイテンポなストーリーも必見。勢いある良作

とは言え、ストーリーに関しては超絶怒涛なりの粗も多い。

多少ネタバレをするが本作、王道の中世ファンタジー系と思わせて、実は現代および近未来的な要素……自動車にロボット、銃火器、果てはゲーム機なども登場するカオスな世界観になっている。そのため、土地ごとに極端な文化の差が出ているのだが、なぜそのような差が出ているのかなどの背景があまり描かれておらず、違和感が勝ってしまっている。

それらに対する主人公たちの反応も、一切抵抗もなく受け入れるなど、疑問を抱かせるものが多い。大筋においても、主人公とヒロインの関係性が何の脈絡もなく進展したり、ある人物が唐突な行動を取るなど描写不足が散見される。

テンポを重視した反動かもしれないが、さすがに世界観は最低限、設定周りを作り込んで欲しかったと筆者個人としては強く感じた。まるで属性が喋っているかのような感じが滲み出ているキャラクターたちも然り。前述の通り、強烈な見所はあるのだが、細かいドラマとか世界観の雰囲気を楽しもうとすると、気にかかる箇所が続々と出てくるので、それが好きな人はあらかじめ気を付けていただきたいと思う。

他にシステム面ではスキルの強化の反動で「奥義」の存在が空気になりがち、各種システムの解説やチュートリアルが詰め込み気味、かつ簡略気味なところも気になる。スキル強化において増える値も、より分かりやすくするために該当箇所を赤文字で記す工夫を凝らしても良かったように思えた。

最後に気になった箇所を若干、長くピックアップしてしまったが、いずれもゲームプレイ時に深刻な影響を及ぼす程度のものではない。遊び心地は極めて快適で、難易度の加減も強化次第で自在に上下可能なのもあって、人を選ぶ側面はほとんどない。ストレスなく遊べて、いざとなれば徹底的にやり込めてしまうRPGとして堅実に完成されている。

繰り返しになるが、やりたい放題、やり込み甲斐抜群という2つに何か心ときめくものを感じたのなら自信を持ってお薦めできる。気軽さと取っつきやすさも傑出しているので、そのようなRPGを求める人にも大いに応えてくれるだろう。

遊びやすくてほぼ底なしにやり込めてしまう本作。
怒涛のストーリーも含め、その勢いを存分に味わってみよう。

[基本情報]
タイトル:『First Sin』
作者:アキハラ
クリア時間:10~11時間
対応プラットフォーム:Windows、ブラウザ
価格:無料

ダウンロードはこちら
※ふりーむ!
https://www.freem.ne.jp/win/game/27463

※フリーゲーム夢現
https://freegame-mugen.jp/roleplaying/game_10136.html

※ゲームアツマール(ブラウザ版のみ)
https://game.nicovideo.jp/atsumaru/games/gm22780

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