ハロウィン当日に生まれし海外製短編”死神”RPG『Grimm’s Hollow』

毎年10月末に開催される「ハロウィン」。昨今こそ娯楽色の強い祭のイメージが強いが、その始まりは古代ケルト民族の悪魔を崇拝し、生贄を捧げる宗教行事だったとされる。そんな背景もあってか、「ハロウィン」を題材にした映画、小説と言った娯楽作品には「ホラー」のイメージが強く刻み込まれている。アメリカの映画監督兼プロデューサーとして知られるティム・バートン氏が原作・原案を手掛けた名作『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のような明るい作品も中には存在するが、そこにも「幽霊」、「吸血鬼」、「悪魔」などの要素が並び、どこか不穏な雰囲気を持ち合わせている。

今回取り上げる『Grimm’s Hollow』もそれに近い雰囲気を持った作品だ。2019年のハロウィン当日、PCゲーム配信プラットフォーム「Steam」及び「itch.io」にフリーゲームとして公開された。『RPG Maker 2003』(RPGツクール2003)製タイトルでもある。

2020年4月12日には、フリーゲーム配信サイト「ふりーむ!」で日本語翻訳版も公開。翻訳は同じく海外のツクール製ホラーアドベンチャー『Pocket Mirror』の日本語翻訳版にも携わったぬりかべ氏が手掛けている。

※参考記事:海外製フリーゲーム『Pocket Mirror』の日本語版デモの登場に思う、国境を越えるフリーゲーム

新人死神のゴースト刈り奮闘劇

制作ツールが示す通り、ジャンルはロールプレイングゲーム(RPG)。新人死神の主人公「ラベンダー」となり、死神たちが力を蓄え”旅立つ”ための世界「グリムズホロウ(死神の虚穴)」で冒険を繰り広げていくというものだ。

具体的には中心街の「ホロウ」を拠点に、力のあり余った精神体「ゴースト」が暴れ回る洞窟の探索をストーリーに沿って進める形だ。マップのスケールは小さく、中心街から外に出れば、幾つかの洞窟が並ぶ場所へと着く。そこから直接、洞窟に入ってストーリー上の目的達成……という名の最深部到達を目指すことになる。

例によって、洞窟内で暴れ回るゴーストと鉢合わせになると(シンボルに接触すると)戦闘が発生。彼らを”刈る”ための鎌を用い、攻撃を仕掛けていく。行動順序はRPG伝統のターン制ではなくアクティブタイム方式。画面下に表示された紫のタイムゲージが満タンになるとコマンドウィンドウが表示され、鎌による通常攻撃「スイング」、必殺技こと「特殊」、回復アイテムなどを使用する「ポケット」、そして戦闘からの逃走こと「逃げる」が選択可能になる。

さらにいわゆる「アクションコマンド」も採用。通常攻撃のスイングを選択すると、画面中央にスイングバーが表示され、中央部分に来た時、タイミングよく方向キー下を押せば、ゴーストに大ダメージを与えることができる。逆に中央からズレると、ダメージ量が減少。方向キー下を押し忘れてしまった時は……大体お察しの通りである。

敵もアクティブタイムの原理で行動。一定間隔で攻撃をしてくる。
さらに必殺技こと特殊攻撃も放つ。

その際、スイングとは別のゲージが表示。ゲージ上に表示された「ブーツマーク」に重なるタイミングで方向キー下を押せば、特殊攻撃を回避できる。逆に失敗するとこちらに攻撃が。種類が種類だけに、概ねご想像通りのダメージがこちらに来る。

このように、常に気の抜けない展開が繰り広げられるシステムになっている。
なお、攻撃を行うと「SP」が貯まる。必殺技こと「特殊」はこのSPを消費するので、強力な一撃を放ちたい際はベストなスイングを決めていくことが試される。さらにSPは持ち越し不可。常に空の状態から始まるので、なるべく使い切ってしまうのがおすすめだ。

戦闘に勝利する(ゴーストを旅立たせる)と「SE(精神エネルギー)」を獲得。いわゆる経験値……ではなく、スキルポイント兼お金である。本作はこれでラベンダーの強化のほか、アイテムの購入を行う。

強化はメニュー画面にある「ラベンダーの精神」という名のスキルツリー上で実施。ここで各種ステータス強化、新たな特殊攻撃獲得をする形だ。ただ、先の通りスキルポイントはお金。本作には回復用の技は用意されていないため、なるべく専用アイテムを買い込んでおくことが求められる。しかも、特に序盤は手に入るSEの量も少ない。
ゆえに強化に使うか、保険のために割くかの際どい2択が求められたりもする。

さすがに判断を誤ると詰みに陥る懸念は防いだ作りをしているが、こんなプレイヤーを適度に悩ませる仕掛けも備わっていて、油断ならぬ手応えを表現している。他にも戦闘には「色」の概念があり、これに一致した攻撃を当てると大ダメージになったり、スイングゲージの速度は「速さ」のステータスに依存するなど、特徴的な要素が幾つか。

マップスケールの小ささから、RPGとしてはコンパクト、かつシンプルな作りではある。ただ、戦闘システムを始め、独特な工夫が凝らされていて、なかなか侮りがたい手応えを感じ取れるものに完成されている。そして、グラフィックの作風と死神たちの可愛らしいデザインが示す通り、明るくもどこか不穏な雰囲気も満載である。

明るくも不穏な空気に包まれた世界観とストーリー

そんなハロウィンを意識させる世界観、ストーリーが本作の魅力になっている。
先ほど割愛したストーリー、オープニングを改めて紹介する。

ある日、ラベンダーが目覚めるとお菓子と風船、そしてドクロのマスクを付けて興奮した一団に囲まれていた。彼らは「ようこそ、新人死神さん!」とラベンダーを歓迎するが、何がなんだか分からない彼女は困惑。そんなラベンダーの元に彼らの親玉とされる「グリム」がやってくる。紳士的に振る舞うグリムはラベンダーに対し、こう伝えた。

「お前は死んだんだ。」と。

思わぬ一言に動揺するラベンダー。そして、彼女は一緒に暮らしていた弟の「ティミー」はどうなったのか、グリムから聞き出そうとするが、今はここでの暮らしに慣れろと伝えられるに留まった。いても立ってもいられない彼女はティミーを探し出し、この世界から逃げ出すため行動を開始する……というのがオープニングのあらましとなる。

この後、序盤のネタバレになるがラベンダーはティミーとの再会を果たす。だが、彼はゴーストと化しており、この世界にも手違いでやってきてしまったという。そして、彼を元の世界に戻すために必要な「ソウル」を見つけ出すため、冒険を繰り広げていく展開へと移る。

以降、どんなイベントが起きるかはプレイしてのお楽しみだ。
雰囲気的には先にも名を挙げた『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のようなディズニーっぽさ、もしくは童話っぽさに溢れたものになっている。特にこの世界で楽しげに暮らす死神たち、ラベンダーに対して優しく振る舞うグリムはその象徴だ。そんなに悪人(?)はいないので、どこかほのぼのとしている。

だが、曲がりなりにも死神たちの世界。その背後にはエグい事実が隠されている。そもそも、ゴーストとは何なのか。死神たちがラベンダーを歓迎したのは何故か。そして、本当にラベンダーは死んだのか?

一連の真相は中盤に差し掛かる辺りで判明するのだが、急に空気が不穏なものに。
さらに思わぬ事件も起き、そのまま意外な幕引きに向けて進んでいく。

これもまたプレイしてのお楽しみだが、特にラベンダーにまつわる事柄の判明には若干、心を抉られるような気持ちになるだろう。さらに本作は一般的なRPG同様、ボス戦も用意されているのだが、最後の相手……ラスボスはひときわ印象的、かつやりきれなさを感じさせる存在になっている。先ほど”悪人はいない”と記したが、まさにそこを突くかのごとし残酷な戦闘が描かれる。正直、人によっては迷いが生まれるかもしれない。倒していいのか、と。そこまでして目的を達成せねばならないのか、と。

きっとその戦闘を体験すれば、本作を”とある呼称”で呼びたくなるだろう。難易度的にもひと工夫施されたものになっているので、ぜひ一部始終を体験してみていただきたい。まさに本作の真髄を実感させられるはずだ。

ちなみに本編のボリュームは大体2~3時間ほど。そのため、集中的にプレイすれば意外に早く終わってしまう。しかし、アクションコマンドを採用した戦闘にスキルツリー式の育成システムなど、特徴的な要素が備わっているほか、ダンジョンたる洞窟の構成も探索し甲斐ある構成なので、密度・やり応え共に申し分なし。

また、マルチエンディング制が採用されているのも注目点。進め方によって複数の結末を迎える。その中にはお約束たる”アレ”なものも。どんな条件で見れるかは、状況を推測した行動を取ってみよう……とだけ。先のラスボス戦もそうだが、間違いなく本作を”とある呼称”で呼びたくなるはずだ。

RPGとしての手応えも押さえた良作短編RPG

アクションコマンドが採用されている関係で、若干難しそうな印象を持ったかもしれないが、本作は難易度選択機能も搭載。純粋にストーリーだけを追う楽しみ方にも対応している。しかも、いつでも切り替え可能な設計だ。

また、標準難易度「ノーマル」のバランスも非常によい。適時SEを使ってラベンダーを強化し、特殊攻撃のバリエーションを増やしていけば、スムーズに進めていける。意図的にSEを溜め込み、回復アイテムを買い込んでから突撃する保険プレイも可能。マップのスケールこそ小さいものの、制約は少ないのでストレスなく楽しめる。

ただ一部、ステータスアップ、回復技を使うゴースト2匹が襲い掛かってくる戦闘のみ長期戦になりやすいなど、首を傾げる部分もあるが。ラスボスもそれまでのボスから2~3段階跳ね上がった強さで、悪く言うと初見殺し色が強い。しかし、これは意外にもバランス上の欠点ではない。どういうことかは……体験してみてのお楽しみである。

他にグラフィック以外に音楽もオリジナルで、死神たちが暮らす世界という設定を踏まえた明るくも、どこか不穏な雰囲気を引き立てる。翻訳も自然にまとまっており、違和感を抱くことなくプレイできる仕上がりだ。

ハロウィンに公開されたゲームのため、その頃にプレイするのが雰囲気も出て最適なのだが、それ抜きでも魅力的なストーリーとキャラクター、そしてスリリングな戦闘システムが光る良作に完成されている。短編なので、空いた時間にサクッとプレイできるのも大きな強み。しかし、その中身は割とヘビー。キャラクターと世界観に興味を抱いた人はもちろん、アクション性を持つRPGが好きな人にもおすすめの1本だ。

なお、改めてお伝えするが、日本語で遊べるのは「ふりーむ!」で公開されているものだけだ。Steam、itch.ioは日本語非対応、英語のみなので、ご注意を。もし、そちらもプレイしてみたいとあれば、先に日本語版を遊んでからがおすすめだ。

[基本情報]
タイトル:『Grimm’s Hollow』
作者:ghosthunter
クリア時間:2~3時間(※エンディング分岐あり)
対応OS:Windows
価格:無料
備考:Steam、itch.io版は日本語非対応

ダウンロードはこちら
※ふりーむ!(日本語版)
https://www.freem.ne.jp/win/game/22546

※Steam(英語版)

※itch.io(英語版)
https://ghosthum.itch.io/grimms-hollow


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